『―――頼忠の疑問・解決編―――』



某公園にてデート。
頼忠と花梨は、ベンチに座って眼の前の花を見ていた。


「今日は良い天気ですねぇ。」
「そうですね。」
「気持ちの良い風が吹いていますね。」
「そうですね。」
「今日は何時もより人が少ないですね。」
「そうですね。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」か、会話が続かん・・・・・・。
「藤って綺麗な花ですね。」
「そうですね。」
「色がとっても綺麗!」
「そうですね。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」まともな返事も出来ないとはっ!
「花梨は可愛いよね。」
「そうですね。」
「頼忠さんって格好良いですよね。」
「そうです―――。」ん?その言葉は一体?「は?花梨?」
「くすくすくす。」花梨は肩を震わせて笑っている。「頼忠さんったら面白〜い。」
「一体何を言っているのですか?」
「だって、そうですね、しか言わないんだもん。私の言葉は全部肯定するのかなって思って。」
「・・・・・・・・・。」ため息を付いて、少女の頭に手を添えると抱き寄せた。肯定しただけで、会話にはなっていなかったのは確かだが。「最初の方のは、否定する事は出来ませんよ。」
「そりゃあ、そうだけど。」完全に身体を預ける。「ふふふ。楽しいな。」
「・・・・・・・・・。」
花梨はなぜ、こんな私と一緒にいて楽しむ事が出来るのだろうか?―――長い月日の疑問。知りたくて知りたくて仕方が無い。
「頼忠さんの身体って温かい・・・・・・・・・。眠くなっちゃう。」
その寛いだ表情を見ていたら、つい、口が油断した。
「一つお尋ねした事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「うん、何?」
「花梨は、私の何処を気に入れられたのですか?」直接、尋ねてしまう。
「気に入る?」一瞬、質問の意味を考え込む。「あぁ、頼忠さんのどこを好きになったかって事?」
「はい。」
「一体どうしたの?いきなりそんな事を気にするなんて。」
頼忠から身体を離すと、真正面から瞳を見つめる。
「いえ、京では私以外に七人の男がいました。私を選んで下さった理由をお訊ねしたいと、ずっと以前から思っていたのです。」
「京?七人?―――八葉のみんな、か。」そんな事、考えた事も無かったな。でも、以前からって事は、わざわざ質問したって事は―――ずっと不安に思っていたのかな?それなら、きちんと真面目に考えてみよう。「八葉の中で頼忠さんを好きになった理由・・・・・・・・・。」
考え込む花梨を、頼忠は少し不安げに見つめる。

顔―――全員、それぞれ容姿は良かった。
声―――美声の持ち主も落ち着いた雰囲気の人も艶やかな声の人もいた。
性格―――怒りっぽい人も後ろ向きな人もいたけど、みんな努力家だったし誠実で前を向いて歩く勇気を持っていた。
優しい―――みんな優しかったな。気配りも配慮もしてもらったし面倒を見てくれた。
面白い―――遊びも勉強も、話すのは楽しかった。
頭―――それぞれ、自分の得意分野ってものがあって、それには詳しかった。何でも丁寧に教えてくれたし、決断する勇気をくれた。
一人一人、長所も短所もあって。一人一人、魅力的で素敵な男の人だったけれど。その中で、頼忠さんが特別な人になった理由、原因は――――――。

「どこと言われてもな・・・・・・。」特にこれっていう理由なんてあったっけ?無いな。「強いてこれって言うと―――。」
「何でしょう?」
「頼忠さんが頼忠さんだったから、かな?」
「え?」
「これと言うきっかけは無かったの。」頼忠から視線を外して空を見上げる。「頼忠さんの人柄を知って、もっと知りたいって思って。だから、どんな状況の時でもどこにいても探して見てた。で、更に一つずつ知って、過去とか心を知っていって・・・・・・。」再び、頼忠の瞳を見つめる。「気付いたら、私に中、頼忠さんで一杯になってた。頼忠さんしか眼に入らなくなってた。」
「・・・・・・・・・。」
「今もだよ。」
「今も?」
「逢っている時も逢えない時でも、何時でも頼忠さんが私の心の中に居てくれるの。新たな発見がある度に、知れば知るほど好きになる。」ゆっくりと頼忠の背中に腕を回して抱き締める。「頼忠さんだからだもん、それ以外の理由なんて無いよ。」
「・・・・・・・・・。」頼忠からも抱き締める。頼忠が頼忠であれば良い、という事でしょうか?ならば、ずっと貴女のお傍におります。何時の日か、私の存在が貴女を幸せに出来るように。
「・・・・・・・・・。」納得、してくれたかな?
「そろそろお帰りになられますか?風が冷たくなって参りましたから。」
「うん。そろそろ門限時間だもん。」腕時計で時間の確認。「家まで送ってね?」ほんの少しでも一緒にいたいと願う花梨からのお強請り。
「はい。」こちらの願いも同じ事。



手を繋いで帰る間、花梨は考え事をしていた。―――全く不思議な男(ひと)。こんなにも素敵な男性なのに、自信が持てないなんて。頼忠さんを好きにならない女の子がいるんだったら、お目に掛かりたいよ。でも・・・不安にさせているのは私にも責任がある。私には、頼忠さんを幸せにする義務と権利がある。うん、頑張ろう。私を幸せにしてくれている何十分の一でも、そういう気分にさせなきゃ。――――――あっ!
「では、これで失礼致します。」花梨の家の門の所で残念そうに挨拶をする。
「頼忠さん!私が頼忠さんの傍にいたいと思う理由は知っていますか?」
「傍にいたいと思う理由?それは一体?」好きだからでは無いのですか?突然の質問に戸惑っていると。
「頼忠さんが、頼忠さんだけが私を幸せにする事が出来るからだよ!」少し高くなった場所から背伸びをすると、なんとか頼忠の顔に届く―――頬の少し下の部分に唇で触れる。「じゃあ、お休みなさいっ!」
伝えたい事だけ言うと、花梨はさっさと身を翻して家に入ってしまう。だが、頼忠は、と言えば・・・・・・呆然と立ち尽くしていたが、その顔は真っ赤になっていた――――――。






注意・・・表のweb拍手御礼創作としていた『―――頼忠の疑問―――』の続き、解決編。

御礼創作を入れ替える為に下ろした時、以前UPした時に解決編が読みたいってコメントをくれた人が居たっけ・・・・・・と思い出しました。てな事で、書いてみました。かなり前だから、書いたご本人様は忘れているでしょうけれども。

頼忠が立ち尽くしている場所は、花梨の家の前、門の前です。―――アヤシイぜ、頼忠。

2005/05/14 02:01:48 BY銀竜草