『―――頼忠の疑問―――』 |
頼忠は、鼻歌を歌いながら食べ終わった食器を洗っている恋人の後ろ姿を見つめながら考え事をしていた。 『花梨殿は、この私の何処を気に入られたのだろうか?』 頼忠は常々疑問に思っていたのだ。 八葉全員での激しい戦いを勝ち抜き、少女を手に入れたのだが。容姿が優れているだけでなく、才能豊かで個性的な男たちに比べて、自分には剣術しかない。その剣の腕で愛しい少女を守っていたのだが、花梨の世界では何の役にも立たない。それでも花梨の世界について行くと宣言した時は、涙を流して喜んでくれた。ただ傍にいる事しか出来ない。だが、そんな私の世話を嬉しそうにしているのだから、私への想いは弱いものではない筈だ。 その筈なのだが。 私の何処を気に入れられたのかは解らない・・・・・・・・・。 容姿も声も誉め言葉を貰った事は何度もあるから、人に不愉快な思いをさせてはいないだろう。だが、他の八葉のみんなも誉められていたのだから、それは関係無い。口説き文句を言う事はおろか、他愛も無い会話さえまともに出来ない私と一緒にいて楽しいとは思えない。 だから。 もし、花梨が私を選んだ理由があるなら知りたい。 心を繋ぎ止めて置く方法があるなら、どんな事でも知り、利用したい。全てを捨て去ってこの世界に来た私をそう簡単に放り出すとは思えないが、義務感や同情で縛り付けたくは無いのだから。 「頼忠さん!眉間に皺が寄っていますよ?」花梨は人差し指で頼忠の眉の間をぐりぐりと押した。「何を考えているんですか?」 「あ・・・・・・。」何時の間にか考え事に熱中していたようで、花梨が傍に来た事も気付かなかった。「いえ、ただボーとしていただけです。」 「皺が刻み込まれてしまいますよ?」 「皺がある男はお嫌ですか?」 「嫌ですっ!」きっぱり言うと、頼忠は大きなショックを受けたようだ。下を向いてしまう。 「眉間に皺があるって事は、悩んでいる証拠。頼忠さんが苦しんでいるなんて嫌だよ。」両手で頼忠の頬を包み込み、顔を上げさせる。「頼忠さんが一人で背負っているなんて悲しい。まだ子供の私じゃ頼忠さんを支えられないけど、一緒に悩み考える事は出来るんだよ?恋人の私を、もっともっと信じて頼ってよ。」 澄んだ瞳で見つめられて、例えこの少女が心変わりをしたとしても、離れられない事を改めて思い知らされた。 『やはり、この女(ひと)がどんなに泣き叫んでもこの手は離せないっ!』 少女の両方の腕を掴んで引っ張ると、バランスを崩して頼忠の身体の上に倒れ込んできた。驚いた花梨が何かを言おうと口を開いたが、頼忠はその前に己のそれで塞ぎ、そこから少女の全てを奪い取る。 暖かくて優しい花梨。何時も何時も欲しい言葉をくれて、守ってくれる花梨。この少女に出逢えた奇跡、想いを受け止めてくれた幸福・・・・・・・・・・・・。 欲しいのは花梨だけ。必要なのはこの女(ひと)の笑顔だけ。 しばらくすると、少女の身体から力が抜けて崩れ落ちた。 頼忠はやっと唇を離し、花梨の顔を見つめる。頬が上気し焦点の合わない瞳がゆっくりと光を取り戻し、己を愛情込めて見つめ返してくれるまでの変化を見ているのが好きだったのだ。 だが、その日は見つめ返す、というよりも頼忠を睨みつける瞳に出合った。 「花梨?」 「頼忠さんったら酷いっ!」口を尖らせて文句を言う。「お話を聞くって言っているのに、キスで誤魔化すなんて!」 だが、どんなに怒ろうが少女の腕は頼忠の首に回されていて。しかも、力が入らないのに離れまいと必死になっていれば、嫌がるどころか喜んでいるのはバレバレである。 ――――――ん? そう言えば・・・・・・京にいる頃、キスは私の得意技だとかおっしゃっておられたな。そうか、そうだったのか。 頼忠は笑みを浮かべると、文句を言い続ける口を再び唇で塞ぎ、今度は自分の想いを全て注ぎ込んだ。 ものの見事に勘違いした頼忠。 その日から。 少女の心を繋ぎ止める手段として。 時と場所を選ばず、隙さえあれば愛しい少女の唇を狙うようになり・・・・・・恋人を困らせるのだった――――――。 注意・・・副題『キス魔誕生の秘密』 頼忠は手段と言いながら、大喜びでやっています。 花梨ちゃんは困ってはいても嫌がっていないから、それで良し、と。(←ホントか?) 2004/09/08 16:24:56 BY銀竜草 ハテナの部屋に移動。 で。続き、『―――頼忠の疑問・解決編―――』をUP。 2005/05/14 2:32:39 BY銀竜草 |