男達が自分の元に文が届くのか届かないのかと落ち着かないで待っている頃。

「あらあらあら。」
千歳は一通の文を読みながら苦笑いを浮かべた。
「神子様がお書きになられた、初めての御文で御座います。」との伝言付きの文。

『 千歳へ。

    庭の藤の花がちょうど今、見頃となっています。
    一緒に眺めながら、女の子同士の秘密のおしゃべりをしませんか?
    紫姫と楽しみにお待ちしています。

                                      花梨より。 』

千歳に文を書くね、と花梨は約束をしてくれたけれど、最初に書いた文を貰えるとは思っていなかった。
兄を含めた八葉の全員が、花梨が一番最初に直筆の文を誰に贈るのかを気にしていたのだ。自分が選ばれた事は嬉しいが。
「恨まれそうね。」
まぁ、そんな事になったって気にはしない。この私に嫌味の一つでも言おうものなら、怨霊にお願いをしてちょっとした悪戯でも仕掛けてやるから。『脅かす』ではなくて『驚かす』程度の可愛い悪戯を。
そんな事は兎も角、気になるのは花梨の事。
沢山の素敵な殿方に囲まれているのに。全員に特別な感情を抱かせているのに。本人だけが気付いていない。
「鈍感にも程があるわよ。花梨らしいけど。」
呆れるが、自分が気に掛けて貰えるのは正直嬉しい。返事を書く間も笑みが零れてしまう。
初めての友達、この友情を大切にしよう・・・・・・・・・。



一番最初は駄目だったが、男ではなかったと言う事で負けた訳ではない―――気持ちを入れ替える。
だったら、最初の男になろう。
花梨から文を貰うにはどうしたら良いか?



「千歳、いらっしゃい!」花梨が紫姫と一緒に、千歳を出迎えた。「えへへ、今日は女子だけだからゆっくりして行ってね♪」
「八葉の方々には青龍様がお相手をしておりますから、邪魔は入りません。どうぞご心配なく。」
「青龍が?」
「そう。龍神様の特別の命令で、四神が八葉のみんなに時々講義する事になったの。何か良く解らないけど、八葉の存在意義とか心構えとか。」
今頃そんな講義が必要なのかなぁ、と首を捻っている花梨を横目で見ながら、二人は込み上げてくる笑いを必死で押し殺していた。
何だかんだ口実を設けてはいるが、結局は花梨を守りたいのだろう。『龍神様も花梨(神子様)に余計な虫が付くのがお嫌なのね・・・・・・。』
「神子も星の一族も講義を聴く必要はないって言うから、私達はその間、ゆっくりお話でもして親睦を深めていようね。」
にっこり笑顔の花梨に、二人も笑顔で頷き返した。


御簾を上げて藤の花を見ながらの、女の子同士のおしゃべりはやっぱり楽しい。
「花梨。御文、有難う。文使いの人が初めてだって言っていたけど本当?あまりにも上手でびっくりしちゃった。」
「え?あの字で読めたの?良かったぁ・・・・・・。」
文車妖妃が大丈夫と保証してくれたけど、心配で堪らなかった。ホッとして大きなため息を付いてしまう。
「千歳が何時も素敵な文をくれるから、私も代筆じゃなくて自分の字で贈りたいって思っていたの。約束したのに遅くなっちゃってゴメンネ?けっこう難しくて・・・。」
「仕方が無いわ、筆を持つのは初めてだって言っていたでしょう?夏か秋ぐらいかしらって思っていたから、それを考えれば早かったわ。」
「もう少し勉強したら自分一人で書けるようになるから、そしたら色々と相談に乗ってね?」
「勿論よ。同じ年齢なんだから、困った事があっても無くても気楽に言ってよ?頼りにして良いから。それこそ文の練習で、挨拶だけでも日記でも良いわよ。」
兄を含めた八葉へのちょっとしたイジワル。これで余計、花梨の文は男達には届かないだろう。
花梨が恋の相手に八葉の内の一人を選んでしまったら、ベタ惚れ・ひとすじ・焼き餅焼き・独占欲の塊の男では、そう簡単には会わせて貰えなくなってしまう。今の内に切っても切れない友情を育んでおこう。
「え?そんなものでも良いの?」びっくりして千歳の顔を見つめてしまうが。「ただ練習していても面白くないもん。貰ってくれるなら張り切っちゃうよ?じゃあ明日・・・は無理でも、近い内にまた贈るね♪」
「そうよ、友達なんだから遠慮しないで?私、友人を持てたのって初めてで嬉しいんだから♪」
千歳はそう言うと、紫姫に目配せをする。紫姫は『心得た』とばかりに頷いた。



花梨の周りにいる女房達の話を聞いた八葉、良い案が思い浮かんだ。
花梨宛に八葉から文が次々と贈られて来るようになったのだが。



「お姉さま、わたくしもお姉さまからの御文が欲しいですわ。」
姉と妹と言う関係になった紫姫がお強請りする。
「そう?じゃあ、紫姫にも贈るね♪」
にっこり笑顔、二つ返事で承諾する。
と。
「ならば、今度は和歌を添えよう。」
花梨の護衛役の一人、側で大人しく控えていた文車妖妃が口を挟む。
「和歌!?」途端に青冷めた。「和歌なんて詠めないよ・・・・・・。」
「文に和歌を添えるのは基本だ。読める文字を書けるようになったのだから、次は和歌だ。案ずるな、わらわが教える。」
「うっ!」問答無用とばかりに巻物をシュルシュルと開いていく文車妖妃に、『NO』は通じない。「・・・・・・頑張ります。」
「まぁ!お姉さまが初めて詠んだお歌を頂けるのですか?嬉しいっ♪」
紫姫は瞳をキラキラと輝かせて大はしゃぎである。
「ちょっと・・・、大分、かな・・・・・・?」首を傾げて考える。「かなり時間が掛かると思うけど、気長に待っていてね。」
元気無く頼む花梨。
「大丈夫、そう難しく考える事は無いわよ。」千歳がにっこり微笑む。「私達も教えるし、協力するから。」紫姫を見る。「ねぇ?」
「そうですわ、お姉さま。わたくし達は姉妹であり友達ではありませんか?お姉さまがわたくし達に気を使って遠慮なさっていたら、悲しいですわ。」
「そう?」情け無い顔が途端に笑顔に変わる。「じゃあ、頼りにするから、お願いね!」
「任せておいて?」
「はいっ!」
三人はがっちりと手を握り合って、お互いに微笑みあった。
「ところで。」話を変える。「この京で驚いた事って何?」
「そうそう、私の世界と一番違う事って言ったらね――――――。」

何時の時代でも。どこの世界でも。
女の子同士のおしゃべりには、話題が尽きる事はない。



恋文は兎も角、返事さえ八葉が貰える日は遠い――――――。






八葉→花梨、で書いていた筈が、何時の間にか、八葉VS千歳&紫姫。しかも、千歳が黒い・・・・・・。龍神様にも守られている花梨が恋に落ちる日は来るのか?!

文車妖妃・・・恋文に込められた想いから生まれた妖怪。
花梨は文車妖妃に、この世界の文字の読み書きと文の書き方を教わっていましたが、恋文を書きたかった訳ではありません。
で、成果は『千歳&紫姫との固い友情、絆』ってか?
京に残った理由は何なんでしょうね?

誰も信じてくれないだろうけれど、私、短いコメディが書きたかったの。神子ちゃんを誘拐しようとしたら、それは怨霊だったって言う(だけの)・・・・・・。何でこんなに長くなった(書き始める前の予定の3倍、EDまで書いてから手直しして更に2倍)上に支離滅裂な話になってしまったのだろう?
つーか、あまりにも内容が変わってしまったから、題名を変えたいっす。『―――文の行方―――』と。もう手遅れだけど。

2004/11/21 15:58:47 BY銀竜草