『―――おままごと―――』 |
またしても穢れを受けてしまった花梨は、泉水に支えられて屋敷に戻った。 「大丈夫ですか?」 「おい、穢れを受けたって?」 「ご気分はいかがですか?」 連絡を受けた他の天の四神も駆け付けた。 「申し訳ありません。私がお側におりましたのにお守りする事も出来ず―――。」 「大した事は無かったんです。」謝罪し続ける泉水に苛立ち、言葉を遮った。「少し気分が悪くなっただけだし、穢れは祓って貰ったからもう大丈夫です。心配掛けてしまってごめんなさい。」 「そうですか。それは良かった。」 頼忠と幸鷹が穏やかな笑みを浮かべた。だが。 「でもさ。本当、倒れてばかりじゃ困るんだけどよ。」イサトが顔を顰めた。「怨霊が出ても、お前が寝込んでんじゃどうしようも出来ないんだぜ?いい加減、どうにかしてくれねぇと。」 「・・・・・・(むかっ)。」 「イ、イサト。言葉が過ぎます。」 幸鷹が慌てて注意をするが、言われた本人、花梨は聞かなかった事には出来ない。 「その事だけどね、力が無いのに無理をするから倒れるんだって。だから、これからは時々役目を休もうと思うの。」 「おい、京はどうすんだよ!?」怒鳴った。「お前が神子なんだろう?京を救ってくれるんじゃないのか?救ってくれないんだったら、お前なんかいらないじゃないか!」 「イサト!」 「なんて事を言うのです!」 「なっ!」 さすがに他の三人は顔色を変えた。 「だからじゃない。」だが、花梨は怯まずに反論する。「倒れたら何日も動けなくなる。だからその前に休んで疲れを取ろうって。」 「そんな暇、あるのかよ!?」 「じゃあイサトくんはどうなの?寺の仕事とか家族の用事、友人との付き合いでこっちの役目を休んでいるじゃない。」 「それは遊んでいるんじゃないだろう!」 「そんなのは分かっているよ!」怒鳴り返した。「だからって毎日毎日朝早くから夕方遅くまで町中を走り回っての怨霊退治は身体が持たない!精神的にもね!」 「「「「・・・・・・・・・。」」」」 今まで愚痴一つ零した事の無かった花梨の反撃に、驚き固まる。 「何一つ楽しい事なんて無いんだもん、テンションは下がりっぱなしだよ!」 「て、てんしょ・・・?え?何だって?」 「確かに。」幸鷹が額に手をやって考え込んだ。「慣れぬ生活は辛いものがあるでしょう。まして花梨殿にはそれを楽しむ余裕も無いですし。」 「あの。」泉水が躊躇いがちに口を挟んだ。「ですから、てんしょ、とは何なのですか?」 「やる気。」不機嫌そうに答える。「そりゃあ、上手く出来た時に褒めて貰ったり、みんなが安心して生活出来るようになるのは嬉しいよ。でも虚しい。」 「虚しいって・・・・・・。」 「神子としての役目を果たせば帰れるって言うけどさ、こっちの承諾も無しに連れて来ておいてそれは無いんじゃないの?京の人達、あなた達には平和で安全な暮らしが手に入るけど、私にはご褒美も何も無いんだよ。」 「「「「・・・・・・・・・。」」」」 「しかも知っている人もいないし、テレビもラジオもゲームもないし。折角本らしき物はあってもこっちの文字は読めないんだもん。喫茶店で休憩、なんて問題外だし。」 ケーキ食べたい、漫画読みたい、見たい映画もあったのに、などとぶつぶつ言い続ける。 「ならば、そのテンション、とかいうものを上げるお手伝いを致しましょう。」 「幸鷹?」 「そうですね。」泉水も頷いた。「私も何か心を慰めるような物をお持ち致しましょう。甘い物ですとか気を紛らわせるような物を。」 「わ!」顎の辺りで手をぽんと叩いてはしゃぐ。「良いんですか?ありがとう御座います♪」 「では、物以外で協力出来るような事はありますか?」 頼忠が尋ねる。 「物以外?」イサト、幸鷹、泉水、そして頼忠の顔を順々に見る。揃いも揃って何とまぁ、格好の良い男達なんだろう。これを利用しない手があるものか。「って事は、人だね。」 「人?」 「そう、人。」一生懸命やっているのに認めて貰えない。怒鳴られたり蔑みの眼で睨まれたりするのも無性に腹立たしい。だったら一人、人身御供としてその身を神子様に捧げて貰おうじゃないの。「うん。誰か恋人になって。」 旅の恥は掻き捨て、ではないが、己の殻を破って色んな事に挑戦、遊んでも良いではないか。普段、自分の世界では出来ないような事を。一人我慢し続けるのには飽きたし、どうにかしてこの状況を楽しまなければ、もうこれ以上耐えられはしないのだから。 「「「「はぁ〜?」」」」 「側にいて私の緊張を解したり楽しませたりしてよ。」 「側にいて・・・・・・。」 「緊張を解し・・・・・・。」 「楽しませる・・・・・・。」 「恋人・・・・・・?」 視線は花梨の後ろの御帳台へと。 「で、誰がなってくれるの?」 「「「「・・・・・・・・・。」」」」 「どうかしたの?みんな顔が赤いけど?」 「こ、恋人って、お前っ!」 絶句。 「何よ?恋の一つや二つ、経験あるんでしょう?」 「そ、それは・・・・・・。」 「まぁ、無いとは言いませんが。」 幸鷹がぼそりと呟いた。 「だったら別に良いじゃないの。楽しい時間を過ごしたいだけなんだから。」 そう、おままごとの恋人ごっこ。擬似恋愛。言葉はどうでも良い。恋する乙女は好きな男(ひと)と一緒なら、辛い事も楽しいと思えるし、頑張れるのだ。―――実際には恋愛感情は無いけど。 「そ、そういう問題では―――。」 幸鷹が他の三人に助けを求めるように見るが。 「もしもこの方が真の龍神の神子であったならば、これは許される事ではないのでは?」 「おい、どうすんだよ?」 「星の一族の方々に相談された方が宜しいのではありませんか?」 幸鷹を一斉に見つめ返し、拒絶するように迫る。 「ごちゃごちゃと煩いよ。協力するって言ったんだからなりなさい!」 ばんっと床を叩きながら問答無用とばかりに言い放った。 「「「・・・・・・・・・。」」」 三人が再び幸鷹を見る。 「で、誰がなってくれるの?」 「あなたがお選び下さい。」 幸鷹が疲れたように呟いた。 「「ゆ、幸鷹殿!?」」 「え〜〜〜!良いのかよ?大問題じゃないのか?」 騒ぐ三人にはお構いなく、花梨は頷いた。 「私が選ぶのか・・・・・・。」 四人の顔を見回して考える。 普通に考えれば年齢の近いイサトだろう。楽しい事が大好きらしいし、遊び相手にはもってこいだ。だが、先ほどの言葉が刺となって花梨の心に突き刺さったまま。 幸鷹はどんなに馬鹿な質問でも丁寧に答えてくれる。だが、真面目すぎるから勉強会や反省会になりそうだ。それに弱音を吐けるような相手ではない。 泉水なら物静かで優しい。癒しが欲しいならこの男が最適だろう。だが、何かくれるって言っていたし、これ以上の負担は気の毒だ。 と言う事は。 「頼忠さん、お願いします。」 「わ、私ですか?」 「「「―――はぁ。」」」 面食らい、戸惑う頼忠とは対称的に、他の三人は面倒から逃れられたとばかりに大きく息を吐きながら緊張を解いた。 「何故私なのです!」 悪足掻きのごとく、断る口実が見付かるかもしれないとの儚い希望を乗せて理由を尋ねる。 「あぁ。私、デートとかってした事ないんだよね。」 「でーと?」 「えっと・・・そう、逢瀬。で、どうして良いか分からないから、経験豊富そうな人が良いかなって。うん、色々と教えて貰えそうだし。」 恋の手ほどきなら経験豊富な大人の男性が良いんじゃない?導いてくれる人。多少、ドジ踏んでも怒らない人。 「わ、私が・・・教える・・・・・・?」 「初めてって・・・・・・。」 「教えて欲しい、ですか・・・・・・。」 「そういう事を堂々とおっしゃるのはどうかと・・・・・・。」 他の三人は顔を突き合わせてぼそぼそと言い合う。 「それに毎夜警護しに来ているんだし、丁度良くない?」 「・・・・・・・・・。」 どんどん青冷めていく。 「毎夜相手させる気か?」 「「・・・・・・・・・。」」 花梨と頼忠を交互に見る。 「あっと、そうだ。」 「今度は何でしょう?」 「明日、私、物忌みなんだ。で、龍神の神子は五行の力を強く受けるから八葉の誰かと過ごさなきゃいけないんだって。」 「・・・・・・・・・。」 「明日、来て下さいね。」 「明日、ですか・・・・・・。」 「もう、か!?」 「早速・・・・・・。」 「明日から・・・・・・」 自然と御帳台に視線が行く。そして同情の眼で硬直している頼忠を見る。 「まぁ、頑張ってくれ。」 ポン、とイサトが頼忠の肩を叩いた。 「・・・・・・・・・。」 三人は帰り支度を始めるが、頼忠は動けない。 「取り敢えず、明日、です。考えをお変えになる事もあるでしょうし。」 「私達も言い訳を考えてみますから。」 幸鷹と泉水が気休めにもならない励ましの言葉を囁く。 「・・・・・・・・・。」 頭を抱えながら無理矢理に身体を動かし、ノロノロと立ち上がった。 「じゃあ、明日、お待ちしていますね。」 にっこり微笑む。 「・・・お伺い致します・・・・・・・・・。」 頭を下げ、足を引き摺りながら御簾の方に向かって歩き出す。 「そうだ。肝心な事、訊かなきゃ。」そんな頼忠の気持ちに全く気付かぬまま、どよよ〜んと暗雲背負っている背中に向かって尋ねた。「ねぇ。友達と恋人って、どう違うの?」 |
注意・・・ゲーム中・第1章・前半。朱雀解放前。 この時代の恋人って、夜伽の相手、ですね。勿論花梨ちゃんは知りませんが。 2006/12/13 00:33:49 BY銀竜草 このEDのまま終わりにする事も出来ず、連作開始。 一人勝手に墓穴を掘って埋まった銀竜草であった。合掌・・・・・・。 2007/01/12 2:12:20 BY銀竜草 |