コンドル |
「・・・・・・・・・。」 泉水が静かに膝の上に笛を置いた。 「うわぁ、さすがです!」 花梨がぱちぱちと手を叩きながら褒めると、周りの男達も頷いた。 「泉水殿の笛は素晴らしいですね。」 「えぇ。院が聴きたいとわざわざお側に召すのも分かりますね。」 幸鷹と彰紋が褒めると、イサトも笑顔で言った。 「オレは雅ってものは分からねーけど、泉水の笛は好きだぜ。」 「ありがとう御座います。」 「ねぇ、泉水さん。」花梨はふと絶対音感という言葉を思い出して訊いた。「耳で聞いただけの曲でも、吹ける?」 「はい、大抵の曲でしたら。」 「私の世界の曲なんだけど、私が歌っても出来るかな?」 「神子が?」驚いて訊き返す。が。「ご期待に添えられるかどうか分かりませんが、試してみましょうか。」 穏やかな微笑を浮かべて頷いた。 「あのね、こういう曲なんだけど。」 そう言ってメロディを歌う。 「・・・・・・。」頭の中で何度か繰り返す。「こんな感じでしょうか。」 口元に笛を当てると、一呼吸置いた後、奏で始めた。美しい音色に、一同、うっとりと聞き惚れる。 吹き終えると笛を口元からゆっくりと離した。「いかがでしょうか?」 「凄いです、泉水さん!」花梨は泉水の手を握り、上下に振った。「素晴らしい!泉水さんに頼んで良かったぁ♪」 多少、音階、雰囲気は違っているが、根本的に奏でられる音が違うのだから当然だろう。そして、これはこれで素敵な曲だ。 「不思議な感じだが、なかなか綺麗な曲だな。」 「へぇ。お前の世界の曲って面白いな。」 「笛の音が天に昇っていくような感じがしますね。」 勝真とイサト、彰紋が感心して言った。 「でしょう?大好きな曲なんだ。ここで聴けるとは思っていなかったから嬉しい。」 「そうですか。そんなに喜んで頂けて嬉しいです。」 心配顔が消え、嬉しそうに微笑んだ。 「ねぇ、私に教えてくれませんか?」 「笛を、ですか?」 「うん。この曲、吹けるようになりたいの。」 「笛を習いたいのか?女なら普通、琴だろう。」 勝真が驚いて言うが、花梨は肩を竦めた。 「別に良いじゃない。私、ギターとかの弦楽器は苦手なんだもん。それに、自分の世界でも笛を習っていたし。」 「笛をか?」 「うん。横笛じゃなくて縦笛だけどね。で、泉水さんはどう思う?」 「神子がそうお望みでしたら。」 にっこりと微笑む。 「じゃあ、早速用意して貰ってくる!」 顔を輝かせると、室を飛び出して行った。 「いえ、そうではなく。」花梨の指を動かす。「この音はこちらの穴を―――。」 「うぅぅぅ、左手が動かないよ。」 顔を顰めつつ、ゆっくりと動かす。 「肩に余計な力が入ってしまわれているようです。一旦、肩を回して―――。」 丁寧に教えていく。 「女が笛を吹くなんて、何だかヘンな光景だな。」 珍しそうに見つめる勝真と彰紋に対し、イサトはのんびり両腕を上げて背伸びをした。 「別に良いじゃん。それだけ好きな曲なんだろう?」 「いえ、泉水殿が教えて差し上げるとは・・・。」 控え目すぎて何事にも消極的な泉水が、得意の笛とは言え、断らずに他人に教えるのは珍しい。 「こいつに常識は通用しないぜ。」 「「・・・・・・・・・。」」 顔を見合わせ、再び花梨と泉水の二人を不思議そうに見つめる。 「やっぱり縦笛とは違うね。難しい。」 笛を口から離し、大きく息を吐き出す。そして再び肩を上下に動かし、余計な力を抜く。 「初めはゆっくりで宜しいのですよ。指の位置を確認しながらで。」 「うん・・・・・・。」 再び吹き始める。たどたどしくとも、確実に音と音が繋がっていく。 「習っていた、というのは本当のようですね。上達が早いです。」 彰紋が驚きつつ言った。 「こいつの言っている事、嘘だと思っていたのか?」 「しょうがないだろう?確かめようが無いんだからさ。」 喧嘩腰のイサトに勝真が言い訳がましく言った。 「ピ〜〜〜♪」 先ほどの泉水の音色とは比べ物にならない。それでも一生懸命に繰り返し練習する姿は良い印象を与える。 「なかなか熱心だな。」 「花梨さんは努力家なんですね。」 最後まで吹き終わった花梨は、顔を輝かせた。 「ねぇねぇねぇ、間違わなかったよね。今、一度も。ね?」 「えぇ、そうですね。」 「えへへへ。なんだか嬉しいな。上手に吹けるようにもう少し練習しようっと。」 再び吹き始める。 「へぇ。笛って、吹く者の性格が出るんだな。」イサトが感心したように言った。「泉水のは繊細で綺麗な音色だけど、花梨のは元気があって楽しい気分になるな。同じ曲とは思えねぇ。」 「ははは。」 「くすくす。」 同意見らしい勝真と彰紋が、一人は豪快に、一人は控え目に笑う。 「それ、褒め言葉として受け取っておくよ。」 笑いながら睨んだ。 「どうかしたんですか?」 そんな中、幸鷹が一人微妙な表情で考え込んでいるのに気付き、尋ねた。 「いえ、どこと無く懐かしい気がしたものですから。」 「懐かしい?」 「いえ、気のせいでしょう。」頭を振った。「ところで、曲名は何と言うのですか?」 「コンドルは飛んでいく、です。」 「こんどる・・・・・・。」 「こんどる、って何だ?」 またしても考え込んでいる幸鷹に代わって、勝真が訊いた。 「コンドルは鳥の種類です。地上3000から5000メートルの高さの所に住んでいる鳥で、翼を広げると3メートルにもなる大きな鳥。」 「めーとる?それって長さの単位か?」 「私、こっちの単位が分からないけど・・・。」えっとえっと、と考える。「そう、私の身長が1.6メートルだから、羽を広げた長さは私二人分に少し欠ける位。」 「かなり大きいのですね。」 「側を飛んでいたら、ちょっと怖いですね。」 泉水と彰紋が驚いて、顔を見合わせた。 「うん、そうだね。でも、優雅っていうか壮観、圧巻だよ。それに物凄く高い山の上を飛んでいるから、天に近い場所にいるって事で人間が憧れる鳥なの。」 空を見上げれば、小さな鳥が飛んでいた。 「天に近い、ですか。」 「あぁ、なるほど。」 それなら、と納得して頷いた。極楽浄土と同じく、天つ国にも憧れの気持ちを抱く者がいるのは理解出来る。常識が違うせいで違和感を覚える事の多い花梨だが、少女の世界にも同じような事を考えている者がいるのを知って少し身近に感じられる。 「見てみたいですね。」 「えぇ。」 大きな鳥が優雅に飛翔する姿を想像し、感動していた。 が。 「コンドルがめりコンドル・・・・・・。」 花梨が呟いた。 「「「「「・・・(ピシッ!瞬間冷凍)・・・・・・。」」」」」 「ちょっとちょっと、笑うなり突っ込むなり反応してよ!」 空(くう)を叩くように両手をパタパタと振った。 「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」 「これじゃあ私、馬鹿みたいじゃないの!」 「いや・・・・・・。」 「何とも・・・・・・。」 ええと・・・違うのか? 「頼忠さんなら笑ってくれるのにぃ!」 「え?あいつが笑うのか?仏像のようにだんまり無表情の頼忠がか?」 「うん。大声を上げている訳では無いけど、最近はちゃんと笑ってくれるの。」 苦笑とか呆れ、疲れた笑いでも、笑っている事に変わりは無い。 「最近って事は・・・・・・。」 こんな事を年がら年中言っているのか? 『うわぁぁぁ、耐えられねぇ・・・・・・。』 『このお役目を仰せ付けられなくて良かった・・・・・・。』 『あの方はこんな試練な日々を過ごしているのですね・・・・・・。』 『もしかして頼忠ってすんげぇ辛抱強い男なんじゃ・・・・・・?』 『本当にお守りをしているんですね・・・・・・。』 頼忠の苦労を推し量り、心の中で励ましと同情の拍手を贈る。 「もう、つまんな〜〜〜い!」 「あんた達、本当にコレを信じているのか?」 「あの、本当に花梨さんが龍神の神子なんですか?」 花梨には聞こえないように、勝真と彰紋がぼそぼそと小さな声で天の八葉に訊くが。 「「「・・・・・・・・・。」」」 二人の疑問に答えられる者はいない。 「怒っても良いから何か言ってよ〜。」 「「「「「・・・・・・(勘弁してくれ)・・・・・・。」」」」」 騒いで文句を言う花梨を見ながら、ため息をついた。 |
注意・・・第2章後半頃。花梨&勝真&イサト&彰紋&幸鷹&泉水。 泉水の笛でこの曲を吹けるのかは、当然の事ながら知りません。 まぁ、発想としては。 泉水→笛→コンドルは飛んでいく→めりこんどる・・・・・・_| ̄|…((((((○ (←く、首が取れてるっ!) 2007/01/24 03:17:44 BY銀竜草 |