『―――願いを叶えると―――』 |
「頼忠さん。私ね、欲しい物があるの。」頼忠が愛しい妻に『ホワイト・デー』に何が欲しいですかと尋ねると、花梨は大真面目な顔をして答えた。「手加減無しの口付け。」 「はっ?」 「優しいのは毎日してくれるけど、魂を奪うほどの深いのは最近してくれないんだもん。」不満気な顔だ。「私が満足するまで、もう止めてと言うまでしてよ。」 「・・・・・・・・・。」 嫌な予感が頭をよぎる。それでも願いは願い、自分は『バレンタイン・デー』にとても幸せな一夜を貰ったのだから叶えようと、妻を抱き寄せ唇を重ねる。そして、本当に手加減無しの攻撃を開始した。優しいだけでなく、激しいだけでなく、ただひたすらに愛しい女(ひと)を追い求め、奪い取る・・・・・・・・・。 ただの口付けにしては長い長い時間が過ぎた時。 かくん。 花梨が崩れ落ちた。 「えへへへ。」頬は紅くなり、瞳は潤む。唇は腫れて、何とも言えない艶っぽい表情をしている。「今日はこれで許してあげる。続きは明日ね?」 満足げな笑みを浮かべてそう言うと、花梨は頼忠の胸に顔を埋めて眠り込んでしまった。 「・・・やっぱり。」がっくり肩を落とす。「花梨、私はどうすれば宜しいのですか?」 そう、頼忠の手加減無しの口付けは魂を奪い取るが、花梨は体力も同時に失ってしまう。可愛い反応、艶っぽい表情で頼忠を煽るだけ煽いだ挙句、一人眠り込んでしまうのだ。その結果、熱を持て余して辛い時間を過ごす事になる・・・・・・・・・。 「だから手加減していたのに。」口付けの後も起きていて欲しいから。想いを受け止めて欲しいから。だが、寝ている花梨を起こす事は出来ない。ため息を付くと、寝顔を一晩中楽しむ事にしたのだった・・・・・・。 チュン、チュン。 窓の外で、小鳥が鳴いている。 「ん・・・・・・。」 花梨はもぞもぞと寝返りを打っている。そろそろ目覚めるだろう。それをほとんど眠れなかった頼忠は恨めしげに見つめていたが。 『今日はこれで許してあげる。続きは明日ね?』 ふと思い出した昨夜の花梨の言葉。―――続き? 「ぅん・・・・・・。」瞼が震えて、瞳がゆっくりと開いた。 「おはよう御座います、花梨。」 「おは・・・よう―――。」返事の最中、唇を塞ぐ。「ん〜〜〜?」一気に目覚めた花梨、眼を見開く。「いきなり何するんですか!?」 「朝です。昨夜の続きを・・・・・・。」再び唇を塞ぐが、同時に手が花梨の弱点を攻め始める。 「ひゃう!」頼忠の望み通りの反応をしてくれる。「続きって何の?」 「貴女が昨夜仰ったではありませんか?口付けの後、続きは明日、と。」 「そんな意味じゃ・・・・・・。」段々、声が小さくなってくる。「朝、だよ?頼忠さん!起きな、きゃ。ね?」弱々しい力だが、一応抵抗しているようだ。 だが。 「まだ、時間はたっぷり有ります。」手と唇がそれぞれ敏感な場所に辿り着いてしまえば。 「―――っ!」息を飲む。「・・・・・・ばかぁ。」 花梨、陥落。頼忠の背中に腕を回したのだった。 「おはよう・・・ございます・・・・・・・・・。」幼い子供が目を擦りながらキッチンに出て来た。「あ、れ?ママは?」 父が普段しないご飯の支度をしていて、いる筈の母はどこにもいない。 「あぁ、疲れているようだからしばらく寝かせてあげよう。」にっこり。「ほら、ご飯が出来るから、顔を洗っておいで。」 「はぁぁぁい。」 忠直は素直に洗面台へと向かったが、心の中は父への不信感で一杯だった。父さんはママに関する事ならどんな小さな事でも大騒ぎをして心配するのに、時々、疲れているママを看病するどころか放っておく。そんな時の父さんはやたらと機嫌が良い。別人のように。 パシャパシャ。 顔を洗いながら考える。 昨日の夜はとても元気だったのに。花を摘んであげたらとても嬉しそうに笑ってくれたのに。それなのに何で今日は寝込んでいるんだろう?あのチョコレートをくれた日も、とても元気だったママが次の日は寝込んでいた。 一度、様子を見に行こうとして止められた事がある。ただの寝不足だから静かに寝かせてあげれば大丈夫だよ、とか何とか言って。どうせまた、父さんが我が儘を言ってママを眠らせないのに決まっている。何をしているのかは知らないけど、体調不良にさせるのは問題だ。今度、ママにはキツく言わなきゃ駄目だ。父さんを甘やかせちゃダメだよって。 それに、父さんにも注意しなきゃ。 「ボクだって何時までも子供じゃない。今日からは、ボクがママを守る。父さんの好き勝手にはさせないんだから!」 大きな決意を固めて、父と対決する為にキッチンへと向かった―――。 注意・・・バレンタイン(?)創作『―――女の子からの告白―――』の続編。 ホワイト・デー創作のつもり。 2005/02/19 17:05:04 BY銀竜草 |