『―――秘密の贈り物―――』 |
「花梨殿、ここ数日物思いに耽っておいでのようですが、何かお悩みになっている事でもおありですか?」 頼忠に心配そうに言われた花梨は内心焦る。 バレないように頼忠の不在の時にだけ考えるようにしていたのだが、花梨の事になると些細な事にまで注意を払っている大甘な旦那様に隠す事は出来なかったようだ。どういう態度を取れば誤魔化せるか・・・・・・と思考を巡らせるが、私では貴女のお役には立てませんか?と静かに、寂しげに言われてしまえばどうする事も出来ない。 「頼忠さんの欲しい物って何だろうって考えていたんです。」 花梨は、観念してため息混じりに呟いた。 「今日は頼忠さんの誕生日ですよね?こちらでは祝う習慣は無いようだけど、私の世界ではご馳走を食べたり贈り物をしたりして産まれて来てくれた事、出会えた事を喜び合うんです。去年は色々と大変な時期だったし、頼忠さんの誕生日の日にち自体知らなかったし・・・・・・今年こそは、と思ったんだけど。」 でも、結局喜んでくれそうな贈り物が思い浮かばなくて、と悲しげに言う花梨が愛しくて。 「貴女の他に欲しい物などありません。朝、目覚めた時に貴女が腕の中にいて、帰宅した時に貴女が笑顔で出迎えて下さる。私にとって毎日が幸せな特別な日ですよ。」 結婚してから毎日言われるこの言葉を今日も嬉しそうに言ってくれるが、いくら聞いても聞き慣れるという事の出来無い花梨は真っ赤になってしまう。 だが、その言葉を振り払うように、 「結婚してから初めての頼忠さんの誕生日だから特別中の特別!記念に残る物を贈りたいのっ!」 と、叫ぶその姿は幼子が駄々をこねる姿に似て。 『本当に可愛らしい方だ・・・・・・』と、笑みが零れてしまう。 花梨が喜ぶのなら何でもやる頼忠は、自分が困る事を承知で、 「それでは少し考えさせてください。まだ今日という日は終わっていませんから。今日中なら宜しいでしょう?」 と言えば、やっと笑顔になってくれてホッとする。 「私に出来る事は何でもするから、遠慮しないで言ってね♪」 嬉しそうに笑顔で話す花梨を、頼忠は優しい瞳で見つめていたが。 「そう言う貴女の誕生日とやらは何時なのです?」 「ん?私は六月だよ。――――――何で急に怒った顔するの?」 「私だって、貴女の産まれた日をお祝いしたかったのに・・・・・・!」 頼忠は悔しげに言う。 だが花梨の方は自分の誕生日の出来事を思い出すと、頬が紅く染まってしまうのを止められない。 どうなさったのです?と、不審そうに尋ねてくるが。 『幸鷹さんの策略のおかげで「頼忠さん自身」を貰った、なんて言えないよ〜〜〜!!』 「何か喉が乾いちゃった。白湯を貰って来るね!」 あたふたと逃げ出そうとした花梨だったが、立ち上がる直前、頼忠に腕を捕まれ引き寄せられた。 追及する強い視線に呼吸するのも忘れるが、答えられない。 頼忠は首まで真っ赤にして瞳を潤ませている花梨の様子から、言葉にするのは恥ずかしいが彼女にとって良い思い出なのだろう、と判断して追及を諦める。 だが、腕の中の花梨はとても可愛らしくて離す気にはなれない。今一番欲しい物を貰おうと黙ったまま抱き上げると、頼忠の行動を理解出来ずに呆然としている少女を気にすることも無く寝所としている塗籠に入り、留め金をしっかりと掛けた・・・・・・・・・。 「頼忠さんなんてキライ・・・・・・。」花梨はすこぶる機嫌が悪い。「人が真剣に悩んでいるのに、真面目に考えてくれないなんてヒドイ。」文句を言い続ける。 だが、怒らせた本人は安らいだ表情をして目を閉じ、花梨の肌に手を滑らせ、滑らかな肌触りを楽しんでいた。 手が腹部に辿り着いた時――――――、一瞬動きが止まり、その後確かめるように慎重に触れる。 「・・・・・・・・・。欲しいものが解りました。」 「えっ?何ですか?」 途端に機嫌が悪かったのも忘れて、期待を込めて見つめるが。 「いえ・・・秘密にしておきましょう。」 「えっ?教えてくれなければ贈れないですけど。」 「確実に貰える事が解りましたから。日にちは遅れてしまいますが、それまでもが楽しい日々でしょうね。」 嬉しそうに楽しげに言う。 「・・・・・・もしかして、私が教えない事を怒っています?」 窺うように慎重に言う態度に、クスリと笑ってしまう。 「貴女にとって良い思い出なのでしょう?ですからもう追及するような真似は致しませんよ。貴女も私の態度から、今日という日が私にとって良い思い出、記念となった、という事を御理解下さい。」 悪魔が誘惑する時の笑顔はこうであろう、と言うような魅惑的な笑顔につい見とれてしまい、言葉を忘れてしまう。 『自分も言わないのだから追及しても無理か。それに、この笑顔を引き出したのは私だから喜んでくれる物を贈れたって事だよね?』 強引に自分を納得させた花梨だったが、肝心な事を忘れている事に気付いた。 ガバッと飛び起き、驚いている頼忠に向かって、 「頼忠さん、お誕生日おめでとう!そして、産まれて来てくれて、私を選んでくれてありがとう!!」 と満面の笑顔で言い、そして頼忠の唇に唇を重ねた。 その後は――――――。 やっぱり頼忠にとって幸せな思い出深い一日となった――――――――。 注意・・・花梨ちゃんの誕生日の話は『―――文使い―――』です。 で、作者の都合により花梨ちゃんは「6月生まれ」です。 花梨ちゃんは全くの無自覚なのに、触っただけで分かってしまう頼忠さん、恐るべし。 しかし・・・秘密にする必要って無いじゃん。やっぱり本当は怒っているのか? 2004/02/23 15:23:41 BY銀竜草 |
書き上げてからずっと手直ししたいと考え続けていたのだけど、結局変えられずこのまま。 まぁ「誕生日ネタ」にはなっているから良いか。 2004/10/06 23:52:59 |