■ リアル・ファンタジィ







閉じた瞼の裏側に、あたたかな光を感じる。

もう朝なのかな・・。
まだ眠い。
もうちょっと、寝ていたいなあ・・。

背中にある体温が心地よくて、オレの身体を抱き包むようにそこにあって。
それが誰のものか、目を開いて確かめなくてもオレにはわかるから。
尚のこと、起きるのはつらくて、もったいなくて。

あ・・・。でも。
背中に蛮ちゃんがこんな風にくっついているってことは、ここ、てんとう虫くんの中じゃないんだよね?

えーと。
ここ、どこだっけ?

考えながら仕方なく、オレはゆっくりと重い瞼を持ち上げました。


目がさめてまず見えるのが、フロントガラスの向こうに置かれている段ボール紙の裏側とか、カモフラージュ
(何の?オレ、いまだによくわかんない)に置いてるゴミ袋とか、そういうのじゃないってことは、ここはやっぱり
てんとう虫くんの中ではないのです。

白い天井。
鏡張りじゃないし、ヘンなライトも備え付けられてないってことは、ラブホテルでもないんだなー。ええと。
あ、そっか。
仕事が遠出だったから、新宿帰りつくまでに夜中になっちゃうからっていうんで、それで安いホテル見つけて
泊まったんだ。

疲れたーつかれたーって蛮ちゃんがいうから、そんじゃあ泊まる?って、ちょっとお金入った後だったからオレも
そう言って。
何のことはナイのです。
疲れたと言いつつ、寝たの・・・・何時だよ?
疲れてるんでしょ!って言ったのに、ソッチの方は疲れてねえ、すこぶる元気だとかワケわかんないこと言って、
結局スルことはするんだもん。
ちょっとオレ、またしてもハメられた気分。
あ? ハメられたっていうのは、騙された〜ってコトだよ?
えっちな意味じゃなく。
・・・ああ、なんか蛮ちゃんといると、どうもヘンな言葉ばっか覚えちゃいます。

「ん・・・」

背中の方で声がして、オレはだんだんに覚めてきた目を擦りつつ、オレの後ろにぴったりくっついて眠っている
蛮ちゃんを肩越しに振り返りました。

あれぇ? どうしたの?
なんか甘えてるみたいな、寝顔だよ?
蛮ちゃんの手はオレのお腹のとこで、ゆるく両手の指を組んでいて、顔はオレの肩んとこあたり。
かなり、ぐぐっと首を回さないと顔が見えない状態なのです。
でも、なんか。
本当に甘いカオしてる、みたい?
オレは蛮ちゃんの腕の中で、蛮ちゃんを起こさないように注意しながら、身体をころんと反転させました。
なので蛮ちゃんの顔は必然的に、オレの胸のちょい上あたりになっちゃって。
余計に見えないじゃん。これじゃあ。
でもホントに、ちょっと口元が緩んで微笑んでいるような?

・・・何の夢見てるの、かな?
オレんだったら、いいなー。
まー、そんなワケないだろうけど。
どうせチチの大きいお姉さんの胸に、顔埋めて悦んでるんだ・・・。
そうに決まってる。
でもいいや。
普段、寝ている時でも、そういうカオあんまし見たことないもん。
オレの隣で眠っていい夢見てくれんなら、オレ、それだけで嬉しいよ。

思わずつられて微笑みながら、オレは両腕で蛮ちゃんの頭を自分の胸に抱き寄せるようにしました。
蛮ちゃんの髪、整髪料落とすとさらさらで。
なんでいつもウニみたいに尖らせてんのか、それもよくわかんないんだけど。
さらさらの方も、かなり好きなんです、オレ。
色っぽいよね。
いや、男の人に色っぽいはヘンかな。
でも、男の色気ってあるでしょう。
そういうカンジかな。
蛮ちゃんの頭を自分の腕に抱くみたいにして、オレはやっと自分が蛮ちゃんのシャツを着ていることに気がつきました。

んー?
自分で着たのかな。
また着せられたのかなあ。
なんかね、蛮ちゃんて、アレしちゃった後でね。
オレが疲れてシャワーも後始末もせずに、生まれたままの恰好で、そのままぐーぐー寝ちゃったりするとするでしょ。
そうすっとね、起きた時、身体がちゃんとキレイになってて、んで決まって蛮ちゃんのシャツ着せられてんの。
コレって、どういう意味なんだろうね?

イヤ、いつもはそれに気づく前に、後始末を寝てる間にされちゃったってことに大赤面して大謝りするんだケド!
蛮ちゃんはソレも楽しいからイイぜっていうんですけど、何されたのか考えるだけで、オレ死ぬほど恥ずかしくって。
・・いや、そのわりにはしょっちゅうそういうコトになっている気がするのですが・・!

え? 慣れませんよ、そんなの。
恥ずかしいもんは恥ずかしいのです。
でも、シャツの謎は、そんなワケで解明しないままなので。
聞く機会を失ってて。
けど、蛮ちゃんのシャツ着てると、なんか蛮ちゃんになったみたいで、ちょっと嬉しくなります。
オレ、蛮ちゃんに憧れて、無限城出たようなもんだから。
蛮ちゃんみたいになりたかったし。
あ、それは外見のことじゃなくて、もちろんもっと深い意味なんだけど。

ふと、ベッドの脇のライトのとこにひっかけるようにしてあるサングラスが目に入りました。
蛮ちゃんの邪眼よけのグラサン。
蛮ちゃんの瞳に似たその色が、オレは大好きです。
上体をゆっくり起こして、それをじっと見た後、おもむろに手をのばしてみました。

取れっかな。ここからで。
落っことしたりしたら、叱られるもんね。慎重に・・。
お、取れた。
やったあ。
蛮ちゃん、もうちょっと起きないでよね。

オレは、それを手にとって、身体を蛮ちゃんの方に横向かせたまま、それを自分でかけてみました。
うわ。キレイな色・・。
へえ、蛮ちゃん、いつもこんな色でいろんなもん見てるんだ。
オレとか、どんな風に見えてんのかな。
これって、人の心は、どんな風に映るんだろう。
人に、一分間のリアルな夢を見せる蛮ちゃんの瞳。
呪われた瞳だと蛮ちゃんはいうけれど、見せられる夢は悪夢ばっかりじゃない。
やさしい夢だって、たくさん見せてきた。

オレにも、もしそんな力があるんだったら、蛮ちゃんに、いつでもやさしい夢をいっぱい見せてあげられるのに。
そうしたら今みたいに、おだやかな眠りを毎夜蛮ちゃんにあげられるのに。

今はほんのたまになったけど、それでもまだ、眉に力を入れて苦しそうに眠っている夜があるから。
そういうの見る度オレ、何もしてあげられなくて、つらいから。
手とか、握ってあげるくらいしか出来なくて。



「なーに、やってんだ?」


え・・っ?


「うわあっ!」
びびびっくりしたー!!

「んだよ、人が起きたぐれぇで、そんなに跳び上がるほど驚くなっての!」
確かに、蛮ちゃんに声をかけられた途端、オレ、びっくりしてベッドの上に猫が驚いたみたいにぴょこんと跳び
上がってました。
だって、本当に驚いたんだから!
いつから起きてたの? もう。

そのまま、ベッドの上にしゃがみ込んで、ちょっとバツが悪そうに蛮ちゃんに笑いかけます。
「あ・・はは。ビックリした〜。おはよう、蛮ちゃん」
「おう・・」
「めずらしいね、蛮ちゃんがオレよか起きるの遅いなんて」
「ああ・・。そっだな」
「疲れてた?」
「オメー、しつけぇから」
「んあ?」
「もっとしてよ、蛮ちゃんーってよ」
「いいい、言ってないよ?! 言ってないでしょ、そんなコト! もう!!」

蛮ちゃんは、もう!
どうして、蛮ちゃんは。
本当にまったくスケベなんだから!

「・・・んで?」
「で? はい?」
「何してんだ、テメエ? オレのコスプレかよ?」
「え?! え・・っとこれはですね!つまり」
「ガキみてぇなイタズラしてんじゃねえよ」
「いい、イタズラじゃないよ! だから、ええっとつまりですね」
「あ、んなら、アレか。好きな男の真似して同一化をはかりてぇっていう少女趣味なヤツ?」
「あ、そうそう!! うん、ソレソレ!」
「・・・・・・あ・・・?」

ちったぁ否定しやがれ、アホ。とか呆れられたけど、なんで?
ソレ、ぴったんこだと思ったのに。
さすが蛮ちゃんだなあって。
んま、気を取り直して。

「ねーねー、似合う? 似合うでしょ」
「似合わねー」
「ええ、なんでぇ?」
「ほらほら、よく見てよ。なんか蛮ちゃんみたくカッコよくない?」
「ねぇよ」
「もー、んじゃ、こんなカンジ? ・・・”夢は見れたかよ”」

出来るだけ、カッコよく言ってみたつもりだったけど、やっぱ笑っちゃいます。
あはは。



「ばーか」
蛮ちゃんも笑って、オレの頬のあたり、くすぐるように手の甲でふれてくれます。
こうゆうの、オレ、好きです。

「こら、さっさと返しやがれ」
「いいじゃん、ちょっと貸しててよ。蛮ちゃんがどんな風な世界見てるか知りたいんだから」
「色ついてるだけで、見てる世界はテメェと同じだろうが」
「そうかなあ。だって蛮ちゃん、時々、オレと同じ風景見てても、どっか違うとこ見てる時あるもん」
「・・・」

あ・・。
もしかして、ビンゴだった・・・?
何気に言ったオレの言葉に反応して、蛮ちゃんがちょっとはっとしたカオになりました。
ほんの一瞬だけだったけど、オレ、そういう蛮ちゃんのカオはなぜか見逃さない。

「世の中の、冷たくて暗ぇとこばっか目につくんだよ。悪い習性だ。けどま、それは、別にそいつをかけてるせい
じゃねぇがな」
いつも通りの笑みでそう言って、蛮ちゃんがオレのかけてるグラスに手を伸ばしてきます。
「おら、返せ」
「やだ」
「てめぇには、似合わねえよ」
「ええ、なんで、もうちょっといいでしょ」
「似合わねえっつーんだよ。こら、銀次!」
蛮ちゃんの手に取られまいと、グラサンを押さえつつ、オレはしゃがんだまま後退ります。

「じゃあさ、一回だけさ。オレが蛮ちゃんに邪眼かけていい?」
「・・・あ゛?」
「ねえ、いい?」
「・・・てめ、何言ってんだ?」
「あの台詞、一回言ってみたかったんだよね」
「・・・・はあ?」
「オレの目、見てね?」

見てんだろうがよ、さっきから。というようなカオの蛮ちゃんを尻目に、オレは蛮ちゃんの瞳をじっと見つめました。
いや、そんなことで、本当にオレも邪眼使えたら凄いけど、邪眼はサングラスについてくる必殺技オプションで
はないので、それは無理です。
でも。
出来るなら、ちょびっとでも、一瞬でも蛮ちゃんにやさしい夢が見せられたら。

眼球に力を込めます。
目にチカラとは言うけど、眼球にチカラいれても一緒なんじゃないか。オレ。
でも、いいんです!
ここは気合いが問題なのです。

頑張れば、きっと!!
オレだって、出来る・・!




「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



なんか、睨みつけてるだけのような気もするけど。
目と目の間に力が入りすぎて、ピリピリしてます。
鼻筋にも深い皺ができて。

蛮ちゃんはオレのキハクに押されたのか、じっとオレの目を見つめ返してくれてます。
よおし、頑張らないと・・!


な、なんか見れたかな・・。
一個ぐらい、オレが思い描いたの、蛮ちゃん見れたらいいんだけど。


ど、どうかな。こんなくらいで・・・!
そろそろ1分?




「ジャスト1分だ・・! ・・ユメは、見れたかよ?」




出来るだけ、渋く、カッコよくキメてみました。
蛮ちゃん、どう?
なんか、感じた? ねえ。



「・・・・・・・・・ぶっ・・・!」



ええ!? 
ぶっ、って何?


「ふ・・・ぶはははは・・・!!」


ちょっと、ちょっとちょっと蛮ちゃん!!
人が真剣なのに、それはないでしょう!
大爆笑だよ、枕に突っ伏して!!


「蛮ちゃあん・・」
「ぐはははは・・・・・!」
「ねえ、蛮ちゃあんってば!」
「うるせー、しゃべらすな! 腹がよじれるだろが、アホ! ははは・・・!」
「よじれるくらい笑うことないでしょ!」
「これが笑わずにいられっかっての!」
「・・・・・笑うトコじゃないと思うのですが〜」


もお。人がせっかく・・・。
やっぱ、駄目かなあ。オレじゃ。
そりゃ、邪眼が使えるワケなんかないことはわかってっけど・・。
そんな簡単じゃないってことも。
その瞳の力を持ったがために、何を蛮ちゃんが引き替えに無くしたかも、ちゃんと知ってる。
だから・・・。
だから、余計に。


「ぎーんーじ?」
ちょっと落ち込んでる風に膝を抱えるオレに、やっと笑いが収まった蛮ちゃんが、ご機嫌とりのように拳でコンと額を
こづいてきました。
普段はゴン!とかどご!とかすごい音がするんだけど、ご機嫌伺いの時は、こんな風にちょっとソフト・・。
けど。
もーいい。
どうせ、オレなんか。
蛮ちゃんのために何かしてあげられる、何の力もないんだから。


「おい・・?」
「・・・・・・」
「何、拗ねてんだ?」
「だって・・」


「見れたぜ?」


「・・・え?」

見れたって、何が?


「まあ、邪眼なワケはなかったけどな?」
「うん?」
「ま、結構、それなりに目にイイもんが」
「いいもの?」
「おうよ」

何が見えたの。
他に。
オレの目の中に。
もしかして、アイとか、そういうものが見えたんでしょうか。

でも、そっか。
夢じゃなくても、イイものが見られたんなら。


「じゃあ、よかった」
「ああ」
「・・・で、何?」
「ん?」
「何が見えたの?」

腕をひっぱられて抱き寄せられて、思わず裸の胸に甘えかかった隙に、さっとグラサンは奪われてしまい蛮ちゃんの
カオに戻りました。
もっと貸しててほしかったけど、蛮ちゃんに必要なものだから。
仕方ないです。

「ねー、何?」

甘えかかりながら聞くと、悪戯っぽくその瞳が細められます。
「オメーな。自覚ねえだろ」
「え?なんの?」
「さっきからよ。しゃがんでたろ。ソコで」
「うん」
それが、何か?
「テメー、自分がノーパンだってこと、忘れてねぇか?」
「へ? のーぱん・・」

てことは・・・!
もしかして、あの恰好だと、蛮ちゃんの寝そべってた位置から、オレの丸出しのコカンが丸見え・・・・・。
そ、それで笑っ・・・・。

「ば・・! ばば蛮ちゃんのばかぁ! もお、オレの目見てって言ったでしょー!! いったいドコ見てるんだよお!!」
オレ、もう真っ赤です。
思わず蛮ちゃんの肘の下にあった枕をひったくって、それを振り上げて頭めがけてぼすっ!と振り下ろしました。
「いてえ! こらやめろ! 銀次! 」
やめろって言われてもね、そんなトコ密かに見られててこれが怒らずにいられましょうか!
モロに見られてる以上に恥ずかしいよ!
「もお、ほんっとにヤラシイんだからー!」
「いやあ、マジで絶景だったぜ。テメェの邪眼もなかなかのモン・・・ ぶほっ!」
「まだ言うかああ! このこの!」
「んだとー! テメエ、誰に向かってそんな生意気な口きいてやがんだ?! ええ?」
「いででで! 痛いよ、蛮ちゃん! 口裂けちゃうよ、もう!」



そんなわけで。
枕がぼろぼろになりそうなくらい蛮ちゃんとどつきあってじゃれあって、さんざんふざけて笑い合った後。
疲れ切って、顔をくっつけにいったその胸にオレを抱き寄せるようにして、
蛮ちゃんが、ぽろっとこぼすように、さっき見ていた夢の話をしてくれました。



あのね。
夢の中で、夢を見ていたんだって。
その夢の中で見た夢は、よくは思い出せないらしいんだけれど。
その夢をね、見てた場所が日だまりの木陰で、そこで蛮ちゃんはオレの膝枕で寝てたんだって。
すごく、安らいでて気持ちよかったって。
でね、その夢から覚めて起きた時に、オレが蛮ちゃんのグラサンかけてたから、マジでびっくりしたって。
本当に自分が邪眼かけられて、夢見てたのかと思ったんだって。


じゃあ、あの幸せそうな、甘えたような寝顔は・・・。

だったらオレ、邪眼なんて、別に頑張らなくてもよかったんですね。
邪眼じゃなくても、オレの夢見て蛮ちゃんが幸せな気分でいてくれるんなら。


でもね、オレ思うんですよ。

蛮ちゃんの夢の中で、蛮ちゃんが見てた夢は。
絶対、チチの大きい女の人の夢にちがいないって!
だって、「覚えてねぇな〜」と言いながら、鼻の穴ひろげて頬染めて嬉しげだったもん!
アレは、好みのチチに遭遇した時の顔です・・!
ああ、そんなことまでワカっちゃうオレって、ある意味不幸なんでしょうか・・?



あーあ、オレが邪眼使えたら、巨大なチチに押しつぶされる悪夢とか、見せてあげちゃうのになあ・・・。




END





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すすすすみません、エンさん!!!
エンさんの素敵絵を、超素敵絵を、冒涜してしまったようなSSでスミマセンー!!
なんとかエンさんのアートなイラストの雰囲気に近づきたくて、情景みたいのを頑張ってイメージしているうちに、
エラク長くなっちゃいました。ごめんなさい!(しかも銀ちゃん語りで情景描写はムリだよ・・私)
でもでも、本当にエンさんの描かれる二人が大好き!!
いつもエンさんのイラストを拝見していると、本当に一枚の絵でストーリーを展開されてるなあっていうのがあって
感動なのです!
しかもキャラをとっても生き生きと描かれてて・・vv

そんなわけで、今回イラストに文章をつけさせていただける幸運に出会えて、すごい嬉しかったですv
また狙うぞー、ニアピン!!! (←狙うならキリバンを!/笑)
エンさん、お覚悟めされー!vv




エンさんのイラストだけに、どっぷりひたりたい〜!という方はコチラvv





モドル