「オイシイ生活」
(番外編〜ホワイトデー〜)
<盗聴3>




キィ――。
バタン!



「ふぁ〜! ただいまー!」
「だーから、いちいち誰もいねぇ部屋に"ただいま"言うなっての」
「いいじゃん、クセなんだもん。それにしても、今日は寒かったねえ。なんでこんな急に寒くなるかな〜! 雪、降ってたよ、雪! もう三月なのに」
「あぁ。ワケわかんねぇ天気だな。先週はやたらと春めいてやがったのによ」
「ビラ配りしてても、ぽかぽかしてたのにねぇ。なのに、今日は凍えそうだったもん。あ、どうする? とりあえずお風呂入る? 先に沸かそっか」
「ああ、そーだな」
「ホンキートンクから帰るまでの間に、すっかり冷え切っちゃったもんねぇ。あったまってから、ご飯のがいいよね」
「あぁ」
「じゃ、お湯溜めてくんね」
「おう」





「しっかしよー。どうでもいいが、無駄に疲れたぜ。今日はよ」
「ん? あぁ、ホワイトデー? でもまぁ、バレンタインにチョコ貰った人には、これで無事全員返せたし。よかったよね」
「よかねぇ! なんで菓子屋の企みに、俺らまでがのってやらなきゃなんねえよ。おかげで、コッチの晩メシがわびしくなっちまっただろうが!」
「だって、おつきあいは大切だしー。それでも、世間じゃ3倍返しとかいうらしいのに、俺たち、かなり安上がりなお返しで済ませてもらっちゃったんだし」
「だからってよー。つーか、そもそもバレンタインのチョコだってよ、ほとんどテメエが一人で食ったんじゃねえか」
「だって、蛮ちゃん食べないんだもん。せっかく貰ったのにさ。食べなきゃ、もったいないじゃん。あ! 蛮ちゃんタバコ! 灰が落ちそうだよ! ほら、灰皿灰皿っ」
「…ったく! だいたい世のヤロウどもが、みんなこぞって甘いモン好きってわけじゃねえんだからよ。にも関わらず、なんでああも女は男にチョコをくれたがるんだかよ」
「そりゃあ。一応、そうゆうことになってるし」
「だーから。それが、菓子屋の企みだっての。しかも、わざわざ、マシュマロだのクッキーだの飴だの返す日まで、ご丁寧に設定しやがってよ」
「まったくねぇ。あ、蛮ちゃん、コート貸して。ハンガー、掛けとくから」
「…おう」


「――あ?」


「ん? 蛮ちゃん? ポケット、ごそごそやってどうしたの?」
「…いや。 ポケットの中に、まだ一個残ってやがった」
「あれ、本当だ。余ってた? おっかしいな。ぴったりの数、買ったと思ったけど」
「…あぁ」
「誰か、渡してないヒトいたっけ? ええと。夏実ちゃんにレナちゃんでしょ。ヘヴンさんにマリーアさんに卑弥呼ちゃんにマドカちゃんに…。それから無限城が、レンちゃんと朔羅と火生留とカヅッちゃんと…」
「あぁ!? 絃巻きは関係ねぇだろうが!」
「――だって、オレ、もらったし」
「……あンのカマ野郎、いつの間に…」
「ま、まぁ、いいじゃない! 日頃お世話になってるんだし! それに、どうせほら、バレンタインに貰ったのも、みんな義理チョコばっかなんだし! 似たようなもんでしょ、ねっ」
「つってもな…!」
「ええ〜っと! それから、ご近所は、同じ階の階段挟んだお隣と、そのお隣とさらにお隣と、管理人さんの奥さんと、ええと、あと下の階の……」
「あぁ、ウゼェ! どうでもいいだろうが! 誰にくれてやったとかやってねぇとか」
「だってさ! 誰か忘れてたりしたら悪いし! あれ? でも、変だな。確かにみんな配ったよね?」
「……」
「ねえ? 蛮ちゃん」
「――あぁ、もう!」
「うん?」


「いいから、それは、テメエが食え!」


「…えっ?」
「いらねぇなら、無理にとは言わねえが」
「え!? 無理じゃないない! ほ、欲しいです!! ていうか、いいの? 俺が貰っちゃって」
「いいも何も。余ってるんだからよ、置いといた所でしようがねぇだろ。オラ、受け取れ」
「わー! ありがとう、蛮ちゃん!!」
「大袈裟に喜んでんじゃねえ。余りモンだって言ってるだろうが!」
「うん! でも、なんかさ。蛮ちゃんから渡してもらうとさぁ。えへへv」
「んだよ、気色悪ぃ」
「だって、なんかさ。ともかく、凄くウレシイって気がする!」
「……アホか。何、顔真っ赤にしてやがる。元々は、テメエで買ったモンじゃねえか」
「うん、だけどさー。あれ…? 袋の中に、お菓子と一緒に何か入ってる。みんなに渡したのに、こんなのついてたっけ?」
「……」
「蛮ちゃん?」
「…いいだろうがよ」
「えっ」
「文句あんのかよ!」
「え! い、いえ…っ!」
「文句あるんなら、今すぐ、とっとと返しやがれ!!」
「ええっ!? い、いります、いりますっ!! …あ。これ、もしかして、オレ用のオマケ?」
「…あぁ」
「ホントに?」
「テメエ、家の鍵、しょっちゅう何処に入れたかわかんなくなりやがるからよ。それでもつけとけや」
「あ、そうか! そうだね! わーい、ペンギンのキーホルダーだぁ! かわいい!」
「……ガーキ」
「大事にするね、 ありがとー、蛮ちゃん!!」
「おう」


「あ、そうだ! お風呂、見てくんね! そろそろお湯溜まったかな?」




ばたばたばた。





「蛮ちゃーん。もう入れそうだよ。先入る〜?」
「…あぁ」
「じゃあ、着替えとパジャマ、ここ置いとくから。さーてと、俺はお布団敷こうっと」












「あぁ。そう言やぁよ、銀次」


「んー?」
「テメエ、気づいてたか? バレンタインの時によ。山のようなチョコに混じって、1個だけ、小せぇ貧素な包みのチョコがあっただろうが」

「え…!」

「誰から受け取ったのか、どこで紛れ込んだモンかわからねぇけどよ。1個20円ぐれぇのミントチョコが3個と、きなこもちチョコだかいうのが2個と。こんな小せぇ、小汚え紙袋に入って、よれよれのリボンが不器用に飾ってあってよー」
「――う、うん…。あ、そういや、チョコ嫌いの蛮ちゃんが、あれだけは食べてたよね? 美味しかった?」
「いーや! 最悪にマズかったけどな。ミントチョコは、口ん中に、チョコが入ってるのを忘れて歯磨きしちまったような微妙な味だったしよ。きなこもちは…。まぁ、コッチはそこそこ食えたが」
「う…。お、俺、きなこもちチョコは、美味しいと思うけど!」
「そりゃ、好き好きだろうぜ」
「そ、そっか…。あ、でも全部、食べたよね。美味しくなかったのに。」
「そりゃあな。まぁ、せっかくだからよ」
「せっかくって。もっと他に、いかにも高級チョコとかあったのに、蛮ちゃん、全然食べなかったじゃん」
「言っただろうが。俺様は、甘ぇモンが嫌いだっての! 義理なんぞで貰ったチョコ、無理して食うほどお人好しじゃねえ」


「――え…・っと」


「あぁ?」
「あのさ、それってさ! そのチョコをくれた人が、義理とかじゃなくて、えっと、だから、つ、つまり、蛮ちゃんに、ですね…!」
「ったく。とことん鈍いな、テメエ」
「う、うん?」




「だから――。さっき、テメエにくれてやったのは、"アレの返し"だ」




「え…。ば、蛮ちゃん! あのチョコ、も、も、もしかして!!! お、俺からって、しししし知って…?!!!」

「知るも何も。バレバレじゃねえか」
「だ、だって! だって、何も言わなかったから…! あ、でも! 蛮ちゃんが、俺のあげたチョコ食べてくれてんの見て、俺、それだけで、すんごく嬉しかったケド…!」
「…そっか」














「蛮ちゃん…」



「銀次…」













「――あぁ、クソ…! 我慢出来ねぇ」







がたっ。





「ば、蛮ちゃん!?」
「何だよ?」

「え、えええっ!?」
「だから、何だっての」

「な、何する気…!?」
「見りゃわかんだろうが」

「って、あの、ちょ、ちょっと待って…!」
「あぁ?」

「お、お風呂…! お風呂入るんだよね!?」





「あぁ。…けど、とりあえず、その前によ―」




「そ、そんな…!! だ、だめだめ! 駄目だからっ」
「んだよ、ケチくせぇ事抜かすんじゃねえ」

「だ、だって! 約束だし…っ!」
「あ? いいじゃねえかよ。ちっとぐれえ」

「だ、だめなのです!」
「何だよ。勿体ぶるんじゃねえ」

「だって、だって! もうっ! ねえ、本当に」
「うるせえ」


「あ…! やめてったら!」


「なんでよ」
「お…。お風呂、上がってから!」

「前も後も一緒じゃねぇか」
「とか言って、蛮ちゃん、前と後と合わせて二回とか言うしっ」

「何回でもいいじゃねえかよ」
「だ、だめだめっ、そんな事したら」

「ったく、お固いヤロウだぜ」
「だって」



「だーから。ちっとぐれえいいだろうが。な?」



「だ、だめだめっ。あぁ、そこ、駄目だから! お、お布団、汚れちゃう…っ」
「ちゃんと飲むだろうが」
「そ、そう言う問題じゃなくて、ですね…! だって前も、滴っちゃって、濡れちゃったし!」



「大丈夫だって。気ぃつけるからよ」
「あ、蛮ちゃん! そんな、無理矢理…!」
「いいだろうが」









「――あ」









「飲むぜ、銀次」

「あぁっ! ダメ、蛮ちゃん…っ!」
























ぱりーん。


















「あれ。割れちゃったね、鏡。…もういいのかい、デル・カイザー」

「……ぁあ」
「せっかく、これからって所だったのに惜しかったねぇ。それにしても、もうちょっと接近できたら、窓の外からの盗聴なんかじゃなくて、ご子息のらぶらぶえっちシーンが、無限城で中継出来たのに。残念だったよ。でもまぁ、これ以上近づくと、美堂くんは勘が鋭いから…」
「――男のお喋りは見苦しいぞ。もういい。下がれ、鏡」
「おや、不機嫌にさせてしまったかな? これは失礼。なかなか、面白い趣向だと思ったんだけど。じゃあ、僕は戻るとするよ。そもそも、僕の趣味は観察でね、盗聴じゃないから」


「………どちらにしても、悪趣味だ」
























「――だが。気にはなるな…」




















ぱりん。(魔力で、元に戻してみたりして)






















「だーから、駄目だって言ってるのに!!! もう、蛮ちゃんったら! 無理矢理開けちゃうんだから!!」

「いいだろうが。喉乾いてんだよ!!」
「ビールはお風呂上がってからって約束でしょっ! お風呂前に飲んじゃったら、後でごはんの時だってビール飲んじゃうのに! 蛮ちゃん一人で、一日ビール二本になっちゃうんだよ! お金ないのに、どうすんのっ」
「たまにゃー、いいだろうが!」
「それに、お布団の上でのお酒と煙草は、ウチでは厳禁なのです! 寝酒、寝煙草、お布団の敵っ! あぁ、ほらほらっ! お布団の上に、ビールの泡が滴ってるし!」
「へいへーい」
「もう〜っ、全然聞いてないっ!!!」


























「…………………」























――事実を知って。
ほっとしたのか、気抜けしたのか。
何かと複雑な胸中の父であった…。













「し、心臓に悪いな……。あぁ、私の心臓はもう無かったか…。いや、返って、それで良かったかもしれん…。それにしても、波児のヤツ、日頃どんな躾をわが息子に……(ぶつぶつ)」










終わり。(笑)













ぱぱ、ごめんなさい!!!(笑)
息子の成長を見てみたかったんだね、残念だったね!!!(そういう”ごめん”か!!!)
次は、ぜひvvv
ちなみに○ロルチョコのミントチョコは、本当に歯磨きしながらチョコ食ったみたいな味でした…(涙) よく食ったよ、蛮ちゃん。愛のチカラだね!(笑)
よかったら感想などぜひぜひ〜vvv

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