「オイシイ生活」
(番外編)
<盗聴2>







「んあー、寒っ!」

(ガチャッ)

「ふぁっ、寒かったー!ただいまー!」
「…あのなぁ。誰もいねえ部屋ん中向かって、"ただいま"も何もねぇだろが。返事があった方が不気味だぜ」

(バタン!)

「えー、だってさ。一応、オレたちのおうちにさ。今、帰ったよvって」
「あぁ? 何だ、そりゃ」
「いいじゃん別に。うわー、それにしても、おうちの中も外もあんま変わんないよ、蛮ちゃん! 息真っ白!」
「屋根と壁があるだけでも充分ましだっての。とりあえず、雨風は凌げるんだからよ」
「そうだねえ。それに、同じ雨風凌げるんでも、やっぱ車生活より断然いいしね! いいよねぇ、"オレたちのおうちに帰ってきた!"ってだけで、なんか気持ちがほかほかしちゃうよねー」
「ぁあ? 相変わらずお手軽なヤローだな。テメエは」
「あ、蛮ちゃん。コート、こっちかけとくから貸して」
「おう」
(カチカチ)
「んあー、でもコート脱ぐとやっぱ寒いや。オレは着とこうかなー」
(カチカチッ)
「あ? んだよ、コイツ」
「ん? ガスコンロ、火、点かない?」
「なーんか、最近調子悪ぃな」
「あ、ソレね。押して回して、火点いたら、しばらく待っててあげるとね。ちゃんと点くよー。寒いから、きっとかじかんじゃってるんだよ。こうやって、くいーんと回して、と。――ほらね、点くでしょ?」 
「へー」
「あ、何それ蛮ちゃん。バカにしてんの?感心してんの?」
「両方だな。いいよなぁ、ガスコンロにまで懐かれてよ」
「へ? 何それ」
「べーつに。おい、火ついたんなら、とっととヤカンに水入れろや。たっぷりな」
「うん! お湯沸かすとお部屋もあったまるもんねー! まぁこれで、このお部屋にストーブとかコタツとかあったら、もう完璧なんだけどなー」
「なーにが完璧なんだか…。つーかよ! だいたいテメエが、この前の仕事でドジふんだりしなきゃあ、今頃ファンヒーターの1つや2つよー」
「あぁッ! それを言うなら、その前の仕事の後で、せっかく入ったお金を蛮ちゃんが全部競馬でスッたりしなかったら今頃はねぇ…!」
「んだと、テメエ! 俺のせいにする気かよ!」
「オレだけのせいじゃないもーん!って言いたいだけですっ。 あ、カップラーメン、蓋開けてここ置いとくよ。ビール、一応冷蔵庫入れとく?」
「いや。すぐメシにすっから、そこ置いとけ。ったく、最近やけに口ごたえするようになりやがってよぉ。生意気なんだよ、銀次のくせに!」
「あれっ、蛮ちゃんお箸足んない。っていうか、何その"銀次のくせに"っていうの!」
「うるせえ。チッ何だよ、あのコンビニの兄ちゃん、割り箸一膳しか入れてやがらねぇのかよ」
「あ、割り箸なら前に使ったのが洗って乾かしてあるから、オレ、それ使うからいいよ。って、それよか"銀次のくせに"って!」
「"銀次のくせに"が気に入らねぇんだったら、"銀次の分際で"に訂正しといてやらぁ。つーか、使った割り箸洗うってよ、どこまで貧乏くせぇんだ、テメエは!」
「だって、捨てるのもったいないもん! ってねえ、"くせに"も"分際"も変わらない気が…。あ、蛮ちゃん! お湯沸いたみたいだよ」
「おうよ」
「たこ焼き。コンビニで一応あっためてもらったけど、もう大分冷めちゃったなぁ」
「アツアツで食いてぇんなら、テメエがどうにかしろ」
「あっためんの?」
「ああ。そん代わり、前みてぇに破裂させて部屋中に撒き散らしたりしやがったら、おしおきだかんな!」
「そ、そんな無茶な〜! 難しいんだよコレ!」
「アツアツの、まん丸いままのたこ焼きが食いたきゃ、せいぜい頑張れや。おら、パック両手で持ってよ」
「も〜〜お」
「そーだな。おい、"レンジ強で一分半"な!」
「ええ〜〜ッ?! そ、そんなゲンミツに言われてもっ! オレ、そこまで微妙で高度な加減できないってば!」
「うるせえ。くせにとか分際とか言われたくなかったら、やってみろっつーの。おら、人間レンジ、スイッチオン!」
「んあっ! オレのおでこはスイッチじゃないよー! 押さないでよ〜、もう!」
「四の五の言うな! 集中集中!」
「う〜〜〜っ」
「おっ、そうそう、その調子! いい感じじゃねえ?」
「もう、蛮ちゃんってば! 人使い荒いんだから〜〜」
「いいねぇ、人間レンジが家に一台あると便利でよ」
「その分、オレ。おなかすくんですけど〜〜〜っ」
「キムチラーメン、一口味見させてやらぁな」
「それだけ?」
「いらねぇんだったら、いいけどよー。別に」
「ああっ、うそうそ! 食べたい! オレも、シーフードとどっちにしようか迷ったんだもん! あ、ちゃんとスープも飲ませてよね!」
「へいへい。おい、もうそろそろいいんじゃねえか?」
「そっだね! じゃあ、ここいらで。"チーン!"っと」
「…テメエ、なりきってんな」
「どう? こんな感じで」
「へえ、なかなかイイんじゃねえ? 人間誰しも、一つは取り柄ってあるもんだな」
「何それ。失礼だなぁ、もう」
「さて。ラーメンもジャスト3分だぜ」
「わーい、いいタイミング! じゃあ晩ごはんにしよv 晩ごはんー!v」


ガチャガチャ。
どたどたどた。

プシュ!

「さて。準備おっけー! じゃあ、いっただきまーす!」
「おう」

「うぁー、おいしそ! 湯気があったかーい」
「ちゃんとかき混ぜてから食えよ、ラーメン」
「かき混ぜてるよ? いっつも」
「嘘つけ。テメエ、いい加減にしかかき混ぜねぇから、スープの濃さが食い始めと食い終わり頃で違うんじゃねえか」
「いいじゃん別にー! もう、蛮ちゃんってば。カップラーメンの事になるとウルサイんだから! そういうのさ、鍋奉行じゃなくて、カップラーメン奉行って言うんだよ、きっと! んあ! あちちち!」
「アホ、猫舌のくせにがっつくな。ちゃんと冷ましてから食えや」
「だって、熱いのがおいしいんだし、(ズルル、チュルル…)ふぁ、あっちー」
「まぁ、そりゃそうだがよ」
「あふー。オイシイ! あったまるー! しあわせー」
「そりゃ良かったな」
「ふー、ふー! あち、あちち!」
「だから、急ぐなって」

「…うーん」

「あ、どした?」
「オレさ、どーして蛮ちゃんみたく、一気にズルルーって出来ないのかなあ。(ズル、ズルルッ…・)」
「は? どっちでもいいだろうが、そんなのはよ」
「でも、なんかさ。ソッチのがカッコいいっていうか。男らしいっていうかさ。(ズル、チュルルル…)」
「別にカッコなんざ、どうでもいいっての。俺は、なんでも美味そうに食う、テメエの食い方のが好きだぜ」
「……え?」
「ん? なんだよ」
「な、何って」
「は? 何で真っ赤になってやがる?」
「だ、だって」
「あ?」
「なんか蛮ちゃん、今さらっと」
「? さらっと何だよ」
「す、好き…って」
「ぁあ!?」
「オレの事、好… 痛ぁっ!」
「食い方の話だ、食い方の!!!」
「そ、そんな怒らなくても…! もー、痛いなぁ」
「アホな事言ってねぇで、麺が伸びねぇうちに食え!」
「あーい。…あ、蛮ちゃん! ラーメンに夢中でたこ焼き忘れてた」
「あぁ、そーだった。お、いい具合にアツアツで美味そうじゃねぇ?」
「ほんとっ?」
「あぁ、人間レンジ、なかなか使えるようになったじゃねえか。うぉ、ウマイウマイv」
「やったぁ。って、蛮ちゃん! たこ焼きは半分こだかんね! 5個ずつだかんね!!」
「ケチくせえ事言うんじゃねえよ」
「あ、ちょ、ちょっとそんなに一気に食べちゃだめっ! 半分こだかんね、半分こ!!!」
「あぁ? うるせぇな。テメエはのんびりラーメンすすってりゃいいんだよ、猫舌くん。その間に俺様が…」
「んあっ、ひどいよ蛮ちゃん! ずるいずるいずるい〜〜っ!」
「狡いたぁ何だ! だいたいよ、GetBackersの社長でナンバー1はこの俺様なんだからよ、テメーはその手下のナンバー2で」
「手下じゃないよっ! それに、だいたいそんなの関係ないじゃん! そもそも、あっためたのオレだし!」
「カップラーメンのきっかり3分計ったのは俺だぞ!」
「でも、お湯沸かしたのオレだもん!」
「カップに湯入れたのは俺じゃねえか!」
「ええっ、でもさでもさ、じゃあ、えっと…! ああっ! ていうか、蛮ちゃん! キムチラーメンのスープ、残しておいてって約束したじゃんか! 全部飲んじゃだめー!!!」
「わぁってるよ!」
「麺もだよ!? ねえ、ちょっとでいいからっ」
「つうか、テメエ。自分のラーメン、先にとっとと食いやがれ!」
「だって、だって! 蛮ちゃんがオレのたこ焼きを〜〜!」
「だ――っ、もううるせえ! わあった! 麺も置いといてやるからよ、焦んな!」
「あ――! とか言いながら六個め食べたっ! それ、オレのたこ焼きだってばー! 返してよ蛮ちゃあん!」
「うわあっ、こらテメエ! 何だよ、いきなりのしかかってくんなっ!」
「だって、だって、オレのたこ焼き――!」
「おわ、口に食いつくな! つか、いくら意地汚いつっても、俺の口の中のものまで横取っ……」
「んんん〜〜っ!」



ぶちゅうううっv














ぶち…!











「ん? どないしたんや。マクベス?」
「……いや。何でもないよ。笑師」

「あ――ッ! もしかして、また盗聴しとったんかぁ? あかんで〜。そら、犯罪やで!」
「ち、ちがうよ。笑師。僕は、ベルトラインの動きを傍受しようと…」
「ほんまでっか? ま、それやったらええけど。ワイはまたてっきり、
銀次はんとヘビ野郎はんのらぶらぶ愛の巣の様子でも盗聴しとるんかと!」


「………えーみーし」


「え…っ? な、なんかあの、顔は笑っとるんやけど、目が、目がみょーにコワイんやけど。マ、マクベス、は、ははは…。ワイ、なんかマズイ事でも言っ…
んがあぁぁ〜〜〜っ!!!







「はぁ〜……。どうして銀次さんは、こんな極貧生活をしてまでも、美堂蛮がいいんだ……」


 




END




ごめん、マクベス(笑)
いや、楽しかった!!!

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