Moon | |
秋の夜長。 ふと、目をさましたら。 スバルのフロントガラスから見える月が、とても見事で大きくて。 もしかしたら。 手を伸ばしたら、指先が届くんじゃないかと。 そんな風にさえ思えて。 車を降りて、少し歩いたベンチの上に立ち。 ぐーーっと思いきり、夜空に向かって両手を伸ばした。 「なーんてね。やっぱ、届くワケないか」 くすりと笑みをこぼすと、うーんと伸びを一つして、あっさりと諦める。 そのまま、ハーフパンツの裾からすらりと伸びる両脚を曲げて、ベンチの上に腰を下ろした。 脚を抱えた体育座りの格好で、剥き出しの膝小僧の上にちょこんと顎をのせると、上目使いで月を見上げる。 肩と鼻先が、少し冷たい。 だけど、まだそうは寒くもなくて。 頬を滑るように吹いていく風が、心地好いとさえ思える。 秋は、まだこれから。 冬は、もう少し先。 それでもあと数カ月で、新宿公園はまた真っ白な雪景色に変わるのだろう。 蛮と過ごすようになってから、一年がとても早い気がする。 そして、この国に四季がある事を、とても強く実感するようになった。 (死活問題に関わるからだという話もあるが) 一年がそんなだから、一日なんて、もっとあっという間で。 じゃれあって、笑って、他愛もない話をたくさんして、コーヒーを飲んで。 眠りにつく。 それだけで、瞬く間に次の朝がくる。 生きているというのは、たぶんこういう事なんだろう。 最近、しみじみとそう思う。 自分が本当に、この世界に存在するのかどうかさえ。 自信が持てなかった数年前とは、まさしく雲泥の差だ。 けど。 あの頃から、変わっていないこともある。 そう、あの頃から。 月は、ひとりぼっちの銀次の内緒話の相手だった。 無限城にいた頃は、皆が眠りにつく長い夜を一人護って。 安全な朝がくるのを確かめてから、眠りにつくのが常だった。 その間。 心で、ぽつりぽつりと、月に向かって打ち明けた。 自分は、本当は何を望んでいるのだろう。 何を待っているのだろう――と。 本当は、 本当は、 ひとりぼっちで、 淋しいんだ。 とても。 そんな風に。 もっとも、今はそれも少なくなった。 もう、ひとりぼっちじゃなくなった事と。 夜は、蛮の隣でぐっすりと安眠を貪る、おだやかな休息の時間となったから。 月を見上げる銀次の瞳が、微笑むように細められる。 "ねえ、あのね"と、何かを語りかけているような幸福げな眼差し。 あのね、お月さま。 蛮ちゃんったらねー。 頬を染めてのその告白は、銀次の胸中でのみ為されたので。 当然、誰の耳にも届かなかったけれど。 「あー、それにしても。お月見のおだんごは、いつ食べれるのかなー。奪還料入ったらって約束したけど、蛮ちゃん、この前のはパチンコで全部スっちゃったし、お金もうなくなっちゃったし。……でも」 そこで一息ついて、後は溜息と一緒にしんみりと呟いた。 「食べたいな。おだんご」 ぽつりと言うと、途端に背後からチッと舌打つ音が聞こえた。 「…嫌味か、そりゃあよ」 不機嫌極まりないその声に、銀次がにっこりとベンチの後ろを振り返る。 「あ、蛮ちゃんv」 「"あ、蛮ちゃん"じゃねえっての!」 「んっ?」 「テ〜メエ〜! 今、わざと聞こえるように言っただろうが。独り言のフリしてよ!」 「んあ? 何の事…んがががが、痛いっ、痛いよっ! 蛮ちゃん!」 いきなり背後からヘッドロックをされ、ぎゅうぎゅうと締めつけられ、銀次がその腕の中でじたばたと暴れる。 無論、手加減はされているのだけど(本気だったら、瞬殺だろう)、それでも痛いものはやっぱり痛い。 「んあーん、離してよっ」 「ったくよー」 やっと腕を離して、どかりと隣に座った蛮を見上げ、銀次が涙目になりながら恨めしそうに唇を尖らせる。 「だって、食べたいもん。おだんご!」 「まだ言うか、このヤロウ」 「だって、おだんご! おだんご、おだんご、おだんご〜〜っ!」 「うるせえ、殴るぞ、テメエ!」 「いたあっ! 殴るぞって言うのと同時にもう殴ってるし!!」 「テメエがしつけぇからだ。団子ごときでよ」 「ごときじゃないもん。だいたい、食べ物の恨みは深いんだからねっ」 「あぁ、テメエは特に食い意地が張ってやがるからな」 「だって、蛮ちゃん。食べさせてくれるって言ったのにさ!」 「だーから。今度金が入ったら買ってやるって言ってんだろうが!」 「えー。ほーんとかなぁ、この前だってそう言ってたじゃん。なのにさ」 「あぁ、しつけえ! つーか、オメーな! 最近生意気なんだよ、ナンバー2の分際でよ!」 「むっ! この場合、ナンバー2関係ないしっ! 第一、それってお仕事上のことでですね。日常的には、そおいう上下関係はですね、俺と蛮ちゃんの間では…!」 勢いづいてまくしたてかけた銀次の目の前に、やおら、にゅっとミルクティの缶が差し出され、大きな琥珀が"え?"と寄り目になる。 そのまま、きょとんとした顔で蛮を見上げた。 「…ええっと?」 「んだよ」 「な、何これ」 「見りゃわかるだろうが」 「そりゃわかるけど。…えと。これ。もしかして、俺に?」 「俺が飲むかよ。んな甘ったるいのをよ」 「それは、そうだけど」 銀次の胸に"ほれ"と押しつけるように渡されたその温かい缶を、銀次が戸惑いながらも、両手で包むようにして受け取る。 「わ、あったか…」 缶のデザインは、ごく見慣れたもの。 ここのところずっと、銀次が気に入って飲んでいるロイヤルミルクティ。 「買ってきてくれたの?」 「おうよ」 「でも…。どうして?」 「別に」 「別にって」 理由もナシに買ってくるわけないと思うんだけど、と、銀次が手の中の缶と、蛮の横顔を見比べる。 「身体、冷えちまってるんじゃねえのか」 じっと見つめてくる琥珀に、買って悪いかと言わんばかりにぶっきらぼうな返事が返され、銀次が驚いたような顔になる。 確かに蛮の言う通り、髪の先まで冷え切っている。 指先も、缶の温もりをひどく嬉しいと感じるほど。 でも。 どうして自分でも気付かなかったそれを、蛮は知ることができるんだろう。 …あのね、お月さま。 蛮ちゃんはね。 俺のコト。 俺自身が知らないことまで、 いつも、ちゃんと気付いてワカってくれるんだ。 それってさ。 いつも、俺のこと、気にして考えてくれてるって。 …そういうコト、なんだよね? 自惚れすぎ? ちらりと空を見上げ、さっきの内緒話の続きを胸の内でこっそりと。 それでも。 惚気ても惚気ても、まだ足りないくらい。 ――蛮ちゃんは、俺にやさしい。 「ありがと、蛮ちゃん」 「……おう」 あたたかな缶にぴたりと頬を寄せ、その温もりに幸せそうに微笑む銀次からフイと目を逸らし、蛮が定番のマルボロの箱を無造作に取り出す。 無けなしの財布の中から、どんどんお金が煙草代に消えていくのは痛いけれど、煙草は蛮にとって照れ隠しの必須アイテムでもあるから。 まぁ仕方ないかなと、胸でくすりと笑いを漏らしながら銀次が思う。 「つーか。テメエ」 「うん?」 「こんなとこで何やってたんだ?」 「あ。ええと、特に何ってわけじゃないんだけど。一度目がさめたら、なんだか眠れなくなっちゃって」 "そうか"とそれに答える代わりに、ゆっくりと煙が吐き出され、紫煙が夜の空へと上っていく。 紫紺がやや眇められる。 口調は、こういう時ほど尚の事ぶっきらぼうで。 「お前な」 「…うん?」 「夜中に勝手に出歩くな」 「え?」 「トイレにしちゃ、ちっとも帰って来ねえしよ」 「う、うん」 「どうしたかと思うだろうが」 「…あ。ごめん」 「まぁ、いいけどよ。おら、冷めねえうちに飲め」 「え? あ、あぁ、うん!」 言われるままに缶を開けると、甘い匂いが鼻を掠める。 一口こくりと飲むと、その甘さと温かさに、自然とふうっと小さな息が漏らされた。 普段はコーヒー好きの銀次だが、寒くなるにつれて、あたたかくて甘い紅茶が飲みたくなる。 どうしてかなと考えながら、二口三口と飲んで、蛮を見つめてにっこりする。 「おいしいー」 「…そっか」 「ん。…あ、ねえ。もしかして」 「あ?」 「心配して探しにきてくれたの?」 期待に満ちた目に、他に何の理由があるんだと心でぼやきつつも、口をついて出たのは溜息混じりの言葉と苦笑で。 「まさか、団子ごときで家出されるでもねぇだろうがな」 喉の奥で低く笑われ、銀次が缶の端に唇をつけたまま、ぱちぱちと数度瞬きをする。 "そんなこと心配してたんだ?"と嬉しくなりながらも、そこまで食い意地が張ってると思われている自分もどうかと、むむと眉を寄せて銀次が返す。 「おだんご買ってもらえなかったからって、いちいち拗ねて家出してたらさ。俺、しょっちゅう家出してないといけないじゃん」 「…そりゃ。どういう意味だっての」 渋面を作って横目で睨まれて、銀次が両肩を持ち上げてふふっと笑う。 もっとも。 そんなことで家出なんて、するはずもないけれど。 お金無くても。 おだんご食べられなくても。 もっと、もっと大事なものが、ここにはあるから。 …ねえ、お月さま。 「あれ? そういえば蛮ちゃん、自分の分のコーヒーは?」 「あ? あぁ、ズボンのポケットに、そいつの分しか小銭が入ってなかったからよ」 「それで? 俺の分だけ?」 「俺は今、別に喉が渇いてるわけでもねえからな」 「ふうん。…あ。じゃあ、蛮ちゃんも一緒に紅茶飲む?」 「あ? だから、喉渇いてねえって言ってるだろうが」 「でもさ。結構冷えてきたし。一口飲むと、あったまるよ。それに…」 「何だよ」 「俺、一人で飲んでるのって、なんか悪いっていうか。喉通らないカンジがして」 「へーえ。テメエでも、そういう事あんのか。そりゃ意外だな」 「何それ! なに感心したみたいに言ってんのっ! もう。あるよ、それくらい!」 "だから、はい!"と缶を突き出され、蛮が、大いに渋面になりながらもそれを受け取る。 飲んでvと無邪気な笑顔で促され、仕方なしに渋々一口含むなり、蛮の表情は毒でも飲まされたかのような顔つきになった。 「うわ、なんかスゴイ顔」 「…甘ぇ」 「だ、大丈夫? ていうか、そんな顔してまで飲まなくても」 「あぁ!? テメエが飲めって言ったんじゃねえか!」 「だ、だってさ。ちょっとはあったまるかなあって」 「もういい。あとはテメエが飲め!」 「ええっ、でも、どうせだったらもう一口くらい飲んだら?」 「いらねえっての! これ以上飲んだら、テメエの顔面に向かって吐くぞ」 「うわ、それは困りますがっ」 「あー、クソ、甘え!」 スパスパと、まるで煙で口の中を洗うかのように、せわしく煙草をふかす蛮の様子に、銀次が自分の膝を抱えたまま、くすくすと笑いを漏らす。 「んもー。蛮ちゃんってば」 そして。 たった今、蛮の唇がふれたばかりのそこに。 銀次は、ためらいがちにそっと。 自分の唇を押し当てた。 その紅茶の甘さは、 たぶんさっき飲んだ甘さの、数千倍――。 そんな。 きれいな月があるだけの。 他に、特に何もない夜。 だけど。 缶の紅茶がひとつっきりでも。 心はこんなにあったかだ。 ねえ、お月さま? この腕は、到底その空までは届かないけれど。 声は、ちゃんと届いてる? 答えのように、ほの白いやわらかな光が、空から地上の銀次を照らす。 「さて」 「ん?」 「そろそろ車戻るぞ」 「あ、うん!」 煙草を吸い終わった蛮が立ち上がり、同じく紅茶を飲み終わった銀次も立ち上がった。 ゴミ箱の中で、銀次が放り投げた缶がカランと転がる。 「月見にゃ、まだ早えからな。出直しだ」 「そうだね」 「団子は、ま、その時だな」 「うん!…えっ?」 さらりと言われ、その言葉を頭の中で反復して、銀次がぱあっと笑顔になる。 「本当!! 本当に食べさせてれんの!!?」 「だから、オメー。さっきから食わせてやるって言ってるだろうが!」 聞いてねえのか信用してねえのかドッチだとブツブツ言う蛮を放って、銀次が子供みたいに、「うわーい!」と両手を広げて走り出した。 その笑顔に、団子一つでこの顔が見られるんなら安いもんだと、蛮が心で笑いを漏らす。 ああ、そうだ。 団子だけじゃなく。 金が入ったら、上着の一枚でも買ってやるか。 首元がどうにも寒そうだ。 ついでにマフラーも買うか。 いや、アイツのコトだ。 手袋のが喜びやがるか。 そんな事も考えながら。 ズボンのポケットに両手を突っ込み、月を仰いだ。 そして、ふと思い出す。 「そういや、テメエ」 「んー?」 「何やってたんだ、さっき」 「え。さっきって?」 「ベンチの上で体育座りして、月を見上げながら、ブツブツとよ」 「え、ええっ?」 それは、もしかして。 『おだんご、食べたいな』の前から、見られてた? ってコトなんだろうか。 延々と。 心の中で、蛮のことを惚気まくっていた顔を。 もしかして。 …見られてた? 「な、ななな何って、えっと…!」 真っ赤になって口ごもる銀次に、蛮がいぶかしむように眉を寄せる。 「何だよ」 「べ、別に、別に何もっ」 「何もねえなら、何でそうあたふたしやがるんだ?」 「だ、だから、俺はですね! お月さまがきれいだったから、一人でお月見を、ですね!!」 わたわた弁解がましく言う銀次に、ますますワケがわからねぇという顔をして、蛮がやれやれと溜息をつく。 確かに、別に何をしていたわけでもないのだろうが。 それでも、月に向かって語りかけているような銀次の顔は、何やら大層嬉しげで。 まるで、密会現場に出くわしたような、そんな妙な気分に陥ってしまったのだ。 …などとは。 本人を前に言える筈もなく。 その上。 ――まさか。 月に嫉妬した、などと。 まったくもって、言える道理も無い。 「まさかよ。月に帰りてえとか言い出すんじゃねえだろうな?」 冗談にしてはどこか真顔でそう言われ、銀次が小首を傾ける。 「なんか、俺。かぐや姫みたいだよ。それって」 「んな良いモンかっての」 即答されて、銀次がむむ!という顔つきになる。 そして、先にたって歩き始めた蛮の背を追うように、小走りで駆け出した。 「じゃあさ」 「あ?」 「だったら、どうする?」 「何が」 「もし、言ったらさ」 「何を」 「だから」 「お月様に帰りたいって、もし俺が言ったら。蛮ちゃんはどうするの?」 その言葉に、蛮の足がぴたりと歩を止めた。 無意識にしては、あまりに直球な問いかけ。 背を向けたままのため、紫紺が見開かれていることに銀次は気付かないだろう。 その事に安堵しながら、苦笑混じりに蛮が返した。 「アホか。空でも飛ぶ気か、オメーはよ!まあ、そんだけ脳味噌が軽けりゃ、その気になりゃあ…」 からかうように軽い口調で言いながら、肩口から振り返った途端。 月明かりの下。 こわいくらい、まっすぐな真剣な瞳がそこにはあって。 憑かれたように、そのきれいな琥珀を見つめ返しているうちに。 意外なほど。 自然と本音が口をついて出た。 「帰さねぇよ」 「え?」 途中から擦り替わった台詞に、銀次が不思議そうな顔で聞き返す。 しんと鎮まりかえった真夜中の公園で、蛮の声だけが響いた。 「てめぇは、何処にも、誰にもやらねえ」 「蛮ちゃん…?」 見開かれた琥珀が、信じられないというように震えていた。 「…い、今なんて?」 震える唇で問い返す。 だが、大告白の後にしては、蛮はどうにもつれなかった。 "だから一回で聞けっての!"とばかりに、大きく舌打ちが漏らされる。 「うるせえ、何でもねえ!」 「え!? ば、蛮ちゃん!?」 「おら、行くぞ!」 「あ、ちょ、ちょっと待ってよ、蛮ちゃん!!」 粗暴に、怒鳴りつけるように言ってフイと向けられた背中は、まるでふて腐れた子供のようで。 慌てて後を追いかける銀次が、ゆっくりと笑顔になる。 細められた琥珀が甘く蕩けて、今にもこぼれ落ちそうだ。 「銀次! 遅え、とっとと来い!」 「うんっ!」 名を呼ばれて、笑顔のままで銀次が駆け出す。 そして、弾みをつけて大きくジャンプすると、蛮の背中に思いきり飛びついた。 「蛮ちゃん、大大大だーいすき!!!」 「うわ! こら、重ぇ!!」 「えへへへっv」 「んだよ、ヒトの耳元で気色悪い声出して笑うな!」 「だって、だってさ! そう言ってくれたら嬉しいのになぁって思ってたコト、蛮ちゃん、言ってくれちゃうんだもん! 俺、すっごく嬉しい!!」 「あぁ、そうかよ、わかった! だから、抱きつくな!」 「もお、やだな、照れちゃってv」 「照れてねえ!」 怒った横顔をものともせず、蛮の首に両腕を絡ませ、背後からぎゅうぎゅうと抱きついて、銀次がその頬に自分の頬を擦り寄せるようにして、嬉しそうにこそりと呟く。 「ねえ、蛮ちゃんってさ」 「何だ」 「変わんないね。そういうトコ。…出逢った頃から、ずっと」 言って、思い返すように、銀次が懐かしそうに瞳を細める。 「やさしくて。…照れ屋で意地っ張り」 その言葉を、ケッと蹴飛ばすように一笑して、背中に銀次を張りつかせたまま蛮が返す。 「テメエも変わんねぇよ」 「そう? そうかな」 「…あぁ。いや、そうでもねえか」 「ん? どっか変わった? 俺」 訊ねるように、蛮の顔を覗き込んだ琥珀が、ふと。 ひどくやさしげな紫紺と、至近距離で合って。 銀次の心臓が、どきりと大きく高鳴った。 返された言葉はその眼差しとは、あまりに正反対だったけれど。 「あぁ、どんどんアホになってやがる」 「な、何それっ!」 期待していたのとは大外れの言葉に、銀次がカッと真っ赤になる。 「事実だろうが」 「そ、そりゃあ、事実って言えなくもないけど!」 「だったら良いじゃねえか」 「け、けど、それはですね!」 「おう」 「きっと蛮ちゃんが、俺を殴り過ぎるせいなのではっ!」 必死な銀次の言い分に、蛮がさも可笑しそうに、くくっと笑う。 「あーあ、なるほど、そうだな。違いねえ」 「って! 笑いごとじゃないよ、もう!!」 まだ笑っている蛮を横目に見て、銀次はぶうと赤い両の頬を膨らませた。 そんな銀次の髪を、蛮の手が宥めるように、くしゃくしゃとかき混ぜる。 それにくすぐったそうに肩を持ち上げ、つい笑ってしまいながら。 銀次がそんなしあわせそうな眼差しを、空へと向けた。 じゃ、またね。 また話を聞いてね。お月さま。 今度もきっと、長く長くなりそうだけど。 蛮ちゃんのこと、もっともっと聞いてほしいんだ。 「おら、車帰って、とっとと寝るぞ!」 「うんっ!」 じゃあ。 おやすみなさい、お月さま。 今度は、絶対おだんご持ってくるからねv そんな銀次の心の声が届いたのか。 高い空のどこからか。 『ご馳走様』という言葉と、微笑みが、 返って来たようだった。 END ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さゆきに捧ぐv どう、どう? 幸せ? 幸せ?? ちなみに、まだちゅーもしてない初々しい二人なので、 蛮ちゃんも、飲みたくも無い紅茶をつい飲んでしまったんですね(笑) ははは、書いてて照れた。 |