JINX 改訂版 ・2





「あ………うっ……」


大粒の涙が、銀次の見開かれた瞳を溢れた。
嗚咽が漏れる。
ぽたぽたと白いシーツの上に落ちる水滴が染みを作っていくのを見ながら、何が悲しいのかつらいのか、まだ心が認識していないのに、身体に撃ち込まれた痛みと恐怖が、先にその時の感情だけを呼び戻す。
泣きじゃくって激しく震える銀次の肩は、今まで見たどんな時よりも、細く頼りなく見えた。


抱きしめてやりたい。
この手で腕で強く抱きしめて、大丈夫だからと、髪をやさしく撫でて安心させてやりたい。

だのに。
そう強く強く願うのに、今、蛮はどうしてやることも出来ない。
手を伸ばせば余計に、銀次の恐怖心を煽るだけだ。
無力感と悔しさの余り、両の拳がぶるぶると震えた。
奥歯をぐっと噛み締め、顔を歪める。


過去につらく苦しい事は、数えることも億劫になるほど、その身に起こったが。
これ以上のつらさは無かったと思う。
これが、自分のしでかした事への、最大の報いというやつなのだろう。


「――悪い」

こんな銀次を一人残して立ち去る事は、蛮にとって苦痛以外の何ものでもないが、それでもたぶん、自分はこの場にいない方がいい。
せめて銀次が、少しは落ち着けるまで。と、蛮が足早に部屋を出ていこうとする。
銀次がそれを見るや、はっとして、涙にくぐもった声で悲鳴のように蛮を呼んだ。


「待って…! 待って、蛮ちゃん! 待って!!」


蛮の足が、ぎくりと歩を止める。
「…銀次?」
「いやだ、行かないで…! ここにいて…!」
蛮が、その言葉に瞠目する。
「大丈夫だから! オレ、平気だから…っ」
言って、また新たな涙が銀次の頬を伝う。
両の指で、ぎゅっとシーツをきつく掴んだ。
「忘れるから! ちゃんとオレ、忘れられっから! だから、だから蛮ちゃん…!」
「銀次…」

「ここにいて」

振り返った紫紺と、縋るような潤んだ琥珀が見つめ合う。
「オレから、逃げていかないで…!」
「銀次…。お前」










ほ、本当にハッピーエンドなんですよ??;;こ、これでも…!