JINX 改訂版 1・2 |
「離せっつってんだろ!」 怒鳴りつけ、もぎ取るように銀次の手をシャツから離させ、勢いにまかせて振り払う。銀次はその力に、背中からサイドシート側のドアにぶつかった。と同時に、ガチャと運転席のドアが開かれ、蛮が雨の中を出ていく。 バン!とドアの閉まる音にビク!と身を震わせ、スバルの前を通る蛮を見開いた瞳のまま追って、それが自分のドアの前に近づいてきた時、銀次はもうここで、この山中に捨てられるのだと咄嗟に覚悟した。 それほどに、蛮の怒りはただごとではなかったのだ。 助手席側のドアが開かれ、その手に腕を掴まれ、乱暴に車外の雨の中に引っ張り出された銀次は、抗うことも出来ず。 ドアを蹴飛ばして閉じ、銀次の腕を掴んだまま、その顔も見ずに道路の脇から山中へと入って行く蛮に、ただついていくしか出来なかった。 蛮ちゃん、と呼ぼうとするけれど、蛮の背中は銀次の全てを拒絶しているようで、つらすぎて声も涙も出ない。 雨は叩きつけるように降りしきり、銀次の心は足元のぬかるみのように深く重く沈んでいくようだった。 どうして、こんなことになっちゃったんだろう…? ずっと、ずっと、一緒にいられると信じていたのに。 「ずっと=永遠」ではないことなど、無限城で育った銀次は、子供の頃から身をもって知っている。 望んではいけない事で、望んでも決して叶えられるはずのないこと。 でも、それでも、それだからこそ。 蛮との未来に、それを信じたかった。 事実、本当にもうそれを、信じ始めていたかもしれない。 それほど、日々は満ち足りていて楽しかった。 明日の不安など微塵も感じさせないほど。 疑うことすら出来ないほどに。 ただ、幸福だった――。 山中の木々の挾間に少し開けた場所を見つけると、蛮はゆっくりと銀次を振り返った。 まるで、その右がアスクレピオスに支配された時のような瞳だ、と畏怖とともに銀次が思う。 蛮はまさか、自分を殺そうとしているのだろうか…? 痛いほどの殺気を感じる。 どうして。 どうしてなの、蛮ちゃん…? 信じられない想いで銀次の心が悲しく呟いた。と同時に、捕らわれていた腕がぐいと引かれ、力まかせに放り出される。 蛇咬を繰り出す腕で投げつけるようにされ、銀次の身体はぬかるんだ地に叩きつけられた。 「蛮、ちゃん…?」 慌てて上体だけ起こして、震える瞳で蛮を見上げる。 雨で視界が遮られて、蛮の瞳が正しく見えない。 ニヤリ…と残忍な笑みを浮かべた口元だけが、やけにはっきりとその瞳に映った。 「何…するの…?」 「何、だと?」 「蛮ちゃん…。オレ、謝ってすむんなら、何度だって謝るよ…! だから、そんな事言わないでよ…。オレ、蛮ちゃんとずっと仕事続けたいよ…。だって、GetBackersの"S"は…」 「おうよ。1人じゃねえって意味なんだよなぁ?」 不気味なニュアンスを以て放たれた言葉に、銀次が嫌な予感に全身を総毛立てる。 「文字通り。1人じゃなく、してやるよ。一個の身体になって混ざり合えば、1人じゃねえって痛いほど実感出来るぜ?」 "どういう意味…?"とは、とても恐ろしくて問えなかった。 両手を、雨を含んで色の変わったズボンのポケットに突っ込み、値踏みするように蛮が少し前屈みになって銀次を見下ろす。 尻餅をついたような体勢のまま、心より先に身体が危険を察知して、銀次はずるずるとそのまま後退さった。 「蛮ちゃん… やめて…」 「何をだよ?」 「やめて…」 肉食獣が小動物を追いつめた時のような嬉々とした蛮の顔に、言葉の意味は計り知れずとも恐怖を感じて、銀次がゆっくり首を振る。 「何をやめて欲しいんだよ? ええ? 銀次ィ?」 「蛮……ちゃ…」 蛇を宿した手が伸びてくる。ゆっくりと。 立ち上がって走れば、逃れられるかもしれないと錯覚させるような緩慢な動きで。 だけども、銀次は知っている。 逃がれようとしたその瞬間にはもう、蛮の腕は銀次の喉首を掴み、砕いているだろう。 逃れる術はない。 観念したかのように、ぴくりとも動かなくなった銀次に再びニヤリとすると、唐突に凄まじい速さで動いた蛮の両手がガッ!と銀次の肩に喰い込み、背中からぬかるみの上にバシャアッ!と勢いよく押し倒した。 と、同時にビリビリ…!と布の裂ける音がして、Tシャツが引き裂かれる。 え?と思う間もなく、ジャケットさえも左右に開かれ、バッ!!と脇の辺りから、その腕に引きちぎられた。 「蛮ちゃ…!」 何をされるのかわからず、それでもただならぬ気配に銀次が脅え抗おうとすれば、蛮がその反応にさも嬉しげに、銀次の身体の上にのしかかって嗤う。 「さすがに、大人しくヤられんのは嫌かよ」 「え…?」 「まーだ、わかってねえみたいだな?」 「な…何…を?」 「テメエは、今ここでオレに犯られんだぜ? オンナみてぇに、足、思い切りおっぴろげてよ」 「何、言ってん…の…?」 「テメエを抱いてやるって言ってんだよ」 「……う…そ…」 驚愕に見開かれた瞳が、恐怖に震えた。 言われている意味はどうにか理解したが、それをどうして今、蛮が自分にしようとしているのかわからない。 頭の中が混乱する。 だけども。 横たわる自分の身体を跨いで中腰になっている男の目は、本気だ。 本気で、自分を――。 察した途端、戦慄が身体を駆け抜けた。 逃れられないと覚悟したはずなのに、本能が銀次に"危険だ、逃げろ"と強く命じ、銀次はその警告のままに身を翻すと、地に片膝をつき、猛然と駆け出そうとした。 だが。 そこからは、まるでスローモーションのようだった。 ぬかるみに足をとられバランスを崩した所を、背中から再び蛮の手に両肩を掴まれ、思い切り表替えされて引き倒される。後頭部からバシャァ!とぬかるみに落ち、金色が泥水を跳ね上げ、それにまみれたと同時に、ベルトが抜き取られ、ハーフパンツの前をはだけられた。 蛮の目が、冷ややかに嗤う。 「やめ…!」 「オラ、もっと暴れろよ」 「やめて…! 蛮ちゃん!」 「そんなじゃ、逃げられねえぜ?」 「やめて! いやだっ!」 悲鳴を上げて、銀次が両足をばたつかせ懸命に藻掻く。 「おっと…! へへ、活きがいいじゃねえか。そう来ねえとな…!」 蹴り上げてくる片膝をなんなくかわし、上半身を覆い被せていきながら、蛮が片手で器用に銀次の下着とハーフパンツを膝下まで一気に引き下げる。 露にされた白い形の良い尻が蛮の手に撫で回され、銀次は泣き声を上げた。 「やめて! 蛮ちゃん!!」 ハッピーエンドですから、本当にハッピーエンドですからっ…!!!(涙) |