「Love&Battle」


3




銀次の小さな身体が宙に舞って、不動のギミックの刃に串刺しにされようとした瞬間。
蛮は、もう肩がどうなろうと、右腕がひきちぎれようと構わないと思っていた。

小さな身体で自分を守ろうと、果敢に、こんなキチガイのような男に向かっていくその健気な勇気に変えられるものなどない。
必死の瞳で向かっていく銀次の動きが、スローモーションのように見えた。
立ち上がり、それを引き止めるべく猛然と走り出す。

どうせ、呪われた右手だ。
多くの血をすすり、これからも血に汚れていくだろう右腕。
なくなってしまえ、この際。
銀次のために。



どーよ、不動。
オレもテメエと同じ片腕になりゃあ、ちっとはそいつの疼きもおさまるだろう。
くれてやるよ、テメエに。



だから、コイツにゃ、指一本ふれるんじゃねえ!!




僅か0.1秒程度の刻の流れの中で、想いが迸るように錯綜する。

「銀次ィィィイ・・・・!」



そうして左腕で銀次を庇って抱き寄せ、蛮は右肩を前に、自らその身を不動の刃めがけて突っ込ませた。


「ばんちゃあぁぁ・・・ん・・・!!」


銀次の悲鳴が上がったと、ほとんど同時に。



パアアァァ!!とあたりは、眼も開いていられないほどの白光に包まれた。



「うわあぁっ!?」

「な、なんだ、この光はよォォ! め、目が・・・・!!」


不動が目を押さえ、蛮も思わず目を閉じた途端、バチバチバチィ・・・!
と空気が振動し、その光を中心に外に向けて無数のプラズマが放たれた。
「ウワァッ・・!」
銀次を抱いていた蛮の腕が弾かれ、跳ね飛ばされるようにして床に叩きつけられる。
「何だ・・!」
眩しい強い光の中で、手をかざしながらその中心を見ると、バリバリと稲妻が走り抜ける最中に白い人影がかろうじて見てとれた。
蛮が、それを見、微かに眉を潜める。

「・・・銀次・・・?」

その影は次第に光の中で大きく背を伸ばしていき、やがて、少し光が弱まると、見慣れたグリーンのジャケットが自ら作り出した暴風の中で翻っているのがわかった。


「なんだ、てめえ・・・!」
やっと視界が開け、目の前に現れた男を見て、不動がチッと舌打ちする。
その顔を見、少し金色がかった瞳がぎらりとそれを睨み返した。
「ったくよー。いいとこだったのによぉ。ガキもろとも美堂を串刺しにしてやれるとこを、よくも邪魔してくれやがったなぁ」
「・・オマエが・・? 蛮ちゃんを・・?」
「そーよ、テメエもヤツみてえに血まみれになりたくなきゃあ、とっととソコどきな」
「どかない」
「何だとぉ? いーい度胸じゃねぇか・・! ならテメエから、このギミックの餌食になりな!! オレの欲の疼きを邪魔するヤツぁ誰だろうと・・・! 
うあ?!」
不気味な笑いを張り付かせながら言う不動の顔が、バシィイ!と手の中から放たれたプラズマに灼かれ、醜く歪んだ。
「な、な、な・・」
「許さない」
「なんだテメエ・・・!」
慌ててその顔を押さえる手が、またパシ!!とプラズマに弾かれる。
「よくもテメエ、人の顔をよォォオ・・!」
殺気立った不動がもはや人の顔を無くした形相で、再びギミックを振り上げ襲いかかってきた途端。

「よくも、蛮ちゃんを・・・・!!」

ドォオオ・・・ン!! ドォオオ・・・ン!!と手の中から放たれた先ほどとは比較にならない強力なプラズマが、不動の身体を一瞬で吹き飛ばし、壁をドスッ!ドスッ!と数枚も突き破って、その遙か後方へと跳ね飛ばす。
そして、部屋を5つ6つ壊して大穴を開け、ガラガラと崩れた壁の下敷きになって、不動は白目を向いてやっと動かなくなった。
それを確認するなり、全身を覆っていた光が弱まり、逆立っていた金色の髪がぱさ・・と落ち、いかった肩から力が抜ける。


しばし、呆然と立ちつくして、不動が開けた穴を見た後。
腰に両手を当てて、首を傾げた。


「あ〜びっくりしたぁ・・・。なんでいきなり、あんなバケモノみたいのが目の前にいたんだよ? ・・・あれ? それはそうと、ところで何でオレ、こんなとこに居るんだっけ?」
ん〜?と首を傾げつつ、そうだ!!とやっと気がつき背後を振り返る。
「銀・・・次・・・」
「蛮ちゃん! 蛮ちゃん、どーしたの! ああ、怪我してる!! 蛮ちゃん、怪我してるよ、大丈夫!?」
血まみれの右肩を左の手で押さえるようにして、床に片膝をついている蛮に銀次が慌てて駆け寄った。
「今のヤツにやられたの?! あ、アイツなら、たぶん当分痺れて動けないと思うから! 心配ないよ! でもよかったあ、蛮ちゃんが危ないとこにオレ間に合っ・・・」
笑っていた顔が、一瞬で凍り付く。
蛮が立ち上がりながら、険しい目で銀次を睨んでいた。
言葉が途切れ、少し戸惑った瞳が蛮を映した。
それを睨み付けたまま、立ち上がって目の前に来た蛮は何も言わず、やおら銀次のTシャツの胸元を引きちぎりそうな勢いで掴んで引き寄せた。
「な、なに蛮ちゃ・・・・」
言うが早いか、パァン!と自分の頬が鳴って、銀次が驚いたように瞳を見開く。
蛮に頬をひっぱたかれたのだとわかるまで、数秒かかった。

「・・ば、蛮ちゃん・・・・?」
「このボケが・・!!」
「な、なに・・」
「何じゃねえ!! テメエ、あんな小せぇ体で何しようとしやがったんだ!! もしあのまま不動に串刺しにされてたら、今頃間違いなく即死だぞ・・!」
「え・・・ ち、小さいって・・・何・・・?」
「しかもいきなり元に戻ったかと思ったら、あのまま放っておきゃあ、テメエまた雷帝に・・・・!」
言いかけて、自分の言葉にひっかかりを感じ、蛮が即座に先ほど赤屍の出ていった扉にはっと視線を投げつける。
まさか・・・。
「来い!!」
胸倉を掴んだまま、引きずるようにして銀次を歩かせ、乱暴に部屋の中に置かれたスチールの机の上に放り出す。
「ば、ばん、ちゃん・・・?」
わけがわからないと言った顔の銀次が、埃だらけの机の上に仰向けに押さえつけられ、見開かれた瞳のまま、身体の上にのしかかってくる蛮を見上げた。
その顎を力まかせに掴んで、いきなり熱い唇が寄せられる。
「ば・・・ んンッ・・・!」
顎を絞るようにされて痛みに顔を歪ませながら、無理にこじ開けられた唇をさらに大きく開かれて、銀次がその口中に蛮の舌の侵入を許して身震いする。
もちろん、蛮とのキスは初めてではないが、こんな風にいきなりに、しかも荒っぽくされるディープキスは初めてに近い。
さらにこの状況になった経過がどうにも不鮮明で、何がこんなに蛮を怒らせているのか、見当もつかない。
それが、微かに銀次を怯えさせる。
蛮は、そんな様子にはお構いなしに、目を開いたまま丹念に銀次の口中を舐め回すように舌を走らせる。
縮こまる可愛い舌を絡め取り、熱い口内をたっぷり味わってから、上顎まで舌先で辿ると銀次が小さく肩を震わせた。
口の端から、蜜が滴り落ちるように唾液がこぼれる。
長く深い口づけの後、やっと唇を解放されると、銀次がほっとしたように
甘い息をついた。
それを見下ろして、蛮も険しかった表情を少し崩す。
「・・・おっしゃ。大丈夫だな」
「・・・・・ん・・?」
「別に妙な味は残ってねえ。 ちっとばかし何か痺れた感じもあったが、まあ毒性はなさそーだし」
「・・・え・・・?・・・っと」
「テメエ、さっき妙なアメ、赤屍に食わされたんだよ」
「・・アメ?」
「ジャッカルの野郎。テメエにアレを食わせた後に意味深にオレを見てやがったから、てっきり何か妙なもんでも混じってたかと思ったが・・。心配はなさそうだな。いや、食った直後に元に戻ったからよ。そんで、もしやと思ってな」
「って、えと・・?」
「・・ったくよー。意地汚く、誰からでも食いもんもらうんじゃねーよ、テメエは! コッチが、いらん心配までするだろーが」
「・・・うん・・」
「・・・ま。元に戻ったんだから、よかったけどな?」
「蛮ちゃん・・・?」
ホッとしたようでもあり、ちょっと残念そうでもあるような蛮の表情に、雷帝化から元に戻ったことを言われているのではないのかな?と銀次が問いかけるような目で蛮を見上げる。

最近では滅多にそんなこともなくなったけれど、以前は時折、こんな風に自分の記憶の一部がもう一つ不鮮明で思い出せないことがあって。
そんな時、何が起こったか、蛮がその事について多くを語らない時は、大抵何か思い出さない方がいいような事が起こっている(らしい)わけで・・。
しかも、赤屍からアメをもらったという、それだけで恐ろしすぎる事実に、さすがに怖くて余計に聞きたくない気がしてしまう。

そんなわけで、もう一つ状況がよく掴めていないという顔ではあるが、それでも蛮に心配されたということが嬉しいのか、銀次がちょっと潤んだ瞳で蛮を見上げた。
そして、「そうだ、確かマクベスの所に向かっている途中だったんだっけ・・・」と、やっとそれだけは思い出し、蛮にそう言おうと身を起こしかける。
・・・が、蛮の両手は、銀次の両手首を机の上にきっちりと押さえつけたままだ。
銀次がアレ?という顔で蛮を見ると、にやりと笑った。

「あ、あの・・」
「おう」
「えーっと・・・。まさか、蛮ちゃん。この体勢って・・?」
「おう。そのまさかよ」
「え゛っ? で、でも、あの、蛮ちゃん怪我してるし、そ、それに早くマクベスのとこに向かわないといけないんじゃあ・・・」
汗をだらだら流しつつ、にっこり笑って銀次が言うと、蛮がその言葉にぴく・・と眉を上げ、いきなりスパーン!とその頭を殴りつけた。
「痛いー! 何すんだよ、蛮ちゃん!」
「うるせえ、この大アホが!! ああ、そーだよ! 人がとっととあのパソコン小僧のとこに向かいてえのに、テメエが1人暴走して雷帝になりやがるわ、ガキになりやがるわ! 赤屍とは手ェ繋いで馴れ合いやがるわ! それで、どんだけコッチが足止めくったと思ってんだぁ!! ええ!?」
「ひええ、ごめんなさいー!!」
蛮の剣幕に思わずタレて、銀次がビチビチビチと両手両足をばたつかせて涙目になる。

や、やっぱりオレ、雷帝になったの? でもガキって何!?
それよりそれより、赤屍さんと手をつないで馴れ合いって何ー!!
それが一番怖いよー!

「タレんじゃねえ!!」
「はいー!!」
慌てふためいてリアルモードに戻る銀次に、蛮が顔を近づけて、ドスのき
いた声でそれに返す。
「なぁ、銀次ィ・・。忘れたとは言わせねぇぜ? オレに許可なく雷帝になったら、どーなんだっけな?」
「え・・・えと・・・・」
「ほれ、言ってみな」
「・・・お、おしおき・・・・」
「だよな! よーく、わかってんじゃねえ!」
「ででで、ですが、あの、今は時間がなくて、ですね! そうゆうのは帰ってからゆっくり・・・」
「ああ帰ってからも、ゆっくりたっぷりヤるけどよ! とりあえず」
「と、とと、とりあえず?」
「今、キツイの一発な」
「・・・・・わーん」
「カラダで教えねーと、何回言っても覚えねえんだよ! テメエのパーな頭じゃあな!」
ずり落ちようとするのをもう一度机に戻され、不安定になった腰を割って蛮がその間に身体を入れ、膝頭でハーフパンツの上から銀次の股間を刺激する。
「んなこと言ってよ、キスだけでずいぶん感じてたんじゃねえのかよ? ええ?」
「あ・・・! ちょ、ちょっと蛮ちゃん、やめ・・・・!」
少しのそんな刺激にさえ、あからさまに反応する程度には、既に慣らされた身体が恨めしい。
「あ・・ン」
「膝でちょっと擦られただけで、こんななのによ。ま、大人しくしてりゃあ、まだこの先バトらなきゃならねーんだから、無茶はしねえけどな」
「あ、歩ける程度には、手加減してね・・?」
「おうよ、確かに時間はねえから色々省くけど」
「は・・・?」
「痛くねえと、おしおきにゃならねえからな?」
にヤリとされて、銀次は本気で泣きたくなる。

省くって、省くって、どこが省かれるんだろう・・?
でも、痛いのが省かれるなんてことはないから、省かれるんだとしたらその前だよね・・・。
ってことは、もっと痛いんだ・・。
あ、歩けるかな。オレ・・・。

ちょっと不安そうにしつつも、ゆるゆると刺激を受けて、ソコが確実に変化しているのがわかる。
両手首を机の上に固定し直されると、荒々しく口づけが降ってくる。
息をも止めそうな、そんな勢いの。
「ンン・・・!! はぁ・・・」
まだ、そういう関係になってそれほど回数を重ねたわけじゃないから、行為自体は嫌いではないのに、どうもまだまだ微かな恐怖心と羞恥心に、どうしても身体が引けてしまう。
蛮が与える快楽に、溺れるくらい浸り込んで意識を全部手放すには、ちょっと何となく、まだコワイのだ。
それこそ、自分がどうなるかわからなくて。
(それに、やっぱ・・・ 恥ずかしいし・・ いくら蛮ちゃんでも・・)
長く深い口づけが離され、上に身につけているものはそのままに、ベルトが外され腰を持ち上げられ、ハーフパンツと下着が同時に足から抜かれて床に落ちる。
羞恥にぎゅっと唇を噛んで目を閉じる様が何ともいえずそそられて、蛮はフッと銀次に気づかれないように笑みを浮かべた。

「とっとと入れたいトコだけどよ、ま、そういうワケにもいかねえか」
痛いどころの騒ぎじゃないだろうし、歩けなくなっても後々困る。
「うん・・・。って! ええ、ちょ、ちょっと待って!! いや、いやだってば、蛮ちゃん! ソレ、嫌だってばぁ!」
「遅ぇ」
両膝の裏に蛮の手があてがわれ、そのままぐいと左右に大きく割って腰が机から完全に浮くぐらいまで持ち上げられる。
「蛮ちゃん!」
秘部を全部露にされて、泣きそうな顔で銀次がやめてと哀願する。
けれども蛮は聞く耳も持たず、小さく笑いを漏らしつつ、さらけ出された銀次のそこに唇を寄せた。
「やああぁぁっ!!」
平らに舌で舐められ、丹念に濡らされる。
尖った舌先に入り口をくすぐられ、内部までぐいっと犯されると、銀次の全身が羞恥に大きく震えた。
「は・・・ぁ・・・っ」
閉じたいともがく足を、さらに大きく開かせて持ち上げて、すり込むようにしてたっぷりと舌でそこを潤わす。
「力抜けって」
舌での愛撫を続けながらゆっくりと指を差し入れると、思わず銀次の腰が跳ねた。
「や・・・やあっ・・・・いや・・だよ・・・・ば・・ん・・ちゃ・・ぁ・・・・・!」
「イヤなワケねえっての」
目の前で固く勃ち上がって泣き出している銀次のモノを、意地悪く自分の鼻先で掠めるようにするだけでシカトして、蛮が内部をまさぐる指を増やせて、さらに微妙に銀次のスキなところも外して焦らす。
くぅ・・と銀次の喉が鳴ってしなり、腰が勝手に蛮の愛撫を欲しがって妖しく揺れた。
「ば・・・ん・・ちゃあ・・・ん」
「ダメだ」
「・・・・・・うぅ・・」
「んな顔しても、ダメなもんはダメ」
うっすらと開いた潤んだ瞳で強い愛撫をせがまれて、蛮が楽しそうに首を横に振る。
「だから、おしおきだっての。テメーを気持ちよくしてどーすんだよ」
「う・・・ くうっ・・・・ や・・ぁ・・・・!」
きつく蛮の指に絡みついてくる銀次の内部の熱さに、蛮がほくそ笑んで指を抜く。
「んなもんで、どーよ?」
先走りが滴って、蕾までもをいい具合に濡らしているのを見て、蛮が自分の前を開いて銀次の腰を持ち上げた。
指とは問題にならない質量と熱さに銀次の全身が震え、のけぞる。
無意識に逃げようとする腰を引き寄せて、蛮はゆっくりとそこに押し入った。
「あああ・・・・ッ!!」
悲鳴のように掠れた声が上がり、苦しげに固くつぶった瞳からは涙が溢れた。
身体をこじ開けて割られる痛みに、思考が混乱しそうになる。
それでも、なだめるように頬に落とされたやさしいキスと、Tシャツをたくし上げられ露にされた、固く尖った乳首を熱い手の平で転がされ、次第に銀次の身体から緊張が解けていく。
「ん・・・・あ・・・・あぁ・・・・ やあ・・ぁ・・・・っ!」
頬から耳の下あたりまでを舌でなぞられ、耳朶を甘く噛まれて、ぞくぞくする感覚が銀次の背を這い上がっていく。
きつく目を閉じ首を横に振りつつも、堪えきれずに薄く開いた唇からは次第に鼻にかかったような甘い喘ぎがこぼれ出した。
「はあ・・・・ああ・・・ぁ・・・・はあ・・・っ! ん・・・・んっ・・・」
「・・いーか。ちっとばかし派手に動くぜ?」
「・・・うん・・」
蛮の言葉に頬を染めて頷くなり、腰を抱え直して、蛮が猛然と突き入ってくる。
身体を叩きつけるようにして、こっちも溜まってる鬱憤をとことん晴らしてやるとばかりに、蛮が荒々しく銀次の奥に自分の雄を撃ち込む。
さんざん焦らされた挙げ句に、やっと快楽のポイントを強く刺激されて、銀次の脳裏で白いプラズマが幾つもはじけてスパークした。




その中で。
途切れていた幾つかの記憶が、FRASH BACKする。












『さあ、もっともっと雷帝に――!』


『なーにやってんだよ、銀次ィ。オレ様にことわりもなく・・・・・よ・・・』








『うわああああ!!!』






『パンドラの箱は開かず・・だな。ドクタージャッカル』










『な、なんだぁ、コイツぁ!』

『うわあああぁ・・ん』

『泣くな、コラァ!』








「あ・・・・あ・・・! ば・・・んちゃ・・・ん・・! あ、あ・・・・ も・・・うっ」









『オレのことな。名前以外は、なんもおぼえてねえか?』

『うん・・』

『そっか・・・』







『泣くな! 泣けばいいってもんじゃねえだろう!』








『てしみねさんのバカぁ・・・!』

『すまなかった・・・ 銀次・・・』








『ばんちゃん・・。ぼくのコト、ちょっぴりは好き・・?』

『ああ。ちょっぴりじゃなくて、イッパイ好きだけどな?』









「・・・・あ・・・! あああぁぁあ・・・・ッ!!」






















「ば・・・・んちゃあ・・・・ん」

身体が離された気配に、息を吐き出しながら、銀次がゆっくりと瞳を開く。
体中が外側も内側も、燃えるように熱く痺れている。
それでも離れていく体温が恋しくて、両手をのばして蛮の背中にしがみつくようにするなり、大粒の涙が銀次の両の瞳を溢れた。

「蛮ちゃ・・ん・・」
「ん?」
「・・・ごめん・・・ね」
「・・・どした・・?」

問いかけてくれる声は低く、余計に涙を誘うぐらいにやさしい。
抱き起こすようにされて、スチール机の上に坐らされる。
そのまま、目の前にある蛮の肩に、甘えるように唇を寄せた。
そこは既に血は止まっているものの、流れ出した血液の痕が生々しくこびりつき、痛みもまだまだ深そうだ。
それでも、これが無限城の中でなかったら、出血多量で命さえ危ういだろう。
それほどの深手を追った原因を作ったのが自分だということを、今まで気づかずにいたのがどうしようもなく悔しい。

「・・・・・・っ」
「銀次?」
肩に甘えたまま、何も言わない銀次の項が微かに震えているのに気づいて、蛮が覗き込むようにその顔に視線を落とす。
「ごめん・・・・」
「・・・・・思い出ちまったのか・・?」
「・・・・うん」

静かに訊く蛮の言葉に、銀次がこくりと小さく頷く。



100%雷帝になりかかった自分を、身体を張って止めてくれた。
その余りに強大な力の放出の後遺症か、幼く退化してしまった自分を、叱りつけながらも、それでもやさしくしてくれた。


オレは、忘れてたのに。
小さくなった時も、ずっと蛮ちゃんといっしょだったことを忘れてたのに。
元に戻ってさえ、今度はその全てを何もかも忘れてたのに。


どうして蛮ちゃんは、いつもそんなにオレのコトを、やさしく許してくれるんだろう・・・?


すごくすごく嬉しいのに、切なくて胸が痛い。
涙がとまらない。
人に深く大切に想われるということは、こんな風に切ないことだったのか。



「コッチこそな」
「うん・・?」
「悪かったな」
「・・えっ」
「もっと、やさしくしてやりゃ、よかったのによ・・」

テメエ、まだガキだったのによ、と蛮が呟く。
銀次が、切なそうに眉を寄せた。

「・・・なんで・・! 蛮ちゃんは、やさしかったよ。オレ、蛮ちゃんにちっともやさしくなかったのに、夢で泣いたオレを、蛮ちゃん、やさしく抱きしめてくれたじゃない・・! オレ・・! オレなんかのために、蛮ちゃんが・・・ 蛮ちゃんが・・・ オレなんか・・・ オレなんか・・・」
震える背中に腕を回してそっと抱き寄せると、なおも肩口で小さく泣き声を漏らしてしゃくりあげる。
「こら、泣くな・・。涙が傷にしみんだろ・・?」
「・・・・あ・・ごめん・・」
「オレなんか、なんて言うんじゃねえよ。そんなテメエに命張ったオレ様は、いったい何だよ?って気になるじゃねーか」
言って、笑う。
その笑いを含んだ声が心ごと包みこんでくれるようにやさしくて、銀次は思わず涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて蛮を見た。
その顔に、蛮がおかしそうに眉を上げて、しげしげと銀次を見つめる。
「いいけどな。それにしても、オメー。泣いてる顔は、5歳も今もちっとも変わりゃしねーな」
「ひどい、蛮ちゃん・・」
「泣きすぎなんだよ」
「だってー」
「・・・・・ヘッ」
「何・・? 何笑ってんの?」
「いや・・。オメーが、もしガキのまま元に戻らなかったら、オレが育てんのかなって、ちょっとマジでそう思ったからよ。今にしてみりゃ、それも面白かったかもな・・とかってな」
蛮の言葉に、両手の甲で一生懸命涙を拭っていた銀次の顔が、ぱっと明るくなる。
「蛮ちゃんに育ててもらうの、オレ?! 蛮ちゃんパパ? うわー、きっと凄いスパルタなんだろーなー。コワイ」
「やっぱそうなるか。だからテメエ、オレよか赤屍のがよかったんだよな?」
「え゛・・・・? あ、あ、赤屍パパ・・。そっちのがムチャクチャ怖いんですけど! 今となっては、なんであんなに赤屍さんになつくなんて、勇気のあることが出来たのかよくわかんない・・・。オレって、意外に度胸あったんだね」
「バーカ。けど、案外心の底では、オレより慕ってたりしてな? 赤屍のコト」
「じ、冗談でしょ! オレ、本当にあの人のコトは怖いんだからね! でも蛮ちゃんたら、オレのコトで赤屍さんにヤキモチやいたりしてさー へへv ちょっと嬉しかったりして」
「あーん? 誰が誰にヤキモチだと!? だいたいよー。テメエ、さっきから自分の置かれてる状況、まるっきしわかってねえだろ」
「状況って?」
不思議そうな顔になる銀次に、蛮が突然にやにやして言う。
「下半身丸出しで、オレの腹のあたりにナニを押しつけてるって状況」
「え・・・・・・っ」
言われて初めて視線を下ろし、自分がTシャツだけはかろうじて着ているものの、腹のあたりから下全部が剥き出しになって、さらには自分の足の間に蛮の身体を挟み込むようにしてしがみついていたコトに気づいて、ぱっ!!と全身真っ赤になる。
「わわわわ〜〜〜〜!!!」

「・・・さーて、と」
「えっ」
「先を急ぐコトだし、そろそろ行くとすっか?」
「え、え、あの!」
「赤屍待たすとうるせーし、不動もいつ起きてくっかわかんねーし。パソコン小僧も待ちくたびれてるだろーしなあ?」
「ば、ば、蛮ちゃん! ちょっと待って! オレ、こんな恰好で! えーと、パンツ、どこ! パンツ!!」
Tシャツを両手で延ばして股間を隠しつつ、焦って下着を探す姿に思わず蛮が笑いを漏らす。
「もーお、蛮ちゃん! 笑ってないで、待っててよお! あー、なんか急に動くと、中出しされた蛮ちゃんのが出てきて変な感じ・・ んあ〜〜!」
1人でじたばたしている銀次を見つつ、蛮は楽しそうにくっくっと笑いを漏らして、くるりと背を向け手を挙げた。
「ま、ゆっくりやんな。達者でな」
「ち、ちょっと待ってよおお!! 蛮ちゃあああん!!」





1人で大騒ぎした後、とりあえずそれなりの始末を蛮に手伝ってもらい、どうにか衣服を身につけた銀次が先に通路を行く蛮に、ぱたぱたと駆け寄って追いついた。
それを肩越しに見ながら、蛮が1人ほくそ笑む。
小さい銀次も確かに可愛かったが、自分の肩より少し後ろにある、自分と同じ高さの目線がこんなにも愛おしい。
それでも、こんなにいきなり元に戻るとは思っていなかったから、もっと時間があるものと思っていた。
もっと、小さいコイツを、父のように兄のように甘えさせてやりたかった。
今更だが、そう思って悔やんでしまう。


とっとと、そうしてやりゃ、よかったよな。
つまんねえ意地はってねぇでよ・・・。

時々でも、また小さくなんねーかな。
タレるみてえに自由自在にはいかないもんだろうか。


また会えるといいのによ・・。


今度はもっとたっぷり甘やかして、めいっぱい遊んでやるのに。
そう思いつつ、手の中にまだ残っている小さな身体の感触を思い出す。
小さな身体に抱えていた傷の深さを思うと、今、目の前で脳天気に笑っているコイツも当たり前に、それよりももっと多くの傷を、その身体と心に刻んでいるのだろう。
それを思うと、「護ってやりたい」という気が、またふつふつと湧いてくる。




「うわ!」
「あ?」
「見て、蛮ちゃん! すっごい、ワイヤードールの山! うわわ、しかも赤屍さんが大量に! あ、士度とか笑師にカヅッちゃんまで!」
広い多目的ホールのような部屋に、山盛りに倒れているワイヤードールに銀次が口をあんぐり開いて思わず固まる。
その向こうで、涼しい顔で帽子を直している赤屍の姿があった。

「おや・・・?」
「あ、赤屍・・さん!」
「遅かったですねえ」
「あ、すすすみません!」 
「すっかり、元にお戻りで」
「ああ、テメエのおかげでな」
「私の・・ですか?」
「まあ、いいけどな別に。無事に戻ったんだからよ」
意味深に笑い合う蛮と赤屍にちょっと戸惑いつつも、とりあえずは目の前の敵が一掃されていることにほっとして、銀次が元気に声をかける。
「やー、でも赤屍さんのおかげで助かりましたー。これで一気にマクベスの所まで行けちゃいますね!」
「そうですね、またご一緒できて嬉しいですよv」
「は、はい・・」
ひきつった笑顔で答える銀次を真ん中に、3人並んで歩き出す。
蛮がちらりと銀次と赤屍を横目で見つつ、にやっと笑った。

「手ー、繋がねえのかあ? 銀次ィ」
「・・・へ?!」
「・・そうですね、先ほどは繋いでましたね。やはり、元に戻っても3人仲良く、といった方がよろしいですよねえ?」
「え゛!?」
「テメエ、手繋ぎたがったじゃねえか。さっきはよ」
「そうですよー。”お手々、つなご”とか言ってねえ」
「い、いや! あの! これからバトルに行こうというのに、そんな緊迫感のないことでは、よくないと思うんですよ、オレ! っていうか、あの時は、ホラ。オレ、蛮ちゃんと赤屍さんが喧嘩したりとかしたら、たーいへんだなあって思ってたワケだし! あ、でも赤屍さんて、意外と子供好きなんですよね! ちょっと何か安心したかなーって・・」
「ええ。子供は大好きですよ・・・。特に耳の下あたりの皮膚が本当にやわらかくて。メスでスッとさわっただけでも、見事にすぱっと美しく切れて・・・。あのぞくぞくする感触が何とも素晴らしい・・」
「ひええええ、蛮ちゃああん」
「しかも」
「し、し、しかも?」
「これくらいでしたよねぇ?」
小指を立てて、それを嬉しげに見る赤屍に、汗をだらだらかきつつ、ひきつり笑いをして銀次がそれに答える。
「な、何ですか? それ」
「銀次くんの・・・」
「お、オレの???」
問い返す銀次に、にや・・・と微笑んで、赤屍がその小指にスッとメスを滑らせる真似をする。
「可愛かったですよねえ。ちっちゃくて・・・。切り取って、この仕事の報酬にいただきたかったですよ?」
「ま、まさか・・・ ソレって」
「その、まさか、です」
「わあああん、蛮ちゃん! オレのアソコ、切られちゃうよお!」
「バーカ、今、あんなに小せえワケねーから大丈夫だろが」
「そそそうだけど!! 一応、ノーマルサイズの範囲だとは思うけど!」
言ってから、自分の言葉をよーく考えて、銀次が1人でばっと真っ赤になる。
「そーだな。さっき確かめたから大丈夫だな」
「うん・・ってもう! 何言ってんのぉ、蛮ちゃん!!」
蛮の言葉に、さらにさらに銀次が赤くなる。
「ほう、確かめられたのですか・・?」
「ああ。テメエのくれてやったアメの中身もわかったもんじゃねえし。部分的に戻ってねえとかあっても、マズイしよ?」
「なるほど、それで・・・」
”遅かったワケですね・・?”と、帽子の鍔の裂けた部分から、鋭い視線がギロリと蛮を見る。
蛮が煙草に火を点けながら、余裕でそれに笑いを返す。
「テメエは、ガキの銀次のが、よかったみてえだけどな」
「いやいや。やっぱり銀次クンは、大きくても可愛いですよ」
「そっかあ?」
「ええ・・・」
「切んなよ?」
「切りませんとも」
「・・手も、出すんじゃねえぜ?」
「それは、お約束できませんねえ・・」


緊迫した空気がぴーんと張って、その間をばちばちばちと火花が飛び交う。


「あのー・・」


だらだらと汗を流しつつ、それについていく銀次は生きた心地がまったくしない。
さっきは子供で本当によかったなーと実感しつつ、しかし、今更どうやって子供に退化すればいいかもわからないワケで・・・。
似たようなもんだし、この際タレてみるか!?と思うけれど、なんだかそれも余計に気まずくなりそうな気もしないではない。
とにかく、とっととマクベスの所に辿り着こう! ソレしかない!と心に決めた銀次は、生きた心地のしないまま、二人の後をとぼとぼとついていくことにした。


辿りついたその先で、マクベスを筆頭にした元VOLTS四天王を含む「壮絶銀次争奪バトル」が繰り広げられることになるなど、もちろん予想だにせずに。
 








END
















スミマセン!シィさまー!!
なんだか激しく激しく、リクいただいた内容から遠ざかった気がします!!
わーん、どうしましょう・・・。
赤屍さん、出番少なかった気がしますし。
あ、アメは「女神の腕〜」編で出てきたヤツのつもりで・・。
「アフロディーテ」でしたっけ?
エロは・・・。エロではだいぶん手こずりました。
あんなに素敵なエロをお書きになるシィさまに、読んでいただけるような
シロモノではとても無いのですけれども。
胸をお借りするつもりで、頑張りましたです!(あれでも)
本当に楽しんで書かせていただきましたvv
リク、いただけて幸せですvv
読んでくださったみなさまも、本当にありがとうございました!







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