「あーお腹空いた!オレご飯食べる〜」
ラクになった気持ちのせいか、お腹がまた正直に鳴き出しました。 蛮ちゃんによけてもらおうと腕を伸ばしたら、 「うきゅ?」 蛮ちゃんはオレを放してくれません。 ちょっとだけ上げてくれたその顔は、運転してた時程ではないですが、どこかまた不機嫌で怒ってるような。 ……さっきまで怒ってたのを思い出したというか?
ぞくり。 ちょっとイヤな予感が、背中を走ります。
「あのう、蛮ちゃん…?」 「の前に報酬だ、報酬」 「??」 「一応テメーがオレの指輪奪り還してくれたってコトになってんだろ?だから俺がテメーに奪還料を払う。当然だろ?」 「あははー、やだなあ蛮ちゃんたら。俺達あいぼーなんだからそんなの気にしなくてイイじゃんか。あはは、はは……」 「…銀次ィ」 「……っ!」
いつもより低く小さな声で耳に直接囁く、オレの名前。
ヤバイです。 これは蛮ちゃんの、「アレ」を始める一歩手前のサインです。
「ちょちょちょ、っと蛮ちゃん!オレは今すぐゴハン食べたいのですけども!」 「ああ、テメーが長風呂してる間に全部食ってやったわ」 「えええ〜!ヒドイよぉ〜!」 ビチビチもがくタレ泣きなオレに、蛮ちゃんは怒鳴りました。 「うっせぇ!テメーを満腹にさせてやんのは俺なんだよ!」 「ふぇ?」 はた、とリアルに戻るオレの側で、蛮ちゃんはイライラと煙草に火を点けます。 「……獣じゃあるめーし、テメーの服にちょびっとついたくれぇの移り香、俺がわかる訳ねぇだろ」 「…って蛮ちゃん、じゃあ何でオレがサラさんと会ってたってわかったの?」 「……お節介な誰かがよ、ご丁寧にケータイよこしやがったんだよ」
『 ってワケで今コンビニでご飯買ったところ。銀次君はちゃんと帰らせるから心配しないのよ』 『…いいから今すぐ戻って来いってあのアホに伝えやがれ。この俺様を待たせた罪はでけぇってな』 『そんなこと言っていいの?銀次君が飛び出しちゃった原因はあなたでしょ?』 『半分はオマエだろうがよ!だから言ったろーが、色香に惑わされて妙な誤解するバカタレがいるってよ』 『あらあら、ホントに大事にしてるのねぇ。ごちそーさまってカンジ?』 『るっせぇ、よけーな世話だ』 『でも仕事に差し支えないようにしなさいよ。同性同士は風当たり強いわよ?』 『何の話をしてやがる、何の!』 『冗談冗談。…でもホントいいパートナーでよかったわね、蛮。ああいう子だから、あなたは心から笑えるようになったんでしょ?』 『………』 『誤解させちゃったフォローはお願いね?私には奢ってあげるくらいしか出来ないし』 『……オマエに言われるコトじゃねーよ』 『それにしてもいいネタ入ったわ。邪眼の男をホントに困らせたかったら相棒の方をどーにかすればいいってね。高く売れると思う?』 『これ以上あのアホつつくんじゃねぇ!俺がメーワクだ!』 『やーよ。だってソレが一番効き目ある仕返しになるでしょ。じゃねー』 『テメ、コラ切んな!サラ !』
「サラなんぞに言われるまでもねぇ、テメーをどーこーすんのは俺様の自由なんだよ」 「………」 「嫉妬なんぞでイジけたテメーにご褒美くれてやるっつってんだ、喜んで受け取りやが……って、何マジマジ見てやがる?」
オレはホントにまじまじと蛮ちゃんを見つめてました。
だってさあ、それってまるで、
「蛮ちゃん、なんかサラさんに嫉妬……してない?」
ぴたり、と黙り込む蛮ちゃんに、オレのカンはピンと来ました。
「あ、当たりでしょ!図星だと一瞬言葉詰まっちゃうもんね、蛮ちゃん。オレにすんなって言っといて自分だってヤキモチしてたんじゃないかー」 「………」 「あ、れれ?顔がコワイよ蛮ちゃん。もしもし、蛮ちゃぁーん?何か喋っ… っ!」
吸殻を捨ててタンクトップを脱ぎ捨てた、
と思った瞬間、するりとオレの服の中に入り込む蛮ちゃんの、手。
「ちょ、…ってソコは、……っ!蛮ちゃ……!」 「 確かめてみろや、銀次ィ」
肌を這いまくる蛮ちゃんの熱い指、冷たい指輪の感触。 「…んぁ……ばん、ちゃ…ぁ……んっ…」 何言ってるかわかんない。 オレはオレがわかんない。 そんなオレに裸の胸を押しつけて、蛮ちゃんは楽しそうに触り続ける。 オレの知らないところまで。 ……慣れてるけど慣れない。 やだ蛮ちゃん。 怖いよ、恥ずかしいよ。
「……きもちいいよう、ばんちゃあん……」
ぼんやり火照るオレの頭に、蛮ちゃんの声が響く。
「美堂蛮様がホントーに、テメー如きのために嫉妬なんざしてたのか、じっくり確かめてみろよ……」 「……ど、やって……?」 「テメーの身体で感じろや、俺を」
恥ずかしく震えるオレを見つめる蛮ちゃんは、 やっぱり意地悪に笑ってた。
痛くて熱い。 後ろめたくて、気持ちいい。 「アレ」する蛮ちゃんはオレをぎゅってしてくれる。強く強く。
その度オレを包む煙草の匂い。 苦いのに何か、甘い。 ENVYと同じ、いろんな気持ちをオレに教えてくれる。 嫉妬と憧れ。 うらやましい、寂しい。 たくさんの名前と、ひとつの素顔。 知らなくてもよかった気持ち、知っちゃった想い。 みんな、みんな溶けてく。 蛮ちゃんの熱が、オレを溶かしてくれる。気持ちいい……。
ツキン。
胸のトゲはもうないけど、消えてない痛み。 傷が残ったみたいに、きっと忘れられない。
でももう大丈夫。 だってそれも、オレが蛮ちゃん好きって証拠なのですから。
ねえ、蛮ちゃん 。
「…俺は知らなくてよかったんだよ。俺がテメーに、……さえしなけりゃよ」
オレの声聞こえたみたいに、蛮ちゃんが呟く。 独り言みたいで、何言ってるかよくわかんなかったけど。
「でも知っちまったら、もう手放せねぇ。……放さねぇかんな。銀次」
でもオレは嬉しいって、感じたから。 蛮ちゃんがしてくれるみたいに、オレも蛮ちゃんをぎゅってした。 嫉妬の気持ちを知っても、だからこそ。
「オレ、蛮ちゃん大好き」
蛮ちゃんは優しく笑って、 いつもの煙草味のキス、してくれた。
end.
世話焼きで人懐っこい。陽気で悪戯好き。 だが裏の人間特有の「陰」を秘めている。 思えばサラはどっか似てやがった。 別れて以来一度も会ってねぇあのババァ。マリーア。 片や複数の名を持ち、片や本物の魔女。 人を惑わす魔性の女。 俺にすりゃあどっちもタダのお節介女に過ぎねぇが。
俺がサラのとこにずっと居る気がなかったのはそう言うことだ。 「私がアナタのママよ」だのと抜かすマリーアに、世話焼きな姉貴面のサラ。 産みの女に拒まれた俺が「家族」みてぇな女と暮らせるか。 ……別に嫌ってるとは言わねぇ。 ただ俺みてーな奴は一緒に居れない。それだけだ。
だったら何で俺は銀次と一緒に居れるんだろな?
夏彦、エリス、邪馬人、卑弥呼ともまた違う。 多分、銀次。お前に会いさえしなけりゃ知らずに済んだ、この感情。 夏彦達との結末を百も承知で、それでも求めた、俺の 。
本当の俺なんて、俺も知らねぇ。 もしそんなもんがあるとしても、誰にも捕まえさせねぇ。 それでも俺は銀次を捕らえる。 出逢った瞬間、とっくに俺のモノになったお前をよ。
他のヤツなんざ見なくていい、俺を見ろ。 泣くも喜ぶも嫉妬も「好き」も。 銀次、お前が感じる全ては俺が与えてやる。
「テメーの身体で感じろや」
俺だけを、感じろや。
true end?
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風太のコメント↓
『クロのクロニクル』 クロ様からいただきましたv
クロさんの素敵な素敵な小説の余韻を楽しんでいただくために、たっぷり余白をとっての
コメントです。
はわ〜・・。もう何と申し上げたらよいやら・・。胸がいっぱいです。
メール等でお話させていただいているうち、私のリクでクロさんがSSを書いてくださることになり、
ワタシは『銀ちゃんの可愛い嫉妬』が見たいのです・・!とリクさせていただいたのですが・・!
まさかこんなとんでもなく素晴らしい小説を書いていただけるとは・・!
昔のオンナとか出してみてくださいvとか、あっさりエロもあるとなお嬉しいですvなどど、ムボウを
申しましたのに、ワタシのまさに「そうよ、これが読みたかったの!!」というお話を書いてくださって
本当に感無量です・・!
クロさんの文章は、ワタシが「こんな風に書けるようになりたいの!」という、まさに理想なのですが、
とんでもなく(私から見て)高いところに理想を置いているのだなーと今回で実感いたしました。
好きなところを全部あげていくとキリがないので、あとはご本人にたっぷりと聞いていただくとして!
憧れのクロさんにSS書いていただけた幸せを、今は噛み締めたいと思いマスv
そして、お返しリク、なんとか喜んでいただけるものが書けるように頑張らせていただきます・・!
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