光の中へ






雲間にけぶっていた月が、まるで道を開けられるようにして、今まさに、あざやかにその姿を天空へと現せた時だった。
蛮は、ついに口火を切った。
己を信じ切った琥珀の瞳の前でそれは、蛮にとって余りにも酷な仕業だったろう。
瞬間。紫紺は色を無くしていた。




「オレは殺したんだよ。卑弥呼の兄貴を」

「え…?」




ほろ酔い気分で飛び乗ったガードレールの上で振り返り、銀次がその言葉の重さに瞳を見開いて硬直する。

再び。
犯してきた罪の深さを告白する罪人のような口調をして、蛮が続けた。
罪なのはもしかすると、己がこの世に生を受けた、その事自体を指すのかもしれない――と、そんな畏怖に苛まれながら。





「オレは、初めて出来た大切な仲間を…
工藤邪馬人をこの手で殺したんだよ」






何一つ隠しようのない事実だけを淡々と告げ、それでも蛮はまざまざとその瞬間を思い出していた。
右腕は、まだ覚えている。
邪馬人の心臓の動きを止めたその瞬間のその感覚を、未だ克明に記憶しているのだ。

生まれて初めて、あんなにあれほど自分に対して親身になってくれた人間。
兄のように慕っていた、と思う。
ずっとこのまま仲間としてやっていけると、どこかで夢見ていたかもしれない。
だが、その邪馬人を――。

ぞくり…と、背中を冷気が走る。
蛮はその寒さに、僅かに身震いした。
ずっと真実を言葉にして表すのが怖かったのは、身体が、そんな記憶を蘇らせるからかもしれない。
十数年生きてきた中で、己をもっとも呪わしい存在だと実感した、おぞましいものだと自覚した、あの瞬間の――。


生まれてなど来なければよかったのだ。


自分がいなければ、邪馬人は死なずにすんだだろう。
卑弥呼は、たった一人の兄を失うこともなかっただろう。


苦しかった。ひどく。
ただ、ただ、苦しかった。









…銀次。

オレは、かつて、どんな理由であれ。
仲間をこの手で殺した男だ――。



なあ? 怖ぇだろう…?



そして、またオレは。
それを繰り返すかもしれねえ。
こうして『呪い』が連鎖し連動していく中で、再び同じ事が起こるかもしれねえ。




もしかすると、この右手が。
この次に抉り出す心臓は、
お前のものかもしれないんだぜ? 銀次――。







――それでも。

この事実は、相棒に伝えておく必要があった。
それは、『呪い』のことを話すためには、一番肝心な箇所で。
有耶無耶に出来るわけもなく、また、自分自身がそれを赦せる筈もない。
己の右手がどんなことをしでかしてきたか、銀次は今、知るべきなのだ。
そうでなければ、銀次の身はおのずと危険に晒される。
何も知らずに、隣になど置いておけるわけがない。












沈黙は、ひどく長かっただろうか。
それとも1秒にも満たなかっただろうか。


それでも蛮にとってそれは、永遠のような長さだった。
いやむしろ。
永遠であってさえいい、と思った。
その沈黙の終わりに、もしも、同時に終わっていくものが他にあるとするならば。





銀次を信じている。
その事には、欠片ほどの偽りも迷いも生じない。
この重さを受けとめられる器だと信じているから、受けとめきってくれると信じているから、だからこその告知でもある。
だが。
その信頼は、銀次にであって、己には向かわない。
自分がそれでも以前と幾分も変わらず、銀次にすべてを受け入れられるとは、どうしても思うことが出来ないのだ。

幼い頃、自分を産み落とした母親に、強い拒絶を受けたトラウマが、未だ蛮を蝕んでいる。
己に対する否定的なマイナスイメージは、心に深く根ざしている。
誰かに愛されることなど一生叶わないことなのだと絶望して、深い森の奥で人知れず泣いた。
そんな幼い記憶があったことなどは、もう、とうに忘却の彼方に捨て去ってきたが。



銀次は、蛮が告げたその事実だけを、正確に受けとめる。間違いなく。
そして、受け入れるだろう。
だが、事実とともに、蛮をも受け入れて、それでも"信じる"と笑えるだろうか。
どんな理由であれ、大切だと思っていた仲間を殺した自分を。
殺せた自分を――。

銀次は、赦せるだろうか?




もしも、銀次が。
そんな自分を、頭では理解していても、気持ちの面でどうしても赦せないというのなら。
それは、どうしようもない事なのだと、あきらめるしかないのだろう。
今日まで共に生きてくれた、そのことだけでももう充分だと、後はおまえの自由にしていいと。
オレのおぞましい宿命などに巻き込まれずとも……。







「蛮ちゃん!!」








はっとなる。
底のない暗闇に堕ちていく思考の中に、いきなり飛び込んできたのは、銀次の呼び声だった。
普段と何一つ変わりのない――。


暗がりの部屋に、唐突に明かりが灯された。そんな錯覚を受けた。
いきなり明るくなった視界に、瞳が慣れない。情景が霞んで歪む。


「……あ?」


呆然と、いつのまにか無意識に背を向けていたガードレールを、蛮が肩越しにゆっくりと振り返る。
そして、そこにあったものに。



――驚愕した。



そこには、凶々しい月夜に恐ろしく不釣り合いの、こぼれるような銀次の笑顔があった。



――それだけで。涙が出そうになった。



満面の笑顔のまま、銀次が叫ぶ。
意味を理解するのに、数十秒を要した。
(つまり理解できた時には、もう遅かったということだ)




「飛ぶからね!!」




「…は?」




「受け止めてよ――!!」




言うが早いか、蛮の背中めがけて、銀次が靴底でガードレールを蹴る。
満月の月を背景に、ひらりと身軽に飛び上がり。
そして、何の予測もしていなかった無防備な蛮の背中に、勢いよくダイブして張り付いた。
両腕を首に絡ませしがみつき、反動にややのけ反る背中から、落っことされないようにと両足を蛮の胴へと巻きつける。

「おわっ!」
「やったぁ、おんぶ成功!」
「な、な…! 成功ってな、オメー! いきなり何しやがんだ、コラァ――!」
「うわ、落っこちるよ、蛮ちゃん!」
「落っこちる、じゃねえ! ったく、この酔っぱらいが!」
「だって、蛮ちゃんの背中見てたら飛びつきたくなったんだもーん」
「なっても飛ぶな!!」
「いいじゃんv」
「良かねえ! ああもう! おら、降りろって、この!」
「え〜〜? せっかくおぶさったのにー」
「重ぇんだよ! まーったく、いきなり何しやがるかと思えば。人が真面目な話してんのによー、このタコは!」
「聞いてたよ?」
「あったりめーだ! 人がんな話してんのに、立ったまま居眠りして聞いてませんでしたー、なんつーフザケたこと抜かしやがったらな、マジでブッ殺…!」
言いかけて、はっとなる。
その視界を、橙がかった月が掠めた。
ぞくり…と、また蛮の背中がざわめきたつ。
紫紺の瞳が、僅かに翳る。
ふざけていた声が、トーンを潜めた。



「…知らねぇぞ、マジで、ブッ殺されても」
「蛮ちゃん?」
「オレに、この手でブッ殺されても、よ」



その声に、銀次が腕は蛮の首に絡ませたまま、両足をトン、と静かに地に下ろした。
そして、それには答えず、代わりに甘えるように背中から蛮の頬に自分の片頬を寄せた。
腕を、絡めるというよりは、蛮の身体を抱きしめるように位置を直す。
蛮の首もとを、銀次の息が掠めた。
やわらかな髪が、頬をくすぐる。
強い密着に、厚いコートを纏っているにも関わらず、背中で銀次の胸が呼吸に合わせて上下しているのを感じた。

それだけで。
蛮の瞳の険が和らぐ。
心が、少しずつ平静を取り戻していく。
声のトーンはまだ低かったが、幾分やわらかだった。


「おい…。いい加減離れろ。いつまで背中になついてんだよ」
「やーだ」
甘え口調に、思わず閉口する。
それでも、あっさりと絆された。
蛮の瞳がゆっくりと笑む。
咎めるように名を呼んだ声は、いつものトーンにほぼ戻っていた。

「…ぎーんじ」
「いいじゃん。背中、寒そうだったし」
「……!」
驚いた瞳が、肩口を振り返る。
銀次はその肩の上に、今は顎を乗せるようにしてなついていた。
「オレの体温で、あっためたげよっかなー…って。体温高いもんね、オレ。へへ…」
確かに、背中は既に銀次の体温で存分に暖められていた。
ぞわぞわしていたのが、嘘のように。
全身に広がるような、そんなゆったりとした温もりに今は抱き締められている。




こんな状況で。
あんな話をした後なのに。
――それを幸福だと、蛮は感じた。




ふいに。
蛮に抱きつく腕に、ぎゅっと力が込められる。
「銀次?」
僅かな気配の変化に気づいて、蛮が呼ぶ。
それに答える声は、少しつらそうに蛮の耳に届いた。
「蛮ちゃん」
「…どうした?」
「――ごめん」
「…なんで、テメーが謝る?」
「…オレ、知ってた」
それが何を指すのかを瞬時に悟って、蛮が瞳を見開く。
「――!!」
驚愕の余り、声さえ出ないまま、思わず肩口の銀次を振り返った。
その狼狽を察して、銀次が苦しそうに言う。
「さっき蛮ちゃんが言ったこと。卑弥呼ちゃんに聞いて――知ってた。もっとも、それ以上のくわしい事情とかは、卑弥呼ちゃんだってきっと知らなかったんだろうし。オレも、それだけしか聞いてないけど」


『あいつはね、殺したんだよ! あたしの兄貴を!!』


「卑弥呼ちゃんが、嘘を言ってるとは思わなかった…。でもすぐ、違うって気がした。もしもそれが仮に本当だとしても、きっと違うって。何かワケがあったんだって……オレにはそう思えて仕方なかった」
"雪彦くんに言われた時も、そうだった"と、銀次が思い返す。
事実はそうなのかもしれないが、その事実は蛮が望んだものではきっとない。
ましてや、自分から仕向けたことなどでは決して無いと。
それだけは確信として、銀次の中にあった。


だから、何一つ。
蛮に対して揺るがなかった。


「蛮ちゃん、あの時もオレに何か言いかけて…。でもすごくつらそうだったから、オレ、話さなくていいよってそう言ったけど――。でも…。本当はあの時、聞いておけばよかったのかもしれないって、今はそう思ってる。だって、ずっと一人で抱えて、蛮ちゃん…。つらかったんでしょ? オレに話して楽になるんなら、聞いてあげたらよかった。蛮ちゃん一人だけ、苦しいつらい思いさせて… だから、ごめんね――」

語尾は、少しくぐもって震えた。
だけども、涙は堪えた。


――つらいのは、オレじゃない。




「アホ…」

心底、驚いた。
そんなこと聞かされた後でさえ、銀次は揺らぎもせず、自分を疑うこともせず信じ、そして隣で笑いかけていてくれたのだ。
卑弥呼がそれを銀次に告げたというのなら、自分と卑弥呼が再会し、銀次を人質に捕られた"あの時"に相違ないだろう。
随分、以前の事だ。
あの時から、ずっと。
銀次は、知っていたのだ。
なんてことだ。
この事実を知った時の銀次の動揺を不安がり、話すことを躊躇してきた自分が滑稽にさえ思える。
突然の銀次の告白に、蛮の胸の中はそれこそ嵐が通り過ぎていった後のように物が散らばり雑然としていたが、自分のことはこの際、もう後回しでいいと思った。
蛮の手がそっと、自分を抱きしめているような、しがみついているような銀次の手に重なる。
口調はついいつもの、宥めるようなものになった。
笑みを含ませる。
「テメー、本気でお人好しだな」
それに対する答えは、即座だった。
否定の意味で、銀次が強く首を横に振る。
「ちがうよ、オレ――。そんなんじゃない。あの時はまだ…。ただ、コワかっただけなのかもしれない。本当のことを蛮ちゃんの口から聞くのが、ちょっぴり怖かっただけなのかもしれない… 信じてたけど、絶対信じてたけど。それでもやっぱ、本当のことを知るのが、まだ怖かった。そんな気がする…」
自分を責めるような言い様に、"んなことはしなくていい"と、蛮の手がポンポンと銀次の腕を軽くたたく。
こんな風に感情を全て蛮に晒す銀次が、隠し事をしていること自体、ずっと心苦しく、つらかったんだろうに。
思う蛮の胸も切なくなる。
自分が、もっと早く切り出せばよかったものを。
こんなぎりぎりまで往生際悪く、延ばし延ばしにしてきたせいで。
銀次を…。

「…なら。今はどうよ?」
「えっ…」
「怖えか? もしも、『呪い』がお前をも巻き込んだら、次に、オレのこの手で殺されるのは、銀次―。お前かもしれねえんだぜ」
先ほどと、似たような問いだ。
口調と声のトーンが、えらく違うが。

どうしても聞いてみたくなったのだ。この相棒が何と答えるのか―。



「オレを見くびらないでよ」



存外と、毅然した答えが返った。
蛮が、思わず瞠目する。
毅然としながらも、どこか拗ねているような口ぶりだ。
どうやら、本気でそう言っているらしい。
先刻の言葉を、銀次の弱気と蛮が捉えたのだと、そう勘違いしたようだった。
「あ?」
呆気に取られていると、蛮の首に絡みついていた腕を解いて、銀次がくるりとその正面に廻った。
腕は再び、蛮の両肩に伸べられる。
蛮の瞳をまっすぐに見つめてくる琥珀の瞳は、辛辣で真摯だ。
こんな時に一瞬でも逸らしたりしたら、激しい怒りの電撃を喰らうことだろう。
蛮がそれを見つめ返すと同時に、きっぱりと銀次は宣言した。



「そんなことさせない」



「蛮ちゃんに、オレを殺させたりなんかしない」



「絶対させない」



驚く紫紺に、念を押すようにみたび強く言う。
澄んだ瞳が強い光をもって見つめてくる。蛮の目に眩しい。
汚れのない光だ。
それをあたたかいと思えること自体、呪われた己には奇蹟のことのようだ。



「心配ないよ。大丈夫だから――。だから、オレを信じて」



言って、腕を回して身を寄せ、強く抱きついてくる。
いや、抱きしめてるつもりだろうか。
どちらにしても同じだ。蛮にはひどく、この体温が愛おしい。

「ねえ、オレを信じてよ。蛮ちゃん」
強気の後は、泣き脅しか? 言いたくなるほど、急に声に甘さが混じる。
「信じてるだろうがよ…?」
答える蛮の声は、それより更に甘かった。
「もっと」
「もっと、だぁ?」
「うん。もっともっと信じて。そうしてくれたら、オレは百人力になっちゃってさ。今より、もっとずっと強くなる。なってみせる―。蛮ちゃんを、『呪い』なんかから軽々解放して護れるくらい、めっちゃくちゃに強くなるから…!」
「銀次ー」
真剣で必死の余り、微かに声に震えが起こる銀次の背を、蛮が包むように抱き締める。
かつて、邪馬人の血で真っ赤に染まったその右手で、猫毛の金の髪をくしゃりと撫でた。
それに少し安堵の息を漏らして、銀次が蛮を抱き締める手にさらに力を込める。
蛮もまた、銀次を抱く腕に力を込めた。
「ねえ、蛮ちゃん。オレ、二年半ずーっと一番近いところで蛮ちゃんを見てきた。だからさ、蛮ちゃんがどんな人だってことは、たぶん一番オレが知ってる。きっと蛮ちゃんよりも、ずっとよく知っていると思う。
――"GetBackers"の"s"は伊達じゃないもん」


「ナマ言いやがって…」


それでも、温かい銀次の身体と身を寄せるように抱き合っていると、自然と笑みがその口元に浮かんでくる。
そして、思い出した。


あの頃は、手前勝手に背負わされた運命とかいうヤツが、ただただ憎くて恨めしかった。
呪いだ何だとつまらない小細工をするぐらいなら、とっととこの首をかっ裂いて持ち去るがいいと、何度そう思ったかわからない。
どうせ生きることに執着などなかったから、死ぬことへの恐怖も別段持ち合わせていなかったから。
いつ終わろうとこんな命、どうだってよかったのだ。


それが、今。
生きたいと願っている。
呪術に対抗するため、こちらも仮に呪術を使えば、今の寿命が10分の1以下になると知り、即座にそれを却下した。
そのくらいに。
一分でも一秒でも長く、銀次とともに生きたいと心から願っている。






ふいに、銀次が蛮の肩から顔を上げた。
いいことを思いついたというような子供っぽいしぐさで、銀次の両手が蛮の右手を取る。
その手を自分の両手で包むようにしながら、銀次はそれを自分の胸の上へと導く。
そして、蛮を見つめて微笑んだ。




「ここに、その証拠があるよ?」
「証拠?」
「誰よりも、蛮ちゃんを知ってるって、証拠」



驚いたような顔の蛮を見、こくんと頷く。
微笑みは、力強い。









「いっぱいの愛と、それからいっぱいの勇気――」









ゆっくりと、蛮が瞠目する。
微笑んだまま、銀次が告げた。
微かに、涙ぐみながら。





「蛮ちゃんが、くれたんだよ?」




「蛮ちゃんが、オレにたくさんくれて、それを二人でもっといっぱいにして――。だから、今も溢れるくらい、此処にある」




「もしも今、蛮ちゃんに足りないんだったら、その分は、オレが蛮ちゃんにあげる。だから―」




必死の余り、眦が朱に染まる。
一度、きゅっと唇を結んで、それからきっぱりと強い口調で蛮に告げた。






「だから、二人で絶対に、卑弥呼ちゃんを無事奪還しよう!!」





「銀次…!」




胸が詰まった。
あまりの愛おしさに、心が感じるよりも一早く、身体が行動を起こしていた。
掻き抱くように乱暴に腕に引き寄せ、骨を砕かんばかりの強さでその身を両腕の中に抱きしめる。
銀次の両腕も、蛮のコートの背に回され、そこをぎゅっと掴んだ。
堪えきれず、蛮が自分の首元に押しつけている銀次の頬を片手で撫で上げ、素早くその顎を掬う。
口づけは、想いと同じように、随分と深かった。
続けざまの口づけに息も絶え絶えになりながら、銀次が自分からも一度離した唇を寄せる。
吐息が荒い。
けれど、止められない。




「ねえ。だめだって、言わないよね?」
「あ?」
「連れていけないとか、いわないよね?」
「…ああ」
「一人じゃないんだから」
「…わあってる」
「ねえ、本当だよ。絶対一人で抱えちゃ駄目だって」
「あーあ、わかってるってのに」
「今度、そんなことしたら、オレ、本気で怒るかんね!」
「へいへい。言ったろ、前に。オメーが嫌だっつっても、引きずってってやるってよ」
「―うん」
「今も、変わってねえよ」
「本当? 絶対だよ?」
「おうよ!」
「本当の本当に?」
「しつけぇな。わあってるっての!」
「だってさ、蛮ちゃん」
「あーあ。こうなりゃあ、地獄の底まで、道連れだっての――!!」
「うわあぁっ!」


言うなり、いきなり銀次の腰に腕を回したかと思えば、やおらその肩に担ぎ上げた蛮に、銀次がぎょっと面食らった顔になる。
宙ぶらりんになった足をじたばたさせるが、蛮は、にやりとほくそ笑むだけだ。


「ちょっと蛮ちゃん、下ろしてよ〜っ!! 人が見てるってばー!」
「おう、見せつけとけ!」
「ええっ! ちょっとやだよ蛮ちゃん、恥ずかしいって!」
「いーじゃねえか、今更」
「い、今更〜?!」
「おーし、行くぞ銀次ー!」
「うわあ、急に走んないでよ! 落ちるー! あ、でも気持ちいーかもv 空飛んでるみたい」
「おう、飛べ! こっから投げてやっからよ! いっちょ、思いきって飛んでみろ!」
「え!? ここって、歩道橋の上だよ!? こんなとこから投げたら死んじゃいますけど!」
「やってみなきゃわかんねえ!」
「わかるよ、そんなの! わかるってば!」
「んなヤワなことじゃあ、呪いになんか勝てねえぜ」
「ええ、そういうもんなのー!」
「ごたく抜かすな! 行けー、人間飛行機ー!」
「んあああっ! くそー。必殺! 呪い還し電撃〜〜!!!」
「のわあああっ!」


無限城と橙の月をバックに、蛮と銀次の笑い声が夜の街にこだまする。
じゃれ合う子供たちのようなシルエットは、それでも、来るべき戦いに向けて、いつしか鋭気を漲らせていた。





数百年続いた呪いも、解けるはずのない呪縛も、逃れようのない凶々しい呪詛も。銀次の笑顔の前ではまったく畏るるに足りないと、蛮はそんな大きな気にさえなる。

二人一緒なら。
この世に決して不可能なことなどないと、そう確信に満ちて思えてくるのだ。


そうして銀次は、蛮の運命に寄り添うようにしながら、その闇に絶えず光を投げかけていくのだろう。
蛮に、いくつもの光の奇蹟をもたらしながら。
蛮を無敵にする、その"最強の笑み"で――。












END









水無月ゆう様へ捧げモノv
「カラダでお返し」第一弾でございまーす(笑)←え、どっちも脱いでない??;;
台詞の一部は、水無月さんの書かれてたマガジン感想から、ちょこっと引用させていただきましたvv
私もやっぱり銀次には「二人で」って言ってほしかったのでv
拙いモノですが、貰っていただけると嬉しいでーす。



さて、来週(9/8発売)のマガジンでは、いったいどんな二人が見られるのか楽しみですー!
せっかくガードレールの上にいるんだから、そこから飛んで蛮に抱きつくんだ銀次!と、どうしても思ってしまう私(笑) また小説の感想などもいただけると嬉しいです〜v









novelニモドル