抱擁 2

床に坐り込んだまま、引き寄せられるように腕をとられ、深く甘い口付けを受ける。

いつもとはどこか違う兄の、いつもより熱い息を唇で感じながら、タケルはかたく瞳を閉じた。

少しずつ、角度を変えて、舌を合わせて熱っぽさを増していくキスに、答えようと自らも、おずおず

と舌を絡ませる。それに煽られて、なおも激しくなるそれに、タケルは少し怯えたように肩を震わせ

た。タケルの吐息をも呑みほすような口付けは、それでも次第にその思考を奪っていく。

タケルのハーフパンツからすらりと伸びた脚の、その膝頭を撫でていたヤマトの手が、そのまま上

にあがって、細い腿を手のひらで味わう。内腿に這い上がってくるぞくりとする感触に、タケルが唇

を離して、抗うように手を伸ばした。

「あ・・・っ、ま、待って・・・・うぅ・・ン」

タケルの手をあっさりと封じて、なおも唇を合わせるヤマトは、さらに中へと手を入り込ませ、下着

の上からタケルを捕らえた。

「アッ・・・・!」

小さく叫んで、膝をあわせるようにするけれど、それはほんの微かな抵抗に過ぎず、ぴく!と身体

を震わせると、ヤマトの胸に紅潮した頬を押し当てる。

ヤマトの長くきれいな指が巧みに蠢いて、薄い布越しにその形どたどるようにタケルを煽っていく。

「あ・・・あぁ・・・・・・う・・ん!・・っ・・・・・や・・・」

唇を痛いほど噛み締めて、最近はもう、押し殺すこともできなくなってきた声を、それでも何とか掻

き消そうと息をつめる。

愛撫の手は休めずに、ヤマトがタケルの耳元で低く笑う。

「おい・・・・息、してるか?」

答えようにも、ウンと頷くこともできない。自らのそんな僅かな動きさえ、その部分への刺激になっ

てしまいそうで。タケルは、ヤマトの手に自分の手をどうにか伸ばして、まだ直に触れられてさえ

いないのに、もう既に達してしまおうとする自分自身を悟られまいと苦しく喘ぐ。

「・・・・・ま・・・・・って・・・・」

震える声で、なんとかそう言うと、やっとヤマトの指の動きが止まって、タケルはほっとしたように

息を吐き出した。

「死ぬぞ、オイ・・」

“これくらいで酸欠になるなよ”と兄は笑うけれど、こちらとしては必死なのだ。まだまだ中学生の

兄に比べて、未発達で未成熟な、発達途上の性なのだから。ましてや、自分ではない誰か他の

手でイかされるなんてことは、まだまだ刺激が強すぎて、快楽よりも息苦しさが先回りしてしまう。

(もちろん、嫌いではないけれど)

「お兄ちゃんの・・・・部屋・・・」

「俺の?」

呼吸を整えながら言うタケルに、ヤマトがどうしてという顔をする。

「お父さん、帰ってきたら・・・・困るでしょ?」

「別に、困んないぜ」

「嘘! 困るでしょ!お兄ちゃんはよくても、僕が困る!」

「冗談だって。第一、こんな時間に帰ってなんかこないぜ?」

“俺はここでいいぜ”と少し意地悪して言うと、タケルが責めるような目で兄を見上げる。

いくら不在とはいえ、父の気配の残るリビングで、しかも明るい照明の真下。こんなところで兄に

しどけなく抱かれることは、あまりにも抵抗がある。

ヤマトが少し身体を離して笑う。泣きそうな瞳をされると、やはり弱い・・・。

「わかったよ。・・・そのかわり、息は止めるな」

「うん・・」

答えてヤマトの胸に甘えてもたれるようにするタケルを腕に抱き上げて、希望通りに自分の部屋

へと運び、明かりをつけてそのベッドに横たえる。

「あ、明かりは消して」

その言葉に肩をすくめると、スモールライトに切り替える。

人の気配のなかった部屋は、秋の夜らしく、ひんやりと空気が冷たい。こんな中で裸にして、風邪

でもひかれてはかなわないと、ヤマトはエアコンのスイッチを入れた。

薄暗がりの部屋に、エアコンから流れ出る暖かい空気が、大人しくベッドで待つタケルの上にも降

りてくる。その暖かさにどこかほっとしながら、タケルはベッドの傍に来た兄に、やさしい口付けを

受けた。

その素振りはいつもと変わらずやさしいのに、だけども口付けは、やはりどこかいつもと違う。

重ねるというよりは噛むように、タケルの薄い唇を貪る。そして、舌で唇をこじ開けるようにすると、

その深くへと差し入れる。

「う・・・・」

小さな唸りを上げたタケルの瞼が、ふいにピクリと震えた。

シャツを胸までたくし上げられ、ぞくりとするような痺れを残して、ヤマトの手がわき腹を撫で上げ

ていく。露になった胸の突起に、ヤマトの指先がふれると、そこはたちまち桜色に隆起した。

「ア・・・・」

少しずれた唇から小さく声が漏れ、またヤマトの唇にふさがれる。そしてその唇は、タケルの顎

を伝って、反らした白い咽喉元を味わって、鎖骨にキスして、待っているかのように震えるその胸

についばむように口付ける。

「ア・・・・あっ・・・はぁ・・」

片方を指で弄ばれ、心臓に近い方を舌で転がされると、ぴくっと上体が跳ねるように反応を返す。

シーツに片頬を埋めて、声を殺すタケルに、ヤマトがその強情さに小さく笑いを漏らし、やおら衣服

の上からその中心を手の中に握り締める。

「やぁ・・あ・・・ッッ!」

閉じようとする膝をこじ開けて、もうすでに張り詰めているそこを強く撫で上げる。

「嫌・・っ・・・・・だ・・」

「へえ」

「く・・・う・・っ」

「おまえって、嫌なことされると、こうなるんだ」

耳元で囁かれ、いつもどうしてこう、ベッドでの兄は意地が悪いのかと、心の中で悪態をつく。

嫌じゃないことなんか知ってるくせに、嫌だとしか言えない自分のこともわかってるくせに。

けれどももう、そんなことを考える余裕もないほど、カラダはもっとヤマトを欲しがっている。

直にその手に触れてほしくて、早く、その愛撫で達したくて。

「はぁ・・・・」

意思とは関係なく、誘うように腰が浮き、ヤマトは満足げに笑むと、望み通り、その手をタケル

の下着の中に差し入れた。

「ああ・・・っ!」

ヤマトの手に触れられて、泣きそうな声を出して、タケルが身をよじって大きく喘ぐ。待ち望んで

いた愛撫に、もうぬめっている柔らかな先端をヤマトが指の腹で擦り上げると、びくり!!と一際

大きくタケルの全身がわなないて、まだもっと、その愛撫を受けたい欲望とは裏腹に、あっけなく

達してしまった。

薄い胸が荒い息に、大きく上下する。早々と達してしまった自分を悔やむように、泣きそうにきゅ

っと閉じられている目元に、ヤマトが宥めるように口付ける。下肢を裸にされるのを意識の奥で感

じながら、それでも抗う事も出来ず、兄の視線に捉われている羞恥にさらに固く目を閉じる。

下肢が開かれ、濡れた内腿を兄の舌が拭ってくれた。そんなふうにされることも、初めての頃は

ただもう恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだったけれど、最近ではほんの少しは慣れた気

がする。最も、瞳は未だに閉じられたままだが。

「アアアァ・・!!」

溶ろけるようだった意識が、突然の強い刺激に連れ戻される。ヤマトが押し開いたタケルの腿の

付け根に歯を立てたのだ。驚きの余り、強張る脚を、低く笑いながら撫で上げて、軽く噛み痕をつ

けた場所を、今度は吸い上げ、紅い痕を付ける。

強烈な所有の印。顔を上げてタケルを見ると、固くつぶった目尻に小さな涙の粒が見えた。快楽

を堪えるような表情で、今また兄の手の中に捕らえられている自身の、熱に震えながら耐えてい

る。いつもはそんな苦しそうな表情に、つい、自分の中の兄の部分が怯むのに、今日は違った。

様々な憤りや怒りが未だ自分の中にあって、それが“兄の理性”を歪ませる。

・・・ひどいことをしてしまいそうな、そんな予感が心の奥を走る。

「ア・・・ぅン・・・あぁ・・・・・・・あ・・はぁ・・・あっ・・・・・うぅ・・・」

途切れ途切れにすすり泣くような甘い声を上げ、さっき達したばかりというのに、貪欲な幼い身体

は、新しい刺激に痛いほどそそり立つ。そこをヤマトが口中に咥え込むと、タケルの唇からは、尚

一層高い声が上がった。舌を絡め、丹念に愛撫する。そして先端を舌で割って吸い上げると、タケ

ルの身体は大きく弓なりにしなり、雷に打たれたようにビク・・!と大きく跳ね上がった。

そして、そして、ゆっくりと力が抜けてベッドに降りる。

はぁ・・はぁ・・・っと不規則になる息に翻弄されながら、苦しそうにタケルが喘ぐ。

目元は上気して色っぽく、額には汗で金の髪が貼りついていた。紅く染まった頬を手のひらで包

み込み、そっと唇にキスすると、その前髪を指先でかき上げてやる。タケルが薄く瞳を開いた。

陶酔しているような、けぶる瞳の青が、息を吐き出しながらゆっくりと開いていく。そして、やっと

焦点が合って、兄を映した。

 

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