抱擁 3

「汗だくだな・・・苦しかったか・・?」

含み笑いをしながら言う兄に、息を整えながら、タケルが言う。

「・・・・・熱かった・・・」

「身体が?」

問うと、小さくかぶりを振る。

「お、にい・・ちゃ・・・ん」

「ん?」

「エアコン・・・・」

「え?」

「エアコン、ききすぎ・・・・」

手の甲で汗を拭って言う、その言葉にしばしヤマトが考えて、それからいきなり吹き出した。

くくく・・・と笑って、自分の上に覆い被さってくる兄に、タケルが驚いたように少しだけ上体を起こす。

「な、何?」

尚も笑うヤマトに、いぶかしむ顔でタケルが聞く。

「まいったな・・・・ かなわねえな。おまえには・・・」

「え? なに・・・?」

ベッドにうつ伏せ、タケルの顔の傍に頬杖をついて、顔を覗き込むようにしてヤマトが言う。

「いや・・・ おまえのコト、すげー夢中にさせてると思ってたから。そこまで気が回らなかった」

「あ・・・! ゴメン」

「いや、いいけどな」

まだ笑っている兄に、タケルが真っ赤になってしまう。そんなに冷静だったわけでも淡白なわけでも

ないのに、でも本当に暑くて、息が出来なかったんだから。

そう言い訳しようとして、ベッドを降りるヤマトにタケルがはっとなる。

「さて、何か飯作んねえとな。腹減ったろ?」

そう言って離れようとする兄に、タケルが慌てて身を起こした。

「ま、待って! ごめん! ゴメン、お兄ちゃん!」

思わずすがるように制服のシャツの袖を掴むタケルに、その手をそっと自分の手の中にとって、

ヤマトが微笑む。

「怒ってんじゃねえよ、そんな顔するなって・・・」

「だ、だって、だって、お兄ちゃん、まだ・・・・」

“まだ僕だけしかイってないじゃない!”と言いたくて言えず、けど必死の形相に、少し困った顔をし

て、タケルの手に引き戻されるような形で、ヤマトがベッドの端に腰を降ろす。

その背に、裸のタケルが、そっと身を寄せてくる。

口付けの痕の残る白い肌。絡みついてくる細い腕、まだ濡れた内腿。

押さえ込もうとしている欲望を、煽っているとしか思えない弟に、思わずヤマトが苦笑を漏らす。

ヤマトは“降参・・・”と小さく呟くと、溜息をついて、タケルの細い腰を抱き寄せた。

「酷いコト、しちまいそうなんだ・・・」

「・・・え?」

「今日な。色々あったって言ったろ?」

「うん・・」

「まだ、色々な気持ちが俺の中で渦巻いてて・・・」

「うん・・」

「まだ、憤ってる」

「うん・・」

「・・・・いつもと違うだろ?」

「・・・うん・・そうだね・・・・」

「おまえに、酷い事しそうだから」

その言葉に、タケルの瞳がぴくっと震える。

「だから・・しないの?」

タケルらしくなく、そう聞いて、それからヤマトの肩口に頬を寄せて、静かに瞳を伏せる。

「・・・・・・いいよ」

「・・・タケル?」

「いいよ・・・・言ったでしょ・・? 最初に、大丈夫だって・・・そういう意味だよ・・・わかってるもん・・・」

「タケル・・・・」

「そんなお兄ちゃんも、知りたい。お兄ちゃんの、怒りや憤りも全部。僕は・・・受けとめたいんだ・・・」

少し大人びた声でいい、ぎゅっとその首にしがみ付く。そんなタケルを愛おしげに見つめて、そっと

髪を撫でると、身体の向きを変えて、腕の中に抱き寄せる。

「後悔するぜ、きっと」

「しない」

「タケル・・・」

「・・・しないよ」

 

 

―― 確かに。後悔はしないと言った。けど、だけど・・・・

考えかけた思考が砕け散り、タケルは獣のように唸り身悶えた。

そして、思い知る。

いつも、いかに、兄に大切に、傷つかないように扱われていたか。

あの甘やかな、快楽の時が嘘のように、嵐のように体中が軋んでいる。

いつものように、丹念に舌で濡らされることもなく、指でゆっくりとほぐされ開かれることもされず、

ましてや、クリームの助けを借りることなど到底なく。

前戯もろくにされず、獣のように押し入って、それでも足りずに身体を折られるように曲げられて、

開かれ、打ち込まれる信じられない痛みが、腰から背骨を通って脳天まで突き上げる。

「あああ・・・・!! アー・・・アッ・・・うううぅ・・!!」

ちぎれるように噛み締めていた唇は血を流して兄に舐め取られ、もう、閉じることも出来ず、激痛を

少しでも逃すかのように、叫びのような、悲鳴のような声を上げる。

ベッドが苦しげに軋んで、ヤマトが繰り返す律動に合わせて鳴く。

苦痛しか伴なわないその責め苦は、まるで永遠に続くようで、叫びすぎて疲れ果てた身体から

次第に理性と力を奪っていった。

下肢を大きく開かされ、そのまま腰を高く掲げられ、ベッドに貼り付けにされるような格好でヤマトに

深く蹂躙されているタケルは、もう声も出せなくなり、既に半分気を失っているように、抗うことも

せずにされるがままになっている。

その表情が少しずつ変化し、低くうめいていた声に甘さが加わる。兄に覚えこまされた快楽を、身体

が勝手に思い起こそうとしているように。身体の奥深くに、痺れるような疼きを感じた。

「あ・・・・・んん・・・・ふぅ・・・はぁあ・・・」

声の枯れた咽喉から、吐息に混じって甘さを含んだ、泣くような声が漏れる。

それを少し、いつもと違う、冷たい色の青の瞳が見下ろして、舌でタケルの耳の中を犯しながら、

辱めるような言葉を囁く。全身をカッと朱に染めて、それに反応を返すタケルに低く笑いを漏らすと、

ヤマトは喰らい尽くすように尚、その細い身体を突き上げて、乱暴に犯し引き裂いた。

 

 

静かな薄暗い部屋に、荒く乱れた息だけが聞こえた。

ぐったりとベッドに沈んだタケルの身体の上に、少し下にずれてヤマトが脱力したように身体を重ね

る。

「タケル・・・・? 大丈夫・・か?」

息が上がっていて、それだけを言うのがやっとだ。

「・・・・・・・・」

それでも、答えないタケルに、ふいに不安にかられて顔を上げ、意識を失っているように顔色の無

い弟に、心配げにそっと口付ける。瞼が小さく震えて、瞳がゆっくりと開かれる。兄の心配げな顔が

覗き込んでいることに気づくと、何か言おうと唇を開く。けれども、震えて言葉にならず、大丈夫だよ

というように健気に微笑んでみせた。

「すまなかったな・・・・つらかったろ・・?」

その言葉に、タケルの両の手が伸びヤマトの頬を包み込み、そして、その頭を自分の胸へとそっと

・・・抱き寄せる。

「受け・・・・とめ・・・られた・・・?」

「・・・え・・っ」

「僕・・・で・・・受けとめられた・・・? お兄ちゃんの・・・全部・・・」

「・・・・・ああ・・・」

「・・・役、不足・・?」

「何、言ってんだ・・・充分だよ・・」

ヤマトの言葉に、タケルがひどく、ひどく嬉しげに微笑む。清らかで、包み込むようなやさしい笑み

に、不覚にも、ヤマトの瞳から涙がこぼれ落ちた。

タケルの手が、宥めるようにヤマトの髪を撫でる。

ヤマトからいつも貰う無償の愛情に、同じように無償の愛で答えようとする、そのまだ小さくてやわ

らかな手のひらが切なくて、そして、たまらなく愛おしい。

いつもとは逆に、しがみ付く様にタケルの身体を抱き締めて、そして顔を上げると、頬を伝う涙を拭

いもせず、タケルの顔を見つめ、見下ろして、紅潮したその頬にそっとキスをおくった。

あんな、嵐のような「抱擁」の後なのに、そのキスはとても神聖でやさしくて、そして、絆は、想いは、

より強く深く、互いの中に向かったと。魂まで抱き寄せられたと、なぜかそう、強く信じられた。

 

 

「ごめんな、タケル。・・・もう、大丈夫だから・・・」

あのあと、もう一度優しく抱かれ、行為が終わって後始末をされて。まだ小さく震えてベッドにいる

タケルに、衣服を身につけたヤマトが近づき、やさしい声で言った。

兄のパジャマを上だけ着せられて、人形のように脚を投げ出してベッドに坐るタケルは、その言葉

にゆっくりと兄を見上げた。もう泊まっていけよと口説かれて、うん・・・と小さく頷くなり、その瞳から

ポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。そして、やおら、声を上げて泣き出した。ヤマトがぎょっとした顔

になり、慌てて傍に行って、ベッドに腰掛ける。

「う・・・っ・・・うぅ・・・え・・・・っええ・・・・っ・・」

「お、おい・・・タケル・・・」

明らかに狼狽している顔のヤマトは、もういつもの、弟に甘すぎる兄の顔で、それがなおタケルを安

心させて、涙をとまらなくさせる。

「おっ・・・おにいちゃん・・・」

両の手の甲で、零れ落ちる涙を拭う仕草がまだ幼くて可愛くて、ヤマトは罪悪感に苛まれながらも、

その肩をそっと抱き寄せた。止まらない涙に困って、全身でしゃくりあげるタケルに、自分を受け止

めようと本当に必死だったのだと知ると、切なくて、狂おしいほどの愛情が込み上げて来る。

「ごめんな・・・・怖い思い、させたんだな・・・悪かったよ・・・・もう、あんな風にはしないから・・・

だから・・・泣くな・・・」

ヤマトの言葉に、きつく首を横に振る。後悔はないんだと言いたいのに、言葉にならない。

そりゃあ、少しは怖かったけど・・・。

だから、とにかく今は甘えたくて、頑張ったんだと言って欲しくて、兄の胸に抱き寄せられて泣きじゃ

くりながら強くその身体にしがみつく。

“お兄ちゃんが、悪かったから・・・だから、もう泣くなって・・”

両手で大切に抱き締めて、ヨシヨシするように髪を撫でて、そんな風に言われるから、余計、なおの

こと涙が止まらない。

あの大人びた表情から魔法が解けたかのように、11歳のまだ幼い子供に戻ったタケルは、背伸び

しすぎたツケなのか、心より先に身体が兄を求めてしまった報いなのか、はたまた魔法をかけた魔

女の呪いか(それはないが)、どんなに努力をしてそうしようとしても、、兄の胸でその涙はなかなか

乾く事はなかった。

そして、ヤマトは、そのきれいな涙に、心の中にあった他人との氷壁を全て溶かされ、憤りも怒りも

嫉妬も憎悪も全部、きれいさっぱり洗い流され浄化された。そんな気がしていた。


                                    ura topにモドル








500HITリクエストありがとうございました!おそくなってしまってごめんなさい〜;
もともとこれは松雪さんのサイトに設置されていたSS掲示板に書かせていただいたSSの続きなんですが。すぐに書くつもりが季節が変わってしまい、当初エアコンは冷房のハズだったのに、暖房になってしましましたよ;;ははは・・・冷房ききすぎて鳥肌たててるのをヤマトが「感じてんだな・・・」とか思うわけで、ま、あんまり変わりませんでしたけど;;エロシーンは長くてしつこかったため、2割くらい削りました。こんなふうにヤっちゃって、そのわりにはあまり罪悪感なく、すっきりさっぱりしてるヤマトが我ながら笑えますが、基本的にはヤマトさんってそういうヒトかも〜とか思ってます。悩みぬいて、最終的には明るく開きなおるというか。
タケルには災難だったので、ちょっと泣いてもらいました(笑) タケルさんは、子供と大人の両方の顔を持ってると思うけど、それを場面に応じて使いこなす器用さは、ないんじゃないかなーと思うので、こんな感じになってしまいました。後の部分はちょっと余計だったかなー? どうだろう。
というわけで、長くなってしまいましたけど、謹んで松雪さんに捧げますvvv
も、もらっていただけるでしょうか; 心配だ〜; あああ、松雪さんに捧ぐと思うと本気でキンチョーする! でも、楽しんで書かせて頂きましたv リクくださって、本当にありがとうですvvv カアサン、これからもどうぞよろしくねv ハートいっぱい飛ばすわv ラブラブラブ〜vvv ・・・しかしコメント、長いよ!(風太)