結局、その事件は、その場にいた高校生たちがヤマトの報復を恐れ、口を固く閉ざしたことと、太一たちの適切な判断により、暴行のあった音楽室からその痕跡の一切を隠したことで、大事には至らずに済みそうだった。
ただ、学校側には備品の損失と、いくら洗い流そうとも消す事のできなかった赤黒い染みのため、その内容のほとんどを知られることとなってしまった。
だが、夏休み中の校内での監禁、輪姦、暴行という不名誉な格好の週刊誌ネタが外部に漏れることを恐れ、とにかくなかったことにして欲しいという身勝手なその意向により、別件での5人の生徒の退学という形で一応の決着はつけられた。
マスコミ関係で働く父の憤りはすさまじいものがあったが、被害者であるタケルの状態とヤマトのことを考えると、その内容で譲歩するより手立てはなかった。
母は何度か兄弟の見舞いに来たが、目は落ち窪み、やつれはてていた。
それでも気丈に息子たちを気遣って、無理に笑顔で話しかけようとする様が逆に痛々しくて、ヤマトは母と会った後はいつも酷く疲労した。



ヤマトの怪我の回復を待ち、兄弟は、祖母のいる田舎へと住まいを変えた。
祖母の希望とヤマトの願いであり、父は、母やタケルの状態とヤマトの心情を考えると、それが今は一番いいのかもしれないと判断し、兄弟は祖母の家の離れで暮らすことになった。


数ケ月が瞬く間に過ぎ、タケルは自然の中で少しずつ体力を回復していき、ヤマトは怪我の完治の後、祖母の薦めもあって地元の高校へ通い出した。
父と母は、1ケ月に一度くらいの割り合いで、揃って息子たちの様子を窺いにやってきた。
タケルは、無表情に近かった表情も日々和らいで、笑顔さえ見られるようになってきていた。
両親は、兄弟が寄り添うように日々穏やかに暮らしていることと、健康を取り戻しつつあることに、とりあえずは、ほっと胸を撫で下ろした。
ただ、ショックのためか、タケルの足は感覚がなくなったように動かせなくなり、立ち上がることさえできないため、ずっと車椅子の生活だったが。
ヤマトは、右手に軽い麻痺を残した。
それは、訓練次第ではよくなるかもしれないと医者から言われたが、頑なに本人がリハビリを拒んだため、少し不自由なままだった。
ギターを弾けなくなったためと引っ越したため、バンドはもうやめてしまったが、時折、タケルにせがまれて少しだけ歌ったりもした。
タケルと祖母の、観客が2人というささやかなライブは、それでも暖かで楽しくて、客はヤマトの歌を絶賛し、ヤマトはそのアンコールに答えて嬉しげにまた歌うのだった。
効き手の不自由な兄のために、タケルはその手の代わりをしようと努め、ヤマトは坂と階段の多い田舎の道で、車椅子が不便な時は、タケルの身体を抱き上げて、その足の代わりになった。
ヤマトは、もともと左手も物を書いたりする程度には器用に使えたので、学校生活には特に支障はなく、素朴でやさしい友人たちにも恵まれた。


傷だらけだったけれど、兄弟は生まれてからの人生で一番、至福な日々を過ごしていた。



「お兄ちゃん! お兄ちゃーん!」
高校から家まで、バスに揺られて、ほぼ一時間。
たっぷり眠って帰ってくると、神社の前のバス停で、車椅子にのったタケルが手を振って待っていた。
「おかえり!」
「おう」
「遅かったね」
「ん、ちょっとな」
「え? 何?」
「ちょっと、デート」
「ええ? 本当・・・?」
「バーカ、冗談に決まってんだろ」
笑って、コツンと額をこづくと、タケルが笑顔で肩をすぼめる。
そんな冗談も言えるようになった。
ヤマトは心で小さく思うと、ちらっと回りを見渡した。
周囲に人影はなし。
神社の後ろは林だから、もし見られててもタヌキぐらいのものだろう。
背を屈めて、そっと車椅子に腰かけるタケルの唇に軽いキスをした。
タケルがちょっと赤くなって、恥かしそうに微笑む。
このくらいは、もう平気になった。キスぐらいは。
それでもヤマトや祖母以外の者が少しでも身体にふれると、異常なまでに身体が過敏に反応する。
がくがくと震えがきて、汗が流れ出し、それ以上にふれられると嘔吐してしまう。
酷い時には、気を失ってしまうことさえある。
かわいそうなタケル・・・。
でも、ヤマトはそんな壊れそうなタケルを、時には幸福と思うことさえあった。
ずっと一生守って行くのだという、それは、恰好の理由をヤマトにくれたから。
両親にも、もう、そう宣言した。
俺は一生、弟と暮らしていくと。
俺のせいでこんな目に遭ってしまったのだから。
ずっと、面倒みていく。だから心配するな、と。
そして、タケルもまた、それを受けいれようとしていた。
もしも、普通の状態であったなら、それは兄のためにならないと、固く拒むことをしただろう。
だけども、兄を離れて生きられるほど、もう強くはいられなかった。
自身を、強く見せる方法を、もうすっかり忘れてしまったから。
だからもう、淡々と生きなくていい。
無様でも惨めでも、心のままに生きていける。
「あのこと」は、今も自分を蝕んでいて、記憶が曖昧になっていくのにつれ、逆に身体に刻まれた恐怖だけを鮮明にして、タケルを深く悩ませたが、それでも、兄がそばにいてくれる幸福には変えられない気がしていた。


ずっとずっと一緒にいような。
死ぬまでずっと、おまえの傍にいるから。
うららかな春の日差しの中で、兄が誓いの言葉を言い、
もう一度その唇に、そっとおごそかに口づけた。


やさしい口づけを受けながら、タケルは思った。
運命に逆らって、離れて生きようとしたりしなければ、
僕らの未来はいつでも幸福の中にあるだろう。
やっと、やっと僕はわかったんだ。
共に寄り添って生きることこそが、僕たちの最初からの運命だったんだ。
きっと、そうだよね、お兄ちゃん・・・・。



END











(ぼーなすやおい・・・)


昼の日差しはあたたかくてやさしくて、タケルの心を和ませたけど。
夜はいつもジゴクだった。
タケルは夜になると、少しでも兄の身体が自分から離れるだけで不安がった。
余程の理由がない限り、何をする時でも、どこか身体の一部が兄にふれていないと怖がった。
そして、ざわざわと木々の揺れる音の中、潜み寄ってくる足音の幻聴に悩まされる。
眠りと同時に、闇の中から何本もの手が伸びてきて、服をむしりとられ、足を開かれ、泣き叫ぶのを押さえつけられ、何度も何度も犯されるのだ。
身体に染みついた深い恐怖はそう簡単に拭い去ることは出来ず、かえって日々鮮明になっていた。
泣いて叫んで、兄の胸にしがみついて、がくがくと恐怖に打ちふるえる。
ヤマトはそんな弟をしっかりと胸に抱き締めて、何度も何度もやさしく髪を撫でてキスをして、タケルが叫び疲れて眠るまでずっとその腕の中で宥め続けた。

そして、少しずつ。
ヤマトは、タケルにふれていった。
タケルを怖がらせないくらいに、毎夜、少しずつ。
夜と肌を重ねていくうちに、少しずつ、その記憶を変えてやりたかった。
その身体にふれているのが自分の手で、その足を開くのも、胸にさわるのも、性器に口づけるのも、身体の中に入っていくものも、全部自分のものだと、タケルの恐怖の記憶をすりかえたかった。


夏が近づき、蝉の声がしはじめると、タケルは夜毎混乱した。
蚊帳に手足を絡ませて、まるでクモの巣に捕われた蝶のように、懸命にもがく。
それをはずしてやりながら、ヤマトはいつものように弟の身体をしっかりと腕に抱きしめた。
「いやだああああ!!!たすけて、お兄ちゃん! 離して! やめてえええ・・ッ!」
「タケル!」
蒸し暑く、生温かいその夜の空気は、あの部屋の汚れた空気を思い出させた。
男たちのいやらしく笑う声と、押さえつけられ、内腿を撫でまわされる汗ばんだ手の感触と、身体の中心に肉棒を打ち込まれる激痛の幻覚と、幻聴。
ヤマトの腕の中でもがき、足掻き、泣き叫ぶタケルを落ちつかせようと布団の上に押さえ込みながら、ヤマトはまるで自分が弟を犯そうとしてるかのような、薄ら寒い気分になった。
「離してえええ! いやだ、いやだ! やめて、怖い!! お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・・っ!!」
兄に助けを求めながら、涙を流して狂ったように暴れる弟を、押さえながら、名を呼ぶ。
「タケル!」
「いやだ、やめて!」
「タケル! 俺だ! 俺を見ろよ! タケル!!」
パン、と軽くその頬を叩いて、両手に濡れた頬を包み込んで、ぐっと自分の方を向かせる。
ふと、闇の中に青い輝きを見つけて、タケルがはっと動きを止めた。
「・・・・・・・おに・・・・ぃちゃ・・・・ん」
「タケル・・」
弱々しくふるえる小鳥のように頼りない肩を抱き寄せて、ぶるぶるとわななく唇に、そっと癒しのキスをする。
タケルの手が恐れながら、ヤマトの背中に回された。
「おにいちゃん・・」
「もう、大丈夫だ・・」
「おにいちゃん・・?」
「・・ん?」
「・・・・・して」
「・・・・・タケル・・?」」
タケルの言葉に驚いたように瞳を覗くと、大粒の涙を零しながらタケルが苦しそうに言った。
「もう・・・こんなのはいやだ・・・ お兄ちゃんが・・・・して」
記憶をリセットすることは、死ぬまできっとできないだろう。
だから、新しい記憶が欲しいと、タケルは泣きながらヤマトにせがんだ。
ヤマトがつらそうに笑った。
気が変になりそうな想いで自分の欲を押さえてきたけれど、深く触れるのは正直言ってまだ怖かった。
こわしてしまいそうで、怖い。
欲に自分を押さえられず、途中でやめてと泣かれても、止められなくなってしまいそうで。
あの男たちと同じように、その身体を力任せに引き裂いてしまいそうで。
だけど。
タケルはもう限界だ。
蝉の声に狂って、夏の終わりまでこんな状態が続いたら、きっと本当に壊れてしまうだろう。
まだ、早すぎると思っていた。
だけど、もう。
「目、閉じるなよ・・?」
「うん・・」
決心して、静かに言った。
「怖くても、ちゃんと俺を見てろよな・・。おまえにふれているのが俺だってわかるように、目を閉じないでしっかり見ろよ」
「ん・・」
頷きながら、それでも全身を異常なほどにこわばらせて、がたがたとふるえながらも、自分から兄の背中に手を回す。

タケルはその夜、初めてヤマトに抱かれた。
パジャマを開かれ、白い肌を全て晒して、身体中にヤマトのキスを受けた。
逃げ出したくて、叫び出しそうになるのを懸命に堪え、涙の滲む瞳をこらして兄を映しながら。
「あの」あとから、初めて深いキスをした。
びく!とタケルの身体が波打つけれど、構わずその口内を味わって、縮こまって怯える舌に、そっと自分の舌を絡ませた。
瞳を見つめ合ったままのディープキス。
息苦しさに、タケルが唇を横にそらすと、兄の肩口にキスが落ちる。
はっとして、そこに生々しく残された兄の傷跡に唇でふれた。
自分を守るためにつけられた傷跡。
大丈夫・・・。
こわくない。
身体にふれているのは、兄の手だ。
言い聞かせて、一瞬だけ目を閉じた。
胸を下りて行く唇の感触にぶるっと身を震わせて、乳首を舌で転がされると、あ・・・っと小さく声を上げる。。
そこから下りて、脇に廻って、細い腰をヤマトの唇が辿っていく。
歩けなくなって久しくなった白く肉のない細い足を持ち上げられ、広げられ、その花芯を口に含まれると、初めて甘い声が出た。
何度も何度も、口の中で溶かされるように愛撫される。
頭の芯が熱い・・。
苦しい。
どうにかなりそうだ。
なにもかも、恐怖すらも溶かされていくような。
「ああ・・・・」
思わず漏れた声に、恐れよりも恥かしくて、タケルはくっと唇を噛みしめた。
タケルが感じているのだと知って、ヤマトは嬉しかった。
ゆるく首を横に振りながら、、ヤマトの口中でタケルが昇りつめる。
はぁはぁ・・・と口から溢れる吐息は、甘くて熱い。
恐怖の中に、ゆっくりと甘い快楽が混じっていく。
知らなかった。
ずっとこうされたかったなんて。
兄と肌を重ねることを求めていたのは、むしろ自分の方だったのか・・。
こんな獣のような行為など、苦痛でしかないと思っていた。
なのに。
時間をかけて、ゆっくりと丹念に開かれた身体は、たとえ兄にされたとしても、どうしても屈辱で堪えられないだろうと思っていた行為すら受けいれる。
双丘を割ってその奥に刺し込まれた指に、そこは最初は固く蕾んで侵入を拒んでいたが、口づけされて口づけされて、やさしく口説かれ、両手で涙を拭いながら、どうにか緊張を解く。
ぞくり・・とあのおぞましい悪寒が走り、全身から怖さに汗が浮き出した。
「タケル・・」
ヤマトがそこを充分に開いてから、タケルの身体をせり上がり、瞳を見てから、耳元で低く囁く。
うん・・と頷くのと同時に、もう一度甘く名を呼んで、ヤマトがタケルの中に入ってくる。
「あああ・・っ」
苦しそうに顔を歪ませ、精神的な苦痛に堪える弟になだめるようにキスしながら、びくびくと震える身体を抱き寄せて、深く深く身を入れる。気を失いかけながらも、タケルは懸命に兄を見ていた。
こわくない、怖がるな。
他の誰でもない。
これは兄だ。
あんなに焦がれて、誰よりも愛してほしかった兄の肉体だ。
切なさが胸に溢れる。
青い瞳を見つめながら、自分からその唇に口づけをした。
ヤマトがやさしく笑んだ。
大丈夫だよ・・と、気づかう兄にそっと答える。
もう目を閉じていても怖くないとそう思えた。
絡まる指先だけで、そこにいるのがヤマトだと思えたから。
息が乱れて弾み、それに合わせて声が漏れた。
恐怖と快楽が混じり合わされ、それが次第に怖さを覆い尽くし、タケルに快楽を教えていく。
身体の中で熱く脈打つ兄がはじけた時。
タケルは呪縛から、もう解き放たれた、と。
そんな気がした。
「愛しているよ・・」
ずっと、ずっと愛してきたよと、ヤマトが言って涙をこぼした。
タケルは、兄の身体を抱きしめた。



明日の朝。
日差しは、今日より強くなるだろう。
それにともなって、日々けたたましくなるだろう蝉の声も、もうそれほど怖くはない気がした。
兄の胸の上でぐったりとしてまどろんでいきながら、やさしい指先に髪をそっと撫でられて。
タケルは初めて満ち足りた、深い眠りにつくことができた。







それから、ややあって、やっと目を閉じて兄の愛撫を受けられるようになると、
この夜のことは、逆に恥かしくて忘れてしまいたい「初めて」の記憶になったけど。
ヤマトも、目を見開かれたままで、あれは本当にやりにくかったと、
その時は照れて笑っていた。





END








はー・・・・つかれました。しんどかった・・。
サイトの載せるもので、こんなに長いのは初めてです・・・。しかも18禁だもん。
はてさて、18禁にするような内容だったかどうかは、よくわかんないですが。
どどど、どうでしたでしょうか? 不快になどなられてませんか?
私も最初どうなることやらと思ってましたが、いざ書き出すととまらなくて、結構楽しんでしまいましたー。
ヤマタケでドラマチックなものを書くのは、アコガレでしたから。
特に、バイオレンスは久々だったので、もう楽しくて! 
でも、あまりにもそういうのを最近書いていなかったので、書き方、忘れてしまったようです。
なんか、もひとつ迫力に欠けるものとなってしまいました・・。
また精進したいと思います。
なんか言い訳は山のようにあるはずなのですが、いざとなると何を言い訳してよいやら思い浮かばない・・。うう。

つうことで。かわしまさん、3000HITリクをありがとう。長らくお待たせいたしましたー。
一応リクエスト通りのアイテムは、これで全部盛り込めたかと。
むずかしーリクをどうもありがとう〈笑)
まわしだけならもっと早く書けたんだろうけど、これをハッピーエンドで終わらすのは至難のわざでござりましたよ。
やっぱ、これくらい長くなってもいたしかたあるまい・・・。
どどど、どう? こんなもんで。一応、まわしのちハッピーエンド・・・。
こういうことがあったからこそ、もう2人で生きていくしかないのだと、まあ世間を欺くいい理由ができたってことで。
少しは、飢えと渇きをおさえられたでしょうか?
「顔射」も結局入れたさ。(少しだが) ちょいとサービスということで、ま、この際。恩をうっておこうv
(顔射で恩を売りますか?私。 ・・笑)
 
なんだかまだまだ紆余曲折ありそうで、いろいろネタは思いついてしまうのですが。
最終的には幸せにずっと一緒に暮らしていくのでしょう。うん。またそれもよし。
こういう特殊な状態にならないと、もしかして近親相姦ってのはハッピーエンドはないかもしれないしね。

読んでくださった方、ショックとかは受けられてませんよね?? 大丈夫ですよね??
パスワード申請という、お手間をとらせてゴメンナサイでした。
でも、最後まで読んでいただけて嬉しいです。
よかったら感想とかすごく聞きたいので、裏のbbsかメールでお願いしますです。
あ、一応注意書きもつけたことですので、クレームだけはなしってことでお願いしますよー。

さてさて、せっかく18禁サイト(?)を作ったことだし、また、ここもぼちぼちと更新していけたらと。
エロ・不穏・鬼畜系・・かな?
愛ある鬼畜というのは、お好きですか?
(風太)

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