「Dearest」 おまけ 目がさめた時は。 頭がすっごく痛くて。 目がちかちかしてました。しかも、頭もガンガンしてて。 もしかして、これが二日酔いってやつ? でも、オレ、自分でもそんなに飲んだ気してないんだけどなあ。 もそもそと動きつつ、自分のシートで身を起こすと、運転席にいる蛮ちゃんとばっちり目が合いました。 「あ、おはよ」 その一言に、蛮ちゃんがオソロシゲ~な凄みのある笑みを浮かべて言いました。 「――おはよう、だと?」 えええっ、何!? オレ、また寝ている間に何かしましたか!ってか、それ、その顔――。 「もしかして、オレ、また蛮ちゃんをウニとかトロとかに間違えた…?」 「ほーお、テメェは、ウニやトロ見るとキスすんのか、ほーお」 え…? きすって何? それってどういう意… 「んああああっ!!」 寝起きで思考がまとまらないうちに、オレのこめかみは蛮ちゃんにぐりぐり攻撃を受けていたのでした。 ひどいよ、蛮ちゃん! ってか、オレ、二日酔いなのに~~!! あああ、頭の中がぐわんぐわん状態に!! 「テメーはウニやトロと間違えて、オレさまの顔中に吸いつきやがったってえのかああ!? コラァ!」 「えええっ?! っていうか、痛い痛い痛い~~~蛮ちゃあああん」 「うるせえ!! このバカ銀次がよー!!」 「そ、そんなこと言ったって、オレ、何がなんだか… えっ?」 蛮ちゃん。 今、銀次って…? 「ったく、酔っぱらってキス魔になんぞなりやがって。人のカオ、べったべたにしやがってよ。このアホが!」 「げ…」 「そりゃ、コッチの台詞だ!」 んあ。そういう意味の"げ"ではなく。オレ、そんな恥ずかしいコトしたのっていう…。 いや、それより、オレの頭の中は、今、蛮ちゃんが名前呼んでくれたことでいっぱいで。 あ、どうしよう。 さりげなかったから余計に。 なんか、目の奥がつーんってなってきた。 嬉しいよ、嬉しいよ。 オレがそんな気持ちとはつゆ知らず、蛮ちゃんが運転席のシートからオレのシートに上体を乗り出してきて言った。 「まあ、やられっぱなしじゃあよ。こっちの気もすまねぇしな。一応、お返しはさせてもらうぜ」 「…えっ」 驚いていると、きれいな紫青の瞳がずいっと近づいてきて。 「肝心なトコは、テメーからはさせねぇ」 「…え?」 こういうの、コロシ文句っていうのかな。 それより何より。蛮ちゃんの目、きれいです。吸い込まれるみたいに、きれいだ。 とか思っている間に、オレの顎に蛮ちゃんの長い指がかけられた。 え、まさか。 この体勢って。 蛮ちゃんの指先で、オレの唇がなぞられてる。 なんか、ぞくぞくするようなカンジ。 でもそれより、 胸のぎゅ…が、まだそこにあって。 「ココはよ、仕掛けられるより、仕掛ける方が趣味なんだよ。ま。男とすんのは… 初めてだがよ」 「え…えっ」 て、いうか。 蛮ちゃんが、何言ってんのか。 よく聞こえない。わかんない。 とにかく、オレは今まだ胸がいっぱいで。 冗談ぬきで。 泣きそうなんですケド。 そして、蛮ちゃんの唇がオレの唇にふれる直前で。タイミングよく…。 (いや、悪く、かな) …ぼろり。 吐息がオレの口元掠めたぐらいで、蛮ちゃんがはっと瞳を見開いた。 「な…!」 あ、ごめん、ちがう、そうじゃなくて。 キスがいやなんじゃなくて。 むしろしてほしいんだけど。(それもどうだ) 今、ちょっとオレ、なんか。胸がぎゅってなってて。 だから、あの…。 「う、うわああああ……ぁ」 気がついたら、オレは、ぼろぼろ涙を流して大泣きしていた。最悪。 カッコ悪すぎ…。 「ちょちょ、おい! なんで泣くんだよ! じょ、冗談だろが! おい、泣くな、銀次! 泣くなっての! 泣くと殴るぞ、ゴラァ!」 「だって、だって、うえぇええん…!!」 「キスの1つや2つで男が泣くな!! ってか、まだ何もしてねぇだろうが!! おいっ!」 「だって、蛮ちゃんが~~~!」 「だーから、泣くなってのー!!」 結局、蛮ちゃんはその日をきっかけに、オレを名前で呼んでくれるようになったんだよね。 すごく、すごく嬉しくて。 で、蛮ちゃんはなんだか知らないけど、それからしばらくは、すっごくオレにやさしくしてくれたし。 オレは、毎日とってもしあわせでした。 いや、今も毎日しあわせだけどね。 ――でも、その後しばらくして、今度はヘヴンさんたちも一緒にお酒飲んだ時に。 オレが酔っぱらうとやたらキス魔になって、その後ひどい泣き上戸になるってことがワカった時は。 目から星が出るほど、頭を殴られちゃったんだけど。 …なんでだったかな?? 終 >novel top |