前半少しだけ、マガジン27号のネタバレなのでご注意ください☆
こういう展開は今んとこ有り得ないけど、ちょっと夢見たい心境で書いてみましたv



「デジャ・ヴ」











くそ・・。 



ったくよ。あのアマ・・。
本気で切りつけやがったな・・。

目の裏が真っ赤に疼いてやがる。





『その目よ』


『邪馬人を殺した時のあんたも、そういう目をしてたわ』




確かにな。
目を狙うたぁ、きっちり予告してから来やがったが。
・・まずったぜ。
加速香を使ったにしても、腕に鎧を纏った上で、あそこまでスピードを上げてきやがるとは。

間一発、目は守れたものの瞼の縁までざっくりじゃあ、どっちにしてもしばらく邪眼は使えねえ。
やべぇな・・。


ったく、つまんねぇ猿芝居に付き合わされた上、これじゃあよ。
ワリに合わねーぜ、まったく。
いったい卑弥呼の奴、どういう取引きに応じやがったんだか。
まあ、ホスト野郎がついてんだ。
あんま信用はならねぇが、ちっとは役にゃ立つだろう。




・・おい、邪馬人。

怒らねぇで聞けよ?



てめえの妹はよ。
なんだか、えれぇことに、どんどん可愛げがなくなってんぜ?
どーするよ? 
オンナとして、こりゃ、ちっとやべぇんじゃねえか?

ヘっ・・。
ま、その分逞しくはなってやがるけどな。
仕事で生きてく気なら、まー、そうでもねぇと命がいくらあっても足らねぇし。

そういうのがイイとかいう物好きも現れたことだし。
まーいいかもな。
この際ぜーたく言ってねえで、あんなヤバイ気障野郎でも一応キープしとかねぇと、一生オトコがあたんねぇぞ、あんなアバズレじゃあ・・。


なあ、邪馬人・・?








ああ・・・。

それにしても・・・。
眠てぇや・・・。



このまま、水ん中沈んでっちゃ、まじーんだけどよ・・。



なぁんか。
力、出ねーわ・・。




どうしちまったんだろうな・・?

















おい・・。
カミナリ小僧。

聞こえてっか・・?





テメーがそばにいなくなってから、
ずっと、こんなだ。オレは。




オレはここにいんのに。
なんだか、中身はからっぽみてぇで。
どうにもこうにも、ただ、寒くてよ・・・・。





ただ、おまえがそばにいねぇだけで。














銀次・・・。












深い淵の底に落ちていきながら、意識も深く沈んでいった。
そっからどうなったのか、もうオレは終わっちまったのか。
それすらも、わからず。


ただもう、とにかくひどく疲労していた。
底の無い水中を深く、どこまでも沈んでいきたいくらいに、身体も精神も。




終わりのないあたたかな闇で、ただひたすら深い眠りを貪りてぇくれえに―――







       *   *   *









気がついた時は、どこかに横たわっていた。
両の腕は痺れたように感覚がなく、全身の筋肉も消耗しきった後のように身体が重い。

ということは、もう死ぬ気でいたあの淵から、また自分は自力で生き延びたのだ。
気力も失せたと言いながら、目も見えず向かうべき方向もわからずに、それでも不格好に水の流れに気圧されつつも泳ぎきって。
生き延びたのか。


滑稽だ。
そこまでして、生きたいのか? 美堂蛮。
無様な姿を晒してまで。


(おうよ・・)


頭の中に沸いた疑問に、即答した。
あるさ。
理由はある。
まだ、生きたいと渇望した理由がここに。

なんせな。
まだ、アイツを放ったらかしたまんまだからよ。
まだ、伝えてやってねえ言葉もある。
泣かせたままで、逝けっか。
最期の最期にアレの顔見ねーで、死んでなんかいられっかよ・・。



(つーかよ・・。ここ、まさか、もう天国ってぇワケじゃねーだろな?)



疲れきった蛮の身体を包み込むように、やわらかな、あたたかな体温と息づかいが在る。
ただそこに在るだけで、自分を芯から癒してくれる、やさしい気配。
ぴりぴりと殺気立って余裕の無かった、ほんの数時間前の自分とは、まるで別人のようなおだやかな心でいるのは、その気配が今そばにあるからだ。


蛮は、目を閉じたまま、ふっとその口元に笑みを浮かべた。
それに気づいて、ふわっとやさしい空気が動く。

自分の頭を抱いて、その膝の上に自分を抱えているのが誰なのか、目など見えなくてもはっきりとわかった。
間違えるはずもない。




(・・・・銀次の、気配)






「・・・・・・じ」

「・・・・・え・・?」

蛮の声に、少し驚いたような声が小さく答える。
「・・・・お・・・れ・・・は・・」
絞り出した蛮の声は、ひどく掠れていた。
それに、ひどく静かでやさしい声が答える。
「まだ、しゃべんないで・・。怪我、ひどいから。一応、手当は済んだけど、まだ動いちゃだめだよ」
「・・・・ここ・・は」
「洞窟ん中。さっきまでね、赤屍さんと奏蝉丸っていうのが闘ってたんだけど、どんどん森の中入ってっちゃって。ザコの虫さんはカヅッっちゃんがやっつけてくれたから、今、ちょっと小休止ってカンジかな・・?
みんなが闘ってる時、オレ、なんか蛮ちゃんの声が聞こえたような気がして・・。急いで声の方にきたら、蛮ちゃんが川流されてて・・」
「・・・・そっか・・」
「ヘブンさんがね、手当してくれたんだよ。で、後はオレにまかせるからって出てったから・・。だから、今ここにいんの、オレと蛮ちゃんだけなんだけど・・・」
「ああ・・」


「ざまぁねえな・・」
「・・蛮ちゃん?」

自嘲のような笑みを浮かべる蛮に、銀次がいたわるように、そっと腕の中にその頭を抱き寄せる。

「銀次・・?」
「うん」
「・・オメー・・」
「ん?」
「大丈夫、か?」
「え? うん・・・。っていうか、ソレ、オレの台詞でしょ?」
「コッチは、てーしたこたぁねえよ」
「その怪我で? だって目も・・」
言いかけて、口ごもる。
ざっくり切られ出血が余りにひどかったから、川から助け上げた時は、本当に目を潰されたのかと思って、ぞっとした。
が、出血のわりには傷は思ったほど酷くもなく。
銀次は、このいつも自分を見つめてくれたやさしい薄紫の瞳が傷つけられずに済んだだけでも、本当に敵にすら感謝したいくらい、心から安堵していた。
ただ無惨に腫れ上がった両の瞼は、とても痛々しいが。

「蛮ちゃん・・」
「・・・あ?」
「・・なんか、つらいこと、あった・・・?」
「・・・なんでだよ」
「だって、蛮ちゃん・・・。気を失ってる時、傷の痛みより、なんかもっとちがうことでつらそうにしてた気がしたから・・」
銀次の言葉に、蛮が微かに顔を顰めるようにする。


全く以て、この相棒は。
どうでもいいと、わざと蛮が思う時に限って、妙に勘が鋭い。


「ああ・・。テメーの膝がゴツゴツしててよ。身体余計に痛くてよー。やっぱ、ヤローの膝枕じゃなあ。安眠できねーっていうかよー」
「え・・! あ・・ ゴメン、そうだったの?! 待ってて、オレ、じゃあヘブンさんに代わり頼んで・・!」
「あ?」
慌てて、蛮の頭を下ろして立ち上がろうとする銀次の手を、蛮の手が驚いたようにさらに慌てて捕まえる。
「こ、こら! 待ちやがれ! なんでテメエはそーなんだ!」
「え?」
「冗談に決まってんだろが!」
「・・・・あ」
”ゴメン”と思わず言いかける、銀次の言葉を遮るようにして蛮が言う。
「オメーでいいんだよ!」
「えっ」
「オメーでいいっつってんだろ!
 こんなブザマなとこ、あの乳デカ女になんぞ見せられるかよ!」
「・・・・・うん」
ちょっと怒ったような口調に、それが照れているせいだとわかる銀次は、少しはにかんだような笑みを浮かべた。
それが見えなくても伝わって、蛮が再び銀次に抱え直される形になって、やっと素の笑みを浮かべる。


「・・・・・・・・・・・・・アホ」
「・・・・うん」



なんだろう。
敵地のまっただ中にいるというのに。
ここだけ、不思議な空気が流れている。

いつもは、あまりに近くにいすぎてわからなかったが。
離れて、またここに戻った時。
互いの近くに戻った時に。
ひどく懐かしいような、心からほっとするような。
不思議な感覚がある。
そばにこうして二人いることが、この世の何よりも自然なことなのだと。
そんな風に思えるくらいに。



「蛮ちゃん」
「・・・ん?」

ややあって、銀次がためらいがちに口を開いた。
「・・・・聞かないの?」
「・・あ?」
何だという顔を向けられ、銀次がちょっと視線を外して声を弱めて言う。
「蛮ちゃんの言いつけ守らないで、なんでここにいんのかって・・」
蛮が、”ああ・・”とわずかに口の端を持ち上げた。
「テメェこそ。オレに聞きたいこと、あんじゃねーのか?」
「え?」
「なんで、んな怪我してんだ、とか。なんで川流されてたんだとか。・・・・なんで、テメエを殴ったんだ・・・とかよ」
「それは・・・」
「それは?」
問いつめるように言われて一瞬怯みつつ、それでも蛮を静かに見つめかえして銀次が答える。
「それは・・・いいんだ。殴られた理由は、なんとなく・・・ワカったから。蛮ちゃん、オレのためにしてくれたコトだって。ちゃんとワカったから。ただ・・・置いてかれたのは、その・・・・つらかったし。もう、こんな風に会えないんじゃないのかなあ・・って、そう考えたりもしてたから・・・。でも、奪還の仕事、最後までやり通せたら、きっと蛮ちゃんもオレのこと認めてくれるって。そんな力に頼らなくても、オレが頑張れることきっとあるから、オレはオレの出来ることやれればいいって、そう思えてきて・・・」
銀次の言葉に、蛮が静かに微笑んだ。
やさしげな笑み。
いつもなら、その薄紫色の瞳で包み込むように見てくれるところだが。

「なーんか。カンジ変わったな? テメェ」
「え、そう?」
突然の言葉に、銀次が驚いたような顔になる。
「ちったぁ、大人になったか?」
「そっかな・・・。でも、きっと変わらないよ? うん、変わってない」
言い切る銀次に、蛮が手を伸ばして銀次の額を、ぱちんと指の先ではじく。
見えてなくても、そのタイミングは絶妙だ。
「いてっ」
「銀次がエラそーに、オレさまに口答えすんじゃねえ。ま、たまに脳ミソ使うことは悪いことじゃねーがな」
その言葉に、銀次が拗ねたような顔で口を尖らせる。
「むっ・・。オレだってね、蛮ちゃん! オレだって、色々考えたりしてるんだから、そんな風に茶化さないでよねー。これでも今度のことじゃ、本当に色々考えて、色々悩んでさぁ・・! でもって、ヘリが墜落してもうこのまま死んじゃうんじゃないかって時には、いろいろ・・・・・。切なくて、苦しくって・・・。それで・・・蛮ちゃんのコト思い出して、それで・・ それで・・・会いたくって、どうしても、もう一度蛮ちゃんに会いたくて、会いたくて、会いたいって思っ・・・・」
「・・・銀次・・・」
言葉の半分くらいからもう涙声になり、最後は涙につまって言葉にならず、銀次がぽろぽろと涙をこぼして蛮を見つめる。
「う・・・・・・っ・・・・ばぁん・・・・ちゃ・・・・」
堪えようとするのに嗚咽は止まらず、口をへの字に曲げるようにしながら、まだ何か言おうとして肩が震える。
今までずっと、心の中で我慢してきた気持ちやじっと耐えていた、つらさや淋しさや悲しさが、一気に溢れて締め付けられるように胸が痛い・・と。
そんな顔で、まるで”ねえ助けてよ?”というように、少し首を傾けて蛮を見つめる。
それを見ることは出来はしないけれども、蛮の胸も、また切り裂かれるように痛かった。


誰よりも愛しいと想う相手を、たった1人で死なせてしまうところだったのか・・。
自分が死ぬ時は、絶対、この愛おしい相棒の腕の中だと勝手に決めていたというのに、
先に、それも1人ぽっちで、
そんな悲しく淋しい終わり方をさせてしまうとこだったのか・・。

そう考えるだけで、気が狂ってしまいそうだ。


「本当にもう・・・このまま、蛮ちゃんに・・・会えないまま死んじゃったら、どうしよお・・・って。オレ、すごく、1人で、怖かった・・・んだ・・よ・・ぉ・・!」
身を切られるような告白に、蛮が苦しげに手の平で銀次の頬の涙を包む。
そして、身を起こして、倒れ込むように体重をかけてきていた銀次の上体を両肩を掴んで起こさせると、くしゃくしゃっとその頭を掻きまぜるように撫でてから、やさしく静かに言った。

「・・・・来い」

「蛮、ちゃん・・!」
両腕を広げられて、銀次が無我夢中でその腕の中に飛び込んで蛮の首にしがみつくなり、うわああ・・とコドモのような泣き声を上げた。
「オレ、こわかったよぉおお・・・!!  蛮ちゃあぁああん・・・!!!」



腕の中で泣きじゃくる銀次は、どうしようなもく可愛かった。

お人好しで、甘えったれで泣き虫で、心のきれいなやさしい相棒を、いつも愛おしいヤツだと思ってきた。
その無垢ともいえる心を、大事にしてやりたいと、守ってやりたいとも思っていた。


離れてみて、初めてわかった。

守られているのも、縋り付いているのも自分の方だと。
そばにコイツがいないことが不安で、力とか知力とか闘いの勘だとか、そんなものにまでに影響する。
縋り付くように愛していたんだと、そんなことにやっと気づいた。


震える身体を腕にきつく抱きしめて、宥めるように髪を撫でてやると、銀次が落ち着くのと同じ速度で、自分の心までがひどく満たされていくのを感じた。
同時に右手に、傷ついた瞼の奥の瞳に、力が戻っていくのがわかる。



蛮の肩口に頬を寄せて、やっと落ち着いた銀次が、くすんと子犬のように鼻を慣らして手の甲で涙を拭う。
そんな仕草を感じ取って、蛮がフッと笑んだ。


「ごめん・・・」
「・・あ?」
「重い・・?」
「いや・・」
「蛮ちゃん、怪我してんの、オレ忘れてた・・」

抱きついていた身体をおずおずと離して、ちょっと反省したように言う。
「なんか、オレ・・・。蛮ちゃんが落ち込んでる気がしたから、慰めてあげたかったのに・・。オレのが、慰めてもらっちゃって」
ぺたんと地面に坐って申し訳なさそうにする銀次に、蛮が笑む。


このヤローの凄いと思うところは、こういうトコだ。
気持ち、包み隠さず全開でぶつけてきて尚、相手の気持ちにも敏感に反応して、それをケアしようとする。
たとえ、自分の方がより多く傷ついていようとも、だ。


その手をふいに、蛮の手がぐっと掴んで引き寄せた。
「え・・っ」
そのまま、銀次の手のひらを自分の頬に押し当てるようにする蛮に、銀次がちょっと戸惑うように、覗き込むようにして蛮を見つめる。
じっと銀次の手の温もりを確かめるように、その手をまるで口づけるように自分の口元に持っていく蛮に、銀次が微かに頬を染めた。


恐ろしい、と蛮が思う。
あの空虚さも、寒々しさも、疲労感もすべて、この手に癒されていく。
瞬く間に。
心が満たされると同時に、石を投げた水面が波紋を作るように、そこから全身に力が満ちていくのだ。


「・・・オメー・・ あったけぇな・・・」
「ん・・・・・?」
「よかった・・」
「蛮ちゃん・・?」
「無事で・・・・よかった」
「・・・・・蛮ちゃん・・」

心のままに言葉を発することなど滅多にない意地っぱりな蛮が、そんな風に言ってくれたことが嬉しくて、銀次は目を細めると、ふわっと、やわらかな笑みをその顔に浮かべた。






「しかし、まあ」
「うん?」
「いろいろ厄介なことになっちまったなー」
「うーん。まさか鏡まで出てくるとはねー。マクベスが協力してくれんのは有り難いケド。それよか卑弥呼ちゃん大丈夫なの?」
「まー大丈夫じゃねーか? ったく、ヒトの目こんなにしやがってよ。まあ、あのふてぶてしいアマは、そう簡単にゃくたばんねーだろ。ホスト野郎もいることだしな。それよか、猿マワシらは、今いったいどこにいやがんだ?」
「わかんない。オレが助けてもらった女の子といっしょなんだとは思うケド。四木族、全員見つかったのかなあ」
「まったく。つまんねー仕事押しつけやがってよ」
「ほんとにねー。でもオレたちも困っちゃったね。蛮ちゃん?」
「ああ。邪眼が使えない邪眼の男と、電撃ができない雷帝じゃあな。カッコつかねーかんな」
「でも、これで一緒だね? オレと蛮ちゃん。おあいこで、同じスタートラインってカンジで」
「んだよ、テメー。んなことで喜んでる場合じゃねーだろが! まあ、別に邪眼ぐれー使えなくてもよ。オレ様の無敵っぷりにゃ変わりねえけどな?」
「強がっちゃってー」
「んだと?!」
「わわ、何でもないです! もちろん蛮ちゃんは無敵なのです!」
「チョーシいいぞ、テメー」
「イテ! でも、力がなくったって、オレたち何とかなるよね! 蛮ちゃんと一緒だったら、オレ、絶対大丈夫!って、そんな気がする」
「脳天気なヤツだぜ、テメーは・・。ま、アレだ。カタワもん同士、また一から出直しだな」
「あ、カタワだなんて! オレ、知ってるよ、それ使っちゃいけない言葉なのです」
「るせーな。フニャチンがカテーこと言うんじゃねーっての!」
「だって、そうだもん! あ、でもさ、目だったらさ」
「・・・あ?」
「オレ、蛮ちゃんの目になるよ。今、オレって超好感度センサーみたいに感覚冴えてっからv 蛮ちゃんの役にたてるね!」
「そっか・・」
「うん!」



いつも通りの会話が戻ってきたことに、心からお互い安堵して、ちょっと言葉を切ってから銀次が言った。


「蛮ちゃん?」
「ん?」
「目、痛い・・?」
唐突に問われて、蛮が少し驚いたようにそれに答える。
会話は普通なのに、見つめてくれるはずの瞳が傷ついていることが、銀次にはとても痛いと感じるらしい。
「あ? んな傷、てえしたこたぁねえよ。嘗めときゃ治るってぐれぇだ」
すっかり心の余裕を取り戻した蛮が、軽口を叩いて笑う。
「本当? なめたら治る・・?」
「あ゛?」
蛮の言葉に呟くようにそう答えると、銀次は膝立って歩いて蛮のそばに行き、その頬を自分の両の手の平に包み込むようにした。


・・・・・・・え・・っ


蛮が、驚きの余り、固まる。



傷ついた瞼に、やさしいキスを1つ落として。

銀次の熱い舌先が、なぞるように蛮の瞼の傷と眼球にふれる。
眩暈がするような、熱さ。
震える舌先。
恐ろしく熱い・・・。


その瞳の奥で、この熱さが何だったかの記憶を辿ろうとする。
何か、過去に、こんな熱さの記憶があったような・・。

眩暈のするような、何か・・。
熱に浮かされたような、甘い記憶が・・。



「・・・あれ?」
「・・・あ?」
「なんかさ、今、前にもこんなことあったような気がした・・ 蛮ちゃんと・・」
「ああ、オレも何かな・・」
「何だろ・・?」


「デジャ・ヴっつーんだよ、そういうの」
「うん?」
「既視感。初めてきた場所が、そうじゃねえように思えたり。初めての体験が過去のどっかにそんなことがあったように感じるって・・・ ま、そういう類の錯覚のことだ」
「ふうん・・」

錯覚・・なのかなあと、銀次がちょっと首を捻る。
なんだか本当にそんなことがあった感じがしたんだけどなあ・・と。



そういえば、と蛮が考える。
無限城で初めて銀次と会った時にも、そんな不思議な感覚があった。
過去にも、こんな風に出会っていたような。
そんな、とても懐かしいような・・・。


こんなに強く、心で繋がれる相手と巡り会えることなど、そうそうないのだから。
この身体ではないずっと以前に、どこかで巡り会っていたかもしれない。
まあ、そう思ってしまえば、別に不思議でもなんでもないことのような気もするが。



まあ、そんなことはどうだっていい。
大事なのは、今だけだ。
それだけで、いい。
今の、銀次だけでいい。

離れてみて、それだけは身に染みてわかった。


オレには、銀次がいい――






「なあ、銀次ィ?」
「なーに? 蛮ちゃん?」


「ちょっとよ、ついでにここの傷も嘗めてくれや?」
「うん?」


蛮は悪戯っぽく笑むと、銀次に自分の唇を指し示した。







「・・・・蛮ちゃん、前にもそんなコト、オレに言ったことない?」

「・・・・え゛? ・・・・ねぇよ」









END










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あらら、マガジン27の感想のフォローをしてみようと書き始めたのですが!
なんでこんなに長く・・・!
し、しかもなんだか、あちこちでカブっているようなお話でごめんなさい!
皆さんもネタバレSSって、こんなカンジでもう書かれているのかも・・。

その上、まだまだ原作での再会はないと思ってるのですが。
ちょっと書き出したら止まらなくなっちゃって・・。
会わせてあげてしまいましたv
本当は、もっと劇的な再会をしてほしいし、できれば闘いの中で再会してほしいのですが。
また違う再会パターンのお話を書いてたらごめんなさい。えへへv
蛮銀再会シーンは、いくら妄想しても尽きないのです。

一日も早く、本当に再会できる日が来ますようにv







novelニモドル