□ Be smile 2


とはいえ。
数時間がたち、いい加減うんざりしてきた。
ひでえ有様だ。
宴たけなわなのはいいが、テメエら、無限城のこれからがどーのと、マジで考える気あんのか?
いつのまにか作られた特設ステージじゃ、5流芸人笑師ドリフがさみー1人コントをやってやがる。

てめーらは、いいぜ。
酒飲んでっからよ。
シラフでこれを聞かされる、オレの身にもなってみろ。
アホか。
なんで、てめーら笑ってんだ。
面白くねーにも限度があらあ。
ったく、殺意を覚えるくれえだぜ。
なんで、ツッコミがいねえんだ。
ボケばっかりか、こいつらは!
猿回し!!
マドカが心配するとかって帰り支度してねーで、帰るんなら一発ツッコんでから帰れ!
あああ、神経がキレそーだ。

崩れきっているマクベスが、かなり疲労してきてる風の銀次に、グラスに入ったワインを差し出した。
蛮ちゃんがどーのと一応断っているが、僕がすすめたワインを銀次さんは飲んでくれないの?とか悲しそうな目で見つめられると、ころっと騙されて、仕方なしに、一口だけだよーと言いつつ、グラスを手に取る。
・・・やっぱりかよ。
そんなこったろうと思ったぜ、まったく。
アホが。
で、だいたい、その後、どんな展開になるかは察しがつく。
ほら、見ろ。
サムライだ、遠当てだ、ドリフだと、一斉に10本以上のボトル(酒の中身は様々だ)を差し出され、マクベスがすすめた酒は飲んだのに、オレらがすすめる酒は飲まないのかとぬかしやがる。
ヤツらもすっかり出来上がってやがるから、まあ悪気はないにしても、その量は銀次にゃキツすぎるぜ。
あのバカ!
とっとと断れよ・・!
何やってんだよ。
テメエ、雷帝だったんだろが。
んなヤツら、一喝して、いらねえもんはいらねえと言いやがれ!
ああ、もう!
見ろ、二口めでもう、ぼけっとなってんじゃねえか。
絃使いは、どこ行きやがったんだ・・!
何とかしろ、特にあのパソコン小僧を!
銀次にしなだれかかんじゃねえ!
猿回しは、どこだ、何やらかしてんだ、くそ!!
そうこうしているうちに、マクベスが朔羅とやらに呼ばれて席を立つ。
やれやれ・・。
それと入れ替わりに、猿回しが銀次の前にしゃがみ込み、大丈夫かというように下からその顔を覗き込む。
大丈夫だよぉ・・という声が、ここまで聞こえてきそうな表情だ。
半分、居眠ってるみてえだ。
眠いんなら、もういいから、とっとと帰ってこい!
って、オイ!
猿! テメエ!!
どさくさに紛れて、膝においた銀次の手にさわるなああ!!!
何しやがんだ、ボケ!
殺すぞ、この!!
思わず、スネークバイトを繰り出そうと思った寸前で、ドリフの野郎が、まだ帰しまへんで〜とか言いつつ、どこかにひっぱっていった。
フン、命拾いしやがったな。
どこに行ったかと思っていた絃使いは、やっと見つけたと思えば、サムライ君とべったりだ。
それにアテられて面白くないらしい遠当て野郎が、銀次の隣に来る。
な、なんだ・・・?
銀次の目つきがおかしい。
なんだかじとっと睨むような目で遠当てを見ると、何か急に因縁をつけ始めた。
目が完全にイってやがる・・・。
このクソ寒いのに、中は熱気で室温が高いらしく、ご丁寧にも窓を開けにきたヤツがいて、慌ててサッと身を隠した。
おかげで、部屋ん中の声が筒抜けだ。
「だーからー! どーだったかって聞いてんの!」
「ど、どうと言われても・・」
「覚えてんでしょー」
「お、覚えているわけないだろう。俺は一応死んでいたわけだし・・」
一応? 死んでた?
何の話だ?
「でも、感触ぐらいは覚えてんでしょ! どうだったの、ねえねえ!」
完全に酔っぱらってやがる・・。
さっきまでの、30%くれえ雷帝入ってたのが、完全に元に戻っている。
いつもの銀次だ。
それにしても、何絡んでやがる?
「だから、雷帝」
「オレは、もう雷帝じゃな〜い」
「ああ、わかった。とにかく、本当に後から花月たちに聞かされ驚いただけで・・」
「そうなの・・? でもね、でもね、雨流はズルいよ!」
何がズルイんだ???
「オレだって、したことないのに!! 蛮ちゃんとキスなんて!!」
な・・・!
何を・・・・言いいやがるんだ、あのアホはー!!
「ズルイよおっ」
「そ、そう言われても」
・・・泣き上戸かよ・・。
遠当てが、さすがに狼狽してやがる。
そりゃ、そうだ。
アイツらの記憶にある雷帝は、「ズルイよお」なんて言って泣かねーだろうから。
しかし・・。
なんだよ、銀次。
そんなベソベソ泣くくれえ、テメエ、気にしてたのかよ・・。
そんなこと、オレの前じゃ、ちっとも言わなかったじゃねーかよ。
何でもないって顔してやがったくせに。
蛮ちゃんのおかげで、雨流、元気になれてよかったね、って。
笑ってたじゃねえか。
『雨流を助けてくれて、ありがとう、蛮ちゃん』
バカが・・。
なんか、いじらしくて抱きしめてやりたいような気分になっちまうじゃねーかよ・・。
「銀次・・」
しかし、しんみりした気分は、次の銀次の突拍子もない行動で一掃された。
「もうね、かくなる上は!」
・・・え?
「オレだって、奪還屋の端くれだからね!」
だから?
「奪られたもんは奪り返すのが心情だから!」
・・・だ、だから?
「返してもらうよ、雨流俊樹・・! 蛮ちゃんのキス・・・!!」
だあああ???!
言うなり、銀次のバカは遠当てに飛びかかった。
がしっと遠当ての顔を掴んで、なんとかその唇に自分の唇をひっつけようと必死だ。
「蛮ちゃんのキスを返せえぇぇ」
「うわあ! らららら雷帝、落ち着いてくれえぇえ」
「オレはもう、雷帝じゃないー!」
ばばばばば、馬鹿野郎!!! やめろ!!!
キスぐれえ、いくらでもしてやっから、それより、テメエのファーストキ・・・!
いや、ファーストかどうかは知らねえが! 
しかし、テメエにとっては大事なもんだろが! 
こんなとこで、男を襲って失うんじゃねえ!!!
遠当てにゃ、オレだって、何も好きこのんでその口に口くっつけたわけじゃねーんだぞ!
咄嗟に何とかそれを阻止しようと、窓を飛び降りようとした直前。
銀次は後ろからひょいと、軽く羽交い絞めにされるようにして、遠当てから離された。
遠当て野郎が、その間に這々の体で銀次の横を立ち去る。
・・・や、やれやれ・・・・よかった。
はー・・。
度肝抜かれた。
たいがいにしてくれ。
疲れる・・。
と、ともかく、早く帰って来いっての・・・。
窓枠に手をおいたまま脱力して、はあとため息をつくなり、安心するのは早かったと気づいた。
銀次を遠当てから剥がしたのが、観察魔のホストの兄ちゃんだったからだ。
何つったか、確か、鏡形而とかいう。
観察するぐれぇなら構いはしねえが、羽交い締めにした腕を一端ほどいて、ついでに、銀次の身体を自分の膝の上に背後から抱き上げやがった。
銀次は、何を思ったか切なそうに眉を寄せると、ちょっと唇を噛んで、あろうことか、ぐいっと身体を回して鏡の胸に寄りかかった。
「・・・蛮ちゃぁん・・・」
ば・・・。
蛮ちゃんて。
オ、オレは、ここだぞ。オイ!
「蛮ちゃん・・・ オレ・・・ごめん・・ね・・?」
人違いなんだからよ、とっとと否定すりゃいいのに、ホストが小さく二言三言銀次の耳に囁き、やさしく宥めるように髪を撫でるとアイツの頭を抱き寄せる。
銀次は、目をトロンとさせ、頬も紅く上気して、興奮して疲れたのか、大人しくホストに肩を抱かれて寄りかかるようにしている。
ホストの指が銀次の俯いた顎を上げさせるようにして、もう片方の手がヤツの膝頭あたりをいやらしくなぞる。
その手が、ハーフパンツの裾から中に入り込み、アイツのやわらかそうな太腿を撫で上げようとした瞬間。
ブチッと、オレの頭の中で派手な音が聞こえた。

「てめえ、オレの銀次に何しやがるーーーッ!!!」

考える間もなく、オレの絶叫が辺りに響き、3階の窓から飛び下りて、奴等のいる部屋の窓枠を、怒りにまかせて壁ごとグワシャアアと取っ払う。
ビルの一階のどてっ腹にでけえ風穴が開いたが、知るか! んなもん!!
「来い、銀次!!」
銀次の腕を取り、ホストからひっぺがし、力まかせにスネークバイトでホスト野郎の居た空間を思いきし抉る。
部屋の中は大混乱になったが、この際どーでもいい!
銀次を片腕に抱いて、駆け寄ってくる部屋中の野郎どもに大声で吐き捨てた。

「ウルセエ!!!!てめーらは夢でも見てやがれーーー!!!」







銀次を片腕に担いだまま、どかどかと無限城内を駆け回り、どうにか覚えのあるサウスブロックの扉に行き当たり、やっと外に出ると、さすがに肩で息をついた。
くそったれ!!
もう2度と来るか、んなとこによ!!
銀次を1人でやるのも、金輪際なしだ!
あー、むなくそ悪りい・・。
苛ついたように、人気のない真っ暗な城下町の、閉じた黒いシャッターに凭れて、煙草を取り出す。
ったく、煙草吸うのも忘れてたじゃねーか。
オレの腕から放り出された銀次が、のろのろと身を起こした。
「蛮ちゃ・・・ん・・?」
火を点ける寸前で、弱々しくかけられた声に、思わずそれをやめて銀次を見る。
「おう」
「・・・迎えに・・来てくれたの・・?」
眠くて開かない、というような目でオレを見て、それでも安心したように微笑んだ。
「別にそういうワケじゃねーけどよ・・」
「そっか・・」
答えながらも、ほうっておくと、そのまま路上でも構わず寝ちまいそうだ。
くそ、煙草はあきらめるか。
スバルに帰ってからだ。
煙草の紙箱をポケットにしまい込み、立ち上がる。
「おら、帰んぞ」
言って、銀次の前に背中を向けて心持ち屈み込んだ。
「・・・・んあ?」
「歩けねえんだろ?」
「うん・・・」
「だったら、ほら。さっさとおぶされ」
「蛮ちゃん・・・。 うん!」
答えるなり、よろよろと立ち上がり、勢いをつけてがばっと背中に飛びついてくる。
「あー、重てえ! てめえ、どんだけ食いやがったんだ?」
「えへへー」
「その上、オレの忠告も聞かずに酒飲みやがったろ!」
「あ・・・ ゴメンなさい」
「おしおきだかんな! あとでたっぷりと!」
「んあ〜 だって〜 みんなが飲め飲めって〜」
「酔っぱらいは、みんな、そういう言い訳するもんだ」
「だって・・・あーダメだー・・・・。もう、眠くて・・・・・ フワァァ・・・・・」
「ったく」
舌打ちしつつも、背中にかかる重みがいとおしい。
安心して、体重の全部を預けてるのがわかるから、尚のこと、そう思う。
「蛮ちゃーん・・・」
「寝たんじゃねーのか?」
「ううん・・」
「寝てろ、スバルまで運んでやっから」
「うん・・ あ」
「ん?」
「背中あったかいね・・」
「それが、どーした」
「オレね、ずっと、早く蛮ちゃんに会いたかった」
「あ?」
「早く、蛮ちゃんとこ、帰りたかったんだ・・。だから、迎えにきてくれて、嬉しかった」
「・・・別に迎えに来たワケじゃ、ねーっての・・」
「・・・あんがと」
「・・・アホ」
テメエ、オレがあの場にいなかったら、今頃、ホスト野郎の餌食にされてるところだぞ。
のんびりと、人の背中でくつろぎやがって。
そんな場合じゃなかったんだぞ・・。
オレは、
オレとしたことがよ、
マジで、心配したじゃねーか。

くそ。

遠当てにまで、せまりやがって。
何が、蛮ちゃんのキスを返してよー!だ。
ったく・・。
ありゃ、キスじゃねーってのに。
だいたいよー、ヤローとキスなんか、出来っかよ。キモチ悪くて。

ま、相手がテメエなら、別にちっとぐれえ、構わねーけどよ・・・・。


「蛮ちゃーん・・・あのね」
「んだよ、まだ起きてんのか?」
「なんか、もったいなくて」
「何が?」
「背中、とってもキモチいいから」
「・・・・・アホ」
「えへへv 蛮ちゃーん」
「んー?」
「・・・・・大好き」
「・・・・・・・」

結局、銀次は、スバルの停車場所まで眠ることはなく、そんな感じでずっと、オレの背中でいろいろゴチャゴチャとくっちゃべっていやがった。
それが、妙に心地よくて。
いとしくて。

「蛮ちゃーん」
「おう」
「大好き」
「・・・・へいへい」
「ねえ、蛮ちゃん」
「あんだよ、しつけーな」
「・・・キモチ悪い」
「でええ?! お、おい、大丈夫か!」
「ぐえ〜」
「こ、こら、テメエ、人の頭の上で吐くんじゃねーぞ! おら、このへんで降りろ。吐いていーから」
「うん・・・。ぐええぇぇ・・・・・・ と、思ったけど」
「あ?」
「だーいじょうぶで〜す。もったいないから、吐きませ〜ん」
「・・・・・テメエ・・・コロスぞ・・!」
「もっかい、おんぶ〜」
「歩け、自分で!」
「あるけな〜い」
「ああ、この酔っぱらいがあ! ほら、乗れ!」
「わーいv」
「あー、腹へったー」
「オレ、おなかいっぱいー 苦しー」
「いいから、テメエはもう黙ってろ!」



飯をたらふく食って、酒をしこたま飲まされて、すっかり重くなった銀次の体重を背中に感じながら、のんびりと月明かりの下を、酒も飲んでねーのにほろ酔い気分で、ゆっくり歩いた。
腹は確かに減ってはいるが、なんかキモチの方はイッパイだ。


まあ、明日はどうせ、二日酔いになること請け合いだからよ。
きっと、キモチ悪い、頭痛いと、うるせえことだろう。
ま、今日だけは、いい気分で、いい夢見とけ。銀次。



ついでに、無限城のバカ共もな。
けけけ。
たっぷりイイ夢見やがれってんだ。ザマーミロ。









                          
               
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(翌日の無限城)

「やーみんな、きのうはありがとう。本当に楽しかったよ」
「よかったよ、マクベスが元気になって。あれ、でも、そういえば銀次さんは、いつのまに帰られたんだろう?」
「ああ、僕も実は、途中から記憶が不鮮明で・・・。あ、ところでさ、ゆうべの花月と十兵衛の夫婦どつき漫才は面白かったよねえ」
「は? 僕が??? あ、それよりも、百獣擬態アヒルの舞はすばらしかったよ! 士度」
「あ? 何だソレ。ああ、そんなことより、笑師! テメエ、すごかったじゃねーか!」
「ああ、そうそう、笑師! 僕も驚いたよ! よくあんな所にローソクが・・!」
「へ、へえ??? ろ、ろーそく?? ワイ、そんなことしてたやろか・・」
「覚えてねーのかよ! あんなすげえ芸を! よくケツ火傷しなかったよな!」
「??? あ、それより不動や!」
「あ、そういや、いつの間にかいたよな」
「そうそうそう! すごかったね、不動の裸踊り!!」
「そうそう! で、裸踊りが終わった後にさ!」
「裸の不動が!!」
「ハダカの不動が・・・」
「裸の不動が、鏡クンに・・・」


・・・・・・・・・・・・しーん

(ちょっと吐き気をもよおすような光景が、皆の頭の中で炸裂している。・・・らしい)


「・・・・・・ねえ・・・・ ところで、鏡クンは?」
「なんだか、バビロンシティに戻って寝込んでるって話だけど・・」
「・・・そりゃ・・・・ みんなの見てる前で、ハダカの不動にあんなことされちゃ・・」
「そ、そーでんな。ワイやったら、死ぬな・・・」
「ぼ、僕も・・」
「いや、花月・・! 貴様だけは、俺が守る!」
「十兵衛・・!」
「昨日の夫婦漫才の続きでっか?」
「ぼ、ぼくらは、夫婦漫才なんか、やっていない〜!」
「そう、照れるな」
「俊樹!!」
「フン、貴様とて、不動に”ちょんまげ”をされて、楽しげに笑っておったくせに!」
「ち、ちょんまげだとおぉぉ!! 筧! 貴様、そ、そんな、げ、下品な芸を俺がするとでも〜!?」
「いや、だからさ、不動が・・」



と。
そんなこんなで。

『無限城大かくし芸大会』が、実は美堂蛮の邪眼だったと気づくのは、彼らが二日酔いから完全に醒めた翌々日のことであった。
一番キツい邪眼をくらった鏡形而が立ち直るには、まだまだ数週間を要したけれども。


そして美堂蛮は一夜にして、敵の数を、またしても大量に増やしてしまったのであった。





END









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3000hitキリリクSS、アップですv
なつきさん、リクエスト、ありがとうございました・・!
一応、キスはしてるかどーかぐらいの関係ということでしたけど、まだしてないみたいです(笑)
でも、きっと、その夜のうちぐらいには・・・?v
銀ちゃん、したそうですしv
とにかく、リクを全うできたかどうかは疑問ですが(スミマセン〜)、とっても楽しく書かせていただきましたv
本当にありがとうございました〜〜〜っvv



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