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モノローグ

 親はすべてロクでもない。そんな人生の結論を出したのは、拓海が11歳のときだった。
 立派な親だっているよ、というお為誤化しに耳を貸そうとは思わなかった。一般的な人類にとって親という存在は通常2人しかいないのだから、その2人のどちらかがロクでもなければ子供は絶望するし、両方がロクでもなかったらそんな結論に陥るのは当然と云える。立派な親とやらの子に生まれなかったことを嘆くしかない。
 まして、拓海のように親が3人いて、その3人が3人ともロクでもない連中ではなおさらだった。

 元凶は母の七海だった。
 七海は幼馴染の信士と恋仲だったが、信士は他の女を妊娠させてしまい、責任を取るかたちでそっちと結婚。少しして七海も紫明と結婚した。
 のだが、数年して生まれた拓海のタネについて「いや、その……心当たりがないとは、云わない」と発言しやがった。それぞれ別の相手と結婚したというのに、信士と肉体関係を持ち続けていやがったのだ。信士は信士ですでに子供が3人いた(しかも、この年のうちにもうひとり生まれた)のに、どうしても七海を諦めきれなかったらしい。
 血液型ではよく判らない。しっかりした検査は紫明が拒否した。違うと自覚があったのか、それとも別の理由があるのかは不明だが、とにかく紫明は拓海の出生を曖昧にしたまま拓海を育て、それなのに、拓海が物心ついた頃からその辺りの事情をしっかり教え込んでいる。
 拓海の3つ下の弟は、今度は紫明のタネだと判明しているが、これでは拓海が紫明にも七海にも信士にも胡散臭い視線を向けるのを責めるワケにはいかなかった。トシの割にしっかりした、だが子供らしくない、要するに嫌なガキに育った拓海が11歳になった年に、紫明が死んだ。

 すべての元凶の七海。七海を諦められなかった信士。七海を諦めなかった紫明。親が3人いて、その3人ともロクでもない連中では、子供の心に親に対する絶望感を植えつけるのに充分すぎた。子が親を選べない自然の摂理、あるいは神の意志に文句のひとつも云いたくなるというものだ。
 親はロクでもない。
 そんな結論のまま、七海に連れられて故郷を――新津を離れたのは11歳のとき。

 拓海は、4年ぶりに故郷へ帰ってきた。

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