シオカラトンボ

塩辛蜻蛉 (トンボ科)


2002/7/18 木更津市菅生 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のトンボ。晩春~晩夏にかけて日当たりのよい草原を中心に、市街地で見かけることも多い。県内全域に分布し、県内はもちろん全国的に見ても 本土地域で最もポピュラーなトンボのひとつである。未成熟時は♂♀共によく似ているが、成熟すると♂♀がまったく異なり、一般に♂は「シオカラトンボ」、♀は「ムギワラトンボ」と呼ばれている。子供の頃は別種だと思っていた人も多いのでは。
 写真は、木更津市菅生で7月中旬の正午過ぎ、林縁の草にとまる成熟♂である。未成熟の♂は♀そっくりだが、成熟するにつれて黒化し、写真のように全身に白粉を吹く 。稀に♀で♂のように成熟する個体もいるが、複眼が緑色のままなので区別できる。近縁のオオシオカラトンボやシオヤトンボ、コフキトンボに似るが、大きさや色調、形がそれぞれ異なるので見分けるのはさほど難しくない。
 主に抽水植物の多い開けた水面を好み、池や沼、農業用の堰などに多く見られるが、公園の池や学校の水泳プールなどでも生育することがある。オオシオカラトンボとは環境的な、シオヤトンボとは季節的なすみわけが見られ、池沼などではギンヤンマやショウジョウトンボなどと混生することが多い。未成熟個体は水域を離れて近くの草原などの開けた場所で栄養飛翔を行う。成熟すると水域に戻り、♂は周辺の草などにとまってなわばりを確保し、他の♂とその縄張りを巡って激しく空中戦を行う。♀が通りかかると素早くつかまえて近くの草むらなどで交尾する。♀は♂と連結して 連続打水産卵するが、稀に♀が単独で行うこともある。



シオカラトンボ 日本亜種 (トンボ科 トンボ亜科)
Orthetrum albistylum speciosum (Uhler, 1858)
分布 国内: 本土全域。島嶼では佐渡、伊豆諸島、対馬、五島列島および南西諸島全域に知られるが、八重山群島では未発見。
県内: 一部の都市部を除き、汎く全域に棲息する。
国外: 朝鮮、中国~中央アジアなど旧北区南部に広く知られる。原名亜種は欧州~中央アジア産。本亜種は日本固有。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 未成熟個体は同型。成熟個体は異型。♂は成熟すると全身が黒化し、強く白粉で覆われる。稀に♀で♂のような粉を吹く個体がみられる。
生態 環境: 一般に止水性だが緩流に棲むこともある。平地~丘陵地。水辺に抽水植物の多い池沼。底質は砂泥、水質はやや濁ったあるいは濁った陸水。開けた明るい環境を好む。
発生: 年1回。4月下旬~10月中旬に見られる。発生期に幅があるため、様々な成熟段階のものが混生する。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を開いて地面などに平らにとまるか枝先などをつまむようにとまるが、春秋には前者、盛夏の日中などには後者のとまり方をすることが多い。飛翔は敏速 だが長く飛び続けることはない。羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の草原や耕作地などで栄養飛翔を行う。成熟した♂は水辺に戻り、水域の上を盛んに飛び回って♀を探す。♀を見つけると付近の草むらなどで直ちに交尾する。♀は主として単独で連続打水産卵するが、♂はその際上空でホバリングし、♀を警護する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。小型~中型の鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: オオシオカラトンボ、シオヤトンボに似るが、斑紋や大きさが異なる。
保 護: 指定されていない。
その他: 都市部で最も多く見かけるトンボ。防火水槽や学校のプールなどでも生育する、わが国のトンボ目における最普通種だが、市街地では減少している。
天敵 捕獲: ヤンマ類や大型のサナエトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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