ミドリヒョウモン

緑豹紋蝶 (タテハチョウ科)


2002/6/15 12:55 木更津市伊豆島 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のタテハチョウ。和名は後翅裏面が緑色を帯びることによる。英語圏では後翅裏面の斑紋から"Silver Wahed Fritillary"と呼ばれる。晩春から初夏にかけて、アザミ類のほか、ウツギやイボタノキ、セリなどの白色系の花に訪れたり、晩夏から秋にかけて林縁のスミレ群落周辺で産卵する♀の姿を見かけることが多い。
 写真は、木更津市伊豆島で6月中旬の午後、雨上がりの地上で吸水する♂である。性差は翅表の色調に表れ、♂は写真のとおり鮮やかなオレンジ色だが、♀はややくすんだ褐色であるため区別は簡単。稀に♀の翅表が極端に黒化する暗化型が出ることがある。♂はメスグロヒョウモンの♂に似るが、裏面の斑紋が異なるので間違えることはない。また、ウラギンスジヒョウモンやオオウラギンスジヒョウモンに似るが、後翅裏面の斑紋が若干異なっている。
 訪花性は強く、主に白色系の花を好む。♂は地上で吸水することもある。移動性は強く、蜜原植物を求めて絶えず移動を続けるため、盛夏には一時姿を消す。県内に分布する大型のヒョウモンチョウ類の中では、最も個体数が多く普通に見られる種類である。他の種と比べてやや森林に近い環境を好むため、草原性の種と比較するとそれほど個体数は減っている印象はない。ただ、現時点では保護指定は受けていないものの、開発などによってそのような環境も破壊されつつあるため、いずれ保護対象になることは間違いないだろう。



ミドリヒョウモン 日本周辺亜種 (タテハチョウ科 ヒョウモンチョウ亜科 ヒョウモンチョウ族)
Argynnis paphia tsushimana Fruhstofer, 1906
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州。島嶼では利尻、礼文、奥尻、佐渡、隠岐、対馬、壱岐、五島列島。九州では山地性の傾向を示す。
県内: 市街地を除きほぼ全域に棲息するが、北部では稀。
国外: 朝鮮半島、沿海州、樺太、台湾山地、中国~欧州西部、アフリカ北部など旧北区の温帯地域に汎く分布する。原名亜種は欧州産。
変異 形態: 若干の地域差が認められるが、亜種区分は認められていない。地域的な遺伝現象と考えられる色彩変異型(暗化型)が知られる。
季節:
性差: 異型。♀は翅表の地色が強く緑色を帯びる。
生態 環境: 樹林周辺。日当りのよい開けた林縁や、草原的環境を好む。
発生: 年1回。5月中旬頃に姿を現し、10月上旬まで見ることができる。成虫の寿命は長い。
越冬: 幼虫(1齢)。孵化した幼虫は摂食せずに枯葉などに静止して冬を越す。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、活発に直線的に飛ぶ。花から花へ次々とわたるように飛ぶほか、樹冠などの高所を滑空するように飛ぶことも多い。夏季に個体数が減るため、かつては夏季に一時休眠するとされたが、蜜源植物を求めてたえず移動している可能性が高い。移動性が強く、発生地の平地と山地を季節的に往復することが知られる。
食性 幼虫: 食植性/スミレ科スミレ属(Viola)各種。特にタチツボスミレを好む。飼育下ではパンジーなどの栽培種でも良好に生育する。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は非常に強く、アザミ類やヒメジョオン、ウツギ、イボタノキ、クリ、セリ、イタドリ、リョウブ、シシウド、オカトラノオなど多くの花で吸蜜する。♂は地上で吸水することも多いが、♂♀共に樹液や腐果などに集まることはない。
類似種: ♂はメスグロヒョウモンと似るが、裏面の斑紋が違する。
保 護: 千葉県:、千葉市:
その他: 大型ヒョウモン類では最も普通に見ることができる種のひとつであるが、近年減少傾向にある。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫期に寄生し蛹から脱出するヒメバチ科ヒメバチ亜科のヒョウモンヒメバチ(Hoplismenus pica japonicus Uchida, 1924)、ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、カイコノクロウジバエ(Pales pavida (Meigen))などが知られる。

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