ヒメアカタテハ

姫赤蛺蝶 (タテハチョウ科)


2002/6/14 12:25 木更津市伊豆島 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 やや小型のタテハチョウ。翅の赤い部分はアカタテハより広いが、くすんだようなオレンジ色に近い色調である。英語圏では"Painted Lady"と呼ばれている。世界共通種の代表格と呼ばれるが、オーストラリア周辺には棲息しない。しかも、寒さにかなり弱いため、日本では房総半島南部が土着の北限となっている。飛び方はタテハチョウの仲間としてはかなり緩やかだが、はばたきと滑空を繰り返して軽快に飛ぶ。ただ、イチモンジチョウやコミスジよりははばたく割合が多いようだ。
 写真は、木更津市伊豆島で6月中旬の正午過ぎ、地上で日光浴する♀である。多化性だがアカタテハと同様に季節変異は知られていない。また 雌雄の外見はほとんど同型で、若干翅形が相違するものの、性差は斑紋や大きさに表れないので外見から区別することは難しい。
 以前は成虫で越冬するものと考えられてきたが、実際には成虫より幼虫のほうが寒さに強く、土着北限付近では幼虫で冬を越すことが多いようである。それでも寒さに耐え切れず死ぬ個体が多く、春から夏にかけては個体数が少ない。アカタテハと同様に食草の成長に従って、晩夏以降に爆発的に数を増やすが、アカタテハより寒さには弱い。移動性が強く、ウラナミシジミやチャバネセセリ、イチモンジセセリなどと同様に気温の上昇と共に北に分布を広げ、冬の訪れと共に土着地より北では死滅するというサイクルを繰り返しているようである。



ヒメアカタテハ 原名亜種 (タテハチョウ科 ヒオドシチョウ亜科)
Cynthia cardui cardui (Linnaeus, 1758)
分布 国内: ほぼ日本全土。ただし、土着地は房総半島~能登半島以南と考えられ、以北の地域では一時的な世代交代と考えられる。
県内: 市街地を含めほぼ全域に棲息するが、晩春までは北部では稀。
国外: 汎世界種(cosmopritan species)の代表格とされるが、豪州とニュージーランドには分布しない。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: ほぼ同型。一般に♀は♂より大型で翅形は丸みを帯びるが、個体差も大きいため不明瞭。正確な判定には前脚と腹端の精査が必要。
生態 環境: 食草が多く自生する草原や日当りのよい林縁。公園などでも発生することがある。
発生: 多化性。土着北限では4月中旬に姿を現し、11月上旬頃まで発生を繰り返すが、回数は不明。夏以降に個体数が増える。
越冬: 不定。従来は成虫越冬とされていた。土着北限付近では幼虫であることが多いが齢数は不明。南西諸島などでは周年発生している。
行動: 昼行性。湿地で吸水することもある。飛翔は敏速だが、長い間飛び続けることはなく、すぐに地上や草上にとまる。♂は裸地を根拠地として占有性を示すことが多い。人の気配には比較的敏感。
食性 幼虫: 食植性/キク科ヨモギ類ハハコグサ類ゴボウなど。他にゼニアオイ(アオイ科)、オオバコ(オオバコ科)を食べる例もある。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、キブシ、タンポポ類、ハルジオン、ヒメジョオン、シロツメクサ、ウツギ、イボタノキ 、クリ、イタドリ、シシウド 、オカトラノオ、セイタカアワダチソウ、 キク類、ネギ、ニラ、ソバなどさまざまな花で吸蜜するが、樹液に集まることはない。
類似種: アカタテハに似るが、斑紋が相違する。
保 護: 指定されていない。
その他: きわめて移動性が強く、ウラナミシジミやチャバネセセリ、イチモンジセセリなどと同様に気温の上昇に伴って発生を繰り返しながら棲息地を北に広げるが、冬の訪れに伴って死滅する。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し終齢幼虫から脱出するタテハサムライコマユバチ、蛹から脱出するヒメバチ類、前蛹に寄生し蛹から脱出するアオムシコバチ 。他にはヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))が知られる。

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