キタテハ

黄蛺蝶 (タテハチョウ科)


2001/07/25 12:15 袖ケ浦市野里 / NIKON FM2-T + AF MicroNikkor 105mm F2.8D /Kodak Kodachrome PKL200

 中型のタテハチョウ。草原や林縁、街中の荒地などカナムグラが生い茂るような場所であれば、たいていどこでも目にすることができるタテハチョウ科の最普通種。日当たりのよい環境を好み、翅を開いて日光浴する姿をよく見かける。ただ、人の気配には敏感なので、なかなか近寄れない。表は黄色地に黒褐色の派手な豹柄だが、裏面は地味な木肌模様で、後翅には小さな銀白色のC字紋をもつ。ちなみに種小名のc-aureumはラテン語で“金色のC”という意味である。英語圏では"Chinese Comma"と呼ばれている。
 写真は、袖ケ浦市野里で7月下旬の正午過ぎ、林縁の下草上で日光浴する夏型の♂である。秋型は夏型より地色が濃く、翅の凹凸が顕著となる。いずれの場合でも性差は翅形に現れるが、♀は♂よりやや翅が幅広で色調がやや濃いという程度であり、大きさに差がなく斑紋の違いも微妙なので、外見から判別することは難しい。
 飛翔は敏速で、はばたきと滑空をおりまぜながら機敏に飛ぶが、長時間飛び続けることはなく、すぐに付近の草上や地上などにとまり、翅を緩やかに開閉させる。訪花性は強く、草本・木本を問わず様々な花で吸蜜するほか、夏型はクヌギやコナラ、ヤナギ類などの樹液、秋型はカキ、イチジクなどの腐果を好む。稀に地上で吸水するが、汚物に集まることはない。成虫越冬で、野外では木の洞など風雨の当たらない場所で単独で過ごし、市街地などでは家屋内に潜り込むこともある。羽化後の夏型の寿命は短く、10日から長くても3週間程度だが、秋型の寿命は長く、越冬後7月上旬頃まで生き残るものも多いので、この時期には夏型と秋型が混在する。県内では9月下旬頃に羽化する個体が秋型になるようだ。



キタテハ 原名亜種 (タテハチョウ科 ヒオドシチョウ亜科 ヒオドシチョウ族)
Polygonia c-aureum c-aureum  (Linnaeus, 1758)
分布 国内: 北海道(南西部)、本州、四国、九州。 島嶼では奥尻、佐渡、伊豆大島、隠岐、対馬、壱岐、五島列島。典型的な平地性の種で、東北山地~中部山岳には分布しない。
県内: 市街地を含めほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、沿海州(ウスリー)、台湾、中国大陸(中部)~ベトナムに分布する 。原名亜種はインドシナ~日本産。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 明瞭。翅形と斑紋が相違する。夏型(第1化~第3(4)化)と秋型(第4(5)化)が知られる。
性差: ほぼ同型。斑紋に差はない。夏型では♀は♂より翅形がやや幅広く、翅表の地色は淡い。秋型♀は裏面の地色の赤みが強く、♂は黄褐色で波状紋が目立つ。ただ、個体差や例外も多いので、 正確な判定には前脚と腹端の精査が必要。
生態 環境: 食草の多く自生する日当りのよい林縁的環境を好む。食草の性質から樹林のそばの草原的環境にも多い。
発生: 通常年4回5回。新成虫は5月中旬に出現する。寒冷地で年3回~4回、暖地では5回~6回 。寒冷地では8月下旬、暖地では9月中旬以降に羽化するものが秋型となるようである。
越冬: 成虫(秋型)。さまざまなものの隙間で単独で越冬し、家屋内に入ることもある。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、はばたきと滑空を繰り返して比較的低い空間を直線的に飛ぶが、あまり長く飛び続けることはなく、付近の地面や草上などにとまる。人の気配には敏感。♂は♀を見かけるとその近傍にとまって盛んに求愛するが、成功率はあまり高くないようである。秋型の♀は晩秋と初春の2回にわたって交尾することが知られている。
食性 幼虫: 食植性/花穂。ほとんどの場合はクワ科カナムグラ。県外では他にはカラハナソウ(ホップ)が知られる。主に葉を食べるが、夏季には花穂も食べる。
成虫: 食植性/花蜜樹液腐果。夏型は訪花性はやや弱いがシオン類、ウツギ、イボタノキ、クリ、イタドリなどで吸蜜し、主にクヌギ、コナラなどのナラ類、ヤナギ類などの樹液に集まる。秋型はタンポポ類、セイタカアワダチソウ、ソバ、キク類など多くの花で吸蜜するほか、カキやイチジクなどの腐果などにも集まる。
類似種: シータテハに酷似するが、県内には分布しない。
保 護: 指定されていない。
その他: タテハチョウ科での最普通種。市街地を含め県内のほぼ全域に分布し、個体数も多い。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し終齢幼虫から脱出するタテハサムライコマユバチ、蛹から脱出するヒメバチ類が知られるが、寄生率はルリタテハやゴマダラチョウより低い。 他にはヤドリバエ科のDrino (Palexorista) inconspicuoides (Baranov)、Blepharipa angustifrons (Mesnil)が知られる。

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