ウラギンシジミ

裏銀小灰蝶 (ウラギンシジミ科)


2002/06/18 10:40 木更津市伊豆島 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 初夏はフジ、晩夏にはクズの群落の上をくるくると機敏に飛ぶ白いチョウがいたら、それはおそらく本種の♀。裏面は和名のとおり箔押ししたような銀白色で、目が覚めるようである。英語圏では♂の翅表の斑紋から"Angled Sunbeam"と呼ばれている。
 写真は、木更津市伊豆島で6月中旬の午前中、雨上がりの路上で吸水する夏型の♂である。夏型では前翅の先端がやや丸みを帯び、秋型では明瞭に尖るので区別は容易だが、8月ごろ出るものには両者の「あいのこ」のような個体もいるのでややこしい。♂♀の違いは翅表にあらわれ、中央付近の斑紋が橙色だったら♂、銀白色だったら♀なので区別は簡単である。また、県内にはこれと似た種はいないので見間違えることはない。
 県内ではシーズン最初の成虫は5月中旬ごろに出現し、11月ごろまで見ることができる。夏型より秋型のほうがはるかに個体数が多い。成虫越冬だが♂は全て年内に 交尾を済ませて10月下旬までには死滅し、♀だけが生き残る。秋型の♀は日当たりの悪い(気温の日較差の少ない)林内の常緑樹の葉裏などにしがみついて、ただひたすら春を待つ。越冬中の成虫は完全に活動を停止し、ムラサキシジミやアカタテハなどとは異なって、たとえ暖かい日があったとしても活動することはない。つまり年が明けてから活動する本種を見かけたら、その地域には春が訪れたということができる。なお、ウラギンシジミ科はかつてシジミチョウ科の一亜科とされていたが、近年は独立した科として扱う傾向が強いようだ。



ウラギンシジミ 日本亜種 (ウラギンシジミ科)
Curetis acuta paracuta (de Niceville, 1901)
分布 国内: 本州(東北南部以南)、四国、九州。本土周辺の主な離島と奄美大島、八重山諸島など。寒冷地や山地では稀で、関東以西では普通種。
県内: 一部の市街地を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島南部、台湾、中国(南部~西部)、アッサム地方に分布する 。原名亜種は中国大陸産。
変異 形態: 奄美大島以北と八重山諸島産はやや顕著な変異があるが、現在は本亜種に統一されたようである。
季節: 比較的明瞭。夏型(第1・2化)と秋型(第2・3化)が知られるが、晩夏の個体にはその中間型と呼ばれるものも見受けられる。
性差: 異型。翅表中央部の斑紋は♂が橙色、♀は銀白色。
生態 環境: 平地や低山地の食草の多く生えた草原など、日当りのよい開けた環境から林縁。また渓流沿いなど。
発生: 多化性通常年2回3回、暖地では3回~4回、南西諸島などでは5回以上発生するとされる。ただ、盛夏など短いときは1ヶ月以内で世代交代することがあるので、実際はこれより多いものと考えられる。県内では3回以上発生しているようだ。
越冬: 成虫(秋型♀)。気温の日較差の小さい場所(林内など)の常緑樹の葉裏にいる。単独で越冬し、集団を作ることはない。越冬中はほとんど完全に活動を停止する。なお、越冬するのは♀のみで、♂は晩秋までに全て死滅する。
行動: 。飛翔は敏速で直線的。普通は飛立ってもすぐに付近の草などにとまるが、一旦飛び立つとなかなかとまらないこともある。なお、♂には占有性があり、ときにミドリシジミ族のような卍ともえ飛翔をすることが知られる。
食性 幼虫: 食植性/マメ科フジクズ、エンジュなど。主に花、蕾を食べるが、フジなどでは新芽や若葉を食べる場合もある。 県内では第3化の幼虫はクズの花穂のみを食べ、近傍に第2化の食べるフジの新芽があっても、これにはほとんど産卵されない。
成虫: 食植性/樹液腐果汚物。訪花性は弱く、主に獣糞などの汚物やカキやイチジクなどの腐果から吸汁する。夏型に限らず♂は湿地で吸水することも多く、人の汗に集まることもある。
類似種:
保 護: 指定されていない。
その他: 秋型は移動性が強く、広範囲に拡散することが知られる。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 不明。

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