オオミドリシジミ

大緑蜆蝶 (シジミチョウ科)


2003/05/26 9:30 木更津市矢那 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のシジミチョウ。翅表は目の醒めるようなエメラルドグリーンで、裏面はシルクのような光沢をもつ銀白色。♂の翅表の色は鱗粉の色ではなく、光の干渉によって見られる構造色であるため、見る角度によって様々に変化する。和名の通りかなり大型のシジミチョウだが、ミドリシジミの仲間においては特に大型というわけではない。
 写真は、木更津市矢那で5月下旬の午前中、コナラの葉上で翅を開いて休息する活動前の♂である。性差は斑紋に表れ、♀は翅表の地色が黒褐色であるため、翅表さえ見ることができれば区別は簡単である。オオミドリシジミ属は国内には6種棲息していて、そのうちのいくつかの種は互いによく似ているが、県内に分布する種は本種のみであるため見間違えることはない。また、ミドリシジミに似るが、裏面の地色が異なるので簡単に見分けられる。
 県内ではミズイロオナガシジミやアカシジミとほぼ同時に5月末頃から姿を現し、♂は7月上旬には全て姿を消すが、♀は9月頃まで生き残るものもいるようだ。活動は主に日中に行われ、特に10時~正午までがピーク。♂は日当たりのよい林縁などで主として低木の枝先を占有し、翅を開いて前脚をたたむスクランブル姿勢をとる。占有領域内に他の♂が侵入すると激しく追飛して、もつれ合うように飛ぶいわゆる「卍ともえ飛翔」を行う。しかし、♀は林内の食樹の付近にいてほとんど活動せず、♂♀でまったく生活領域が異なっているため、何のために縄張りを確保するのかはっきりしない面がある。いわゆる高等なゼフィルスの中では最も訪花性の強い種で、午後になるとクリやシシウドなどの花で吸蜜する個体を見かける。また早朝には地上で吸水する個体も多い。



オオミドリシジミ 原名亜種 (シジミチョウ科 ミドリシジミ亜科 ミドリシジミ族)
Favonius orientalis orientalis  (Murray, 1875)
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州。島嶼では佐渡、対馬。北海道では平地~低山地、本州では低山地に普遍的で、南関東の平地に分布する唯一のFavonius属。
県内: 市街地と安房地域を除くほぼ全域に棲息するが、やや局地的な傾向を示す。
国外: 朝鮮半島、南千島、沿海州、中国東北部に分布する。本亜種は日本固有。
変異 形態: 若干の地理的変異が知られるが、国内での亜種区分は認められていない。♀には遺伝的多型が知られ、斑紋によってOA型、OB型、AB型などに分けられるが、やや不明瞭で、ほとんどがOA型である。
季節:
性差: 異型。♂は翅表が金緑色、♀は黒褐色。
生態 環境: 落葉広葉樹林、人家周辺の二次林(里山)に多く棲息する。
発生: 年1回。クリの開花とほぼ同時、平地や低山地では5月下旬~6月上旬、山地や寒冷地では7月上旬に姿を現す。稀に関東地方などはで9月上旬に生き残りの♀を見かけることがあるが、産卵は終了しているようである。
越冬: 。ただし、卵内では年内には幼虫体が形成されている。
行動: 昼行性。主に午前中に活動し、10時~11時頃がピークとなる。♂は強い占有性を示し、テリトリーに入った他の♂を激しく追飛したり、 「卍ともえ飛翔」したりする。♀は一般的に不活発で、食樹周辺に静止していることが多い。♂と♀は生活領域が異なる。
食性 幼虫: 食植性/新芽若葉。平地や低山地では主にコナラ。他にはクヌギ、ミズナラ 、カシワ、ナラガシワ、アベマキなどのブナ科落葉樹(ナラ類)を好むが、地域によってはアカガシ、アラカシ、シラカシ、ウラジロガシ、ツクバネガシなどのブナ科常緑樹(カシ類)からも卵が見つかることがある。 若齢幼虫は新芽や花穂に食い入り、中齢以降は葉を葉縁から食べる。 県内ではほとんどの地域でコナラが利用されている。
成虫: 食植性/花蜜。高等なミドリシジミ族の中では訪花性は比較的強く、クリ、シシウドなど白色系の花で吸蜜する。♂は早朝に湿地で吸水したり、葉上に残った夜露を吸うことがある。
類似種: クロミドリシジミを除くFavonius属各種は互いに酷似するが、他の種は県内には分布しない。ミドリシジミに似るが、裏面の地色が異なる。
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:A(区部)、埼玉県:NT1(荒川以西・大宮台地/CR+EN)、栃木:
その他: 普遍的に分布するが、県内での個体数はさほど多くない。卵はかなり多く見かけるが、成虫を見かけることは少ない。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、カイコノクロウジバエ(Pales pavida (Meigen))、Phryxe nemea (Meigen)、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のアカエグリヒメバチ(Ulesta agitata (Matsumura et Uchida, 1926))などが知られる。

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