ヤマトシジミ

大和蜆蝶 (シジミチョウ科)


2002/07/27 10:35 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 小型のシジミチョウ。ベニシジミと並び、これも日本の野原を代表するシジミチョウだが、野原でなくても食草のカタバミさえあれば棲息し、数も結構多いので、都市部を含めてたいていどこでも出会うことができる。ただ地上すれすれをちょろちょろと飛ぶ小さなチョウなので、うっかり見逃してしまっていることが多い。
 写真は、千葉市緑区で7月下旬の午前中、林縁で休息する高温型の♂である。性差は翅表の斑紋に表れ、♂は空色、♀は黒褐色なので翅表さえ見ることができれば一目瞭然。低温型は♂♀共に高温型より青色鱗が発達し、♂は外周の黒色帯が狭くなり、♀は翅中央部に青色部があらわれる。ルリシジミやツバメシジミ、シルビアシジミと似るが、ルリシジミより一回り小さく、ツバメシジミのようなしっぽを持たないので簡単に区別できる。なお、シルビアシジミとは裏面の斑紋が若干異なる程度であり、翅表ではほとんど区別できない。
 県内では4月上旬~11月下旬まで見られる。飛翔は比較的敏速だが、長い間飛び続けることはなく、すぐに付近の草上や地上などにとまる。訪花性は強く色々な花に集まるが、最もよく集まるのはカタバミの花。このチョウはカタバミさえあれば生きてゆけるようだ。見かけは華奢だが、結構たくましいのかもしれない。ちなみに英語圏では"Pale Grass Blue"と呼ばれている。



ヤマトシジミ 日本本土亜種 (シジミチョウ科 ヒメシジミ亜科 ヒメシジミ族
)Zizeeria maha argia (Menetries, 1857)
分布 国内: 本州(岩手以南)、四国、九州、南西諸島。伊豆諸島以西のほぼ全ての周辺島嶼。
県内: 市街地を含め全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島南部、台湾、中国(中南部)~インドシナ、インド、ヒマラヤ、カシミール、パキスタンに分布する。原名亜種は中国~ヒマラヤ産で標式産地はヒマラヤ。
変異 形態: 日本産は吐喝喇列島の悪石島以北と小宝島以南(ssp. okinawana (Matsumura, 1929))の2亜種に分けられる。
季節: 日本本土亜種では明瞭。低温型(春秋)、高温型(夏)が知られる。
性差: 異型。♀は翅表の黒褐色部が♂より広い。
生態 環境: 田畑周辺や人家近く、野原や路傍などの比較的開けた環境 。一般に平地性の種で、山地には少ない。
発生: 多化性通常年4回5回。寒冷地では3回~4回。暖地では5~6回、南西諸島では周年発生している。夏季は約 1ヶ月で世代を終えることが知られているため、実際にはもっと多いものと考えられる。関東以北では特に秋に個体数が増加する。
越冬: 幼虫(3齢~終齢)。幼虫は秋に気温が下がると食草を下り、地上の落ち葉の隙間や石の下などで越冬する。巣などは作らない。冬季でも完全には休眠せず、温暖な日には食草に登って摂食する。
行動: 昼行性。飛翔は緩やかで長く飛び続けることはなく、すぐに草上や地上に翅を開いてとまる。夏までは地表近くを低く飛ぶが、秋の午後には低木の樹冠周辺を飛ぶこともある。一生を通じて食草に依存し、その群落から遠く離れることはない。産卵は食草の葉裏などに1個ずつ行われる。
食性 幼虫: 食植性/若果カタバミ科のカタバミ、ミヤマカタバミ。平地では前者、山地では後者が利用される。若齢幼虫は葉裏から舐めとるように食べて表皮組織を残すが、中齢以降は葉のみならず花や実、茎など何でも食べる。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、タンポポ類、ヒメジョオン、ハルジオン、シロツメクサ、キツネノマゴ、ツルボ 、センダングサ類など多くの花で吸蜜するが、特にカタバミによく集まる。高温型の♂は湿地で吸水することもある。
類似種: シルビアシジミと酷似するが、裏面の斑紋が相違する。
保 護: 指定されていない。
その他: もっとも身近なシジミチョウのひとつで、個体数も多い。園芸種のムラサキカタバミやイモカタバミでも飼育できる。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 終齢幼虫から蛹化脱出するコマユバチの一種が知られるが未同定。 ほかにヤドリバエ科のサンセイハリバエ(Aplomyia confinis (Fallen))、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のツバメシジミセアカヒメバチ(Neotypus nobilitator iwatensis Uchida, 1930)が知られる。

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