アオスジアゲハ

青条揚羽蝶 (アゲハチョウ科)


2003/5/13 9:25 袖ケ浦市下宮田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 小型のアゲハチョウ。体の割に翅は小さいが、その翅で青い稲妻の如く非常に機敏に飛ぶ。翅の中央に走る水色の縦条部には鱗粉を欠くため半透明で、上空を飛ぶ本種を下から見上げたとき青空を透かしてこれに溶け込んでしまう。私の最も好きな蝶のひとつである。英語圏ではその斑紋から"Common Bluebottle"と呼ばれている。
 写真は、袖ヶ浦市上宮田で5月中旬の朝、地上で日光浴する春型の♂である。性差は翅形に表れ、♂は後翅の内縁にひだ状の折り返し部を持ち、その中に灰褐色の長毛を多く生じ るが、大きさや斑紋などに差がないので区別するのは結構難しい。夏型は一般に春型より青色部が細い個体が多いが、個体差もかなり大きいので不明瞭である。生態も含めて近縁のミカドアゲハに似るが、翅の斑紋が異なるので簡単に見分けられる。
 アゲハチョウ類の多くは赤色や紫色系の花を好むが、本種はウツギやイボタノキ、シシウド、ノリウツギなど白色系の花で吸蜜する姿を多く見かける。また、吸蜜の際は翅を細かくはばたかせ、アゲハチョウの中では珍しくとまるときには翅を閉じることが多い。夏型の♂は非常に吸水性が強く、湿地や渓流の浅瀬、ときには海岸の砂浜などでも吸水し、大集団をつくることもめずらしくない。本来は温帯性照葉樹林のチョウだったと考えられているが、幼虫がタブノキやクスノキ、イヌガシなどのクスノキ科常緑樹を食べるので、公園のほか神社や寺院の境内など都市部でも姿を見ることが多い。クロタイマイとも呼ばれる。



アオスジアゲハ 日本・朝鮮亜種 (アゲハチョウ科 アゲハチョウ亜科 アオスジアゲハ族)
Graphium sarpedon nipponum  (Fruhstorfer, 1903)
分布 国内: 本州(秋田-岩手南部以南)、四国、九州。島嶼では佐渡、伊豆諸島、隠岐、対馬、壱岐、五島列島、南西諸島。食樹の関係から東北地方では稀。 北限はタブノキの分布北限に一致し、平地~山地まで汎く分布する。
県内: 市街地を含めて全域に棲息し、個体数も多い。
国外: 朝鮮半島南部、東洋区のほぼ全域~豪州北部にかけて汎く分布する。原名亜種はインド北部~フィリピン(ロンボク)産をさす 。日本産は分布の北限にあたり、本亜種には朝鮮半島産を含む。
変異 形態: 比較的顕著な地理的変異があり、かつてはいくつかの亜種に細分されていたが、近年は本亜種に統一されたようである
季節: やや不明瞭。斑紋が若干相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。斑紋に差はないが、♂は後翅内縁に襞状の折り返し部をもち、灰褐色の長毛を多く生じる。
生態 環境: 食樹の自生する樹林(温帯性照葉樹林)。日当たりのよい林縁的環境を好むが、人家周辺や市街地など多様な環境に進出する。
発生: 多化性。本州では通常年3回4回、4月上旬に姿を現す。北限付近では2回、九州南部では4回~5回程度、南西諸島では5回~6回。ただ、第2化個体がそのまま休眠蛹となって越冬することもあり、かなり複雑な様相を呈す。
越冬: 。食樹の葉裏や他の枝、付近の建物などに見られるが、数個体がまとまって蛹化していることが多い。葉裏で蛹化する際にはほぼ例外なく頭部を葉柄に向ける。
行動: 昼行性。移動性は強く、飛翔は敏速で、波形を描いて鋭く飛ぶ。♂は樹木のある山頂付近を 比較的緩やかに飛んで占有し、同種の♂のみならず他種とでも激しく追飛する。
食性 幼虫: 食植性/クスノキ科常緑樹のクスノキヤブニッケイタブノキシロダモ、イヌガシ、カゴノキ、バリバリノキのほか、クスノキ科落葉樹のアブラチャンなど。3齢までは主に新芽や若葉、4齢以降はこれらに加えて硬化した成葉や越年葉も食べる。県内ではタブノキとクスノキ、シロダモが多く利用されている。他県ではマメザクラで羽化に至った例が報告されているという。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、ハルジオン、アザミ類、ツツジ類、ウツギ、イボタノキ、イタドリ、センダン、ヤブガラシ、ネムノキ、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、白色系の木本の花を好む傾向がある。吸水性は非常に強く、♂は湿地でよく吸水し、大集団を形成することも稀ではない。
類似種: ミカドアゲハに似るが、斑紋が相違する。
保 護: 指定されていない。
その他:
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類 、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫はオオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類。
寄生: 幼虫に寄生し、蛹から脱出するキアシブトコバチ、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のアゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)などのほか、終齢幼虫から脱出するヤドリバエ科のマダラヤドリバエ、Senometopia prima (Baranov)などが知られる。

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