分布 |
国内: |
本州(東海以西)、四国、九州。島嶼では対馬、壱岐、五島列島、南西諸島全域。平地~低山地が分布の中心。 |
県内: |
南部を中心に、断続的に船橋市あたりまで記録がある。 |
国外: |
台湾、中国(中南部)~インド北部、ニコバル、インドシナ、マレー半島~フロレス諸島 、ボルネオ、ジャワなど東洋熱帯に汎く分布する。原名亜種はジャワ産で標式産地はジャワ西部の「スカブミ」。日本産は分布の北東限にあたる。本亜種は日本固有。 |
変異 |
形態: |
比較的顕著な地理的変異が認められ、かつては奄美諸島以南産を別亜種としていた。ただ、クライン現象を呈していて線引きが困難なため、近年では本亜種に統一されたようである。日本産は基本的に無尾型のみだが、原名亜種や台湾産(ssp.
heronus Fruhstorfer, 1902)の♀では有尾型が優性であり、稀に九州などを中心に国内でも採集されることがある。 |
季節: |
個体差が大きいため不明瞭。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。一般に高温期の♀は白色鱗が発達し、♂は後翅表の青緑色鱗が発達する。 |
性差: |
異型。♀は後翅表中央部に白色部をもつが、♂はこれを欠き、ほぼ黒一色。 |
生態 |
環境: |
人家や果樹園の周辺に多く見られ、原生的な樹林にはほとんど生息しない。 |
発生: |
多化性。通常年3回。4月下旬頃姿を現す。九州南部では3回~5回、南西諸島では5回以上と周年発生に近い状況で、1月にも成虫が見られる。県内での発生状況は不明だが、4月下旬~5月上旬には第1化個体が出現し、安房地域などでは10月中旬ごろまで見られる。 |
越冬: |
九州以北では蛹。食樹の枝や、人家の壁や塀など雨の当たらないさまざまなものに付着している。奄美大島以南では非休眠の幼虫態でも越冬する。 |
行動: |
昼行性。飛翔は比較的緩やかで、♂は林縁などに蝶道を作り、やや低い位置を飛ぶ。気温の低い午前中などは草上などで翅を開いて日光浴することがある。 |
食性 |
幼虫: |
食植性/葉。野外ではミカン科ミカン亜科に限られ、国内では栽培ミカン類の他にカラタチなども利用される。県内ではほとんどすべての場合栽培ミカン類。 |
成虫: |
食植性/花蜜。訪花性は強くアザミ類、ツツジ類、ユリ類、イタドリ、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。夏型の♂は湿地で吸水するが、他の黒色系アゲハと比較して観察例は少なく、群れを作ることはほとんどない。稀に♀も吸水することがあるという。 |
類似種: |
- |
保 護: |
指定されていない。 |
その他: |
県内ではここ数年間毎年記録されており、また春型も記録されていることから定着したものと考えられる。 |
天敵 |
捕獲: |
幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。 |
寄生: |
幼虫に寄生する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のアゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、前蛹期に産卵するアオムシコバチなどのコバチ類が知られ、いずれも蛹から脱出する。他にはヤドリコバチ類。終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエなど。 |