クロアゲハ

黒揚羽蝶 (アゲハチョウ科)


2003/7/20 17:30 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型~大型のアゲハチョウ。大柄で派手な種類が多いアゲハチョウの中で最も地味な種のひとつ。しかし、黒一色の地色はビロウドのような弱い光沢をもち、後翅外縁に並ぶ紅色の斑紋がアクセントとなって、なかなか渋い趣きを醸している。県内に棲息する黒いアゲハチョウの中では最も目にする機会が多い種だが、県内ではやや山地性の傾向を示し、市街地などにはあまり姿を現さない。英語圏では"Spangle"と呼ばれている。
 写真は、千葉市緑区で7月下旬の午後、林縁で休息する夏型の♂である。羽化直後の新鮮な個体で、後翅の赤色斑紋が鮮やかである。性差は斑紋に表れ、♂は後翅の前縁に黄白色の性標をもつので、♂♀の区別は簡単。また季節変異は比較的明瞭。夏型は春型より大型で、一般に後翅の紅色斑紋が発達する。オナガアゲハに似るが本種のほうがはるかに尾状突起が短く、翅が丸みを帯びるのでそれほど区別は難しくない。
 日本列島のものは後翅にやや短く太いしっぽ(尾状突起)をもつが、世界的にはこれを欠くのが普通で、沖縄では無尾のものが比較的多く見つかっているという。夏型の♂はよく湿地や渓流の浅瀬などで吸水し、時に大集団を形成することがある。また、♂は蝶道をつくって飛ぶが、ナミアゲハより陽のあたらない薄暗い林縁や林内を飛ぶことが多い。これは色が黒いので太陽熱を余計に吸収しないようにするためだといわれている。



クロアゲハ 日本亜種 (アゲハチョウ科 アゲハチョウ亜科 アゲハチョウ族)
Papilio protenor demetrius Stoll, [1782]
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では南西諸島。東北地方北部では個体数が少ない。分布の中心は平地~低山地であり、山地での個体数は比較的少なく、標高1,000mを超える地域にはほとんど分布していない。
県内: 一部の都市部を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島南部、台湾、中国(中南部)、カシミール~インド北部、ヒマラヤに分布し、典型的なヒマラヤ型の様相を示す。原名亜種はインド北部~中国産をさす。日本産は分布の北東限にあたり、本亜種は日本固有。
変異 形態: 顕著な地理的変異が知られ、沖縄以南産は別亜種(ssp. liuliuensis Fruhstorfer, [1899])とされる。また台湾や中国では無尾型がほとんどで、国内でも稀に尾状突起を欠く個体が見られる。
季節: やや不明瞭。大きさが異なるが、斑紋の差は小さい。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: 異型。♂は後翅表前縁に黄白色の性標をもつ。
生態 環境: 食樹の自生する樹林内の空き地、渓流沿い、林縁など、やや暗い環境を好む。
発生: 多化性通常年3回。九州南部で3回~4回、南西諸島では4回~5回程度発生する。本州では4月下旬に姿を現す。
越冬: 。食樹の枝やその周囲の樹木の枝などの、直射日光や雨の当たらない場所に付着している。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、林縁などのやや薄暗い場所に蝶道をつくって飛ぶ。盛夏の日中など気温の高い時間帯は樹林内で翅を開いて休息していることが多い。
食性 幼虫: 食植性/ミカン科サンショウイヌザンショウカラスザンショウミヤマシキミが主 。他には栽培ミカン類やカラタチ、キハダ、コクサギなどでも卵や幼虫が見つかる。薄暗い林内の、やや発育の悪い食樹が選ばれることが多い。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。春型はツツジ類、夏型はヤブガラシで吸蜜している個体をよく見かける。夏型の♂は湿地でよく吸水するが、時に集団をつくることがある。春型の♂にも弱い吸水性がある。
類似種: オナガアゲハと似るが翅形が、モンキアゲハに似るが斑紋がそれぞれ相違する。
保 護: 指定されていない。
その他: もっとも普通に見られる黒色系ののアゲハ。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。
寄生: 幼虫に寄生する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787)、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、前蛹期に産卵するアオムシコバチなどのコバチ類が知られ、いずれも蛹から脱出する。他にはヤドリコバチ類。終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエ、Argyrophylax atricauda Mesnilなどが知られる。

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