ダイミョウセセリ

大名挵蝶 (セセリチョウ科)


2002/5/16 13:10 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 やや大型のセセリチョウ。前翅に白斑、後翅後縁には白色帯をもち、紋付の羽織袴で正装した殿様のようないでたちである。和名もこのような斑紋に由来するが、属名もそのままDaimio(大名)。命名者もなかなか粋な学名をつけたものである。伊勢湾~若狭湾付近で亜種(型)が分かれていて、県内のものは原名亜種(関東型)とされている。また、その境界付近では両者の中間型のような個体も多く見られるという 。西日本の個体は白斑が発達し、後翅の中央付近に白色条斑紋がはっきりと認められる。
 写真は、千葉市緑区で5月中旬の午後、林縁の下草上で休む♀である。性差は斑紋に表れるがきわめて微妙、♀は一般的に♂より白斑が発達する傾向があるが、個体変異も著しいので外見での区別は難しい。また、基本的には多化性で、県内では年に3回ほど世代交代するが季節変異は知られていない。南西諸島に棲息するコウトウシロシタセセリにちょっと似ているが、本土では記録されていないので見間違える心配はない 。
 ♂は日中に弱い占有性を示すようで、領域に侵入した他の個体をやや激しく追飛する。♂♀共に訪花性はかなり強く、さまざまな花で吸蜜するが、特にスイカズラやウツギ、シロツメクサ、ヒメジョオンなどの白色系の花を好むようだ。飛翔は敏速だが長く飛び続けるようなことはなく、すぐに付近の葉上などにとまる。静止時にはほぼ必ず翅を開き、驚かすと付近の葉裏に翅を広げてぴったりと貼り付くという面白い習性を持つ。



ダイミョウセセリ 原名亜種 (セセリチョウ科 チャマダラセセリ亜科)
Daimio tethys tethys (Ménétriès, 1857)
分布 国内: 北海道(南部)、本州、四国、九州。島嶼では佐渡、隠岐、五島列島。 平地~低山地が分布の中心。本亜種は日本固有。
県内: 一部の市街地を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、沿海州、台湾、中国(北部~中部)~ミャンマー北部に分布する。原名亜種は東日本産で、標式産地も「日本」とのみ記される。
変異 形態: 顕著な地理的変異が知られる。西日本産は別亜種(ssp. daiseni Riley)で、境界は若狭湾東部~伊勢湾西部とされる。 ただし、その境界付近では両者の中間的な形質を持つ個体が多く出現する。
季節: 知られていない。
性差: ほぼ同型。大きさと翅形に差はない。一般に♀は♂より白色斑が発達する傾向があるが、個体差も大きく不明瞭。正確な判定には腹端を精査する必要がある。
生態 環境: 食草の自生する樹林および樹林のマント群落あるいはソデ群落。日当たりのよい林縁的環境を好む。
発生: 通常年3回。4月上旬ごろ姿を現す。寒冷地では2回。
越冬: 幼虫(終齢)。 食草の根元の落葉の隙間などで見つかる。翌春摂食せずに蛹化する。
行動: 昼行性。飛翔は敏速だが長時間飛び続けることはなく、すぐに付近の草上などにとまる。静止時には ほとんど例外なく翅を全開する。また驚くと翅を開いて付近の葉裏に貼りつくように隠れる習性がある。♂は日中に弱い占有性を示し、他の♂や小昆虫などを追飛することがある。 産卵の際、♀は腹端の毛を卵にこすりつけてカムフラージュする習性がある。
食性 幼虫: 食植性/ヤマノイモ科ヤマノイモオニドコロが主。他にはナガイモ、ツクネイモなど。
成虫: 食植性/花蜜汚物。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ハルジオン、ヒメジョオン、ウツギ、イボタノキ、クリ、スイカズラ 、ヤブガラシ、シロツメクサなどさまざまな花で吸蜜し、汚物にも集まる。
類似種:
保 護: 指定されていない。
その他:
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類やサシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、大型~中型カマキリ類、造網性クモ類。
寄生: 幼虫に寄生するコマユバチの一種、蛹に寄生するヒメバチ科ヒメバチ亜科のアカエグリヒメバチ(Ulesta agitata (Matsumura et Uchida, 1926))が知られる。

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