*住民意識の変化
  基地に対する住民の考えも、大きく変化してきています。私が住んでいる所は基地の町の端の方とは言え、とても私みたいな者が、今から二〇年前では住めるような所ではありませんでした。基地に真っ向から反対している男なんですから。もちろん家内もここの土地、川下で生まれております。私の親戚も、ずいぶん多い。でも、非常に住みよい所で、来てみてびっくりするほどです。噂に聞きますと、私のことで、「基地に反対しているおかしな奴が今度来るらしい」というのがあったようです。市民の方はよく知っていますから、ずいぶん警戒されたらしいですが、案外そうでもなくて、ずいぶん親しくさせてもらっています。
  それほど、住民の方の基地についての関心が高いです。平和委員会は、要求を入れてくれる一つの団体であるわけなんです。基地にかかわる生活問題について、ご意見を聞いてあげて、こうしたら、というような相談に乗ったりしています。この前も防衛施設庁まで行ったり、自治会の総会に出て発言したり、また近所の人とも話をしたりしています。
  基地のある町で生活するのは、直接・間接に、ものすごく影響を基地から受けるのです。たとえば、さきほどの沖合移設のような基地建設という問題や、平田を開発していくとなったら愛宕山開発。そうすると私の兄弟の中にもあそこに土地を持っている者もおりますので、すぐ関係してきます。岩国市の中に、あれほど広大な面積を持つ基地があるというのは、ものすごく影響があるわけです。直接的にも雇用関係がありましょうし、間接的にも利害関係がありましょう。こういうことが、思わぬ形で出てきます。そういう意味でも、基地問題に取り組まなければいけないということです。
  しかし、いずれにしても、最近の変化という点では、基地と住民の経済面での直接的なつながりがなくなってきているということです。自分の家を貸せなくなったし、バーがだんだん寂れてくるから、川下の町全体が寂れてきた、ということがあります。そういう面では、「もう、基地では駄目なんだ」という表現になっております。
  最近、岩国基地の民間航空機乗り入れによる軍民併用という話もありますが、私は、併用は危険でできない、不可能なことと思っています。しかし、基地を返還させるための一つの方法論として、その人たちはそのような主張をしているのであって、いわば基地反対とはっきり言えないから、そういう方法を採るのだと思うのです。
  民間の飛行機であれば(宇部でもそうですが)、あれほど大きな土地は必要ないのであって、今の三分の一もあれば結構だと思うんです。今の滑走路から沖合ぐらいで、けっこう間に合うと思いますから、あとは返還させる。沖合移設でも、基地を沖合に移して、跡地は全部返して民間空港にしますということなら、また全く別の問題です。そういう方向は出さずに、「今のままでは危険だから、とにかく沖合移設を」というのはどうでしょうか。もともとの計画の出発点は、「沖合移設して、あとは返してもらうんだ」ということを、むしろ基地に賛成する人たち、つまり安保擁護・基地存続派の人たちが言い始めたのです。おそらく、基地闘争が起こってくるのを恐れたり、それを阻止するために言い始めたのです。それがだんだん便乗していって、今では、基地はそのままで、あとは返しません、というぐあいになっているようです。だから併用という言葉を使っています。基地を、今すぐとは言わなくとも、将来にはなくすのだという姿勢が明確でないのは、おかしいのではないかと思うのです。
  米軍が一番気にしているのは、住民の基地に対する意識です。だから、「基地は邪魔者なのだから一日も早く帰ってください」ということを基本的に出して、あとで交渉することもできるんです。今は、当たらず障らずのような態度です。その姿勢が問題だと思います。この前、判決が出ました沖縄の嘉手納基地の問題によく似ていると思いますが、いろいろ新聞読んでみても、判決についてよくは言っていません。そういう基地に対する批判的な姿勢を県はやはり出すべきで、そして岩国の姿勢もそうであって、初めて基地と対等な喧嘩ができるんじゃないでしょうか。
  最近でも、かなりの変化が基地側に出ています。たとえば、基地の中の報道部というのは、向こうの姿勢が現れる一つの部署でしょう、何と言っても、一番接触するところですから、今は女性の少佐なのです。階級は、下士官・尉官・佐官となります。しかも、海兵隊の女性というのは、学士出ないと駄目なのです。『海兵隊研究』という本に、学歴はそうなのだと載っています。学士号がなければ、佐官以上にはなれない。普通の大学を出ただけでは尉官までです。それが報道部長ですよ。最近、私たちに対する基本的な折衝機関に、そういう経歴の人、しかも女性を初めて注ぎ込んだということに、基地の住民に対する気遣いが現れているように思います。

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