午後

      彼にとっては地獄だったかもしれない

      だが重荷を課すのも期待しているからだ

      多分。






      ―――――――――――Let's Work!―――――――――
      〜午後〜





      会議室に帰ってからのビクトールはすごかった。

      猛烈な勢いで書類を片付けていく。その勢いはビクトールからすればかなりのものなのだが、の通常のペースからすればまだまだだ。

      そのため、三時を過ぎた段階でビクトールが一人でこなす事が不可能だとはっきり分かった。

      三時の休憩と言って一緒に紅茶を飲みながら、は溜息混じりにぼやく。





      「最初っから無理だとは分かってましたけどねぇ・・・・・・・」

      「無理って分かってりゃやらせるなよ。」

      「そうですね。所詮クマさんに人間がこなすことをやれっていうほうが無理ですよねぇ・・・・・・・・」

      「そこはかとなく失礼だな。今日のお前は。」

      「冗談の通じないタイプだとは知りませんでした。」

      「・・・・・・・冗談なのか?」

      「さぁ?」

      「・・・・・・・・・・・・・・・」





      ビクトールはもはや諦め講義することなく紅茶をすすっている。

      は相変わらず眉を寄せながら残りの書類の量を目算する。

      (何でまだ会計書類すら終わってないんだ・・・・・・・?)

      机の上の書類を見ると、まだ会計の途中のようだった。この調子では今日中に会計の書類が終わる可能性も危うい。

      (これは今日中に終わらせないとなのに!!)

      自分の計算が甘かった事と、これからの予定に頭を抱えたくなる。

      そんな事情を知って知らずか、ビクトールがおかしそうに言う。





      「なぁ、。少し頭が痛いんだが・・・・・・・・?」

      「あぁ、もう。仕方ないですね。誰か助っ人探してきてください。」

      「いいのか?」





      ビクトールは弾かれたように振返ると、は溜息交じりで答える。





      「仕方ありません。
      あ、ただしフリックさん以外で会計のできる人ですよ!!」

      「分かってる!!」





      そう言うが早いか、ビクトールは紅茶を飲み干し、会議室を駆け出していく。

      その様子は会計の計算をしなくて済むという喜びであふれていた。

      ビクトールは人柄ゆえか、面倒見がいいからか、いい人脈を持っている。適任者を見つけてきてくれるだろうと、

      のんびりと紅茶を飲みながら待つ。

      案の定、ビクトールはすぐに一人の傭兵を連れてきた。名前は確か・・・・・・・・・・





      「ジェイさん・・・・・・・・でしたよね?」

      「ああ。隊長にいきなり連れて来られたんだが、何か?」

      「はい。ちょっとお手伝いをお願いします。」

      「手伝い?」

      「俺のではなく、ビクトールさんのですが。」

      「わかった。何をすればいいんですか?隊長。」

      「会計の書類整理だ!!」

      「・・・・・・・・・・またですか。」





      また、という事は前にもあったのだろう。

      もしかしたら年度決算などには常に狩り出されている人物なのかもしれない。

      は可愛そうに思いながらも、進行状況や、書類と資料の位置、注意事項を告げると、書類をどさっと渡す。

      ジェイはきちんと黙って聞き入っていたが、流石に渡された書類の多さに驚く。





      「これ全部今日中ですか?」

      「はい。できれば。
      無理なようなら俺に言ってください。すぐに片付けますんで。」

      「いや。可能だが、他にも書類はあるだろう?一日にこれだけの量をこなしているのか?」

      「はい。隊長が溜めに溜めたものがありますので、過去のものを処理しつつ、今の書類も片付けないといけないので。」

      「・・・・・・・・・・君だったな?」

      「はい?」





      なんだろう。ジェイが改まって名前を確認する。

      の名前は砦を訪れた時に広まっている。更に最近では事務を一気に引き受けていることから、隊長・副隊長と同じように

      あつかわれることがある。

      何故なら傭兵とは得てして事務が苦手だからだ。





      「君、いや、さん。私はなたに敬意を評します。」

      「えっと、ありがとうございます?」





      そう言うと、ジェイはさっさと書類に取り掛かる。

      は狐につままれた気分になりながらも、ビクトールに確認して印を押せばいいものを渡す。

      そうすると、また会議室には紙の擦れる音と、ペンの走る音だけが満ちてくる。

      今日は午後のぽかぽか陽気とあいまって、静かな空間が心地よい。

      そして開始から一時間後・・・・・・・・・・・・・・・・・



      「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」



      砦を揺るがす悲鳴が響き渡ったのは仕方ないのかもしれない。










      その日の夜、フリックは稽古を終え汗を流してから酒場に来ていた。

      そこにはジェイの他おらず、彼は少し疲れた様子がしていた。

      訓練中、ビクトールに呼び出されたところをみていたので、フリックには疲れの原因が何となく分かった。

      (大方ビクトールの手伝いをやらされたのだろう。)

      実際にその通りだったのだが。





      「よう。ジェイ。そっちの様子はどうだった?」

      「フリックさん・・・・・・俺は今日始めてさんの苦労が分かった気がします・・・・・・・・・」

      「そんなに大変だったのか?」

      「というより、半端じゃない量を毎日こなしていたんですね・・・・・・・・・」





      『これからはちょくちょく手伝いに行こうかと思います。』というジェイにフリックは苦笑いを送りつつ、

      『そうしてやってくれ。』と話していると、が酒場へと降りてきた。

      フリックは当然その後に続いて降りてくるだろう人物に労いの言葉を送ってやろうと思ったが、いっこうに

      降りてくる気配がない。

      おかしく思ってに話しかける。





      「、ビクトールはどうした?」

      「ビクトールさんは医務室によってから来ます。」

      「医務室?」

      「はい。頭痛と打ち身で。」

      「頭痛は何となく予想がつくが、打ち身・・・・・?」





      は呆れた様子で淡々と理由を語る。

      フリックはその内容に驚愕する。





      「居眠りをかましやがりましたので、ちょっと背後から気配を消して近づき、椅子の足を蹴飛ばして転がして
      首のすぐ横に剣を突き立てただけ
      ですよ。」

      「つ・・・・・!ちょっとじゃないだろ!!」

      「ちょっとですよ。俺がやられた事に比べれば・・・・・・・・・」

      「どんな経験してんだよ・・・・・・?」





      はふっと溜息を漏らすと『人には色々あるんです』と言うと遠い目をする。

      思わずジェイに視線を送るが、ジェイは苦笑して笑っている。

      その様子を見ると、そんなに酷い様子にはなっていないようだ。

      フリックは少し安心すると、酒を飲みだす。

      そうこうしているうちにビクトールも降りてきた。

      その手にはさっき言われた通りに紙袋がある。おそらく薬が入っているのだろう。

      ビクトールは席に着くと、レオナに麦酒を頼んで深々と溜息をつく。







      「どうだった?今日一日。」

      「最悪だったよ。あんなに書類があるなんて思ってなかった・・・・・・・・・・」

      「仕方ないじゃないですか。俺が来る前に溜めて下さったようですから。」

      「だから悪かったって・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

      「?どうした、ビクトール?」

      「なんか調子悪くってよ・・・・・・・・・どうやら頭を使ったのと、神経的なモンで熱があるらしい・・・」

      「・・・・・・知恵熱か。」

      「だな。」





      そう言うと、粉薬を水無しで飲む。

      ビクトールに薬。何て似合わない組み合わせなんだろうと思うが、

      それ以上にそんな状況にさせたが恐ろしい。

      すると、ナナミがビールを運んできた。どうやら今日はお手伝いをしているらしい。





      「はい!ビクトールさん!!」

      「おお。ナナミか。サンキュウ」





      そう言うと、ビクトールは一気にビールを飲もうとして・・・・・・・・



      ゲホゴホ!!

      「おい!ビクトール!!」




      盛大にむせて、目を白黒させている。






      「びっ・・・ビールじゃぁねぇ!!」

      「はぁ?」





      フリックは残っているジョッキの中身を飲む。

      確かに色や見た目はビールそのものなんだが、まったくアルコールの味がせず、

      ある意味よく知っている味がした。





      「・・・・・・麦茶?」

      「そうだよ。泡立て麦茶。」

      「ナナミ!!」

      「だって、ビクトールさんダイエット中なんでしょう?
      ビールは太る元なんだから、暫く飲んじゃダメ!!私がちゃんと見ておいてあげるから!!」

      「そんな・・・・・・・・・・・・・・!!」

      「お、おい!ビクトール!!」






      ナナミのその言葉を聴くと、ビクトールは精根尽き果てたようにばたりとテーブルに倒れこんだ。

      おそらく書類整理による疲れと、昼間の心労、更に酒が飲めないと言うショックが決定だとなり

      倒れたしまったのだろう。

      フリックが必死に起こそうとする同じテーブルで、とジェイは溜息をついた。





      「結局俺が書類をやるんだなぁ・・・・・・・・・」

      「お手伝いしますよ。さん。」






      【追記】

      その後ビクトールは三日間ほど寝込みんだ。

      そして、その理由をダイエットのし過ぎと偽って『もうやめる』とナナミに宣言して

      ようやく酒を飲めたらしい。

      その際、『酒ってこんなにもありがたかったんだなぁ・・・・・・』と呟いたのを聞いたのは

      フリックとだけだったらしい。






      最初は悪戯から始まり

      次は期待の心が芽生えた

      しかし最後に残ったのは

      諦めと疑問

      何故こうも苦手なのだろう・・・・・・






      □□あとがきという言い訳□□

      とうとう書きました。ビクトールさんの不幸話!
      ドリ主黒いです!失礼です!!元々はこんなに黒くするつもりはなかったんですが・・・・
      ところで、この話の中でいくつか他の版権の台詞が出ています。探してみると面白いかも。