―――――――For what purpose does it pray?―――――――
大総統府。
軍部の中でも最も厳重な警備の中、俺はほぼフリーパスで進んでいく。
俺のいる諜報部は大総統閣下直轄だ。
何度も通い慣れたはずの重厚な扉の前に来ると、自然と緊張する。
溜息を吐くと、ノックをする。
「=です。」
「入りたまえ。」
間髪入れない返事に、苦笑すると扉の内側に体を滑り込ませる。
中は軍部を統べる者に相応しく、威厳と重圧を持っていた。
その奥で相変わらずニコニコとあんまりそれらしくない笑みを浮かべている大総統閣下が居た。
「お呼びのようでしたが?」
「うん。少し話をしたくてね。」
「俺などで宜しければ。」
俺もニコニコ。
閣下もニコニコ。
はっきり言って、ただの映像で見れば和やかな絵だろう。
だが、俺は彼の笑顔が笑顔ではない事を知っている。
彼が浮かべているのは、ただの面に過ぎない。
「立ち話もなんだから、掛けなさい。」
「失礼します。」
うわ〜いやだなぁ・・・・・・座るってことは、長いんだよね・・・・・・話。
「相変わらず君は面白いね。」
「はい?」
「嫌な事はすぐに顔に出る。」
「それは失礼しました。」
「いや、私は君のそんなところも気に入っているのだよ。」
「ありがた迷惑ですね。」
溜息を吐くと、ゆったりとソファーに座る。
閣下ではなく、俺が。
「そういう、地位に執着しないところが面白いのだよ。」
「そうですか。」
猫を被るのも面倒で、俺は大佐たちと一緒に居る時のように、眠そうにする。
はっきり言って、無礼以外の何物でもないのだが、別に知った事じゃない。
「今日の試験はいかがでしたか?閣下。」
「うん。彼はかなり実力があるね。まだ若いのが少々気になるが。」
「でも、合格なのでしょう?」
「うむ。練成陣無しの錬金術とは素晴しい。」
そう言うと、満足そうに頷く。
だが、次の瞬間閣下は目を細めると、猛禽類のように鋭い目と気を向けてきた。
あ〜ここからが本題か・・・・・・
「君はあの練成を見てどう思った?」
やっぱりその話か。
俺は頭を掻きながら、相変わらずやる気なしな声で答える。
「・・・・・・見てますね。」
「やはりな。」
何がとは言わない。
何をとも言わない。
その一言で全てが通じる。
「あんな若いのに、何を願ったのか・・・・・・」
「若いから、でもあるだろう?」
「確かに。」
「そういうわけで、彼のことも調べておいてくれ。」
「どういうわけですか・・・・・・」
「ちなみに命令だ。」
「・・・・・・・・・・・・」
本題はそのことだったようで、閣下は元の表情に戻りニコニコしているが、俺はもう笑う気にはなれない。
あ〜仕事が増えちゃったよ。
「っていうか、話ってこれだけなんですか?」
「本題はな。」
「では、副題は?」
「ちょっと気になったのだよ。」
こんな話をするためだけに曰くありげに呼び出されたのかと思うと、疲れが押し寄せる。
閣下は相変わらずの表情を貼り付けたまま。
思わず『どうでも良い様な事なら二度と来ないぞ。』なんて不可能な事を考えて見たりもして・・・・・・
閣下の一言に驚かされた。
「練成を見たときの表情が気になってね。」
「・・・・・・・・・・・・」
心臓を鷲づかみにされた気分だ。
何で気づくんだろうね。俺の気持ちに。
「何を思った?」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は今日何度か吐いた溜息の中でも、一番深い溜息を吐き出すと、天井を見上げる。
ああ・・・・・・こんな時煙草の煙とかあったら絵になるんだろなぁ・・・・・・・・・
「。」
でも、残念ながら此処は煙草の煙は無い。
そして俺の拒否権も―――――― 何も 無い。
「 “For what purpose does it pray?” 」
「?」
珍しく、本当に珍しく訝しそうな閣下の声に俺は笑みを漏らすと、天井から視線をはずす。
「ただ、手を合わせて姿が、祈りの姿に見えたんですよ。」
「なるほど、中々ロマンチックな考えだね。」
「そう、ですね。」
錬金術師は科学者であり、現実主義者であり、理論主義者であるべき存在。
そんな彼等が神など信じる事も、ましてや祈る事などありえない。
その錬金術者の姿を祈る姿に重ねたりするなど、何とロマンチックで、非現実的なことか。
でも・・・・・・
「仕方ないでしょう。そう見えちゃったんだし。」
それに・・・・・・
「今の世の中、祈ったりしないとやってけないですよ。」
祈ったっていいじゃないか。とも思った。
「 “It prays that the blessing of God is in your destination!!!”
祈り上等!神様上等!!人は願いを捨てなければ生きていけます。」
「なんとも君らしい考えだ。
錬金術師としてはどうかと思うがね。」
そう言う閣下に俺は笑いかけると、提案する。
「どうかと思うなら、図書館に左遷・・・・・・」
「ははは!!!ありえないな。」
くそオヤジ・・・・・・!!!!
恨めしそうに睨むと、俺は席を立つ。
もう本題も、副題も終わったならいいよな。
「それでは、失礼します。」
「うん。またおいで。」
出来れば遠慮願いたい。
そう心底思った。
結局、予想通りエドワードは試験に合格したらしい。
彼の二つ名は『鋼』。
厳つい名だと大佐は言っていたが、俺は似合うと思う。
彼は鋼に似ている。
叩けば伸びる。
熱しやすく、冷めやすい。
そして
心の芯の部分が強い。
これから、各地を旅するといっていたが、彼の周りにはいろいろな事が起こりそうだ。
彼の体質なのか何なのか知らないが、大変だろう。
でも、多分平気。
だって彼は願いことをやめていないから。
でも
その祈りは
何の為?
" For what purpose does it pray? "
すっげぇ微妙過ぎ。
そして、続編の可能性あり。
|