驚く武巳に対して空目は淡々と説明をする。


「根本的に間違ってるぞ近藤。
確かに日本には八百万の神がいるといわれている。それらはまず、世界が天と地に分かれたときに生まれた神々がいる。これは実体がなく、存在しているだけの神だ。そしてその後、性別のあるイザナキとイザナミという男神と女神が現れる。」
「それは知ってるよ。確か日本列島作った神様でしょう?」
「そうだ。イザナミをイザナキは日本を作った後、様々な神を産んだ。これが本来日本に存在するとされた神々だ。一方今近藤が行った学問の神だが、お前の連想では受験のときにお参りに行くという事だったな?」
「うん。あれも神様だろう?」
「神という呼ばれるようになったのはつい最近だ。学問の神と言えば湯島天神の弘法大師だが、あれは荒御霊だ。」
「アラミタマ?」


頭にクエスチョンマークを浮かべている武巳には笑いを堪え、代わりに説明する。


「怨念を抱まま死んだり、非業な死を遂げた霊は怨霊になるのは分かるよな。」
「うん。」
「すると、死に追い込んだ人達―――具体的に言うなら、自分を追い落として昇進した奴等ってトコだな。こいつらは死んだ人間が怨霊になって自分を祟りに来るんじゃないかって、怖いわけだ。
謝るにも、立場があるからな。そこで取る手段が御霊会―――つまり怨霊を神として祭る事だ。」
「ちょっと、まってよ。敵だったヤツを神様にするの?」
「ああ。祭って、敬って、『貴方様はスバラシイお方ですから、どうか怒りを静めてくださいませ〜』って宥める訳だ。」
「効くの?」
「効く。っても、怨霊自体も霊能力者つまり、感染する人間のみにしか害は無いから、まぁ、要は気持ちの問題だよ。神として祭って安心する。」
「っていうか、何の話してたんだっけ?」
「神様と荒御霊の違い。」
「ああ、そうだった・・・・」


はそこまで説明を終えると、空目に視線を投げかける。


「話を戻すが、弘法大師も元々は人間で、死後怨霊になり荒御霊となったものだ。」
「何で怨霊になったの?」
「弘法大師、つまり菅原道真は優れた漢文・和歌の才能を持っている上に人格者であった為、鳥羽天皇に寵愛を受けていた。お陰で元々然程身分が高くなかったが、右大臣にまで上り詰めた。一方、左大臣・藤原時隆は年若く和歌も拙いので、この菅原道真が妬ましく目障りだった。そこで道真が天皇を殺し、新しい天皇を擁立しようとしているという噂を流して、九州・大宰府に道真を流させた。」
「うわっ・・・ヒデェ・・・・・・」
「その後道真は大宰府で恨みを持ったまま死に、怨霊となって京都に戻り宮廷を祟り、雷を落とし大極殿などを焼き払った。そこで、道真の怨霊を恐れた藤原氏が道真を神として祭り、後々道真が文学に秀でていた事から、文学の神として祭られる事になった。」
「ふ〜ん・・・知らなかった・・・・・・」


(いや、知らなかったマズイんだけどね。)

は内心溜息をつくと、もう一度空目を見る。
空目は本をもう棚に戻して、帰る準備を済ませている。


「そろそろ
帰ろうか。明日はテストだし、よく寝ないとね〜」
の薄情者〜!」