75前山久吉
観空庵遺愛品入札 昭和16年2月18日 東京美術倶楽部
観空庵は、愛知県出身の財界人前山久吉の号。三井銀行を経て、王子製紙、東京信託などの役員を務めたのち、浜松銀行頭取、共同保全会社社長などを歴任した。多くの三井系財界人同様、古美術のコレクターであったが、特に、古筆、やまと絵のコレクションによって、その名を知られた。
前山は、昭和12年の没しているので、この入札は、その遺品整理として実行されたものと思われる。「小大君像(上畳本三十六歌仙像)」(現、個人蔵)が43,900円、「公家列影図巻」(現、京都国立博物館)が46,300円など、優品が多数出品された。
なお、この売立の目録は、大正前半期同様、218×152mmの菊判サイズになっている。同年12月には、紙配給統制規則が公布されるなど、戦時統制経済の時代の中、紙の入手が困難になったことや、美術品の売買に対する社会の風当たりが強まってきたことを象徴するような体裁である。