【14】
「では、アリババくんの初めては全て俺がもらうということでいいか?」
小さな呟きに近いアリババの告白を聞き終えたシンドバッドは言った。
「は、初めて!」
動揺するアリババにシンドバッドは笑いかけた。
「そうさ。君の全部が俺が初めてなんて光栄だ。いいかい、初めてというものは一生に一度しかないんだ」
そう言いながら、つん。と、アリババの唇を指でつつくと、アリババは見る間にうろたえた。
「アリババくんのここも。そして、ここも。たぶん初めてだろう?」
アリババの胸のあたりをつんと、つつく。
「ここ?」
「そう、心。君は、俺に口づけされてもいいかなと思っている。そう思える気持ちも、初めてだろう?」
本当は、そんなこと口づけてしまってから問えばいいのだが、アリババ自身に自覚し認めてもらえないと意味がない。あくまで、自主的に。が、シンドバッドのモットーである。流されて欲しいわけではない。いや、同じ流されるなら自分で選んだと思いながら流されて欲しいのだ。
「俺の、気持ち……?」
「ああ、君の気持ちだ。俺とこうしていることと、これ以上のこと。嫌じゃないと思える気持ちだ」
アリババが胸に目を落とした。俺の気持ち。と、再度呟く。
「君は、どうしたい? このまま俺が相手でいいか?」
逃がしてやるつもりなどないくせに、こんなことを言うのも酷いなとは思うけれど。
「俺は……嫌じゃない」
「嫌じゃない?」
追い詰めるようにシンドバッドはアリババの目を覗き込んだ。アリババが目をそらす。赤い顔のまま、彼は非常に艶めかしい表情で小さく言った。
「シンドバッドさんが、いいです」
その言葉を待っていた。と、シンドバッドは、すっ。と、アリババの顔に己の顔を近づけて言った。視線が交ざり合う。更に近づくにつれて、アリババがそっと目を閉じた。僅かに、瞼が震えているのは彼がとても緊張しているせいだろう。
同じく僅かに震える唇にそっと己のそれを重ねる。
「んっ」
軽く触れただけで、アリババが体を震わせた。大丈夫というように、シンドバッドはアリババの背中を撫でてやる。
「アリババくん、好きだよ」
もう一度、キス。口づけをしながら、シンドバッドはアリババの後頭部に手を当てる。そうしながら、もう片方の手は背中から腰へと降りてゆき、そのままアリババの尻のあたりで止めて彼を引き寄せた。
「んっ……」
重なり合った唇は、乾燥していた。考えるまでもなく、その唇は女性のようにしっとりとしているわけではないが、それでもずっとシンドバッドには魅力的であった。そのアリババの唇の割れ目に舌でノックする。アリババが目を見開いた。シンドバッドは、目を細めてそのまま、にゅるり。と、舌をアリババの口の中にねじ込んだ。
「!!」
驚いたアリババが身を引こうとするが、それをさせじとシンドバッドは更に引き寄せて口づけを深くしてゆく。
ドンドンと、アリババがシンドバッドの胸を叩く。だが、それがだんだんと力が抜けてゆき、やがてシンドバッドの服を弱々しく掴む程度となってゆく。
ようやく、シンドバッドが満足して顔を離したとき、アリババは力尽きた。と、いうようにくてん。と、シンドバッドの胸に倒れ込んできた。それを抱え込んで、額に再び唇を落とす。
「アリババくん、好きだよ」
口づける前にも言った台詞を囁く。アリババが恥ずかしそうにうつむいた。
「アリババくん、君は?」
甘い声で尋ねると、アリババはシンドバッドの胸に顔を埋めたままモゴモゴといった。
好きです、と。
この瞬間を何と言おうか。このまま先へ進んでいいですかとシンドバッドは、誰に尋ねているのかわからない質問をした。当然、返事があるわけもなく大丈夫だろうと勝手に解釈し、にっこりと笑った。
「アリババくん、こんな場所でなんだ……あ?!」
「わっ!!」
突然、背後の支えが消えて、シンドバッドはバランスを崩した。後ろのそのまま倒れ込む。シンドバッドに抱っこされた形のアリババもそのまま倒れ込んだ。アリババに押し倒されている形なのは、悪くはないが現状を把握しようとシンドバッドは、アリババの下から這い出し、辺りを見回した。
「ここは……」
小さな箱庭のような部屋だった。正方形の部屋は、非常にこぢんまりとしていて、白いテーブル。その上には、二人分の茶が用意されていた。更に小さめのソファもある。シンドバッドが望んだ愛の巣である。
「扉が開いた……んっすかね」
「そうみたいだな」
愛の力はやはりアタリだったようだ。ようやく辿りついたこの場所で、することはこうなるとひとつである。シンドバッドは、くるりと回れ右をし、アリババの方をむいて手を伸ばした。
「シンドバッドさん?」
「アリババくん、さぁ行こう」
「どこへ」
「愛の巣さ!」
何か人語ではない悲鳴をあげているアリババを無視してシンドバッドは、彼を抱えあげて二人並ぶにはちょっと狭いソファへ向かって歩き出す。
脳内は、これからのことで頭がいっぱいだった。狭いが、初めてでアリババが上は駄目だろう。では、どうしようか。とか、やはりくまなく舐めてあげた方がとか。それよりも、まずは全てを眺めて堪能してからとか。そりゃもう色々考えた。
「シシシシシシシシンドバッドさん! ちょ、ちょっと待ってって!」
アリババの抗議は、鼻歌で誤魔化す。あと少し、あと一歩で念願のラブラブソファに辿りつく。シンドバッドは幸せで本当に今なら、飛びたてそうだった。
「さぁ、アリババくん。めくるめく官能の世界へようこそ!」
いざ、参らん。と、アリババの衣服に手をかけたその時だった。
ピシ。ピシシシッッ、パリン!
薄い何かが割れる音がしたなと思ったら、突然床が抜けた。
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