【15】
一方。シンドリア王国にて、シンドバッドを八つ裂きにすると決めた王の補佐官であるはずのジャーファルは通称ガラクタ部屋に単身乗り込んだ。
「シン!!」
扉を開いた勢いそのまま、部屋へ飛び込んだ。あまりにも勢いよく飛び込んだ為、足元に何があるか彼は全く確認をしていなかった。もちろん、これが高価なものをしまっている宝物庫ならば、細心の注意を払ったがここはガラクタ部屋だ。壊れて困るものはなにもない。だから、彼は全く躊躇わなかった。
「どこに隠れたぁっっ!!」
たぶん、アリババ辺りが目撃したら真っ青になるような黒笑顔でジャーファルは、王の姿を探した。ドシドシと部屋を進みながら、ギロリと鋭い視線で辺りを見回す。
その途中。カシャン。と、いう小さなもの音を聞きジャーファルは素早く振り返った。
「そこかぁっ!!」
彼は突進した。まずは、第一に。アリババを助け出す。あんな汚れた男に純潔を奪われるのはあまりに不憫だ。その二。汚れた男。この国の王を縛りあげて、執務室へ連行する。そこで、あと一ヶ月後までの分の政務をさせる。もちろん、睡眠などさせるものか。と、息まいてジャーファルが更に音が聞こえた方向へ足を踏み出そうとした時だった。
「あ」
何かを、踏んだ。ベコっ。と、いう音がしたので、足元を見ると小汚いランプが潰れてしまっている。ゴミを捨てておくなとあれほどいったのに。と、ジャーファルは自分で踏みつけたそれを拾い上げた。
「ゴミですね」
きっぱりと言った。すると、ひしゃげたランプが真っ青になり、震え出したから驚きだ。
「……」
ジャーファルは、黙ってランプを持ち上げた。じっと観察する。ランプは今までのジャーファルの鬼の形相をみていたらしく、カタカタと震えている。
「これはもしや魔法のランプですか? まさか……本物。はっ!! これでシンが願い事を叶えたなんてことは、ないでしょね?!」
ランプを吊るし上げた。さぁ出ていらっしゃい。とばかりに、ジャーファルはランプを擦りまくった。
すると、ひょろひょろと細い煙が飛び出て、魔神の形になるから更に驚いた。だが、ジャーファルには驚くよりも先にやるべきことがあった。
「シンはどこです? そして、アリババくんを何処へやりました?」
底冷えするような声で問うと、ランプの精は震えながら看板を取り出した。
「願い事を三つ言ってくださいですと? そうですか。わかりました。一つ。シンを連れ戻すこと。二つ、アリババくんも連れて戻すこと。三つ、あの男を執務室の椅子に縛り付けること。以上です!」
ランプの精は、怯えるように頷いて消えた。
****
「何故俺は椅子に縛り付けられているんだ?!」
「イテテ。あれ? 戻ってきた? えっと、ジャーファルさん……ヒッッ」
「おかえりなさい、シン。楽しかったですか?」
「あ、あの……ジャーファルくん。笑顔が怖い」
「生まれつきです。アリババくん、大丈夫ですか。あの汚れた男に何もされませんでしたか?」
「えっと……」
こうして、ランプの精による騒動は終わった。その後、騒動の発端になったランプは何処かに消えてしまい。二度とシンドバッドの目の前には現れることがなかったという。
ランプはなくなってしまったし、ジャーファルには怒られたが。シンドバッドは満足であった。なぜならば。
「シンドバッドさん、もう少し離れてください……あの、なんでこんなに」
「駄目だ。アリババくんとはくっついていたいからね」
「!!」
こうして腕の中にあれ以来、かわいい存在が大人しくいてくれるようになったからだ。
頬にちゅう。と、音を立てて口づければ、たちまち真っ赤になる彼とは、まだまだシンドバッドが望む関係までは到達できそうにないが、今のままでも幸せだからまぁいいかと思う。
(ランプの魔神よ、礼を言う。達者でな)
ジャーファルによって、踏みつぶされたランプの行く末が心配だったが、まぁ魔神だから大丈夫だろう。
「アリババくんは、俺とくっついているいのが嫌か?」
「っっ、……嫌じゃないっす」
「よくできました」
シンドバッドはニコニコ笑った。
終