【11】
どうしよう!
アリババは、赤い顔を見られまいとくるりと背中をむけた。そうして、落ち着け。俺は違う。そういうのではないと何度も言い聞かせながら、深呼吸をする。普通どおりに。落ち着いて、笑顔で。無限ループ。そう、無限にこの地下迷宮は広がるのではないかということを尋ねるんだ。
「えっと、シンドバッドさん」
「うん?」
「ぎゃっ!!」
至近距離で聞こえたのと肌に触れた感触にびっくりして、アリババは悲鳴をあげた。
「酷いな。その悲鳴はないだろう」
「だだだだだだだだだって」
「ん?」
アリババは、真っ赤なまま凍りついた。何故、シンドバッドは距離を詰めているのだ。しかも、何故アリババを後ろから抱きしめているのだ。
やっぱり、これはそういうことなのか。背中が熱い。ついでにいうと、アリババの体全体がなにやら熱かった。どうしようもなく、身の置き所がなく、アリババは顔を赤くしたまま俯いた。
すると、シンドバッドがぎゅ。と、アリババを強く抱き込んで、耳元で言った。
「で、何が違うんだい?」
声が甘い。
違う、絶対に違うはずのに。
シンドバッドは、女好きで。アリババは男で。いや、問題はそこではない。シンドバッドも男なのだから、そもそもアリババがこんなに緊張しているのがおかしいのだ。
そう思うのに――。
(俺、変だ。妙に、シンドバッドさんとくっついているのが、恥ずかしい)
恥ずかしいのに、逃げ出そうと思えない。シンドバッドの温もりが心地よくて、彼の匂いが胸を高鳴らせている。腕のなかで反転して、シンドバッドの胸板に顔を埋めたいようなそうでないような。しかも実はさっきからどこかむずむずする。アリババは戸惑った。これでは、本当にアリババはシンドバッドをそういう対象とみているということになってしまう。
どうにか落ち着こうとアリババは、目を瞑った。そうして、何度か浅く息を吸って吐いて言葉を探す。
「あの、シンドバッドさん。俺たちさっきから……ずっと走ってきて…なんか違うんじゃないかと……」
無理矢理捻りだせた言葉は、これぐらいだった。考えて言った言葉ではない。だが、シンドバッドはアリババを抱きしめたまま、そうかもしれないな。と、唸る。
「アリババくん、俺もそんな気がしていた。元々はランプの精が作った空間だ。あいつが広げようと思ったらどこまでもここは広がる。と、なると正解の道なんてないんじゃないかってことは、さっきから思っていたんだ。で、思い出すのは、入口の言葉だな。『その扉、愛の力のみが開くことができる。ただし、辿りつけるかはお前次第』の、部分。愛の力を示せば、扉は開けるんじゃないのか?」
「じゃぁ、なんで走ったんですか」
「面白そうじゃないか!」
「……」
こうやって、君と一緒だしね。と、シンドバッドは笑った。その笑顔も魅力的だった。
だから、そんな風に笑わないでくれ。
アリババは、俯いた。
「ねぇ、アリババくん。この愛の力ってなんだと思う?」
「っ」
うなじに息を吹きかけるように囁かれて、アリババはびくんと震えた。
(やっぱり、俺変だ)
アリババの混乱は最高潮に達した。こんなのおかしいと思う。さっきまで、この場所に来るまではそんな風に考えたこともなかったのに。
おかしいと思うのだが、どうしてもシンドバッドの拘束から逃れようとは思えずアリババは、ぼんやりとシンドバッドの声を聞いていた。
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