【9】
「これは意外だった」
その扉から続いていたのは、なんと地下道だった。天井も床も壁も石壁でできており、等間隔に並んだ燭台には明かりが灯されていた。先には、十字路が見える。
しかも、だ。
シンドバッドたちが開いた扉のすぐ左側の壁に。
愛の巣、この先にあり。
その扉、愛の力のみが開くことができる。
ただし、辿りつけるかはお前次第。
と、あった。その文字の下には、ランプの絵。やはり、ランプの魔神はちょっとズレているようだ。
「あ、愛の巣?」
「休憩所のことだろう。何か、彼は誤解しているようだ」
アリババの疑問をあっさりと切って捨てる。今ここで不審がられても困る。
(障害はつきものということか。いいだろう、この俺に挑戦するとはいい度胸だ、魔神)
シンドバッドはニヤリとした。
「シンドバッドさんが望んだことってやっぱり冒険だったんだ」
俺、ちょっと勘違いしかけてました。と、アリババが言った。アリババの勘違いの内容が気になるところだが、尋ねることはできなかった。ここは共に冒険みたいなことをすることを願った。と、いう方向でいったほうが得策である。アリババにシンドバッドさん汚らわしいなどと言われたら、立ち直れない。
シンドバッドはもっともらしく頷いた。
「アリババくんと冒険がしたかったのさ。二人で力を合わせて休憩所に辿りつこう」
「はい!」
笑顔が眩しい。この笑顔を自分だけに向けるようにするのはどうしたらいいのだろうか。やはりここはひとつ、シンドバッドさんかっこいいと惚れてもらう必要があるだろう。
シンドバッドは決意した。
(愛の巣へ。全力をもって辿りつく。でもって、アリババくんの愛も勝ち取り、祝福のキスをしてもらう!)
愛の力とはつまり口づけだろう。古今東西、愛の口づけが眠り続ける姫を起こし、死んでしまった姫をも目覚めさせる。呪われた男の呪いが解けたと昔話にもある。
アリババとキスをする。
シンドバッドにとって、これ以上の餌はない。
「シンドバッドさん、愛の力ってなんだと思いますか?」
不安げにアリババが言った。今は、まだ言わない方がいいだろう。シンドバッドの願望に近い予想がアリババにはまだ刺激が強すぎた。
だから、シンドバッドは爽やかに嘘をついた。
「まだわからんが、進むうちにわかるさ。ここは、俺が望んだ空間だ。絶対に解決法がどこかにある」
「そうですね」
笑いかけると、アリババもにっこりとした。
「じゃぁ、まずどの道をいくかですね」
前方には十字路がある。どっちに最初に向かうべきか。十字路へ向かいながら、シンドバッドは考える。
「直感でいこう。アリババくん、ついて来い」
「待ってください、シンドバッドさん!」
シンドバッドは駆けだした。慌てて、後をアリババが追う。こういう感じも久しぶりだ。アリババと仲良くすることとは全く別な部分で、シンドバッドはワクワクした。迷宮を攻略してあるいていたあの頃を思い出す。
「まずは、右」
シンドバッドは右に曲がる。その先はどうなっているのか。とても、楽しみだった。
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