【3】
ぼわん。と、白い煙がどこかから湧き出した。シンドバッドはアリババを抱き寄せた。アリババの細い腰を引き寄せ胸の中に閉じ込める。アリババを守らなければと思ったのだが、いつまでたっても何も起きない。
「シンドバッドさん、だ、だ、大丈夫ですから」
「いや、何が起きているか把握してからだ」
抱きしめられているのが嫌なのか、アリババが逃れようとするのをシンドバッドは強く抱きしめることで防ぐ。腕の中にアリババがいるという美味しい状態だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
周囲に気を配り、いつでも戦えるようにしていると、だんだんと白い煙が薄れてきた。
薄れるに従って、シンドバットは驚愕に目を見開き、最初の衝撃が通り過ぎるとだんだんと困惑した。腕の中にいるアリババを見下ろすとアリババもまた驚きのあまり完全に固まっていた。
「アリババくん。念のために問うが、こんな場所。俺の城にあったか?」
「ないですね」
「やっぱりか」
シンドバッドは、軽くため息をついた。何が起こったかわからないがどうやらアリババと二人。どこかに飛ばされたことは確かのようであった。先ほどまでいた、宝物庫はどこにもなく。まして見慣れた城の中でもなく。
二人は、塔のようなものの頂上にいた。眼下に見える景色は、見たこともない森林とその間に美しい川が流れ、白い鳥が遥か下に飛んでいる。
そう。ここは。
「っていうか、シンドバッドさん。俺たち、超高層の塔みたいなののてっぺんに立たされてますけど?!」
「そのようだ、困ったね。アリババくん、落ちないよう気をつけるんだよ」
「落ち着いてないで、もう少し困ってくださいよ!!」
「ははは、これは困った」
「困ったように聞こえません」
いや、困ってはいるのだが。どう困ればいいのかシンドバッドも計りかねていた。おそらく、あの古いランプのせいだ。あれが転送装置になっていたことは疑いようもない。だが、何故そんなものがあの場所に。だが、今はそれを追求するよりもこの不安定な場所から一刻も早く安全な場所に降りる必要があるだろう。
シンドバッドは、アリババを抱いたまま辺りを観察した。足場は悪い。シンドバッドとアリババが立つのにギリギリぐらいの幅しかない。その下は……どうやら、窓があるようだ。そこに滑りこめば、とりあえずは、少しでも足を滑らせたらまっさかさま状態からは脱出できそうだ。
シンドバッドは、腕の中のアリババを見てにっこりと笑った。
「アリババくん、少しの間我慢してくれ」
「へ? いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アリババを抱き上げて、シンドバッドは飛び降りた。滑空しながら、器用に体を捻らせて、窓に向けて飛びこんだ。大きさ的にギリギリであったが、何とかうまく窓枠を掴むことに成功し、シンドバッドはアリババを庇うようにしながら床に倒れ込んだ。
不思議と、痛みはない。それもそのはずだ。
「シンドバッドさん、ここ。本当にどこなんでしょう」
「さぁ、どこだろう」
入り込んだ場所は、美しい花が咲き乱れる庭園であった。
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