■月の影 3■



勢い余って手を繋いだことを、今は後悔している。



幸村は嫌がったりはしなかったが、どう考えても不自然だった。


幸村と別れて、あてがわれている部屋に戻った政宗は横になることなく胡座をかいている。手のひらをじっとみつめたまま、政宗はため息をついた。



月を眺めに部屋を抜け出したのは、思い付きに過ぎない。眠ることなど到底できぬ夏の夜の気晴らしにと思っだけである。どうせ眠れるわけがないのだから、それならば、と。深くものを考えての行動ではなかったから、政宗の行動を不審を抱き後をつけらるとは考えなかった。
あのとき、追ってきたのが幸村だと気づいて喜んだのは間違いだった。



月を見上げながら、政宗は隣にいる幸村を意識していた。余裕のある顔をしたまま、彼が自分にやけに強い視線を向けていることにはすぐに気づいた。
それが、どのような理由に基づくのか政宗は知りたかった。
だが、それをたずねることはできない。だから、政宗はゆっくりと幸村に向き直り、彼に声をかけた。幸村はひどく慌てたようにしながら、少しだけ目元を赤く染めたまま政宗と目を合わせてきた。
これは・・・・・と、政宗の心が跳ねたのは仕方がないことだったろう。あのときの幸村の反応は、どこから見ても自分と同じ想いを彼が抱いているかもしれないと思わせるには十分であった。
真意を問うように彼の目を見た。



幸村の瞳が揺れていた。薄く開かれた唇が誘うような吐息をもらしている。彼は、ほんのりと顔は赤い。
抱き寄せ、口づけたい衝動に駆られた。幸村の唇に己のそれを重ねて、抱き締めたい。二度と離さぬようにこの腕に閉じ込めて、彼のすべてを政宗のものにしたい。
だが、政宗はそれを瞬時にすべて押さえつけてかわりに、幸村の手をとってしっかりと握った。
幸村は抵抗しなかった。



はじめて触れた幸村の手は、自分と同じように皮が厚くかたい。女の柔らかなそれとは違い少しも気持ちよくなどないのに、ずっと握っていたくなる。
少し汗ばんだ幸村の手がしっかりと握り返してきて、政宗は何度も沸き上がる衝動を押さえつけながら、月を見上げていた。
内心の心の動きを知らぬ幸村に本心を見せぬよう気を付けながら。


(触れるべきではなかったな)


感触を覚えてしまえば、欲は増す。
政宗は障子を引き、月を見上げて再び息を吐いた。



告げることも、触れることも許されぬ相手を好きになった場合、どう感情を殺して行けばいいのだろうか。

彼が無防備に眠る部屋に視線を投げてから、政宗は繋いでいた手のひらに目を落とす。
眠れないな。と、苦い笑いが顔に広がった。


手の感触がいつまでも消えない。政宗はその手にそっと唇を寄せた。






ブログ掲載 2010.08.09.
サイト再録 2010.08.23.

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