Two Shots   −6st.stage−

アスランがキラに話をしていた、その時―――
激しい銃声と、ガラスの割れる音は、広間に残っていたアスランとキラの耳にも届いた。


「「―――!?」」


広間に倒れた者や、割れたガラスは見当たらない―――とすると、考えられるのは「只一つ」―――!


「皆さん、落ち着いて! どうぞこちらへ!」


騒ぎにパニックに陥りそうになる客に、キサカの冷静な声が飛ぶ。


2人がキサカをみると、
(お2人は――早く!)


―――『暗黙の了解』 


アスランとキラはキサカにうなずくと同時に、広間から駆け出した。

「さっきの音って―――!?」
駆けながら問い掛けるキラにアスランが冷静に答えを下す。
「賊が入り込んでいたんだ! ―――狙いは―――『ラクス』!」


ホルスターから『マグナム』を抜き出したアスランがそう告げると、2人は玄関ホールの階段を駆け上がる。


階段の先―――昇って直の廊下を『左手』に進み、突き当たった角を『右』に曲がれば―――『カガリの私室』と『執務室』の前に通じる廊下に出る。

廊下の突き当りまで走り込んできた2人―――その目の前には、護衛役ロアン・カミュの部下―――出発前にアスランに『予行演習』代わりの実戦を仕掛けてきた―――ビアンカら3名が廊下の角に隠れながら、時折威嚇するかのように、廊下の向こうに向かって銃を放っていた。

「ここは我々が何とかする! それよりも“敵”は“中庭の反対側の部屋”から撃ってきたらしい! 今、ロアンが向かったが1人では無理だ! そちらを援護してくれ!!」
「わかった!」

ビアンカの声に、アスランは頷き、踵を返すと、もと来た道を戻り―――“カガリの部屋”の反対に当たる部屋へと向かった

が――――


アスランの足が、急に遅くなりだし―――止まった。

「…どうしたの!? アスラン! 早くしないと2人が―――!!」


キラの必死の叫びと裏腹に、アスランの脳裏には、全く別の疑問が浮んでいた。


(―――どうして“敵”は『知っていた』んだ…?
カガリとラクスが2人だけで“カガリの部屋”に向かったことを…)


この屋敷に入るには、厳重なチェックが事前にあったはず。
外からの射撃ならともかく、“反対側の部屋”から撃った、というのなら…既にこの屋敷の中に潜み、更に『2人の居場所』も知っていた者となる―――


(―――まさか!)


「あ、アスラン! ちょっと―――!」

再び急に駆け出したアスランの後を、キラが必死に追いかける。
だが、アスランは警戒することもなく、真っ直ぐ“カガリの部屋”と中庭を挟んだ“反対側の部屋”に走った。

「そんな! 飛び出したら―――廊下の向こうにも“敵”がいるかもしれないよ!?」


(恐らく…俺の“予想”が正しければ…ヤツはもう…)


目的の部屋の前に立つ―――そこは不気味なほど静まりかえっていた。

「…アスラン…」
「キラは其処にいろ。」
既にセフティを外し、マグナムを構えながら、ドアに並ぶ壁を背にして、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。

<カチャッ>

ギギギ…という音と共に、ドアがゆっくりと開かれていく。

自らを落ち着かせる様に、一度ゆっくりと深呼吸すると、アスランは勢いよく部屋に飛び込んだ。


だが―――其処にあったものは…


明りもついていない、人気のない静まりかえった部屋。
そして、窓枠には弾を全て撃ちきった、固定された『サブマシンガン』―――

「…そんな…誰も居ないなんて…」

キラも続いて部屋に入りながら呟く。


マシンガンの銃口の先―――真っ暗な部屋―――窓ガラスが割れ、破れたレースのカーテンが夜風になびき、テラスの手すりの一部も崩落した“カガリの部屋”

「2人は!?」

焦燥感に煽られ、咄嗟に部屋に向かおうとするアスランとキラの耳に、先程までの銃声とは似ても似つかぬ小さな美しい“ハミング”が聴こえてきた。


「これって…“ラクス”の?」
「何処から?」


耳を済ます…ナチュラルには聴き分けられないような“微弱な音”で、その『ハミング』は続けられている。
―――中庭の…噴水の側―――『抜け道』の側の茂みから。


「あそこだ!」


2人が中庭に飛び降りると、『ミトメタクナイッ』とピンクの『ハロ』が飛び出してきた。
「―――ラクス!?」

“ハミング”が止むと同時に、
「キラ!? アスラン!?」
ラクスの声が聞こえた。


ラクスは茂みに蹲る様に隠れていた。
「大丈夫!? 怪我してない!?」
「わたくしは大丈夫です! 少し足を挫いただけです。」

恐らく『抜け道』に行くことをカガリに指示されたのだろう…飛び降りた時に足を挫いたらしい。


―――では、この顔にかかっている『モノ』は―――『血痕』!?
         ラクスのものでないとしたら…まさか―――

ラクスはアスランに向き直ると、必死の声をあげる。
「わたくしのことより、早くカガリさんを!!」


その言葉に弾かれる様にアスランは駆け出す。

「――アスラン!?」
「ラクスを頼む!」

人気のなくなった広間を抜け、アスランは玄関ホールから階段を昇り、再びカガリの部屋へ向かおうとした。
例えカガリが居なくても、何か彼女の居場所のヒントがあるはず―――

そう願い、広間を出ようとしたその時―――

『パンッ』

「―――!!」

寸でのところで銃弾をかわし、広間のドアに身を隠す。


見ると、玄関ホールには退路を確保しようとする“敵”が陣取っていた。

 
(―――1・2・3…4人か。)


敵もアスランの姿を捉え、一斉に銃を乱射してくる。

(仕方ないな…)

手に握られたマグナム―――使い慣れないが、そんなことが言い訳できるような状況ではない。
両手でしっかりと固定し、一瞬の隙を突いてトリガーを引くが

『――ガツッ』

弾は敵の僅か横を逸れ、大理石の床をえぐった。


「相手はまだガキだ! 銃に慣れてない! 怯むな!!」
敵の1人が声を挙げる。


だが、アスランは先程の一発で、銃身の置き方、反動による誤差―――あらゆる事をその身で修正した。

無用心に近づいてきた敵は、一瞬にしてその恐怖を知るこことなる。

「―――っ!」
「うっ!」
「――くっ!」
「うわぁぁっ!」

マグナムの重厚な発射音と共に、悲鳴が上がり、4人の身体が大理石の床に崩れ落ちた。


(…これで、ここは居ないか…)


肩で一つ息をつくと、アスランは玄関ホールに飛び出した。


―――その瞬間。


<パチパチパチ…>

ホールに木霊する拍手の音と共に、聴きなれた『声』が響く。

「流石は『コーディネーター』だな…使い慣れないとは言いながら、俺の部下を4人もやってくれるとは…」

銃口を『声』の主に向ける―――相手は誰だか―――予想は出来ていた。

簡単に屋敷に出入りでき、尚且つ「ラクスがカガリの部屋にいる」事を知る人物―――


「―――『ロアン・カミュ』…」


2階エントランスの上から、ロアンが手すりに身を乗り出す様にしてアスランを見据える。
「…どうしてだ…ロアン…お前は“何”だ?…『ブルーコスモス』の一員か?」
「お察しの通り…」

躊躇わず、トリガーに指をかけるアスランに
「おっと! その前に…舞台には『ヒロイン』が付き物だからな…御登場いただこうか?」
2階のロアンの右手――アスランから向って左手の廊下から、ビアンカが―――エメラルド・グリーンのドレスの少女を引きずる様にして現れる。

「…う…」
「―――!! カガリっ!!」
「動くな!」


一瞬、ロアンはアスランに銃口を向ける。


ビアンカは片手でカガリの左腕を後ろ手に掴み挙げ、もう片方の手では―――その手に握られた銃で、カガリの頭に銃口を押しつけている。
カガリの右腕は、力なくダラリと垂れ下がり、肩の辺りから鮮やかな鮮血が切れ目なく筋を作って流れ続け、エメラルド・グリーンの―――巾の広げられたスカートにドス黒い血の痕を広げていた。
出血の為か、足元がおぼつかず、アスランの声にも反応しない…


激しい憤りに、憎しみの表情をあらわにして、銃口をロアンに向ける。
「『目的』は何だ!? 『ラクス』か!?」
「それも当然『ターゲット』だが、…地球に余計な事を吹き込まれる前に、シャトルに乗った所で消えてもらえれば、こんな事にはならなかったが。 まさか『同行者』がいるとは思わなかったんでな。…しかし、いい誤算だったよ。 『キラ・ヤマト』、それに『お前』…コーディネーターの一掃が出来るって訳だ。…まぁ、まさか今日まで延びるとは思わなかったが…」
「ならば『彼女』は関係ないだろう! 離せ!!」

今まで見たことのないアスランの“露な感情”―――それを面白がる様に、ロアンは薄笑いを浮かべる。
「確かに『オーブ』の姫君はナチュラルだが…お前達を誘き寄せる為に―――何より今回の任務の遂行に当たって、一番厄介な存在である『お前』の“足枷”にこれ程うってつけな『人物』――そう簡単に手放すこともないだろう?」

皮肉な嘲笑を浮かべながら、ロアンはアスランに言う。
「…本来ならここで『大事な彼女の命を助けたければ、銃を捨てろ!』って台詞の一つも出るはずだが…生憎と俺はそんな野暮なことはしない…」

アスランの憎しみにも、銃口にも見向きもせず、ロアンは続ける。

「―――『ロシアン・ルーレット』だ。」


「…『ロシアン・ルーレット』…?」


シリンダーに込められた、『たった1発の弾』―――何番目に入っているか判らないそれを、お互い自分のこめかみに当て、引き金を引く『賭け事』―――賭けるものは・・・『互いの“命”』
外せば生き残れるが、もし当たれば―――


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よつ…床にも一発、穴が空いているところをみると、その『マグナム』にはもう残り『1発』しか弾はないはず…」
ロアンは銃口を煽り、アスランに問う。
「…この1週間、お前を見て思った。…お前は酷く慎重で、冷静だ。こうした状況下において、使いこなせない『マグナム』を使うなんてことはする訳がない。…持っていた『トカレフ』は撃ち尽くしたとみたが…どうだ?」

アスランの額に薄らと汗が浮かぶ。
「最初からそれを見越して…俺に『予備の弾』も持たせずに『マグナム』を渡したのか…」

アスランの呟きを「肯定」の意味で頷き、ロアンは面白そうに続ける。
「残り『たった1発』の弾でどうする? …『お前』が『俺』を撃てば、同時にビアンカが『姫君』を撃つ―――『お前』がビアンカを撃って『姫君』を助ける道を選べば、『俺』がその瞬間、『お前』を撃つ―――タイムリミットは『俺たちの迎え』が来るか、『オーブの護衛共』のどちらかが来るまで。…まぁ、後者の場合もこの『姫君』は充分『盾』になるがな!」


最初から、自分たちに勝算があってのことだろう。
でなければ、わざわざ自分を捕まえてまで、こんな狂った「遊び」を持ちかけたりはしないはず。
ロアンはもう自分の性格も、行動も…読んでいる筈。

「…さぁ、どうする?」

不敵な笑いを浮かべるロアンにアスランは答える。

「―――それなら―――『答え』は決まっている!」


                           …to be “final stage”!


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>さて、いよいよ(ようやく?)クライマックスです。
 ここまでハードにするつもりはなかったのに…
 
 ラストは今まで出てきた“伏線(というのか!?)”が色々出る予定。
 …といっても、今回の『マグナム』の経緯程度ですが(苦笑)
 「誰が、何時、どんなことを言っていたか?」をちょっと思い出してみてくだされば、それなりに楽しいかと(ホンとか!?)
 では、ここまでご親切にお付き合い頂きました方へ…愛を込めてv(いらないって!!)
 最終話をどうぞ!!
 

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カミュさん敵だったのですか・・!おうおう・・。
今回アスランが大活躍!
カガリは大丈夫なのでしょうか、アスランの声にも応じないというのはかなり重傷なのでは・・。
あぁぁ、この後アスランとカガリがどうなるのか気になります!
ネットで読める小説とは思えない程ですね・・!



まお




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