Two Shots −final stage−
アスランは躊躇うことなく銃口をビアンカに向けた。
その様子に答えなど始めから判っていたかのように、ロアンは(やれやれ…)とリアクションをとる。
「どうせなら“神様”にでもお願いしてみたらどうだ? 『もう一発弾を込めてください』ってな。もしかしたら奇跡的に1発増えてるかも知れないぜ。…まぁ増えたところで、体勢立て直している間に「ズドーン」…だけどな。」
―――万が一のことも考え、ビアンカとの距離は充分とっている。もしものことがあったとしても、この距離なら幾らコーディネーターとはいえ、マグナムの反動から体勢を立て直すには、数秒の時間がかかる。その間に自分の腕なら充分アスランを射抜ける自信はある―――
余裕の表情で銃を弄ぶようにしているロアンとは対象的に、アスランの表情からは苦渋の色が浮かび上がる。
―――いつもこうだ…
自分には一つの選択肢しかないとあきらめて
もっと周りを見れば
幾つも答えがあったのに
その壁を、いつも容易く壊して…自分を導いてくれた『彼女』
その『大切な人』を失う訳には行かない
トリガーに掛かる指に、力がこもる
ふと・・・胸の上の『護り石』が―――静かに揺れた。
(…どうする…?)
と、その時―――
<…カツン…カツカツカツ…カツン…カツカツ…カツン…カツ…カツカツカツ…>
(…何だ…この“音”は…?)
大理石の床に響く音―――微弱で聴こえにくいが、確かに響いている。
これが、もし敵の近づいてくる足音なら…状況は更に不利になる。
アスランの頬を汗が伝う
<…カツカツカツ…カツン…カツカツ…カツン…カツカツカツ…カツ…カツン…>
(・・・?・・・)
敵が近づいてくるにしては、嫌に音の大きさが一定過ぎる。それに足運びが、まるでいい加減だ…
リズムが不定で…同じ大きさで…まるで暗号のような…
―――“暗…号”?
数日前のカガリとの会話が急に蘇った。
(―――『…だってアイツ、MSはともかく銃も撃てないんだぞ。…“モールス信号”は分かったけど…』)
―――“モールス信号”!
だとしたら…音を出しているのは…カガリのハイヒール!
あのつま先まで埋まるようなドレスが防音効果を発揮し、階下にいる自分には聴こえるが、同じ階にいるロアンやビアンカには聴こえないのだろう。ましてやコーディネーターの自分の耳だからこそ、聞こえるほどの微弱な音…
―――思い出せ・・・
アカデミーの頃の記憶を必死で蘇らせる。
<…カツカツ…カツン…カツン…カツカツカツ…カツン…カツカツ…カツカツカツ…>
<…リ…ニ…ヨ…レ…ヒ…ダ…リ…ニ…>
<―――『左に寄れ』!>
アスランは慎重に、ゆっくりと足を運び左に進みだす。
その様子にロアンは(最後の足掻きか…)とでも言わんばかりに、相変わらず銃を弄び、面白そうにアスランの行動を見ている。
アスランがジリジリと進むと…急に“音”が止んだ
丁度アスランと、2階にいるカガリとビアンカが、階段を挟んでほぼ直線距離にいる
障害は―――何もない
すると“音”のリズムが“変わった”
<カツカツ…カツン…カツカツカツ…カツカツ…カツン…カツカツカツカツ…カツン…カツカツ…>
<イ…チ…ハ…ツ…シ…カ…ナ…イ…カ…ラ…キ…ヲ…ツ…ケ…ロ…ヨ…>
<―――『一発しかないから気をつけろよ』>
アスランは僅かに微笑み、それに答えるようにして踵を一度、大きく床に打ち鳴らした。
<カツーン>
<Yes.―――“了解”!>
しばしアスランの行動を見ていたロアンが、ふとアスランが奇妙な行動をとろうとしているのが目に入った。
普通―――銃を撃つなら利き手でトリガーに指を掛け、銃底部をもう一方の手で支えて安定させなければ、殆どの場合、利き手の手首に負担がかかり、銃口が標的からずれる可能性が高い。
ところがアスランは…右手はマグナムのトリガーに手を掛けたまま―――左手を銃底部から離し、何故かその左手首で、右手首と“クロス”させるようにして下から支えている。
マグナムの銃口は・・・ビアンカに向けたまま―――
(…その空いた“左手”で…何をするつもりだ?)
(大方…銃を投げ捨て、ビアンカに飛び掛るつもりででもいるのだろう…コーディネーターの瞬発力は侮れない。
コーディネーターを“敵”として戦ってきた自分だからこそ、よく分かる…だが、一度狙った以上、俺も外しはしない…)
流石のロアンも真剣に銃を構え、アスランに狙いを向けた
―――俄に表が騒がしくなった。
それに呼応するように、ロアンが叫ぶ
「さぁ、ゲームオーバーだ!!」
と、その時―――
「アスランっ!!」
今まで微動だにしなかったカガリが―――動かないと思われた右腕で―――破れたドレスの隙間から素早く銃を抜き取り、アスランにトカレフを放り投げ―――寸分の狂いもなく、アスランの左手に納まると
『パパァーーーン』
重厚なマグナムの銃声と、軽いトカレフの銃声が同時にホールに響いた―――
「―――!? …なっ…!?」
突然にアスランの名を呼ぶ声に―――まさか重症を負って意識のないカガリが発したと思えず、周囲に注意を逸らし、一瞬体勢が崩れた…
そう思った瞬間―――
胸に灼熱の痛みが走り、自分の鮮血が広がっていくのがわかる…
「…馬鹿…な…」
床に倒れこむロアンが目にしたものは―――自分に向けられた“トカレフの銃口”だった
「カガリーっ!!」
アスランは銃を撃ち捨て、階段を駆け上がり、マグナムの銃口に倒れたビアンカに重なるようにして崩れ落ちているカガリを抱きかかえる。
血のにじむ『右腕』は―――恐らく筋が切れているのだろう…ダラリと力を失ったままだった。
それでも…最後の力でアスランにトカレフを投げた…
アスランが止血の為自分の衣服を破り、きつく傷口を縛っていると、薄く開いた両目から金の瞳が覗かせた。
「・・・よかっ・・・た・・・アス・・・ラン・・・無事・・・で・・・」
「もういい! 喋るな!!」
だが、カガリは薄っすらと微笑みながら、動く左手でアスランの頬に触れながら続ける
「・・・お・・・前・・・無茶・・・する・・・から・・・」
「無茶はどっちだ…まったく…」
呆れるようにして…でも頬に触れる手に安心して―――ギュッと力を込め抱きしめる。
その胸の温かさに、カガリは痛みを感じるどころか―――力が抜けていくのを感じる
徐々に意識が白んでいくカガリの耳に―――階段を駈け上ってくる音と、聞きなれた声が届く
「カガリっ!!」
「カガリさん!!」
―――キラとラクスの声が聴こえる
「早く医者を!」
―――キサカの声
(・・・よかった・・・みんな・・・無事で・・・)
「―――!? おい!」
カガリは安心しきったように、アスランの腕の中で安らかな眠りに落ちていた。
(…まったく…)
苦笑しながら、カガリを抱き上げその場を立ち去ろうとしたアスランの背に
「…おい…」
オーブの護衛によって、既に拘束されたロアンが声を掛けた。
「…貴様…どうやって…あんな芸当ができた…」
ロアンを横目でチラリと見やりながら、吐き捨てるようにアスランは呟く。
「…どうやって…って…別に俺は「お前の言ったとおり」にしてみただけさ…」
「何だと…!?」
一体自分が何時どのようにして、アスランにあの場を逃れる術を教えたというのか…
分からない、といった表情のロアンに、何でもないようにアスランは言う。
「言っただろ?…『神様にでもお願いしてみたらどうだ』…ってな…」
それだけ言うと、アスランはロアンに背を向け、自嘲気味に微笑みながら呟いた。
「…尤も『俺の場合』は、只の神様じゃなくって『勝利の女神』―――だけどな…」
* * *
眩しい日差しが差し込み、心地よい柔らかな風が、レースのカーテンを揺らして穏やかに流れ込んでくる一室―――
風に目覚めを促されるように頬を撫でられ、カガリは目を覚ました。
(・・・ここは・・・?)
ボンヤリと眼に映ったものは…見慣れた白亜の天井―――
「気がついたか?」
ふと自分が横たわっているベッドの側から、声がした。
声のした方にゆっくりと向き直ると、翡翠の瞳が心配そうに見守っていた。
「・・・アスラン・・・?・・・どうして・・・私・・・ここは・・・」
「ここは、お前の部屋の隣の“執務室”。…お前の部屋、メチャクチャになってたから…こっちにベッドを運んだ。」
起き上がろうとするカガリを、アスランが「駄目だ」と言う様に、ゆっくりとベッドに押し戻す。
よく見ると…カガリの右腕は肩からギプスで固定されていた。
「右腕の怪我は…骨にヒビと筋が切れていて…大きな血管に損傷がなかったのは幸いだったが、無理に動かした事と、止血までに時間がかかったことで、思った以上に出血が多くて…もう丸2日間眠ったままだった…」
アスランの説明に、(あぁ…)とカガリもあの日のことを反芻する。
―――そうだ、あの日…ラクスが部屋にきて…酷い銃撃を受けて…
ハッと気付いて、カガリはアスランに問いただす。
「ラクスは!? 無事か!? 怪我してないか!?」
「彼女は大丈夫だ。飛び降りた時、足をひねった程度で…」
そう報告するアスランの右手首にも、白い包帯が巻かれている
「お前! お前も怪我したのか!? 大丈夫か!?」
「これか? …これはマグナムを撃った時の反動で…流石に片手では負担が大きかったらしい…でも大した事ないから。俺の事より自分のことを心配したほうがいい…」
アスランから自分を気遣う言葉を受けた事がなかったカガリ―――
多分、自分が眠っている間も側にいてくれていたのだろう…何時もは自分の方がその立場だったのに…
「…そういえば、いつも私と会う度、アスランってどっか怪我してたよな。…今回は逆になっちゃったけど…」
「そうか?」
「そうだよ!」
「…そうか…そうだったな…」
顔を見合わせ、どちらからともなく笑みが零れる
その場の空気が…“あの頃”と何一つ変わらない、穏やかなものに漸く戻った気がした。
ふと、気付いたカガリが真顔に戻ってアスランに尋ねる。
「そういえば、ラクスは?」
「もう帰った。」
「…じゃあ…キラも一緒に…」
アスランは黙って頷いた。
―――「カガリの意識が戻るまで、待った方が良いんじゃないのか?」
アスランの言葉にラクスも同意した。
しかしキラは静かに首を横に振った。
―――今回の事件でラクスが狙われている事は、明確な事実だった。
確かに今回は大きくは事なきを得たが、新たな刺客が何時襲ってくる可能性は充分に考えられる。
ましてや『自分』もその『ターゲット』とされていた事が分かった今、これ以上ラクスも巻き込んで
危険に晒す訳にはいかなかった。
―――「それに「さよなら」なんて言ったら…きっとカガリは怒ると思うよ…『それじゃぁまるで、本当のお別れみたいじゃないか!』ってね…」
「そっか…」
それだけ聞くと、カガリは大きく開け放たれた窓の外を見上げた。
よく晴れた青い空は何処までも高くって
でもそれよりもずっと高いところへ、キラは行ってしまった
そう思ったら―――熱い雫が何処からともなく溢れてきて
頬を濡らした
慌てて拭おうとしたが、利き手が固定されている事に改めて気付く
自由にならない手に、微かな苛立ちを感じていると―――
ふと…手首に白い包帯を巻かれた手が―――そっと涙を拭ってくれた
それが温かくて…今は…その温もりが、とても嬉しかった
―――筈…だったが…
(・・・!?・・・)
「って、何でお前が此処にいるんだよ!?」
慌ててアスランに向き直ると、突っかかるようにカガリは問いただす。
(…ラクスが帰ったのなら…一緒に帰ったはずのアスランが何故?)
一瞬眼を見張るようにカガリを見たアスランが口を開く。
「何でって…聞いていなかったのか…ラクスから…」
「・・・?・・・」
顔中に“?”を浮かべたままのカガリに、何から話そうか、一瞬困惑して頭を掻きながら、朴訥と離し始めた。
「…実は…俺が『本当の大使』なんだ…」
「―――!? はぁ!?」
驚き顔のカガリに対し、何時もの穏やかな表情に戻って、アスランは話し始める。
「…正確には『プラントから派遣された“技術協力員”。…尤も俺は政治よりも、こうした電子工学の方が得意
だから…」
「だって、お前…『ラクスの護衛』って…」
「『表向き』は…な…」
(…そういえば…言ってた…確かに…)
まだ混乱している様子のカガリの前に、アスランは微笑んで数枚のMOを差し出した。
アスランがプラントで、誰にも何も言わずに一人していた事―――
父の地球への『行い』…自分の奪ってきた多くの命への『償い』…
生きている自分に「何が出来るのか」ということ…
そして、その答えが『自分の持っている限りの技術力を地球に提供し、プラントが地球に残した諸問題の解決に
役立てたい』ということだった。
但し、自分ひとりで解決できるほど、問題は簡単なものではない。
ましてやエネルギー不足、活かしきれるほどの技術力が残っていない地球で、何処までそれが可能か…
そこで、協力者として上がったのが、無二の親友―――キラだった。
友の実力は充分に知っている
彼のソフト面への能力を活かせば、自分がハード面に力を注げれば、可能なのではないか―――
そこで、ソフトの開発の技術力を充分に引き出せるプラントへキラを…ハードの環境を整える為、自分が地球に
行く事を、プラント評議会に提案した。
イザークやディアッカはこの提案に二つ返事で賛同してくれた。
しかし、他の穏健派議員からは、反論の声があがった。
――1つは地球が未だ、コーディネーターを受け入れるに、充分な安全を保障できる環境にないこと
――もう一つは、アスランが地球を滅ぼそうとまでした、あの『パトリック・ザラ』の息子である、ということ。
…果たしてこれで、ナチュラルがこの提案を受け入れてくれるか、ということだった。
だが、これに助けを出したのがラクスだった。
―――自分がアスランに代わって、地球に話しに行く、と。…そしてその提案が通ってから、アスランが動けばよい、とも―――
確かにラクスなら、地球側も話を受け入れてくれるかもしれない。
しかし、何の物証もないまま、果たしてラクスの話だけで地球側は、受け入れてくれるだろうか?
その為にアスランは一人、地中に埋められた『N・ジャマー』の除去や、『マスドライバー』施設等、現地球上で問
題とされているものの解決に繋がるような研究を進めていた。
「MO(それ)が完成するまで…何度も今の俺が何をしているか、伝えたかった。…だが、プラントの中にも『反ナチュラ
ル』の考え方を捨てきれない連中もまだまだいる。そういった連中に情報が漏れないように、極力通信も避けてい
たんだ…」
それを聴いてカガリも納得した。
どうして今まで、何も言ってきてくれなかったのか…その訳がようやく分かった。
カガリの表情を見ながら、アスランは続ける。
「地球への技術提供の場所としてオーブを選んだのは―――元々中立国でコーディネーターの受け入れも良かった
し。…何より『モルゲンレーテ』の技術力の高さは、俺もよく知っているから…」
そうして出来たMOを携え、ラクスと共にオーブへ向かおうとした。
しかし流石のラクスも、これには首を立てに振らなかった。
だが、アスランも今回の決意は揺るがなかった。
―――確かに今は身の安全の保障はない
しかし、これからだって、それはずっと続く可能性は否めない
だとしたら、自分の身と―――そしてこれから傍にいることになるであろう、『もう一人』の人物の身を護れる力が、自分にあることを証明したい…
―――約束したから
『君は俺が護る』と―――
―――「…アスランはお優しいと思っておりましたのに…意外と頑固でいらしたのですわね…」
―――「…これでも…あの人の…息子ですから…」
その言葉に、ラクスはクスリと笑って答えた。
―――「では、わたくしが訪問中、本当に護れるか―――『その方』の代役も買って出ますわ。…もしご本人に直接言ってしまったら、きっと『私は私の身ぐらい、自分で護れる! 馬鹿にするな!』とでも言われかねませんもの…」
頭の中の混乱は少しずつ晴れたが、カガリは尚にアスランに尋ねた。
「…今のこと…キラは知ってて…?」
「アイツは地球に来て直ぐ、ラクスが話すまで全く知らなかった。最後まで迷っていた。…カガリを残して、自分
一人、プラントに行く事を…」
だが、パーティーの晩、アスランはキラに告げた。
「キラ…俺が此処に残って…彼女を護るから…」
キラは驚いてアスランの顔を見つめた。
コーディネーターにとって、いかにオーブとはいっても、まだ地球は安全な場所とは言いがたい。
ましてや、ザフトのTOPの息子だったアスランが、地球に残るということは・・・
彼の身に、どんなことが起きる可能性があるか、キラでも充分分かる。
「それって!…でも…」
だが、アスランの眼を見たキラは、何もいえなかった。
それも覚悟の上だろう
だが―――その眼は、以前のように命を捨てるようなものを感じなかった。
真っ直ぐで…『生きる』意志に満ちた―――誰かによく似た瞳―――
それに、キラは答えを出した。
「…じゃぁ、結局、私だけ…何も知らなくて…今日まで…」
俯き、顔を曇らせるカガリに、アスランは問い掛ける。
「ちゃんといっただろう? ラクスは…“最後の会合”で…」
「…“最後の…会合”?」
カガリはジッと記憶を反芻する
(あの時ラクスが言った事…キラがプラントに行くこと…プラントからの技術協力…交換条件…)
―――交換…条件…!?
「あーーーーーーーっ!!」
飛び起きるカガリを慌ててアスランが支える―――が、当のカガリは痛みを感じるどころではなかった。
―――思い違いをしていた…
ラクスが言った“交換条件”とは、『プラントでキラの開発した技術を地球に供給する』ということでなく、
『キラとアスランが替わる』ということだったのだ。
「そんな…だって…あの時…私は…」
「“ボーっ”としてたのか?」
悪戯っぽい表情でアスランが覗き込むと、カガリは真っ赤になって言い返す。
「ち、違う!!/// あ、あの時はだな! ちょっと疲れていて…大体だな! お前はそうやっていつも勝手に―――」
「―――その前に、お前からばかりじゃなく、俺からも質問させてもらっていいか?」
カガリの言葉を遮り、急に真剣な眼差しで、アスランはカガリを見つめた。
つられて、カガリも真顔になる。
「な…何だよ…」
「…お前…」
カガリの喉がゴクリと鳴る―――
「…今日は“ルージュ”は付けていないな?」
「―――はぁ!?」
(真面目に聴いて損した!!)
「当たり前だろう!! さっきまで寝てた人間が、何時“ルージュ”なんてつける暇―――」
言いかけたカガリの唇が塞がれる―――
「―――!!」
一瞬大きく見開かれた金の瞳―――
―――あの時…再会したばかりの時のキスは僅かに掠めただけだった…
どうしてあの時拒絶したのに、今は…出来ないのだろう…
自分を引き寄せたアスランの腕は左腕一つ…簡単に逃れられるのに…
唇に感じる確かな温もりに、カガリは自分の心の内に気付く―――
―――『怖かった』んだ…
アスラン自身にじゃなくって
また、アスランが『いなくなると分かっていること』が…
ラクスと共にプラントに戻ったら
あの時キスを受けたら…きっと忘れられなくて…また離れるのが…苦しくなるのが『怖くって』
だから…逃げたんだ…
―――でも、今度は掠めるだけじゃない。
幻なんかじゃない
温かくて・・・優しい・・・
ちゃんと居るんだ
『此処に―――居るんだ』
静かに目を閉じて、気配だけを感じ取る。
その存在を繋ぎとめたくて…無意識に、左手でアスランの肩口を、キュッと握った―――
暫くしてゆっくりと離れると、カガリは気恥ずかしいのか、視線を逸らして零す。
「…ったく。…怪我してるときに無茶させんなよな…」
それに対する、余裕の表情でアスランが答える
「ふ〜ん・・・じゃぁ、直ったらしてもいいんだ」
「そ、そんなこと言ってないだろっ!!///」
「…言った。」
「〜〜〜〜〜っ!! 言ってない!!///」
真っ赤になってアスランの胸を左腕だけでポカポカと殴るカガリ―――
ふと―――その手を簡単に握って押さえ込む
「な、何なんだよ…」
力を緩めて―――自分の手をカガリの前で広げてみせる
「・・・?・・・」
キョトンとした顔でそれを見つめるカガリ
だが、カガリも自然と自分の手を広げて―――アスランのそれに重ねた
重ねられたカガリの手は…やっぱり小さくて…
でも、その手が―――何度も自分の窮地を救ってくれた
重ねられた手の向こうで、カガリは何も言わず―――只ニッコリと満面の笑みを浮かべている
―――今まで銃を取り
悲しみしか生み出してこなかった、この手…
でも翳した手の向こうで笑う彼女が教えてくれた
無限の可能性がこの手にはある、ということを―――
きっともっと…いろんなことが出来るのではないだろうか?
作り出すことが出来るのではないだろうか?
見てみたい―――
今まで生み出した悲しみや憎しみ以上の“喜び”や“驚き”や“嬉しさ”を…
生きているからこそ分かる大切なものを―――
だから今、本当に心から『生きたい』と願う
生きて―――この手で創っていきたいんだ
『お前』と
『未来(あした)』を―――
・・・So much for “This Story”, All Stage Clear!
―――Thank You!!
============================================
>そんな訳で、まお様から戴きました『お題――“アスランの2丁拳銃”=Two Shots(そのまんま)』話でした。
元々Namiのオフ本SS『Crusher’de PRENCESS』や『GODDESS!!』などで、「NamiのSSには銃が出てくることが多い
ね!」と言う話から、「アスランが2丁拳銃撃ったら、カッコいいかもv」と言う話に発展し、2月のイベント時、正式にリ
クを受けました。
…にしても、たった一場面の描写のためにこの文量―――本当にも申し訳ないですm(__)m
オマケに初の長編と言うこともあり、何処で切ったらいいのかわからず…読みずらいこと請け合いです。
Nami個人としては何気に「ラクカガ」が多く(笑)、アスキラ、キラカガ、キララク(…はちと少なかった)も書けて、
幸せでしたv
今回、このような長編駄文にも拘らず、快くサイトUPを引き受けて下さった、まお様を始め、此処まで読んで下った方々に、
御礼申し上げます。
本当にありがとうございました!!
>Nami
PS:今回SSの中に出てきた銃や、モールス信号は実在しますが、特性や配列は、全くのデタラメですので、信じないように!!
-------------------------------------------------------------------------
Nami様、このような大作を読ませて頂いてありがとうございました。
改めてNami様の書かれる小説はすごいなぁと感心してしまいました。
アニメとして見てみたいですよ・・・。
そもそも、まおが言った「二丁拳銃」を無理言って小説にしてもらったわけですが・・・。
スケールの大きさにびっくり・・。
しかもちょうど後日談をDVDで見て、アスランがオーブに残っていそうなので、本編ともちゃんと話があっていますし・・。
これはもう、素晴らしい小説ですね。
オフとしてちゃんと手元にとっておきたいです。
というか、紙にコピーする予定なのですが・・・・良いでしょうか・・。
ああ、本当に、ほんとおに「Two Shots」ありがとうございました!
データが消えたと聞いた時にはびっくりしましたが、すぐ書き直されていて驚きました(^^)
お疲れ様でした&また楽しみにしていますね♪
まお
←seedに戻る
|