Two Shots   −3st.stage−

――― 一体どの位の時間が過ぎたのだろう…


立ち止まったまま絶句し、大きく金の眼を見開くカガリの視線の先に気づいたキラが、その姿に声をかける。

「アスラン!?」
「キラ!」

その声に弾かれるように、ハッとカガリは顔を上げるが―――言葉に詰まる。


「遠路はるばる、ようこそお越し下しました。…さぁ、中へ。」
カガリが掛けるはずだった言葉を、隣に立ってキサカが代わる。
横目でチラッとカガリを見やると(しっかりしなさい。)とでも言う様に、視線を送る。
「…あ、あぁ…ごめん。よく来たな。ラクス…」

未だ思考が定まらないカガリを落ち着かせるように、
「カガリさんもお元気そうで、何よりですわ。」
ラクスが微笑み答える。

一通り“お定まり”の挨拶の後、次の予定まで時間があるから、とラクスが言うと、
「じゃぁ、私の部屋行かないか?」
カガリがラクスに声を掛けた。
「まぁ、ご招待いただけますの!? 喜んで!」
両手を合わせ、嬉しそうに微笑むラクスに、キラが声を掛ける。
「カガリの部屋はね。凄く見晴らしが良いんだ。中庭と海が見えて…」
「良くご存知ですのね。」
ラクスの疑問に、まるで何でもないようにカガリが答える。
「だって、コイツ、何時も来てるからさ。勝手に入ってくるし…」
その発言が、どんな誤解を招いているか…キラは慌てて取り繕う。
「か、勝手に何か入ってないよ! …出入りしているのは隣の“執務室”の方で―――」
「?…どっちも私の部屋だぞ?」
キョトンと答えるカガリの無垢な表情―――
その表情と裏腹に、自分の背後でキラは何故か、冷たい戦慄を覚える…


アスラン―――無表情で怒っている
ラクス――――顔は笑っているけど、目は笑っていない


…振り向けないが、多分、そんなところだろう…

当のカガリは罪の意識も皆目なく、
「別に私は構わない、って言ってあるからな。“姉弟”なんだし。」

(…幾ら“姉弟”って言ったって、限度ってものがあるだろう…)

アスランの杞憂も微塵も感じず、カガリは自室のドアを開けた。

「よく来てくれたな。まぁ、入れよ。」


*        *        *


「本当に素敵ですわね!」
ラクスが見を乗り出した両開きの窓から、穏やかな海風がレースのカーテンを揺らし、流れ込んでくる。
「『オーブ』は南国だからな。…其処のテラスから噴水のある中庭が覗けるんだけど…今の時期でも結構花なんか咲いてるんだ。」
アスハ邸は□型に建てられており、正面玄関から広間へと通じ、そのまま中庭に出られるようになっている。
「…実は、中庭には『秘密』があるんだけど…」
「まぁ、何ですの?」
カガリが明かす話に、ラクスも興味を示す。
「…私は「いらない」って言ったんだけど、キラが「付けといた方がいいよ」って言うからさ…」
「中庭から、外に出られる“道”があるんだ。」
キラがカガリの言葉に続く。

「…そんな“話”は聞いていないが…」

アスランは一応ラクスの護衛、という名目できている以上、滞在するアスハ邸の見取り図も概ね目を通してきている。
だが、見取り図にはそんな“道”は―――


「当たり前だろ!? 何かあったときの為の“非常用”なんだから! キラとキサカと…ホンの一部のヤツラしか知らせてない。」
アスランの疑問など、意に返さないようにカガリが答える。
しかし、アスランの不安は、カガリの発言の“別の処”に移った。


「下には降りられますの?」
「あぁ。此処からは直接無理だが、広間からなら出られるから。」
ラクスの問いにカガリが答えると、
「ご案内していただけます? …出来ればわたくしにも、その“秘密の道”教えていただけますでしょうか?」
「もちろん!…ラクスは私の大事な仲間だからな。何かあったら其処使って良いから。」
「ありがとうございます!」
カガリの答えに嬉しそうにラクスが言うと、キラが続ける。
「じゃぁ、皆で行ってみようか?」
「そうだな! 皆で一緒に―――」

言いかけたカガリの口を、アスランが後ろから慌てて手で塞ぐ―――
と同時に、ラクスも言葉を遮るように、キラの腕を引っ張る。


目をパチクリしながら、状況の読み込めない双子の2人に対して…

(―――こんな時だけ、どうして意見が一致するのか…)

『元婚約者』2人は互いの目を合わせると、その“意図”は同じと見えて、ラクスは軽く頷く。
「さぁ、参りましょう♪」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ラクス!?」
未だ疑問のキラの腕をグイグイと引っ張りながら、ラクスは部屋の外に連れ出した。

―――2人の気配が遠ざかった頃…

「んーっ! ん、んーっ!?(離せよ! 何すんだよ!?)」

押さえっぱなしのカガリの口から、懸命に抗議の訴えが聴こえる。
ようやく我に還って、カガリを解放すると、カガリはアスランに向かって精一杯の抗議をする。
「何すんだよ!? いきなり!」
「いや、ごめん。」
むくれるカガリの表情が、何故か懐かしくて…安心できて…怒られているのにホッして笑いが込み上げる。
「何が可笑しいんだよ!?」
視線を逸らしながら、頬を赤らめ、ベッドに勢いよく腰をおろすカガリ。


笑いを押さえて、改めてカガリの顔を見る。


先程の再会のぎこちなさからは、幾分遠ざかったようだが、それでも未だ違和感は拭えない。

(…どうしてだろう…?)

カガリとは、初めて出会った時から、何の違和感も感じず、自然とお互いを受け入れることが出来たはずなのに。

(…その姿の所為か…?)

考えてみればドレス姿のカガリは初めてだった。
何時も『Tシャツにボロボロのカーゴパンツ』だったり、『男装の礼服』だったり、『モルゲンレーテ社の服』だったり…こうした『女性らしい姿』のカガリを見るのは初めてだから、何時もと違う雰囲気に飲まれているのか、それとも…会えなかった時間がそうさせているのか…


カガリの姿から視線を逸らし、違和感に終止符を打とうと、アスランが言葉を紡ぎだす

「…ずっと会いたかっ―――」
「どうして!」

アスランの言葉を遮って、カガリが怒鳴る。
その悲しそうな声に、アスランがハッと顔をあげると、カガリが肩を小さく震わせている姿が目に入った。

「…どうして何も言ってこなかったんだよ!? キラも…私も、どんだけ心配したと思ってるんだ!?」

キッと顔を上げるカガリ―――その金の瞳には、今にも涙がこぼれそうなほど、溢れていた。


(…あぁ…そうか…)
      
先程から感じていた“違和感”―――
カガリが自分に対して怒りを覚えていたから。
      

―――その姿に、心が痛んだ。

戦後、カガリとキラが地球に戻ってから、アスランは何も2人に自分の消息を伝えていなかった。
プラントで自分が受けるべき“処置”―――
―――『N・ジャマ―キャンセラー』を搭載した『ジャスティス』に関わる者として
   ザフト軍強硬派の『特務隊』としての命令
   何より、『ジェネシス』を作り上げ、崩壊へと導こうとした、父パトリック・ザラの肉親として―――

とられるべき処置は、幾らでもあったはず。

その責任において、糾弾に一人、立ち向かうつもりでいた。


―――戦う―――『生きるために』


でも―――もし、そのことをカガリが知ったら…どうするだろう…?


無茶してでも、きっと自分の所に来ようとしたかもしれない。
カガリには『オーブ』を再建するという、大事な未来があるのに。
その未来を…自分が潰してしまったら…


そう思うと、何も伝えられなかった。
心のうちでは、どんなに彼女の…声を…姿を…望んでいたとしても…
その気持ちを察してか、ラクスもカガリに必要以上のことは伝えなかった。


「…本当に…ごめん…」

目を伏して―――でも何処か穏やかに答えるアスランに、カガリは零れそうな涙を辛うじて堪えながら、それに答える。


「…まぁ、こうして無事だったからいいけどな。 お前、何時も一人で抱え込むから…またきっと一人で全部背負って…誰にも話さなかったんだろ?」


―――やはり、カガリは誰よりも自分のことを知っていてくれる。

それが、今は…只、嬉しかった。


「…それで、お前は何やってたんだよ? プラントの為に何かやってるんだったら…ラクスだってきっと教えてくれたのに…」
「…色々あってね…」

今はそう答えるしか術はない。


その態度に、カガリは小さくため息をつき、アスランに向かって真っ直ぐに見やる。
「あのなぁ…“荷物”だって、一人で運ぶより、大勢いた方が楽に運べるだろ!?」
「…?…カガリ…?」
真っ直ぐに向けられた金の瞳を真っ向から受け止め、アスランはカガリの言葉に聞き入る。
「“悩み”も同じって事だよ。一人で抱えるより、大勢で一緒に持った方が楽だろ!? …お前、何時も一人で抱えるから…そのうち重くて腰曲がるぞ!?」


―――ずっと聞きたかった―――“カガリらしい”言葉。


それにつられて、思わず笑いが漏れる。
「〜〜〜っ///  何が可笑しいんだよ!?」
「いや、ごめん…でも、ようやく“カガリに会えた”っていう実感が湧いてさ…」

何故アスランが笑っているのか、未だ理解できていない表情のカガリ。
ようやく、“あの頃”に戻ったような気がしてきた。


「…大丈夫だよ。…ちゃんと傍にいて…『護って』くれたから…」


そういって、アスランが胸元から取り出したものは―――赤い『護り石』


「持っていてくれてたのか…それ。」
「…これがあったから…俺は一人じゃないって…判ってたから…」
「…そっか…」


『護り石』を大事そうに見つめるアスランに、ようやく安心したのだろうか、カガリの表情が穏やかになった。


「…それにしても、何があったか知らないし、言いたくなきゃ聞かないけど…そんな物騒なモン持って、今度はラクスの護衛役かよ。」


カガリの視線の先―――アスランの腰に下げられているホルスターの中のことだろう。

「あぁ、これは地球側の護衛役から「あったほうが良い」って言われて…『オーブ』にいるなら安心だし、こんなもの使う機会が無いに越した事はないんだが…“一応”…な。」
「ふーん…“一応”…ね。」


カガリにとっては不思議なのだろう。
確かに、護衛といえば目立つようなところに銃など下げない。
せいぜい胸元に隠す位だ。
只、この銃に関しては、重すぎて…とても胸元に隠しておく訳に行かず、結局こうして持ち歩くしかない。


「…なぁ、それ見せてくれよ。」
こうしたものに興味を示すのも、やっぱりカガリ―――
「ダメだ。」
たしなめるようにアスランは答えるが、カガリは退かない。
「いいじゃないか! 少しくらい!! 別にそれで“試し撃ち”させろって言ってる訳じゃないんだからさ!」


ドレス姿に『コルトマグナム』…可笑しな取り合わせだ。
そんな事はお構いないように、カガリは剥れている。
折角、機嫌が直ったところに、また気分を損ねられるのも勿体無い気がして、アスランは仕方なくマグナムを差し出した。

「セフティ、外すなよ。」
「判ってるよ! …にしても、何だこれ?…『コルトマグナム』って、こんなの『護身用』に向かないぞ!?」
「あぁ、判ってる。…でも、『信頼』のために…な…。」
「? 何だそれ!? 相変わらずお前、訳わかんないヤツだなー。」
そう言いながら、両手で構え、照準を定める構えをするカガリ。


「重いから、気をつけろよ。」
「だから、判ってるってば! こう見えても銃器の扱いは一通りやってるんだから!」


窓の外―――海に向かって、狙いを定めると

「…“バーン”!」

勢い良く腕を上げ、撃った反動まで真似をするカガリだったが―――


「――!? うわっ!!」

「―――カガリっ!?」


・・・to be “next stage”.


========================================

>…あれ? ここで予定では半分以上話が進むはずだったのに…(T_T) ごめんなさい。長引きそうです(泣)
さて、カガリはどうなっちゃったのでしょうか!?(笑)
次回は―――ちょっとした『事件』が待っています。
―――「どうする? カガリ!?」                    >Nami

-------------------------------------------------------------------------
・・・・・・、き、気になる・・・先が気になりますよぉ!Nami様!!
事件って何なんでしょう!?
しかしNami様は銃の知識が豊富ですね・・うらやましい・・。
これもバイ○ハザー○から得た知識なのでしょうか!?
マグナムって聞いたことがあります・・あり?あれはビールの名前だっけ・・。


まお




←seedに戻る