Two Shots −2st.stage−
「しかし…本当にそれで宜しいのでしょうか?」
ラクスが『彼』と地球に出向く意志を伝えてから、数日の後の事―――
アイリーン・カナーバを始めとする、穏健派の議員たちは揃って渋りを見せた。
「『アイツ』が構わんといっているのだから、それでいいだろうが!」
食って掛かるように詰め寄るのは、議員の一員となった、ラクスと歳の変わらない程の若い『新参者の議員』
―――イザーク・ジュール
先の戦争では、母であるエザリア・ジュールは強硬派として『ジェネシス』を起動させたことにより、現在はその職を追われているが、地球連邦軍の『核ミサイル』から『プラント』を護った功績により、彼自身がプラントの代表議会に入る事を許されている。
「ご心配は良く分かります。カナーバさん。」
ラクスも彼女らの心配はわかる。判るからこそ自身でその意志を伝える。
「『あちら』にとっても『あの方』は必要な人なのです。しかしわたくし達にとっても、それは同じ事・・・こうした『交換条件』の様なことはしたくはありませんが、双方にとって最善の道とは思われませんか?」
「・・・仰りたい事は良く分かります。しかしながら…『あちら』は承諾するでしょうか?」
カナーバの心中は図れる。
「だからこそ、わたくしがこうして地球に赴き、直接お話しようと思うのです。」
ラクスは毅然とした態度で答える。
一同は苦渋を見せるが、そんな空気を一掃するかのように、イザークが怒声を揚げる。
「フン、やりもしないうちからウダウダ言っていても仕方ないだろう! とりあえずここはラクス・クラインに任せてみたらどうだ!?」
「しかし、まだあちらはコーディネーターを受け入れるだけの充分な安全も、確保できていないのですよ!?
もし、御身に何かありましたら・・・」
「“安全”が保障できていれば宜しいのですね?」
ラクスの言葉に、一同が顔を挙げる。
「それでは、余計に『彼』に行って戴かなければなりませんわね。」
穏やかに笑顔を向けるラクスに、会した一同は言葉を返せない。
その様子にイザークは小さくフン、と鼻を鳴らすとハッキリと言い放った。
「ならば『決まり』でいいな!」
「ありがとうございます。イザークさん。」
議会を後にしながら、先を歩くイザークにラクスが声を掛けた。
「自分は別に・・・確かに『アイツ』とは色々ありましたが・・・でも『腕は確か』なことは認めます・・・」
「・・・それって、『アカデミー』のときから『連敗でした』って認めることになんじゃないの〜?」
「うるさいぞ! ディアッカ!!」
イザークの傍にいたディアッカの茶々に、苛立ったようにイザークが切り返すと、そのやり取りに安心したようにラクスが「あらあら」と声を掛ける。
「本当にお二方共、『彼』のこと、信頼していらっしゃるのですね。」
「俺は別に『アイツ』のことは・・・今も嫌いです! ・・・でも・・・」
言いよどみながらもイザークはラクスを振り返りもせず―――只、一言、
「安心して任せられる、位の信用はできます。」
言葉とは裏腹に、自信たっぷりな横顔に、ラクスとディアッカはつい顔を合わせ、可笑しそうに微笑んだ。
* * *
ラクスが地球に向かうことの条件として、ラクス自身が望んだ事―――
それが会合の場所は『オーブ』で行う事。
元来、中立の立場を築き、コーディネーターもナチュラルも極自然に受け入れてきた『オーブ』ならば、比較的安全が保障されるだろう、ということ―――
ラクスが地球に向かう日に、護衛として地球側からロアン・カミュら数人の陣営がプラントにやってきたが、ラクスはプラント側からも同伴者をと、一人の少年を伴ってきた。
「初めまして。アスラン・ザラです。」
赤の軍服を身につけた、歳の割には酷く落ち着いた・・・大人びた少年に、ロアンは好奇の目を向ける。
(・・・これが、あのパトリック・ザラの息子ねぇ・・・)
地球を一掃しようとした男の息子にしては、随分と穏やかに見える。
「こちらこそ・・・ロアン・カミュだ。以後宜しく頼む。」
どちらともなく差し出された手で握手を交わすが、ロアンからみて、アスランの手は未だ成長期の所為か、酷く細く頼りなく見えた。
「ところで、何か護身用の武器とか・・・用意しているか?」
「・・・これくらいですが・・・」
そういってアスランがホルスターから抜き出したものは、手の平に収まるような―――『トカレフ』一丁。
「おい…それだけか?」
それを一瞥すると、ロアンが視線を逸らす―――とその隙に、一人の男がラクスに襲いかかろうと飛び出してきた。
一瞬の出来事に、ロアンが体勢を立て直そうとした次の瞬間―――
「ウワッ!」
襲ってきた男は、アスランによって、いとも簡単に腕をとられ、組敷かれていた。
無表情で腕を取り、反対側の手に握られた『トカレフ』は―――男のこめかみにしっかりと当てられている。
「・・・これなら確かに『トカレフ』一丁でも太刀打ちできるでしょうね。」
フゥ、というため息とともにロアンが頭を掻きながら呟くが、その様子を見るまでもなく、アスランは冷淡に口を開く。
「俺を試す為の『予行練習』なら・・・其処にいらっしゃる“要人”に危害を加えるような真似はして戴きたくないのですが・・・。」
(コイツ…知っていてワザと…!?)
「流石に おフザケが過ぎましたかね。・・・それまでだ、ビアンカ。」
ロアンが声を掛けると、アスランが取り押さえていた男―――ビアンカが急に抵抗する力を抜いた為、アスランも同じように男を解放する。
「君の実力は解かった。・・・確かに『元ザフト軍』のエース・・・伊達に『赤』は着ていないようだし、“感”も鈍っていないようだな。 只―――」
自分より歳若い少年に簡単に取って返されたのが癪に障るのか、ロアンは一つの銃をホルスターごとアスランに押し付けた。
「・・・これは?」
―――『コルト・マグナム』―――
その破壊力は確かだが銃自体が重く、両手でしっかり支えないと打ち出した際の反動が大きく、的から外れやすい。それに反動から体勢を崩しやすく、標的を定めるチャージに時間がかかるため、正確な連射は難しい。オマケに一度に込められる弾は最大6発―――
正直言って、『護衛』『護身』用には向かない銃だ。
「今の相手は『人』だったが、幾ら停戦したとはいえ『ブルーコスモス』をはじめとする、反コーディネーターは地球にはまだワンサカといるんでね・・・。どんな武器をもって現れるか解からん。・・・それくらいは持っていないとな。」
彼なりの親切だろうか・・・
見た感じ、体格の良いロアンならナチュラルといえど、これくらい使いこなせそうだが。
あまり使い慣れない銃だが、アスランは好意と信頼の証としてそれを受け取った。
「・・・了解。」
その一部始終をニコニコと見つめていたラクスが声を掛ける。
「さぁ、参りましょう?」
地球に向けてのシャトルは無事に出発した。
『―――テヤンディッ!』
「…あらあら、ピンクちゃん。そんなにはしゃいで…」
ピンクの『ハロ』がパタパタと、無重力のシャトル内を飛び回る。
数枚のMOディスクを鞄に仕舞い込み、先程ロアンから受け取ったばかりの『マグナム』の感触を確認するアスランに、隣にいたラクスが嬉しそうに歓声をあげる。
「見てくださいな! もう地球があんなに近づいて…」
青い光を放つ星が眼前に迫ってくる。
地球―――そのものに対しの歓声ではなく、その星にいる『彼――キラ』に対してのものだろうと、ふとアスランも微笑む。
ラクス越しに見る地球―――
もし、隣にいるのが『彼女』だったら、何ていうだろう・・・
――――『おい、見ろよ! アスラン!! 地球だぞ! やっぱり凄いよな!!』
そういって、嬉しそうに振り向く金髪の少女―――
彼女は知っているのだろうか? 自分が『オーブ』に向かっていることを。
知らせていない、とラクスは言っていた。
再会したらその時、彼女はどんな顔をするのだろう?
あの、大きな金の瞳をめいっぱい見開いて驚くだろうか・・・
ふと、そんな事を想像する自分が急に可笑しくなった。
「あらあら・・・何か可笑しい事でもありましたの?」
ラクスに急に覗き込まれて、ついアスランも慌てる。
「いえ、別に・・・」
アスランの考えを意図したのか、ラクスもそれ以上何も言わずに返事代わりの微笑を返した。
そんな2人を遠巻きに見ていたロアンは、疑問に駆られた。
(何だ・・・あの2人は?・・・確かに見た感じじゃより(・・)を戻したみたいに見えるが・・・それにしちゃ、ぎこちない感じがするし・・・それに「互い」を見ているようで、実はその向こうの「何か」を見ているみたいだな・・・)
* * *
「いいじゃないか! 何時もの礼服で。・・・大体ラクスとは通信で結構やり取りしてるんだから、今更そんなに堅苦しくしなくったって―――」
「いーえ! “だからこそ”でございます!!」
マーナにピシャリと言い切られると、流石のカガリも言い返せない。
「仮にも一国を担う姫様です! 招かれる方がラクス様では尚の事! そんな格好では対等なお付き合いなど出来ません!!」
「だから、ラクスはそんなヤツじゃ・・・」
「姫様!!」
ここまで言われると、降参するしかない。
「だぁーっ!! もう! 解かったよ!! 着りゃいいんだろ!?」
「・・・カガリ、準備できた?」
ドアのノックの音とともに聴こえてくるキラの声。
主だった重臣達はキラの同席を―――仮にもカガリと血が繋がっているとはいえ、一般人であり、戦時下においてはその『存在』が重要視された彼を―――快く思っていない者もいたが、カガリは出来るだけ今回はキラを同席させようとした。
キラがどれだけあの戦争で傷ついたか・・・それを癒してくれたラクスの存在・・・自分のことにはまるっきり鈍いが、妙に人の心には敏感なカガリには、キラにとってラクスの存在が大きい事は、何気なくとも解かる。
(・・・出来れば会わせてやりたいんだ・・・)
そういって説得した結果、大きな会合でもない限りは、同席する事が許された。
「あぁ。・・・でも、何でこんな鬱陶しい格好しなきゃなんないんだよ・・・」
まだ、渋っているような、不貞腐れた様な声と共にドアが開かれると、すっかり化粧を施され、モスグリーンのドレスを身に纏ったカガリが姿を現す。
―――何度か見たことがあるのに・・・
キラにとっては何時もの男勝りな格好のカガリの印象が強く、やはりこうした正装を見ると目を見張ってしまう。
「笑うなっ!///」
照れ隠しなのか、顔を真っ赤にして視線を逸らしながら、カガリがキラに食って掛かる。
「別に笑ってなんかないよ。・・・それよりも連絡入ってたよ。『もう直ぐ着く』って。」
キラも慌てて取り繕うと、カガリもハッと顔を上げて見合わせる。
「まずい! 急がなきゃ!!」
アスハ邸の大きな正面玄関ホール―――入って直ぐには一階の広間へ続く大きな両開きのドアと、そのドアを取り囲むように、鳥が翼を広げたような形で二階のエントランスに通じる階段がある。
それに靴音のよく響く、磨きこまれた大理石の床―――
その広間のドアを開け放つと、玄関に横付けされた車から、長いピンクの髪がゆれ降りる姿が目に入った。
「―――ラクスーっ!!」
ドレスの裾を踏まないよう、たくし上げながらカガリが思わず走り出して声を掛ける。
「カガリさん!・・・キラ!!」
その姿にラクスも喜ばしげに声をかける。
と、その時―――
走り出したカガリの足が急に止まったことに、キラも気づく。
ラクスの向こう・・・
視界に入った『人物』―――
最後に見たのは―――『何時?』
優しい翡翠の眼差し
風に揺れる濃紺の髪
―――忘れた事なんてなかった。
「・・・久しぶりだな・・・カガリ・・・」
―――聴きたかった、懐かしい声…
立ち止まったまま、その姿が見間違いではないかと、カガリは必死に思考を巡らせる―――
「―――ア・・・スラン?」
・・・to be “next stage”.
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>そんな訳で『再会』編(!?)・・・別にずっと離れてたことが前設定な訳じゃないんですが(笑)、何故か「こうなって」
しまいました。
オマケに『初、オリジナルキャラ』まで作ってしまい・・・いや、固有名詞がないと、辛かったんで^^;
名前はその辺に転がってた小説の中から引っ張ってきたものを、組み合わせただけ。
それにしても未だ2話で、この長さ…。
さて、一体何時までこの話続くやら(汗 >Nami
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こ、これまたハイレベルな小説が・・っ!!
すごいです、まるでその場面がアニメになったかのようにするすると妄想できます。
ついにカガリと再会したアスラン。
ドレス姿を見てどう思うのでしょう?(笑)
さあ、次へレッツゴー。
まお
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