(いい天気になりそうでよかった・・・)
アスランはそう心の中で呟いて、一人安堵する。
いや・・・「一人」ではないか。

5月18日―――あと2日でカガリの誕生日。
いつもプレゼントを何にするか、それを考えるだけでもアスランにとってはオーブ軍に課せられる命令をこなす以上に難問だ。
女性との付き合いに免疫がない―――こういってしまってはなんだが、元婚約者であるラクスに会う時でさえ、どうしていいか、普段のあの天才的な頭脳は、こういうことに関して全くと言っていいほど役に立たない。
(―――「お前って本当に左脳で出来ているよな。」)
現在の彼女にまでこう言わしめられてしまっているが、自分でも全くと言っていいほどのウィークポイントだと思う。

(でも、今年は―――)

そうアスランが心の中でほくそ笑むには訳がある。
今年、無理を言って明日・明後日と2日連続の公休をもらうことができた。それもカガリと二人揃って。
普段公休など請求しない、というか事務方より「ちゃんと取ってもらわないと、労働基準局より指導が入るんです!」と泣き付かれるくらいなので、むしろ有休を請求した時には拍手喝采までされた。
カガリにとってもそれは同じことのようで、「「たまにはリフレッシュも大事ですよ!」って代表首長一族皆に言われた。」と、苦笑して言っていた。
まだまだオープンではないにしろ、一応近親者には「恋人同士」ということは暗黙の了解になっているので、カガリの公休に合わせたアスランの休みの申請を「狙って取った」と分かるものもいれば「奇遇ですね」と感心するものと半々。
でも周りがどう思おうと構いはしない。
何しろ公務に浸りきった代表首長と軍本部の人間は、いくら公休でも何か不測の事態となれば休みは返上だ。
だからこそ、この2日間は何事もなく、現状を意識しない二人きりの空間を楽しみたいと願っている。
カガリ曰く「左脳しかない」と言われる頭で、少しでもその願いを可能にするため、あまり普段気に留めない旅行のサイトなどをチェックしてみたところ・・・
『1泊2日で今から申し込める、素敵な旅を!』というキャッチコピーと共に、薄明かりに浮かぶ「それ」が目についた。
(「『おんせんりょこう』? 5月17日から1泊2日で?」)
数日前、思い切って誘ってみたところ、カガリが小首をかしげながら、復唱した。
(「あぁ。カガリもたまにはオノゴロを意識しないで、少し離れたところでのんびりするのもいいんじゃないかと思って・・・」)
もう少し気のきいたセリフでカガリを誘うことができればいいのだが、やっぱり意識してしまうとどうにも口が回らない。
だが流石はカガリ。アスランの意図をすぐに読み取ってくれる。
(「そうだな。お前が折角探してくれたんだしな。忙しい准将殿が頑張って誘ってくれたんだ。だったらそれに乗らない手はないしな!」)
そういってカガリはにっこりと笑う。
もうすぐ誕生日。・・・でも多分彼女は気が付いていない。
この旅行が誕生日のプレゼントとして、いい記憶に残ってくれるといいのだが・・・。
先ずは誘いを受けてくれたことに安堵したアスラン。すると、カガリはアスランの顔をいたずらっぽくのぞき込んで言った。
(「なぁ、もう行くところ、決めてあるんだよな?」)
(「あ、あぁ。大体は。」)
アスランはカガリに目的地を伝えた。すると
(「折角の旅行だ。だったら思う存分「贅沢」させてもらうぞ!」)
そういってカガリはにっこり笑う。
(・・・しまった・・・)
アスランはそっと口元を抑える。
何しろ宿は飛び込みで選んだものだから、果たしてカガリの望む「贅沢」に該当するレベルかどうかは分からない。
普段は一向にかまわない彼女だが、何しろ「国主」だ。旅行は全くのプライベートだし、SPはアスラン自身が兼ねているから、あえて周囲に警備の手配など頼むつもりはなかった。(むしろ警備など付けたら、折角の「非日常」がそれこそ台無しになる)
でも本人が望まなくとも、調度品に囲まれて、更に国外でも宿泊先も食事も一流だ。そんな彼女が望む「贅沢」とは、一体どこまでのレベルだろう。
(天井知らず、じゃない、よな・・・)
だが、目の前の彼女は既に嬉しそうに満面の笑顔を湛えている。
(まぁ、これが既に俺のご褒美なんだけれど・・・)
カガリのこんな表情は最近見ていない。本来なら男として、彼女をエスコートするべくすべての計画を立てる腹積もりでいたが、難易度が高すぎる。
だったらむしろ、彼女の望む「贅沢」とやらを思う存分させて、楽しませてやりたい。

「じゃぁ、明日はよろしく頼むな。」
「こちらこそ。朝迎えに行くから。」

さて明日、一体どんな出来事が待っているだろうか。

・・・続く